Fate and Zero

 

第36話 「話…」

 

 

 

「着いた」

 

シーアは実体化して士郎の元から飛び出すと、ルイズの部屋の前まで来ていた。

ただし、塔の外であるが。

宙に浮いているシーアはルイズの部屋の中を覗き込む。

 

「居ない?」

 

辺りがスッカリ暗くなっているのに、ルイズの部屋には明かりが点いていない。

 

「何処に行った?」

 

シーアは眼を瞑り、ルイズが発しているであろう魔力の感知に集中する。

その様子を1匹の竜が見ていた。

 

 

 

「きゅいきゅい!」

『誰か居るのね!』

 

シルフィードは夕食前に、優雅な夜の空の散歩を楽しんでいた。

そんな中、自身が『お姉さま』と呼び慕っている主人のタバサ、そんな彼女の友人であるルイズの部屋を空に浮かび外から覗き込んでいる存在に気が付いた。

見た事の無い衣装に身を包んでいる事から、この学院の生徒でない事に直ぐに気が付く。

薄暗く、後ろ姿からしか判断出来ないが、長い銀髪の女性だと判断した。

 

「きゅいきゅい」

『誰なのね?』

 

物取りの類か?

と、部屋の明かりが点いていないルイズの部屋を覗き込んでいる人物に疑いを掛ける。

この学院に盗みに入る人間など皆無だという事は聞いているが、フーケの件もあるので絶対とは言い切れないと判断するシルフィード。

 

「きゅいきゅい」

『お姉さまに報告なのね』

 

シルフィードは急いでタバサと視点をリンクさせ、この事態を知らせようとする。

それが自身の不幸を招く事に成るとも知らず……。

 

 

 

タバサは何時もの様に図書室から借りてきた大量の本、それらを自室で読み耽っていた。

ふと、右目に本来見える筈の無い景色が見える。

タバサはシルフィードが見ている景色だと一瞬で理解する。

何か緊急の要件で無い限り、視点をリンクさせる事を禁止しているタバサ。

(じっくりと本を読み耽るため)

だから、視点をリンクさせたのは何か緊急の用事だと判断し、目を瞑ってシルフィードの視点とのリンクを強める。

見えるのは生徒達が住む塔。

 

(あれは……)

 

タバサは見えている映像の焦点となっている人物に意識を集中する。

ハッキリとは見えていないが、体付き、その見た事も無い服装の様子から女性と判断するタバサ。

 

(誰?)

 

恐らく学院生では無い。

かと言って、教師陣でも無いだろう。

そもそも、見えている両手に杖らしき物は見当たらず、メイジでは無い可能性もある。

その考えに思い至った瞬間、見えていた女性がスーッと姿を消した。

 

「なっ!?」

 

タバサは見ていた光景に驚愕し、ある考えが思い浮かんだ。

 

(ゆ、幽霊)

 

その考えが脳裏に過ぎった瞬間、バタンとタバサはベットに倒れこんでしまった。

幽霊がとても苦手なタバサであった。

なお、この光景を見せたとして、シルフィードには数日の間、様々な罰が言い渡されるのだが、本筋にはなんら関わりの無い話である。

そして、この光景を何人かの人物も見ていた様で、学院に『銀髪の幽霊、現る!』等の噂が広がり、士郎は頭を抱える事になった。

 

 

 

一方、忽然と姿を消したシーアはと言うと――

 

「隔離結界!」

 

見渡す限りが漆黒で彩られた空間に捕らわれていた。

そして、此処が何処なのかを一瞬で理解する。

流石は世界最強の魔道書の娘と言った所だろう。

 

「ええ、その通りよ、シーア・アジフ。 こんばんわ」

 

スーッと姿を現したのはルイズだった。

否、ルイズの姿をした別の何かだ。

シーアは目の前に居るルイズの姿した何かを見ると、直ぐに警戒態勢を取る。

 

「……アイナ」

 

前回とは姿は違うが、シーアはその正体を直ぐに看破する。

むしろ、アイナが違う姿で現れるのは彼女の性質上、十分に考えられる事だからだ。

アイナがこの姿で現れたのはシーアを惑わす意図は無く、彼女から見て仮初の主従関係とは言え、自分の士郎の主人となっているルイズの姿を真似てみようと思っただけなのである。

 

「あら、貴女は挨拶も出来ないのかしら?」

 

クスクスと笑うアイナ。

 

「オマエに必要無い。 士郎もそう言う」

 

「あらあら、嫌われてるのね、私。 悲しいわね」

 

言葉ではそんな事を言っているが、悲痛そうな表情では無く、笑顔を浮かべて言っているので説得力は皆無である。

 

「何の用?」

 

これがシーアでは無く、士郎ならば理解できたのだが、隔離空間に攫ってまで自分と2人だけにしたアイナの思惑が読めずにいた。

 

「ちょっと貴女と2人っきりで話がして見たかったのよ。 まぁ、士郎への伝言も頼む心算だけどね」

 

基本的に士郎と共にあるシーアの為、2人で話す機会など皆無であった。

だからこそアイナはこのチャンスを逃さない為、隔離空間を創り出してまで2人になったのだ。

尤も、シーアと士郎の2人が望めば、アイナの創り出した空間と言えども脱出できる。

 

「早くして」

 

「もう、せっかちね。 そう言う所は士郎とソックリね」

 

「早く、此処から出たい」

 

シーアは関係無いと自分の要求を言う。

 

「私としては貴女とも仲良くしたいのよ、シーア」

 

「何で?」

 

アイナの言葉に首を傾げるシーア。

アイナが執着しているのは士郎のみと考えていたからだ。

 

「だって、士郎と共にある貴女はこれから長い付き合いになるもの。 兄弟子の『彼』には未だ追いついていないけど、士郎は必ず『白き王』の後継者として相応しくなるわ。 『彼』は魔術師としては非常に優れた存在だけど、士郎は私が全力で愛するに相応しく、永遠の怨敵でもあると認めた『人』だもの」

 

「……だから?」

 

確かにアイナの言う様に、現在の士郎は兄弟子である『彼』に及ばないが、シーアは遠く無い未来に追い越すと確信していた。

そして、そんな士郎にアイナが歪んでいるが無類の愛情を向けているのを知っていた。

だからこそ、ずっと傍に居るシーアに対し、嫉妬の感情を向ける事ならば理解できたが、仲良くしよう等と理解の範疇を超えていた。

 

「そんな顔をしないで欲しいわ」

 

そんなシーアの内心を理解したのか、笑みを浮かべながら続きを喋る。

 

「私を除く他の女が士郎と共に歩むのは確かに許せ無いけど、貴女は特別なのよ。 私は士郎を愛してるわ。 そして、貴女を纏った士郎が『あの人』が良く言う『愛しの怨敵』なの」

 

そう言って微笑むアイナ。

其処には純粋な、余りにも純粋すぎる笑顔があった。

決して人に浮かべる事の出来ない笑顔だ。

 

「………」

 

アイナの言いたい事を理解するシーア。

つまり、アイナはシーアの事を敵として愛していると言いたかったのだ。

敵であると自ら認めている相手を愛し、仲良くしたい。

他人から見れば明らかに壊れていると言われる思考であったが、シーアはそれに反発を覚えない。

元々、アイナと言う存在は『人』と言う枠を外れた存在と言う事を知っているし、誕生から日が浅く、経験が少ないからこそ、そう言った感情すらも受け止めているのだ。

 

「理解してくれたなら嬉しいわ」

 

シーアの表情から、言った事を理解したのだとアイナは分かった。

 

「仲良くするかは別」

 

そんなアイナをズバリと切り捨てるシーアだった。

 

「もう、本当に士郎ソックリね。 そう言う所」

 

「伝言、聞いたら帰る」

 

益々、この場から立ち去りたくなったシーア。

 

「はいはい。 じゃあ、言うわね。 『もう少ししたら物語が大きく動き始めるから頑張ってね、愛しの士郎♪』よ。 それじゃあ、伝言を宜しくね」

 

アイナが手を振ると周囲の空間が砕け散り、シーアは隔離結界から開放された。

 

 

 

一方、ルイズは如何して居るかと言うと――

 

「はぁ〜〜〜」

 

1人、学院の浴場に来ていた。

浴槽の広さは横25メートル、縦15メートルほどの大きさで、学院の女子生徒が一斉に入っても大丈夫な広さだと言われている。

貴族の浴槽らしく、張られているお湯には香水が混ぜられている。

ルイズは壁にもたれかかって、湯に浸かっていた。

 

「うぅ〜〜〜」

 

ルイズの頭の中は士郎の事で一杯になっており、落ち込んだと思ったら怒ったりと、面白いように表情が変わる。

 

「何やってるのよ、ルイズ?」

 

そんな奇妙な表情をしていたルイズに、キュルケが声を掛ける。

 

「何よ、関係無いでしょ」

 

「あのね〜、アンタがそんな顔をしてる所為で、他の連中が気味悪がってるのよ」

 

キュルケの言葉でルイズは辺りを見回す。

ルイズの周囲にはキュルケしか居らず、視線が合った途端に殆どの女生徒は顔を逸らした。

 

「っ!」

 

恥ずかしさの余り、ルイズは顔を半分お湯の中に潜らせる。

 

「分かったみたいね。 で、如何したの?」

 

「………」

 

沈黙を続けるルイズ。

 

「もしかして、ダーリンと何かあったの?」

 

ルイズが意固地になっているであろう理由を推測し、キュルケは尋ねる。

そして、その予想はズバリ的中し、露骨に動揺するルイズであった。

 

「なっ! そ、そんな事、ある訳が無いじゃない!」

 

ルイズは反射的に立ち上がった。

 

「ちょっと座りなさいよ。 はしたないわよ、ルイズ」

 

キュルケにはルイズが立ち上がった所為で、色々と見えているのだ。

その事に気が付いたルイズは直ぐに湯船に浸かる。

 

「はぁ〜、何でも良いから話して見なさい。 話し相手位にはなって上げるから」

 

「うっ〜〜〜」

 

渋々とルイズは夕方の出来事を放し始める。

 

「はぁ〜」

 

その事を聞き出したキュルケは盛大な溜息を付く。

 

(お子様ね……)

 

「何よ、溜め息なんか付いて……」

 

「ルイズ、その件はアンタの勘違いよ。 だって、そのメイドは故郷の村に帰って居て、学院に居ないもの」

 

「え!? でも、士郎はそんな事一言も……」

 

キュルケの言葉を聞いて、愕然とするルイズ。

 

「アンタって意地になると人の話を聞かなくなるのが悪い癖よ。 どうせ、問答無用で追い出したんでしょ」

 

「うっうう〜〜〜」

 

実際、その通りであった為、反論が出来ないルイズ。

 

「早くダーリンと仲直りしないと、アタシがその隙に頂いちゃうからね」

 

そう言ってキュルケは立ち上がると、悠然と歩き去って行った。

 

(それにしても、タバサの姿は見当たらなかったわね?)

 

学院でも珍しく杖を持って浴場に来るタバサ。

そんな目立つ彼女の姿を見落とす筈が無いキュルケ。

 

(まぁ、本に夢中で時間を忘れてるんでしょう。 後で顔を出さなきゃね)

 

これより少しして、タバサの部屋に踏み込んだキュルケが目にしたのは、目を回してベットに倒れこんでいるタバサの姿だった。

 

 

 

そして、残されたルイズは――

 

「………」

 

どう仲直りすれば良いのか分からず、頭を悩ませていた。

まぁ、お嬢様育ちのルイズは同年代の男の子に謝る等した事が無い為、当然と事と言えた。

 

 

 

 

 

【シーアと原作キャラの邂逅ならず!? 幽霊少女として認識されたシーアでした。 本人の知らない所で誤解が解けた士郎ですが、あのルイズと仲直りが出来るか?  次回の更新は少し開きますが、ご容赦下さい】

 


<< BACK   NEXT >>


戻る