Fate and Zero

 

第34話 「草原…」

 

 

 

士郎達一行はシルフィードに乗り、タルブ村へとやって来た。

 

「へー、綺麗な所ね」

 

キュルケは辺りの草原を見回しながら言った。

 

「ああ、そうだな」

 

士郎も同意し、タバサはコクンと頷く。

 

「で、『竜の羽衣』と言うのは何処にあるんだね?」

 

ギーシュはお目当ての秘宝がある場所は何処かキュルケに聞く。

キュルケは地図を取り出すと、暫く見つめて答えた。

 

「この草原の近くにある寺院に安置してあるって話よ。 多分アレね」

 

キュルケは少し遠くに見える寺院らしき建物に指を指す。

 

「じゃあ、早速行ってみよう!」

 

ギーシュは寺院を目掛けて走り出した。

 

「ちょっとギーシュ、待ちなさいよ!」

 

慌ててキュルケが追いかける。

その様子を見ていた士郎とタバサは、苦笑しながらも後を追った。

 

 

 

「変わった建物ね?」

 

キュルケが『竜の羽衣』が安置してある寺院を見て出た第一声であった。

通常の石造りの寺院と違い木で出来ており、其処の板敷きの床の上に濃緑の塗装がされている『竜の羽衣』があった。

 

「これが『竜の羽衣』かね?」

 

ギーシュは目の前にある秘宝に懐疑的な視線を向けている。

それはキュルケも同じであったが、タバサは好奇心を刺激されたらしく興味深そうに見つめていた。

 

(これが『竜の羽衣』!? 『破壊の杖』の時と言い……。 燃料は……)

 

士郎は目の前の秘宝を見て考え始める。

 

「その筈よ」

 

「こんな物が飛ぶのかね? 見てみたまえ! 小型のドラゴンほどの大きさじゃないか。 ドラゴンやワイバーンにしたって翼を羽ばたかせる事ができるから飛ぶんだ! この翼らしき物は如何見たって羽ばたく様な物じゃないじゃないか!」

 

またハズレを掴まされた。

ギーシュは口には出さなかったが、態度が相物語っていた。

 

「何よ! あたしの所為だっての!」

 

「五月蝿い」

 

じっくり見ていたタバサが口論に成りかけたところを止めに入った。

 

「あれ、士郎さん? 如何したんですか、こんな所で!」

 

ギスギスした雰囲気になりかけている最中に、学園に居る筈のシエスタが現れた。

 

「シエスタ!? 何で此処に? 学園は如何したんだ?」

 

奉公人であるシエスタの帰省はまだ2週間ほど先の事だったと記憶していた為、士郎は軽く驚いてしまう。

 

「えっと、ですね〜」

 

士郎の質問に少し言い難そうなシエスタ。

 

「学園の方にいま少し居づらいだろうって、コック長が早めの休暇を下さったんです」

 

(あ!)

 

それを聞いた時、士郎はコルベールの事件を思い出した。

その所為で士郎は此処に来る嵌めになったのだ。

 

「士郎さん。 その『竜の羽衣』が如何かなさったんですか?」

 

貴族3人に士郎の組み合わせだ。

シエスタが何かあると思うには十分だった。

 

「ああ、ちょっとシエスタ。 この『竜の羽衣』の持ち主の事、何か知らないか?」

 

「えっと、死んだ私の曾御爺ちゃんの物なんですけど……」

 

それから士郎はシエスタの説明を聞き入った。

シエスタの曽祖父はこの『竜の羽衣』に乗って東からやって来たらしいと言う事。

しかし、『竜の羽衣』が空を飛んだところを見た人物が居ないと言う事。

村人が飛んで見せろと言ったのだが、何かしらの理由をつけてもう飛ばせなかったと言う事。

そして、そのまま村に住み着いたと言う事。

村で一生懸命働いて、貴族に『固定化』を掛けて貰ったり、寺院を作ったと言う事。

 

「ふ〜ん、変わり者だったようだね。 家族はさぞかし苦労しただろうね」

 

ギーシュはキザったらしい動作をしながら言った。

 

「いえ、曾御爺ちゃんは『竜の羽衣』の件以外では働き者の良い人物で、村の人達からも随分と頼りにされてたみたいです」

 

「なあ、シエスタ。 ほかに曾御爺ちゃんが残した物が何か無い?」

 

士郎の真っ直ぐな視線に、シエスタは頬を染めながら答える。

 

「えっと……他にはお墓に、遺品が少々ですけど……」

 

「それを見せてもらっても良いか?」

 

 

 

シエスタの曽祖父の墓は、村の共同墓地の一角にあった。

白い石で出来た幅広の墓石の中、1つだけ趣の異なる黒石で作られた長方形の墓石がある。

墓石には墓碑銘が刻まれていた。

 

「曾御爺ちゃんが、死ぬ前に作った墓石だそうです。 異国の文字で書いてあるので、誰も銘が読めなくって。 何って書いてあるんでしょうね?」

 

士郎は墓石に刻まれた文字を読んだ。

 

「『海軍少尉佐々木(ささき)(たけ)()、異界ニ眠ル』か……」

 

「えっ!?」

 

シエスタは誰も読めなかった文字をスラスラと読み上げてた士郎を驚きと共に見た。

 

「読めるのかね!?」

 

「まあな」

 

「さすがわダーリンね」

 

「……」

 

コクリと頷き興味深そうに士郎をタバサは見つめる。

 

「ところでシエスタ……」

 

士郎の方もシエスタを見つめ返し、その視線に又もシエスタは顔を赤く染めた。

 

「い、いやですわ……、そんなに見つめて……」

 

そんな様子をある2人は面白く無さそうに、もう1人は興味深そうに見ていた。

 

(黒髪に、黒い瞳……、それに顔立ち……)

 

「髪や眼、曾御爺ちゃん似だって言われた事があるだろう?」

 

「あっ、はい! 如何してそれを?」

 

 

 

士郎達は再び寺院に戻り、家に戻ったシエスタの帰りを待っていた。

 

「ねぇダーリン。 これの事、何か知ってるみたいだけどホントに飛ぶの?」

 

「説明」

 

「飛ぶには飛ぶんだけど……、ガソリンって言ってこれが飛ぶのに必要な燃料、言ってみれば風石みたいなのが、もう殆ど無くなってる」

 

「それじゃあ、その燃料を補充してやれば飛ぶ様になるのかね?」

 

「ああ、『固定化』のおかげで特に整備する必要が今の所無いみたいだから、燃料があれば飛ぶぞ」

 

士郎の説明にキュルケがしたり顔になる。

 

「ほら見なさい! ヤッパリ当たりだったわ!」

 

「なっ! それはシロウのおかげだろう! 彼が説明するまで偽物扱いしてたじゃないか!」

 

ギーシュの言葉をキュルケはサラリとかわす。

 

「さあ? それはそれ、これはこれでしょ」

 

「はいはい、2人とも其処まで」

 

士郎が2人の仲裁に入る。

 

「来た」

 

タバサが口を開いて直ぐ、シエスタの声がする。

 

「はっ…はっ…はっ…、お待たせしました。 曾御爺ちゃんは日記や他の物は残して無かったらしくって、形見はコレだけなんです」

 

シエスタは走ってきた所為で乱れた息を整えると、士郎に古ぼけたゴーグルを渡した。

 

「何だね? コレは? 眼鏡にしては随分と不恰好だね」

 

「話が進まない」

 

ゴン

 

いちいち、質問してばかりで話を止めるギーシュに対し、タバサの杖が振るわれる。

見事、後頭部に炸裂した杖の威力により崩れ落ちるギーシュだったのだが、誰にも心配はしてもらえなかった。

 

「後、父が言うには遺言を残したそうなんです」

 

「「「遺言?」」」

 

「はい、そうなんです。 なんでも、あの墓石に刻まれた銘が読める人が居たら、その人に竜の羽衣を渡すようにって」

 

「と言うと、俺にって事だな」

 

「はい。 父にその事を話したら譲っても良いって言ってました。 実際、大きくて管理が面倒で……、拝んでる人も居るんですけど、村のお荷物になってるんです」

 

「そっか、有り難く頂くよ」

 

士郎は『竜の羽衣』を受け取る事にした。

 

「後、受け取る人物に『陛下にコレを返して欲しい』って言うように言われてるんです。 陛下って何処の陛下なんでしょうね?」

 

軽く首を傾げるシエスタにポツリと士郎は答える。

 

「多分、俺の居た国だと思う」

 

「えっ! だからシロウさんが墓石の文字を読めたんですね! 曾御爺ちゃんとシロウさんが同じ国の人だったなんて、何だか運命を感じちゃいます!」

 

感激した様子で喋るシエスタ。

 

「じゃあ、本当に曾御爺ちゃんは竜の羽衣でタルブ村にやって来たんですね!」

 

「シエスタ。 コレは竜の羽衣って言う名前じゃないよ」

 

士郎は目の前の竜の羽衣と呼ばれていた物をじっと見つめる。

 

「じゃあ、シロウさんの国では何って言うんですか?」

 

士郎は自分の居た時代よりも昔の機械、空飛ぶ兵器を見ながら答えた。

 

「ゼロ戦。 俺の居た国で昔に作られた空飛ぶ機械……、飛行機だ」

 

 

 

その晩、士郎達はシエスタの家に泊まる事になったのだが、貴族の客が珍しいらしく村長の他に野次馬までシエスタの家へ様子を見に来た。

 

「ふ〜」

 

士郎は椅子に腰掛け、溜息を付く。

おそらくは、先程まで大勢の子供達の相手をしていて精神的な疲労が溜まったのだろう。

士郎はシエスタの家へ案内されるや否や、行き成り家族に紹介された。

シエスタは8人兄弟の長女で弟や妹達から信頼の厚い良い姉であった様で、直ぐに士郎に子供達が打ち解けた。

恐らく士郎自身の人柄もプラスに働いたのだろう。

父母も少し士郎と話し込むと、士郎の事を大層気に入ったらしく、気の済むまで滞在してくれという始末だった。

そんな家族の輪の中に居るシエスタは、とても幸せそうな笑顔をしていた。

 

「……家族か」

 

ポツリと呟く士郎。

その脳裏には、自分の住む世界の住人達が思い返されている。

そんな中、士郎のいる部屋にコンコンとノックがされる。

 

「あ、あの〜、シロウさん。 起きていらっしゃいますか?」

 

「シエスタ? ああ、起きてるよ」

 

「失礼します」

 

シエスタは扉を開けると、恐る恐る中に入ってきた。

 

「何か用?」

 

「えっと、シロウさん! 一緒に散歩に行きませんか!」

 

シエスタは己の持てる勇気を振り絞り、士郎を散歩に誘う。

 

「別に良いけど」

 

それを士郎は深く考えずに了承の返事をするのであった。

 

 

 

「どうですかシロウさん! 綺麗でしょう!」

 

シエスタは両手を広げながら、空を見上げる。

士郎もそれに習い、顔を上げる。

辺り一面に広がる星々に、草原を翔ける風の音。

それらはシエスタの言うとおり、とても綺麗な『もの』だった。

 

「ああ、綺麗だな」

 

その景色に、士郎は感嘆の声を漏らす。

 

「ねぇ、シロウさん」

 

シエスタは何かを決意したように、その瞳に強い光が灯る。

 

私は貴方が好きです! 一緒にこの村で暮らしてくれませんか!

 

正面から何の小細工も無い、シエスタからの士郎への告白だった。

士郎は告白されると言う事体を矢張り予測していなかったらしく、驚いてしまう。

だが、それだからこそなのか、士郎はシエスタの真剣な瞳に気が付いた。

そして、真摯な告白に対し、誠実な返事を返す。

 

「……シエスタ。 ゴメンな、それは出来ない」

 

「………国に待たせている人でも居るんですか?」

 

涙を堪えながら、なおも話しかけてくるシエスタ。

 

「恋人って訳じゃないけど、確かに俺を待ってくれている人達が居る。 そして、やらなきゃいけない事が沢山あるんだ」

 

士郎はシエスタに自分の事を話す。

自分やシエスタの曽祖父がこの世界の人間では無く、異世界の人間であると言う事。

普通では信じられず、煙に撒こうとしているとしか考えられないその話を聞いて、士郎の真剣な瞳を見つめていたシエスタには、其処には何の嘘も無いと確信してしまった。

 

「……分かりました。 でも、私はシロウさんの事を思ってます! 何の取り柄も無いような無い普通の女の子ですけど、この思いは簡単に如何こうできるようなものじゃないんです!」

 

『それぐらい許してくれますよね』

シエスタが気付かぬ内に流していた涙と共に浮かべた笑顔は、そう語りかけているようだった……。

 

 

 

翌朝、ゼロ戦と共に学院に帰ろうとしたギーシュ達が、ゼロ戦をどう運ぼうかと思案していると、士郎の背後の空間が波打つと同時にその中へとゼロ戦が消えた。

それにより、ギーシュの提案していた竜騎兵を使って運ぶという案は却下され、誰の懐も痛む事は無かった。

まあ、竜騎兵からしてみれば折角の臨時収入が消えたのだが……。

余談だが、この件で士郎に対するタバサの好奇心が更に増したのであった。

 

 

 

 

 

【皆様、ゼロ戦登場です! 如何でしたでしょうか? 楽しんでいただけたのなら幸いで、励みになります。 次回は彼が活躍する予定です!? 不幸な汚名を拭い去れるのか!】

 


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