Fate and Zero

 

第41話 「光臨…」

 

 

 

初めてあれ程の規模の魔法を使ったせいか、ルイズはぐったりとして、士郎に寄りかかる。

 

「大丈夫か、ルイズ?」

 

「ん」

 

ルイズは気だるい疲労感に襲われており、ぼんやりとした返事を返す。

 

「疲れてるみたいだから休んでろ」

 

「分かった。 そうさせてもらう」

 

そう言うと、ルイズは士郎に体を完全に預け、スヤスヤと寝息を立て始める。

 

「さて、着陸出来そうな場所はっと」

 

士郎は眠りに就いたルイズを見て微笑むと、起こさぬよう静かにゼロ戦を草原に着陸させる。

 

 

 

「ねぇ、タバサ。 さっきの光、何だったのかしら?」

 

キュルケは先程アルビオンの艦隊を全滅させた謎の光に頭が一杯だった。

あの様な光景など普通は見られる筈もないのだから、当然と言えば当然であった。

 

「……分からない」

 

タバサも先程の謎の光について考えを巡らせていた。

 

「ダーリンがやったのかしら?」

 

キュルケ達から見ても不可思議な力を行使する存在。

アルビオンでアイナとの自分達では立ち入れなかった戦闘の際、本気ではなかったとの発言を真実だとすれば考えられなくも無い。

 

「聞いた方が早い」

 

そう言って、タバサは今まさに草原に着陸しようとしていたゼロ戦を杖で指した。

 

「それもそうね。 タバサ、行くわよ!」

 

タバサはコクンと頷くと、シルフィードの頭を杖で軽く小突く。

 

「あっち」

 

杖に指されたゼロ戦を見て、シルフィードは飛び出した。

後に残されたのは、杖や装備を取り上げられ拘束された竜騎士だけだった。

因みに、翌日にトリステインの兵士が発見するまで、捕虜になったアルビオンの士官達にすらその存在を忘れ去られていた。

 

 

 

「ダーリン!」

 

ルイズを後ろの座席に寝かせ、ゼロ戦を下りてきた士郎は声のした方向に振り向く。

シルフィードに乗ったキュルケとタバサの姿が目に入った。

キュルケはシルフィードが着陸するのが待ちきれず、飛び降りて士郎の元へ駆け寄って来た。

 

「2人共、怪我は無かったか?」

 

「あたしもタバサも怪我一つ無いわよ」

 

いつの間にかキュルケの隣に居るタバサもコクンと頷き肯定する。

 

「そっか」

 

「きゅい、きゅい」

 

シルフィードも士郎に顔を近づけ、自分の存在をアピールする。

 

「ああ、シルフィード。 お前も頑張ったな」

 

そう言って士郎はシルフィードの頭を撫でる。

 

「きゅい〜〜〜♪」

 

嬉しそうに鳴き声を上げるシルフィード。

それを見ていた主人であるタバサは後でシルフィードを呼び寄せ、杖で頭をポカポカと叩くと心に決めた。

その瞬間、悪寒が背筋を通り過ぎたシルフィードは辺りをキョロキョロと見渡す。

 

「ねえ、ダーリン。 さっきアルビオンの艦隊を全滅させた光は何だったの?」

 

キュルケの質問に如何答えたものかと考え込む士郎。

素直にルイズがやったと言うべきか、言わざるべきか。

 

「さっきの光は士郎じゃなくて自称主人の方の仕業よ」

 

声が聞こえた瞬間、辺り一面の風景が漆黒に染まる。

 

「アイナか!」

 

士郎は叫び声を上げると、すぐさま戦闘態勢に入る。

 

「正解♪ 流石、士郎。 私の事を直ぐに分かってくれたわね」

 

嬉しそうに微笑みながら士郎の前にアイナが現れる。

 

「当たり前だ。 こんな事が出来そうなのはこの世界じゃお前ぐらいしか心当たりが無い」

 

アイナが変な動きを見せれば直ぐに行動に移れるように身構え、キュルケ達を下がらせる。

 

「以前、シーアに伝言を頼んだでしょ。 『もう少ししたら物語が大きく動き始めるから頑張ってね、愛しの士郎♪』って。 一つの鍵。 一つの指輪。 一つの秘宝。 一人の使い魔。 それらがこの世に再び現れた事によって物語が大きく動き始めた」

 

クスクスと笑うアイナ。

 

「でも、漸く物語が動き始めたんだもの、もっと面白くしよう思ったから」

 

アイナは一旦言葉を区切ると宙に浮き上がる。

 

「プ・レ・ゼ・ン・ト」

 

そう言うと地面が揺れ始める。

 

「な、何なのアレ!」

「分からない」

「きゅい〜〜〜!」

 

墜落した筈のアルビオンの艦隊が浮かび上がったと思ったらくっ付き合い、巨大な人型を作り上げた。

 

「巨大なゴーレム?」

「おっきい」

 

ソレが何か知らないキュルケとタバサにはそうとしか認識出来なかった。

しかし、シルフィードはソレが放つ気配を感じた為か、自分との圧倒的な差をいやでも理解してしまい、縮こまってしまう。

そして、士郎はソレが何かをこの中で一番良く知っていた。

 

鬼戒神(デウスマキナ)か!」 

 

創り上げられた神の模造品を士郎は睨み付ける。

 

「タバサ! ゼロ戦の中にいるルイズを連れてココから離れてくれ!」

 

「分かった」

 

士郎の慌てた様子から只ならぬ気配を感じ取ったタバサは震えるシルフィードに活を入れると、急ぎこの場を離れる。

 

「その通りよ、士郎。 対した力は無いお粗末なものだけど、正真正銘の鬼戒神」

 

「アイナ! 鬼戒神を創り出して何をする心算だ!」

 

士郎の怒声にも微笑を返しながらアイナは答える。

 

「私が消えて数分したらこの隔離結界が壊れて、アレが外で暴れるようになっているわ」

 

「何!」

 

「じゃあね、士郎」

 

「待て!」

 

アイナは士郎が一瞬硬直した隙を付き、空間転移を行った。

 

『貴方がアレを早く倒さないと被害が出るわよ』

 

士郎はアイナの企みを悟る。

士郎の現在の力を図る為に、鬼戒神を創り出したのだ。

アイナが対した力が無いと言っていたが、鬼戒神には変わり無い。

ソレを数分以内に倒す為には士郎も鬼戒神で対応しなければいけない。

 

「くっ! シーア! 鬼戒神を召喚するぞ!」

 

「了解!」

 

士郎が取り出した魔道書『シーア・アジフ』は士郎と人書一体となり、士郎はマギウス・スタイルになる。

大規模魔術を行う為、数十枚のページが士郎の回りを円形で浮遊する。

これが魔道書が最大の効果を発揮させる『詠唱形態』。

そして行われるのは、士郎が魔道書『シーア・アジフ』を用いて行う大規模の術式、『機神召喚』。

 

『想いと共に永劫の時を駆け』

 

士郎とシーアの声が高らかに響き渡り。

それは始まりの名残。

 

『正しき怒りを刃に変え』

 

複雑な魔法陣が士郎の周りに浮かび上がる。

それは受け継いだ”もの”。

 

『我等は刹那と永劫を紡ぎ出す』

 

魔法陣の輝きが増す。

それは誓い。

 

『切り開け――』

 

機械仕掛けの神。

アル・アジフが失った鬼戒神”アイオーン”。

大十字九郎とアル・アジフの鬼戒神”デモンベイン”。

両者の後継機とも言うべき存在。

それが士郎とシーアの叫びに応え、現れる。

 

『アンリミデット!』

 

空気が爆発し、今、士郎達の駆る鬼戒神がこのハルケギニアに光臨した!

 

 

 

 

 

【うっうっ……。 また出すのが遅れてしまいました。 楽しみにして下さっている読者の皆様、申し訳ありません。 今回は士郎の鬼戒神が初登場です!】

 


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