Fate and Zero
第43話 「説明…」
結界が解ける前に士郎は鬼戒神を戻し、マギウススタイルのまま地面に降り立つ。
士郎は辺りを見渡しながらぽつりと呟く。
「結界が解けるな」
『結界崩壊まで後2秒』
シーアの言葉どうり、ガラスのように音をたてて結界が崩れ、元の世界に戻った。
(……今回の件でアイナの奴がレコンキスタと何らかの関係がある可能性が高いのは明白だな。あの愉快犯の目的がなんであれ阻止しないとな)
『そうだね士郎』
士郎の体から本のページが舞い、マギウススタイルが解ける。
解け、宙を舞うページは一箇所に集まり再び本となる。
それをキャッチした士郎はいつもの様にシーアをしまう。
(さてっと……、問題は山積みだな)
ルイズの虚無、レコンキスタやトリステインの出方、暗躍しているであろうアイナ。
「それに」
「ダ〜リ〜〜〜ン!」
戦闘が終わった事で、非難していたキュルケ達が戻ってきたのである。
「如何やって説明しようか?」
士郎は頭を抱え、苦笑を浮かべるしかなかった。
凄い。その言葉のみがキュルケとタバサ、シルフィードの脳裏に焼き付いていた。
キュルケは【アンリミデット】の神々しい姿に感動を。
タバサは【アンリミデット】の勇姿に尊敬の念を。
シルフィードは【アンリミデット】の力に畏怖を。
士郎が操る鬼戒神の放つ圧倒的な波動、それ翻弄されてただ見入る事しか出来なかった。
【アンリミデット】とアイナが作り出した鬼戒神との決着が付いて漸く我に帰った2人と1匹。
地面に降り立った士郎を見つけると、シルフィードに乗り慌ててその場に向かった。
「ダーリン! ダーリン! さっきの大きなゴーレムは何なの!」
士郎の元に着いたキュルケは興奮冷めやらぬ様子で士郎に質問する。
「教えて」
タバサも世ほど聞きたいらしく、士郎を見つめる目に鋭い光が宿っている。
「きゅ〜〜い! きゅい!」
シルフィードも主人の後押しをするかのように鳴き声を上げる。
「さっきのは俺の切り札なんで黙秘権を行使したいんだけど〜」
士郎は言いながらキュルケ、タバサ、シルフィードを見る。
「駄目みたいだな」
コクリと示し合わせたように頷く2人と1匹。
その姿に溜息を付き、士郎は言葉を放つ。
「分かった。分かった。説明する」
「ホントに! 嬉しいダーリン!」
そう言って抱き着こうとするキュルケを士郎は制する。
「でも、一旦落ち着いてからだ。気絶しているルイズがいるし、もう直ぐしたら王国軍も来るからココにいたら確実に厄介ごとに巻き込まれる。それに今日は色々あったから俺も疲れてるんだ」
「分かった」
「先に学園に戻っていてくれ。俺はゼロ戦で少し遠回りして戻るから」
「何故?」
何故、一緒に戻らないのかと言う意味を込めてタバサが士郎に問う。
「直接ゼロ戦を魔法学院に戻すと、色々と面倒な事があるかもしれないからな」
「それもそうね。タバサ、ココから早く離れましょう」
士郎の答えを聡明な2人は理解した。
竜騎兵をたった1騎で落とした竜らしきものを、王国が手に入れよとするかもしれないからだ。
タバサはコクンと頷くと、杖でシルフィードの頭をコツンと叩き飛び上がらせる。
「ダーリン、先に学園で待ってるからね!」
「ああ、ルイズを宜しく頼む」
タバサ達を乗せたシルフィードは急ぎ魔法学園へと戻っていった。
「俺の方も戻るとするか」
そう言って、ゼロ戦に手をつけると、内部構造を解析する。
「よし、無事だな」
破損が無い事を確かめた士郎はゼロ戦に乗り込む。
すると
「ひでぇじゃねえか相棒! 俺を置き去りにしやがって!」
(しまった! デルフの事を忘れてた)
「すまん、すまん。色々と予想外の展開が続いて」
「ったく。俺様の見せ場が碌にねえじゃねえか」
「はいはい、今度は見せ場があるさ」
そう言って士郎はデルフリンガーを完全に鞘に納めた。
「とっと戻って休もう」
士郎は疲れた体でゼロ戦を操縦すると、魔法学院とは全く違う方向に飛び立った。
「巨大ゴーレムって一体なんなのよ!」
目が覚めたルイズは自分が気絶してからの事のあらましを聞き、大声で叫んだ。
知らなかった士郎の【アンリミデット】についてキュルケ達から聞いた為か、自分がのけ者になったような感覚に襲われ、飛びかからんばかりに勢いでキュルケを問い詰める。
まあ、その他の感情も含まれているではあろうが。
そんなルイズの剣幕に、キュルケは思わず後ろに一歩下がる。
「知らないわよ。あたし達もダーリンに後で説明して貰うって約束をして急いで戻って来たんだから」
『だったら私が教えてあげる』
行き成り声をかけられ、3人は一斉に声の聞こえた方を振り向く。
其処には石で作られた小鳥が居た。
「ガーゴイル?」
キョトンとするルイズやキュルケを余所に、素早く臨戦体勢を取るタバサ。
「アイナ」
タバサの口から出てきた人物名に、他の2人も素早く身構える。
『正解。でもそんなに身構えなくてもいいわよ。見ての通り、今回は質問を受け付けに来ただけだから』
その為の小鳥の姿らしい。
「何故?」
それでも油断せず、タバサは杖を突きつけながらアイナに質問する。
『だって、士郎は貴方達に碌な説明をしていない見たいじゃない』
アイナの指摘通り、確かに士郎は自分の事やアイナに付いてはそれほど詳しく説明した事は無かった。
『今回の事だって最低限の説明しかしないはずよ』
「うっ」
アイナの言葉に心当たりがありまくるルイズ。
「じゃあ、アンタが説明してくれるわけね」
『ええ、そうよ。まぁ、貴方達が聞きたい事を1人1つまで答えて上げるわ。良く考えて質問する事ね』
アイナの言葉にキュルケとタバサは考え込む。
士郎の事に付いて聞きたい事が多すぎるのだ。
より多くの情報を得る為には的確な質問をしなければならないと思い、相手もその考えている様を面白そうに見ている。
(性格が悪いわね、あの女)
(性悪)
2人がそう考えるのも当然であった。
そんな中、考え無しに感情のまま質問をしてしまうルイズ。
「アンタとシロウの関係を教えなさい!」
((バカ!))
ルイズの直情的な質問にクスクスと笑いをこぼしながらもアイナは答える。
『私と士郎の関係ね。何も考えずに感情のままの質問だろうけど、いい所を付いてるよ』
「いいから答えなさいよ!」
『分かってるわ。私と士郎は鏡合わせの【敵】。無限を内包する者でありながら、全く違う無限を司る者。私が本気で愛し戦う【ヒト】。これからの永劫を刹那で巡り会う【愛しの怨敵】。それが私達の関係よ。分かったかしら?』
最後の挑発するような笑い声を付け加えるアイナであった。
「……って! 最初にシロウが言った敵ってのと殆ど変わらないじゃない!」
質問を無駄にしてしまった事に気が付くルイズ。
「ルイズ、アンタね〜」
「無駄」
『まぁ確認できたから無駄な質問じゃないんじゃないかしら?』
キュルケとタバサに冷たい視線を向けられたルイズを庇ったのがアイナであったのは、まさしく皮肉であった。
「じゃあ、次はあたしね。ダーリンが呼び出したあのゴーレムは何なの?」
『鬼戒神の事ね』
「デウスマキナ?」
『ええ、そうよ。鬼戒神は士郎の持っている魔道書から召喚される機械仕掛けの神の事よ』
「「「神!」」」
アイナの言葉に3人の顔が驚愕に染まる。
『正確には神の模造品。魔道書や所有者の位階によって形態や力は違うけどね。士郎の乗る鬼戒神は【アンリミデット】と言って潜在能力は数ある鬼戒神の中でもトップクラスに入る物だよ。それ故に使いこなすのも難しくなっているけどね』
(まぁ、かなり乗りこなせる様にはなってきているみたいだけどね)
実際にアンリミデットを見ているキュルケとタバサは、アイナの言葉に何処か納得してしまう。
それほどまで2人には神々しい存在だったのだろう。
『さて、後は貴女だけよ』
アイナに促され、タバサは頭をフルに使い質問を決める。
「貴女を倒す方法」
タバサの質問にアイナはキョトンとし、やがて大声で笑い始める。
やがて笑い声がピタリと止み、アイナが言葉を発する。
『本当にいい質問だわ。士郎の為の質問ね。士郎は私をこの世界から追い出そうとしているんだものね』
タバサは頷きこそしなかったが、雰囲気がそうだと告げていた。
『いいわ、教えて上げる。私は今、ある人物に力を貸しているわ。その人物が倒れたなら素直に私はこの世界から身を引くと士郎に伝えて頂戴』
「分かった」
「ある人物って誰よ!」
ルイズがアイナに食って掛かるのだが、同然の如く、その問いは――
「おやおや、質問は1人1回でもう締め切り」
そう言って、アイナの声を伝えていた石の小鳥は砂になって宙に舞った。
「なっ! 逃げるんじゃないわよ! この卑怯者!」
ルイズの空しい叫び声が響いていた。
【皆さん! お待たせしました。Zeroの43話をお届けします。随分と今回は間が開いてしまい、皆さんにはヤキモキさせたと思います。漸く少し余裕が出てきた今日この頃。次回更新する記念小説でまたお会いしましょう】