Fate and Zero

 

第35話 「勘違い…」

 

 

 

士郎達がシルフィードに乗って戻ってくると、学院の広場に降り立った。

まだ授業中のようで、辺りに生徒の影は無い。

 

「到着」

 

タバサはスタッとシルフィードの背中から飛び降りる。

それに続いて、ギーシュ達も飛び降りてくる。

 

「や〜〜〜っと、戻ってこれたね」

 

「まあ、1週間ぶりだからな」

 

女性陣に振り回される旅となった男性陣の心からの意見だった。

 

「やっぱり、タバサのシルフィードは速いわね」

 

「きゅいきゅい」

 

キュルケに翼を撫でられているシルフィードは嬉しそうに鳴き声を上げる。

何処からか見ていたのか、帰ってきた士郎達の所へ1人の教師がやって来た。

 

「ミスタ・グラモン。 ミス・ツェルプストー。 ミス・タバサ。 学院を無断で休んで出かけるとは何事ですか!」

 

『赤土』のシュヴルーズ

『土』系統のトライアングルメイジで、ふくよかな中年の女性だ。

彼女は無断で学院を休んでいると通達のあった生徒達を見かけると、説教を始めた。

 

「「え!?」」 「!!」

 

「この事は学院長にも報告して、厳重な注意と処罰をして貰いますからね。 それまで、部屋で大人しく謹慎するように」

 

3人の驚きを余所に、シュヴルーズはその場で処分を言い渡すのだが――

 

「えっと〜、すいません」

 

士郎がそれに割って入る。

 

「あら、貴方は確かミス・ヴァリエールの使い魔の……」

 

士郎は何かと学院でも噂になっており、学院長からも出来る限り便宜を図るように通達されている為、シュヴルーズは士郎の事を知っていた。

 

「はい、そうです」

 

「コホン。 それで、何か御用でしょうか?」

 

シュヴルーズは士郎に向き合うと、質問を促した。

 

「すいませんが、3人の休日届けはオスマン学院長に出してあるんですが……」

 

「そ、それは本当ですか!」

 

士郎の思いがけない言葉に、シュヴルーズは思わず聞き返す。

 

「はい。 学院を出かける前に直接渡したので、間違いありません」

 

士郎の言葉を聞き、思いに耽るシュヴルーズ。

 

「……分かりました。 アナタ達、謹慎は取り止めです。 私はこれから学院長の所へ行きますが、今日の残りの授業に出られるようなら、きちんと出席して下さい」

 

シュヴルーズは3人の処分を取り消すと、連絡を怠ったであろう学院長を締め上げに向かった。

 

「全く、あの老人は……。 他の先生達も呼ばないと……」

 

「助かったのか?」

 

「そう……みたいね」

 

休日届けの事など頭に無かったギーシュとキュルケは、ホッとした表情を浮かべる。

 

「感謝」

 

「きゅいきゅい」

 

タバサが士郎にお礼を言うと、シルフィードも頭を擦り付けてきた。

 

(さてっと、帰ったら直ぐに学院長室に行こうと思ってたんだが……、暫くしてからの方が良いな)

 

ゼロ戦を置くスペースの確保をオスマンに頼もうと思っていた士郎だったが、教師陣から追及を受けているであろうオスマンの所へ行く気に離れなかった。

 

「あの人、如何してるかな……」

 

士郎は自分の不幸に巻き込まれた、ある教師の事を思い浮かべた。

 

 

 

「へくしゅん! ……また、噂かね?」

 

 

 

「いや〜、すまんかった。 預かっておった書類を担当の者に渡すのを忘れておってな〜」

 

愉快そうに笑っているオスマン学院長だが、士郎からの冷ややかな視線にタラリと汗を流す。

 

「やはり、秘書を雇ったほうが良いのう〜。 どうじゃお主、やってみんか?」

 

「………」

 

更に強くなる士郎の視線。

 

「スイマセン。 マジでそれ、止めて下さい」

 

士郎の視線に耐え切れなくなり、オスマンは頭を下げた。

 

「ふぅ〜、分かりました」

 

士郎の言葉を聞いて、ホッと溜息を付くオスマンだった。

 

「ところで、頼んだ件ですけど」

 

「おお、それか! 本塔と火の塔の間に使われてない倉庫がある。 それを自由に使ってくれて構わんよ」

 

そう言って、オスマンはその倉庫に目印を付けてある地図を渡す。

 

「分かりました。 ありがたく使わせて貰います」

 

士郎は地図を受け取ると、オスマンに頭を下げる。

そして、作業に取り掛かる為、学院長室を出て行った。

 

 

 

「ここか……」

 

士郎は渡された地図を頼りに、その場所へ足を運んだ。

 

「結構、広いな……」

 

倉庫の中に足を踏み入れて見ると、思った以上の広さを持っていたので、用意してくれたオスマンに改めて感謝していた。

 

「おや? シロウ君、こんな所で如何したんですか?」

 

士郎が振り向くと、倉庫の入り口にコルベールがひょっこり顔を出していた。

 

「おお! これは一体!? な、何なんだね!? 説明してくれたまえ、シロウ君!」

 

次の瞬間、コルベールは今までに見たことも無い物体を好奇心旺盛な瞳で見る。

 

「これですか。 以前、話した『飛行機』です。 置き場所に、この倉庫を学院長が提供してくれたんですよ」

 

「そうか! これがあの空を飛ぶと言う『ひこうき』なのか! シロウ君! 早速、見せては貰えないかね!」

 

やや興奮気味のコルベールが士郎に頼み込むが――

 

「すいません。 以前、話したと思いますけど、飛行機を飛ばす為の燃料が殆ど無いんですよ」

 

「確か、『がそりん』だったかね?」

 

以前、士郎から聞いた話をコルベールは思い出す。

 

「ええ、そうです」

 

「宜しい、私がその『がそりん』手配しよう。 シロウ君、その『ひこうき』に少しは『がそりん』が残っているのだろう?」

 

コルベールは自身の好奇心を抑えられない様子であった。

 

「ええ、幸い、『固定化』のお蔭で無事に残ってましたよ」

 

士郎は燃料タンクの底でこびり付くように僅かに残っていたガソリンを取り出し、それを入れた壷をコルベールに渡す。

 

「ふむ……、嗅いだ事のない臭いだ。 温めなくともこの様な臭いを発するとは……、随分と気化しやすいのだな。 これは、爆発した時の力は相当なものだろう」

 

ガソリンの臭いを嗅いだだけで其処までの推測を立てるコルベール。

魔法が支配するこの世界において、彼は変わり者と言わざるを得ない。

 

「これと同じ油を作り上げれば、『ひこうき』は飛ぶのだね?」

 

「ええ、損傷も無かったですし、燃料が十分なら飛びますよ」

 

「面白くなってきた! 調合は大変だろうが成功させてみせるぞ!」

 

コルベールは士郎から渡された壷を抱え、近くにある自分の研究室へと戻っていく。

 

「あの秘薬を……。 いや、あの火薬を使えば……。 ブツブツ……」

 

傍から見ると、危ない人のように……。

 

「だ、大丈夫か……?」

 

少し、不安になる士郎だった。

 

 

 

「シロウ! 帰ってくるのが遅いわよ!」

 

士郎は部屋に戻るなり、ルイズの叱責を受ける。

何故ルイズの機嫌が悪いかと言うと、タバサ達が授業を途中から受けに来た為、士郎達の帰還がルイズにも分かったのだ。

しかし、嬉しさ半分、恥ずかしさ半分で部屋に戻ってみると、そこには誰も居なかった。

その事により、ルイズの不機嫌メーターが急上昇したのだ。

 

「悪い。 さっきまで倉庫の整備やら、厨房の方に顔を出してたもんだから、すっかり遅くなった」

 

士郎の言葉にルイズはカチンときてしまった。

 

(何? 私に会うのより先に、厨房の『あのメイド』に挨拶に行った訳!?)

 

見当違いの推測であったが、ルイズにとってはそれが真実であった。

少なくとも、この場面では……。

ルイズは某メイドに対して、並々ならぬ対抗心を燃やしているようだ。

恐らくは胸関係も!

まあ、色々とお年頃である。

 

「出てって……」

 

「え?」

 

ルイズの呟きを聞き取れなかったようで、士郎は思わず聞き返す。

 

「出てって言ってるの!」

 

「うぉ!」

 

ルイズの物凄い剣幕に、士郎は思わず後ずさる。

 

「早く出てって!」

 

ルイズは士郎を押して、部屋の外に出す。

士郎はルイズの思わぬ豹変振りに、困惑の表情を浮かべていた。

 

「戻ってこないでよ!」

 

バタンと強く閉められるドアに続いて、ガチャリと鍵が掛けられる。

 

「一体、如何したんだ? ルイズの奴……」

 

ルイズの盛大な勘違いにより、部屋から追い出された士郎。

 

「シロウのバカ……」

 

ドアの前で、そっと呟くルイズだった。

 

 

 

「一体、如何したもんか……」

 

士郎は倉庫に戻り、ルイズの豹変振りと、その対処について考えていた。

 

「……………分からん」

 

ヤッパリ、士郎。

ルイズが何故、怒ったのか見当が付かない為、対処法が立てられずにいた。

 

『士郎』

 

「シーアか。 如何した?」

 

寝ている筈のシーアが士郎に話しかけてきた。

 

『私が様子、見てくる。 行っても良い?』

 

「はい?」

 

行き成りのシーアの言葉に、思わず聞き返してしまう士郎だったが、その返事がいけなかった。

 

『じゃあ、行って来る』

 

シーアは士郎の言葉を肯定と受け取ると、その場で実体化して飛び去って行った。

 

「………」

 

ルイズは何で怒ったんだ?

何故、シーアが?

何処に?

何の様子を?

あんまり、外に出てなかったからか?

 

不測の事態だらけに、士郎は思考回路は停止してしまった。

シーアの行動で何が巻き起こるのか、予測の付かない出来事に陥った。

 

 

 

 

 

【さあ、漸くシーアがハルケギニアの世界に実体化しました! ドンドン、パフパフ! ボケが始まったか、オスマン? 危ない人の称号を得たコルベール! 勘違いルイズ! 未だ、経験の浅いシーア! これからハルケギニアでの物語は更に加速していきます! 次回もお楽しみに】

 


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