Fate † 無双

 

第4話

 

 

 

士郎達の部隊は農民の護衛に後方に下がっていた愛紗達の部隊と無事合流し、先行した鈴々の部隊に追いついた。

そんな士郎達の軍を見た黄巾党の別働隊は、行軍速度を上げて突撃を仕掛けてきた。

 

「やはり烏合の衆ですね。 前に進む事しかできないとは」

 

愛紗は黄巾党の行動を冷静に分析する。

 

「それでも数が多いと厄介なのだ」

 

黄巾党は突撃しか知らない烏合の衆だが、鈴々の言葉は正しく、あの数は厄介ではあった。

 

「ああ、包囲して殲滅戦を仕掛けるのが良いんだろうけど、この戦力差じゃ難しいな……」

 

斥候(せっこう)の話では、敵兵は約1万。 対してこちらは5千と言ったところですか」

 

愛紗は現在の戦力差を言う。

 

「別働隊で1万だからな……本隊はもっと多いと考えるのが妥当だな。 足止めしているって言う公孫賛と早く合流しないと手に負えなくなりそうだな……」

 

「ええ。 この戦いにあまり時間を掛かられませんね」

 

「なら突撃、粉砕、勝利なのだ!」

 

鈴々は当然の事のように言う。

 

「あのな鈴々。 そう簡単に言うけど、こっちも只、突撃って訳にはいかないよ」

 

そんな事をすれば、公孫賛と合流する前に兵を疲弊させすぎて、戦力が無くなってしまう。

 

「むぅー。 やっぱりダメかぁ……」

 

少し落ち込む鈴々。

 

「さて、如何するか……」

 

士郎はこの状況を切り抜ける為に頭をフル回転させ、幾つかの策を考える。

 

「あ、あの……」

 

それまで士郎の後ろの方に居た諸葛亮が、遠慮がちに声を出す。

 

「ん? お主は?」

 

愛紗は見知らぬ諸葛亮に、首を傾げる。

 

「ああ、ごめん。 紹介してなかったな。 この子は諸葛亮って言って、さっき仲間になった子だよ」

 

「仲間? ……私は何も相談されてませんが? それに、そもそもまだ少女ではありませんか。 その様な娘に戦場での務めができるのですか?」

 

少しむくれた表情になる愛紗。

それを見た鈴々が、面白そうに口を開く。

 

「にゃはは! 愛紗がヤキモチを焼いてるのだ♪」

 

その言葉に、顔を赤くした愛紗が反論する。

 

「だ、誰がヤキモチなど焼いているものか! ご主人様の傍に女性が増えるのは、護衛上問題があると」

 

「それがヤキモチなのだ!」

 

愛紗の言葉を遮り、さらにからかいの言葉を言う鈴々。

 

「だから、違うと言うのだ!」

 

笑う鈴々に対し、愛紗はさらに顔を真っ赤にして反論する。

 

「はいはい、愛紗は落ち着いて。 鈴々、あまり愛紗をからかうな。 ……諸葛亮の意見を聞こう。 続けて」

 

士郎は2人の仲裁をすると、先程のやり取りに圧倒され言葉を失っていた諸葛亮に、先を促す。

 

「へぅ? あ、は、はい……っ!」

 

急に話を振られた諸葛亮は慌てるが、直ぐに落ち着きを取り戻し、話をし始めた。

 

「あの……今の状況を見るに、黄巾党の軍隊は陣形も整えぬままに突撃しています。 ならば我が軍は方形陣を布きつつ黄巾党を待ち構え、一当てした後、中央部を後退させて縦深陣に誘い込むのがいいと思います」

 

諸葛亮はわざと後退して相手を誘い込み、そこを挟撃するように提案する。

 

「ほう……」

 

諸葛亮の策を聞き、愛紗が目が光る。

 

「それが成功すれば奴らを一網打尽に出来るな。 ……なるほど。 素晴らしい策だ」

 

「あの……どうでしょう?」

 

諸葛亮は愛紗の賛同を得て、安心した表情を浮かべながら士郎の顔を覗き込む。

 

「……良い策なんだけど、うちの軍はその策を実行出来るほどの錬度が無いんだよ。 殆どが義勇兵だからな」

 

「あう……」

 

「確かに、諸葛亮の策を実行するには、兵達の一糸乱れぬ連携を必要としますね」

 

それを聞き、諸葛亮は次の策を提案する。

 

「それならば、精鋭部隊を選り、隙を見て横撃を掛けるという手が妥当かもしれません」

 

「ああ、それが無難なところだろう。 こっちには愛紗や鈴々が居る事だし、後はどれだけ此方の被害を押さえられるかだな」

 

「鈴々が頑張るから大丈夫なのだ!」

 

鈴々が胸を張って答える。

 

「大丈夫かもしれないけど、用心するに越した事は無い。 今回の相手は別働隊なんだから、本隊を打つ為の余力がないと話しにならない」

 

「むぅ〜、お兄ちゃんは心配しすぎ!」

 

鈴々は頬を膨らませながら抗議の声を上げる。

その時、伝令の1人が士郎達の元にやって来た。

 

「敵、来ました!」

 

周囲に緊張が走る。

 

「分かった。 愛紗、鈴々、手筈通りにな!」

 

「御意! では各隊、持ち場に着け! 関羽、張飛の直衛隊は後方にて待機して、我らの合図を待て! 鈴々!」

 

「応っ! 皆、行くよー! 突撃! 粉砕! 勝利なのだーーーーー!」

 

「「「「「応っーーーーー!!」」」」」

 

 

 

 

 

数で勝る為に、力押しで士郎達が率いる軍を攻撃する黄巾党の軍隊。

しかし、愛紗や鈴々の活躍や、好機を逃さず敵が総崩れになった時に横撃の指示を出した諸葛亮の活躍で、壊滅させられた。

これから待ち構える、黄巾党との本隊との前哨戦に勝利した士郎達であった。

 

「ふん、手応えの無い奴等だ」

 

「弱すぎて相手にならないのだ!」

 

(いや、そっちの方が良いんだよ!)

 

内心、突っ込みを入れる士郎。

この大陸で十指に入る愛紗達が満足するような敵と戦うなど早々いない。

もし、そんな相手と戦うとなると、かなりの被害が出るのを覚悟しなければならないだろう。

 

「とにかく、無事でよかった。 ところで、こっちの被害はどれ位になった?」

 

士郎は隣にいる諸葛亮に、軍の状況を聞く。

 

「本隊との戦いに支障が出るほど、損害は無いみたいです」

 

すっかり、軍師の役割を任されている諸葛亮。

 

「そっか、ありがとな孔明」

 

「は、はいっ! あ、あの、それでですね……その……出来れば、私の事は真名で呼んで欲しいです」

 

「え? 真名ってのは特別な名前なんだろう? 自分の認めた相手にしか呼ばせないって言う……」

 

真名は、この世界独自の名だった。

 

「そうです。 だから呼んで欲しいんです」

 

「良いのか? 俺が呼んでも……」

 

士郎の問いに、諸葛亮は首を大きく縦に振る。

 

「はいっ! 私のご主人様になられる方だからこそ、真名で呼んで欲しいです!」

 

「……分かった。 これから真名で呼ばせて貰う。 確か、朱里(しゅり)……だったよな?」

 

「はいっ♪」

 

士郎に真名で呼ばれたことが嬉しいらしく、朱里はニッコリと笑顔を浮かべる。

 

「じゃあ、朱里。 これからもよろしく」

 

「えへへ、はい、ご主人様♪」

 

「コホン」

 

士郎と朱里が良い雰囲気になっているところに、愛紗の咳払いが入る。

 

「あー、あー。 ……では、挨拶も終わった事ですし、そろそろ出発しましょうか」

 

何処と無く、不機嫌な様子の愛紗。

 

「早く行かないと公孫賛のおねーちゃんが負けちゃうのだ!」

 

(公孫賛のおねーえちゃんって……。 やっぱり女性かよ!)

 

鈴々の言葉に内心、驚く士郎。

 

(はぁ〜〜〜。 そう言えば、公孫賛って言ったら、何かあったような?)

 

その何かを思い出そうとする士郎。

 

「お兄ちゃん!」

 

しかし、鈴々が急かすように言う。

 

「そうだな。 急ごうか」

 

(まぁ、大した事じゃないだろ……)

 

「はいっ! 出発なのです!」

 

 

 

 

 

別働隊を撃破した士郎達は、負傷兵の後送、部隊の再編成を終えた後、黄巾党の本隊が陣を張っている地点へと急ぎ向かっていた。

その間、愛紗と鈴々、朱里達は語り合い、お互い真名で呼び合う事になる。

そして、別働隊を撃破した所から東に二里ほど行った場所に、黄巾党の本隊と対峙している公孫賛の陣営があった。

公孫賛の陣営に入った士郎は、軍議をする為に朱里を連れて公孫賛と対峙していた。

 

「へぇ……お前が天の御遣いと噂されている男か」

 

そう言って公孫賛は士郎を頭の上から足の下までジロジロと見つめる。

 

「ああ、そうだよ」

 

士郎は物珍しさから、そういった視線を何度も向けられていたのですっかり慣れてしまっていた。

 

「すまん、すまん。 行き成りこんな事を言うのは失礼だったな。 ちょーっとばかし気になってたもんでな」

 

先程の表情とは一転し、親しげな笑みを浮かべる公孫賛。

 

「いや、もう慣れたよ。 それより、公孫賛殿。 黄巾党を抑えて頂き感謝します。 貴女がいなければこの辺りの住民が襲われていた」

 

士郎も表情を一転させ、真剣な顔で公孫賛に礼を述べる。

 

「なーに、遼西郡のねぐらに帰る途中だったからな。 ついでだ、ついで。 それに、そんな言葉使い止めろよな」

 

ヒラヒラと手を振りながら、恥ずかしいのか顔を背ける公孫賛。

その姿に、士郎は好感を抱く。

 

「分かった。 でも、ありがとな」

 

「も、もう良いって。 それよりお前ら、どれぐらいの兵を連れてきた?」

 

顔を赤くしながらも、公孫賛は本題に入る。

 

「確か5千位だったよな、朱里」

 

「はい、ご主人様。 先程の黄巾党の別働隊との戦闘での損害と、傷兵と交代した補充兵との数を考えると、大体あってます」

 

士郎の答えを朱里は補足する。

 

「約5千か……。 こっちも大体それ位だから、合わせて1万ちょいってところだな」

 

「敵の総数は?」

 

朱里は現状を把握する為に、公孫賛に敵の数を聞く。

 

「2万5千前後ってところだな。 兵数が違いすぎて奴らの足止めだけで精一杯だったのさ」

 

「5倍もある兵力差を、無闇に突っ込むのは無謀だもんな」

 

「ああ、そうだ。 だから啄県への道を塞いで、陣地に立てこもったって訳。 啄県に入らない場合、奴らが略奪に向かうとすれば(しょう)河北(かほく)だろ? 曹操(そうそう)袁紹(えんしょう)の本拠地なんだから備えも万全だろうし、守っても仕方が無い」

 

「そっか、知らない俺達の為に守ってくれたのか…」

 

「バーカ。 ついでだって言ったろう! ついで、ついで! 別にお前達を守ってやらないとって考えた訳じゃない!」

 

恥ずかしいのだろう、公孫賛は顔間真っ赤にしながら喚き散らす。

 

「可愛いな……」

 

公孫賛の様子を見て、ポツリと出た士郎の一言が辺りに伝わった。

 

「な! な! な! 何を言うんだ! 行き成り!」

 

公孫賛は、さらに顔を赤くし混乱する。

 

「むぅ……」

 

その様子を見ていた朱里は頬を膨らませる。

 

「悪い、悪い。 つい思った事が出てた」

 

「!!」

 

士郎の更なる追撃に公孫賛は言葉を紡げないでいる。

さらに機嫌を悪くする朱里。

そんな中、1人の少女が割って入ってきた。

 

「公孫賛殿。 少しよろしいか?」

 

「な、なんだ?」

 

動揺しながらも公孫賛は、少女に返答する。

 

「援軍が来たようで重畳。 されば黄巾党を撃破する手段をお聞かせ願いたい。 さすれば私が先陣を切り、貴女に勝利をお送りしよう」

 

少女は当然のように言い放つ。

 

「また始まったか……己の武勇を誇りたい気持ちは分からんでもないが、今は私と衛宮の2人で話しているのだ。 それを邪魔するのは僭越にすぎやせんか?」

 

公孫賛の言葉に、ピクリと反応する朱里。

軍師である自分の存在を忘れられているのだから当然だろう。

まあ、別の意味でも……。

 

「確かにアナタの家臣ならばそうでしょう。 しかし、私はアナタの家臣になった覚えはない」

 

「それはそうだが。 では如何しろと言うのだ?」

 

少女の言葉にも一理あったため、公孫賛はあえてそれ以上追及せずに、少女の策を聞く事にする。

 

「知れたこと。 相手は烏合の衆。 一騎当千の者達が当たれば恐れをなして総崩れになるでしょう。 今すぐにでも吶喊すべし」

 

「滅茶苦茶なことを言う。 相手は我らよりも多いのだぞ? 兵法の基本は相手より多くの兵を用意する事。 その基本から言えば、この兵数で当たる事こそ邪道ではないか」

 

少女の意見に対し、公孫賛は真っ当な反論をするのだが、少女はそれを受け入れない。

 

「それは正規の軍に当たるときの正道でしょう。 あのような雑兵共に兵法など必要なし! 必要なのは万夫不当の将の猛撃のみ!」

 

「相変わらずのホラ吹きだな。 それほどまでに敵を恐怖させる猛将がこの軍にいるとでも言うのか?」

 

「この場に少なくとも3人は居る」

 

「ほお。 ならばその名を言ってみろ」

 

「関羽殿と張飛殿。 そして、この私が。 まぁ……そこの天の御遣い殿でも可能でしょうが」

 

ちらりと少女は士郎を見る。

 

「関羽に張飛? 誰だそれは? それに衛宮もだと?」

 

「あ、その2人は俺の仲間だ。 2人には兵士達の所で待ってもらってる。 俺については買いかぶりだぞ」

 

少女に士郎はそう告げるが、少女は只、笑みを浮かべるだけだった。

その笑みはまるで『ご謙遜を』と言っている様に思えた。

 

「その2人は、こやつが言うほどの将なのか?」

 

「ああ、この大陸でも10指に入る使い手だよ。 自信を持って保障する」

 

「ふ〜ん。 ……天の遣いであるお前が保障するなら、その2人については間違いないのだろうな」

 

士郎の言葉を、素直に受け入れる公孫賛。

 

「だが、だからと言ってそんな無謀な突撃で大事な兵を損なう訳にはいかん。 もっと違う方法を考えて見せろ」

 

少女の提案した方法を受け入れなれない公孫賛は、少女に違う案を求める。

 

「公孫賛殿は手ぬるいな。 それでは一県の将とはなれても、一国の主にはなれまい」

 

少女は、公孫賛の煮え切らない態度に非難を浴びせる。

 

「言わせておけば……。 それほどまでに言うなら、貴様の好きにすれば良かろう!」

 

「ふっ。 承知」

 

怒りを爆発させた公孫賛とは対照的に、少女は落ち着いた様子で士郎達に背を向けて立ち去っていった。

 

「えーっと……」

 

困惑の表情を浮かべる士郎に、公孫賛が気が付く。

 

「……恥ずかしいところを見られたな。 できれば忘れて欲しい」

 

「いや、忘れて欲しいじゃなくて。 彼女、ホントに大丈夫か? そのまま1人で突撃しに行きそうなんだが……?」

 

士郎自身頑固なところがある為、あのような態度を取る人物が起こす行動の予測がなんとなく分かってしまっていた。

 

「好きにさせれば良いさ。 あんなものはどうせ口だけだ。 大軍を前にそれ程の勇を奮えるものか。 玉砕するか尻尾を巻いて帰ってくるかだよ」

 

「だけど、勝手に行動されて将が討ち取られたとなると、全軍の兵士達の士気に関わるぞ?」

 

「そうですね。 戦いの前に将が討ち取られるとなると問題です。 少々お待ち下さい」

 

朱里は腕を組んで考え始める。

そうやって暫らくすると、朱里が何か閃いた顔をする。

 

「浮かびました! あの方が突撃した場合としなかった場合の2種類の策が!」

 

パァーッと花が咲いたように、顔一杯に嬉しそうな笑顔を浮かべて士郎の袖を朱里は引っ張る。

 

「そうか。 やっぱり朱里は頼りになるな」

 

士郎はそう言うと、朱里の頭を撫でる。

朱里はそれを嬉しそうに受け入れる。

 

「えへへ……ナデナデされちゃいました」

 

その様子を見ていた少し不機嫌な感じになる公孫賛。

 

「そこまでして趙雲を助ける意味などあるのか? それよりも、我らの軍勢をもって、奴らを蹴散らす手段を考えた方が建設的だろ」

 

公孫賛は納得しかねる様子だ。

 

「!! ちょっと待ってくれ。 今、趙雲って言ったか? さっきのあの子が?」

 

「ああ、言ったぞ。 奴の名は趙子龍(ちょうしりゅう)。 庶民を守りたい等と甘い事を言って我が軍に居着いた流れ者だ。 ……まぁ、腕は立つし頭は切れるから、我が軍に客将として置いてやっているのだがな」

 

「そ、そっか……」

 

(はぁ〜〜〜、そうだった。 趙雲は公孫賛の所で客将をやってたんだったよな。 しかも、女性だし……)

 

先程、思い出しそうになったのはこの事だった。

 

(しかし、俺が本当に『劉備』の役割を担っているなら、馬超や黄忠と言った劉備の家臣達も仲間になるのか? でも朱里、諸葛亮がこの時期に、しかも三顧の礼も無しに仲間になってるんだ、本来の歴史通りに考える訳にはいかないよな……)

 

思い耽っている士郎の耳に、騒然とした周囲の声が入ってkる。

 

「如何したんだ?」

 

兵士の1人が、慌てて士郎の傍にやって来る。

 

「殿ー! 趙雲殿が1人で陣を飛び出し、敵部隊に突撃する構えを見せています!」

 

「―――――っ!? 早過ぎるぞ」

 

「な……奴は何を考えているんだっ! くそっ!」

 

その報告を聞いた士郎と公孫賛は驚いてしまう。

 

「まずい、朱里。 愛紗や鈴々達に兵をまとめるように言ってくれ。 俺達も直ぐに出る」

 

「はわわ! りょ、了解しました!」

 

朱里は立ち上がると、直ぐに愛紗達の下へと向かう。

 

「ちょ……どういう事だ? アヤツの事など放って置けば良いじゃないか」

 

「すまない。 どうしても放って置けないんだよ」

 

士郎の言葉に公孫賛は怒りを見せる。

 

「何を勝手な。 貴様と我らの兵が合流しなければ奴らには勝てんのだぞ!?」

 

「俺達が正面を切る。 公孫賛はそれを囮に使って背後から挟撃してくれ」

 

「囮か……。 良いだろう。 但し、奴らの攻撃をある程度凌いでもらわんと、こっちの準備が整わないのだからな。 その点だけは肝に銘じておけ」

 

士郎の提案を受け入れる公孫賛。

それを聞いて、士郎は笑みを浮かべる。

 

「分かった。 ありがとな」

 

「なあ衛宮。 我らが手を貸すと何故、信じられるのだ? 我らにそこまでの義理は無いのだ。 命惜しさにこの場から居なくなるとは思わんのか?」

 

公孫賛の言う事は尤もだった。

今のところ、士郎達と公孫賛達にそこまでする義理は無い。

本来、黄巾党の本隊に足止めにしても、しなくてもよかった筈なのだ。

 

「ん〜。 特に理由は無いさ。 それでも俺は公孫賛を信じてる」

 

士郎の瞳が、公孫賛の瞳を真っ直ぐに見据える。

 

「な! バ、バカか、お前! そんな理由で!」

 

「それに、話をして色々と感じた事もあるしな。 公孫賛は良い奴だよ」

 

ここで、お馴染みの士郎スマイルが公孫賛に炸裂する。

不意を討たれた公孫賛は顔を真っ赤に染め上げて、口をパクパクさせる。

 

「ああ、もう。 武運は祈っておいてやる! さっさと行け!」

 

公孫賛は後ろを向いて、士郎にそう告げる。

おそらく、顔の赤みを隠すのと恥ずかしかった為だろう。

 

「ああ、じゃあな」

 

そう言って、士郎は急ぎその場から離れた行った。

その後姿を暫らく見つめていた公孫賛だが、士郎の背中が見えなくなるとポツリと一言、呟いた。

 

「アレが天の御遣い、いや衛宮 士郎か……。 全く……」

 

公孫賛は自分の気が付かないままに、笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

【黄巾党の別働隊を見事に蹴散らした士郎達は、公孫賛と合流を果たす。 そこで、1人の少女趙雲と出会う。 士郎達は1人突撃した趙雲を助けられるのか? 次回、黄巾党の乱とその後を!】

 


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