Fate and Zero
第33話 「宝探し…」
タバサは息を潜めて、木の影に隠れていた。
近くには廃墟となった開拓村の寺院がある。
寺院は数十年前にうち捨てられており、門扉は崩れて窓ガラスは割れており、鉄の柵は錆びて朽ち、庭は荒れ放題となっていた。
荒れ果て、今では近づく者も居なくなったその場所で、突然の爆発が起きる。
キュルケの炎の魔法が門柱の近くにあった木を発火させたのである。
木陰に居るタバサは杖をギュッと握りしめる。
そして、この開拓村が打ち捨てられる事になった理由が飛び出してきた。
オーク鬼、身の丈2メートル程で、体重は成人男性の平均の優に5倍はあるだろう。
醜く太った体を獣から剥いだ皮に身を包み込んでいるが、オーク鬼を見て受ける印象は二足歩行で立った豚と言うのがしっくりくる。
その戦闘力は凄まじく、熟練の戦士5人に匹敵すると言われている。
その数はおよそ十数匹。
人間の子供が大好物と言う嗜好を持っている為、このオーク鬼の群れに襲われた開拓村の人々はこの土地を放棄したのだ。
無論、そうなる前に村の人達は領主にオーク鬼を退治してくれるように直訴したのだが、森の中に兵を出す事を嫌った領主は無視して放置したのである。
この様な村はハルケギニアには、掃いて捨てるほどあった。
オーク鬼達はブヒ、ヒグと豚の鳴き声で会話を交わすと、炎の燃え盛る場所を指差した。
「ふぎぃ! ぴぎっ! あぎっ! んぐぃぃいいいいッ!」
オーク鬼達は手にした棍棒を振り回しながらいきり立つ。
近くに人間、敵であり餌でもある人間が居るのを理解したのだ。
「……………」
その様子を伺うタバサは士郎からの合図をじっと待っていた。
士郎は1人、木の上から寺院の中から出てきたオーク鬼達を見ていた。
「17匹か、随分と出てきたな……」
ここに来る途中に聞いた話よりもオーク鬼の数が多い。
「まぁ、これ位なら大丈夫か」
タバサやキュルケの事を信頼している士郎だった。
士郎は標的のオーク鬼達を見据え、弓を構える。
その鋭い鷹の眼光がオーク鬼達を貫く。
「投影開始」
弓に1本の矢が番えられる。
「偽・螺旋剣」
真名を唱えながら放たれた宝具はオーク鬼達に炸裂する。
ドゴーーーン!
その破壊音が鳴り響いた直後、タバサとキュルケは動き出す。
士郎の攻撃から何とか助かったオーク鬼達への攻撃である。
タバサは呪文を詠唱し、杖を振るう。
『水』、『風』、『風』、水1つに風の2乗。
空気中の水分が凍りつき、何十本もの氷柱が矢となって手負いのオーク鬼へと四方八方から襲い掛かり串刺しにする。
タバサの得意呪文『ウィンディ・アイシクル』である。
タバサの隠れていた木とは別の木の上に隠れていたキュルケも呪文を詠唱し、杖を振るう。
『火』、『火』、火の2乗。
『炎球』よりも一回り大きい炎の塊、『フレイム・ボール』だ。
放たれた炎の塊を、オーク鬼は大柄な体と手負いである事も感じさせない敏捷な動きでかわそうとする。
しかし、炎の塊は意思を持っているかの如くオーク鬼を追尾し、咆哮を上げる口内に飛び込むと一瞬にしてその頭部を燃やし尽くした。
キュルケの使い魔であるフレイムは逃げ出したオーク鬼の前に回りこんで、逃げ道を塞いでいた。
「ふぎぃ!」
オーク鬼は目の前に立ちふさがったサラマンダーを退ける為、手にした棍棒を咆哮と共に振り上げた。
「これで終わりだ」
しかし、残った1匹の体を士郎の矢がフレイムに攻撃する前に貫いた。
「お、終わったのかね?」
オーク鬼達が全滅したのを見たギーシュは恐る恐る隠れていた場所から顔を出す。
「ああ、多分な」
士郎は先程まで少し離れた木の上に居た筈なのに、もうギーシュ達と合流した。
「タバサにキュルケ、大丈夫か?」
「ええ、ダーリン! あたしもタバサも平気よ」
「大丈夫」
2人共、傷1つ付いている様子は見受けられなかった。
「そっか、良かった」
改めて安堵する士郎。
「それにしても、これだけのオーク鬼と対峙して、無傷で勝利するとは、やはり僕達は凄い!」
ギーシュが喜びの声を上げるが、それにキュルケが待ったをかける。
「何を言ってるのよギーシュ。 オーク鬼をやっつけたのはダーリンとあたし達で、アンタは何もしてないじゃない」
「キュルケ、ギーシュにはバックアップを頼んだんだから、しょうがないだろ?」
士郎はギーシュにはタバサとキュルケの退路の確保に、ワルキューレによる護衛を任せていた。
ギーシュのワルキューレの攻撃力では、オーク鬼達を追い詰める事は出来ても退治する事はできないといった判断からである。
だからギーシュはタバサとキュルケの傍にいつでもワルキューレを出せる様に媒介となる花びらを置き、使い魔であるヴェルダンディには退路の確保を命じていたのである。
「そうだ、そうだ!」
士郎の援護を受けたギーシュは強気に出るのだが……。
「調子に乗らない」
「グッホ!」
タバサの操る魔法『エア・ハンマー』によって地面とキスする羽目になった。
そんなギーシュに構わず、タバサは口笛を吹いてシルフィードを呼び寄せる。
なぜ、シルフィードだけが戦闘に参加しなかったかと言うと、万が一にでも風竜であるシルフィードが怪我をして移動を制限されない為だった。
「キュルケ、ここには何があるんだ?」
士郎の問いに、キュルケは地図を広げながら答える。
「えっとね、この寺院の中の祭壇の下に寺院をを放棄して逃げ出す時に隠した金銀財宝と伝説の秘宝『ブリーシンガメル』があるって話よ?」
「ブリーシンガメルって何だね?」
ギーシュは尋ねる。
キュルケは地図に付いていた注釈を読み上げる。
「えっとね、黄金で出来た首飾りみたいね。 『炎の黄金』で作り上げられているらしいの! 聞くだけでワクワクする名前ね! それを身に付けた者は、あらゆる災厄から身を守る事が……」
それを聞いた士郎は思った。
(またハズレか……)
その夜、一行は寺院の中庭で焚き火を囲んでいた。
その中で、ギーシュが恨めしそうに口を開いた。
「なあ、キュルケ。 これが『秘宝』と言う物かね?」
ギーシュが手にしているのは真鍮で作られたネックレスにイヤリングだった。
「これが『ブリーシンガメル』とでも言うのか!」
ギーシュの弾劾にキュルケは耳を傾けず、つまらなそうに爪の手入れをしていた。
「これで7件目だぞ! 君が持って来た地図を頼りにお宝の眠ると言う場所に苦労して行ってみれば、見つかる物は金貨どころか精々銅貨数枚にガラクタばかりで秘宝の『ひ』の字も見当たらない! インチキ地図じゃないか!」
「五月蝿いわね。 だから言ったじゃない、”中”には本物の地図があるかもしれないって」
「それにしても酷すぎる! 行って見た廃墟や洞窟は化け物や猛獣の住処になってるし! やっとの苦労でそれを退治しても、得られる報酬がこんな物では割に合わないじゃないか!」
「そりゃそうよ。 化け物退治をした位で、ホイホイとお宝が手に入ったら誰も苦労はしないわ」
陰険な雰囲気漂う中、士郎が仲裁に入る。
「はい、そこまで」
「な、なんだね?」
困惑するギーシュ。
「君は悔しくないのかね!? これ程こき使われているのに得られる物がこんなガラクタばかりで!」
「おいおい、この程度の探索で根を上げる様な鍛え方はしてないぞ」
士郎は元いた世界の事を思い出す。
「さあ、授業の始まりだ!」
盲目の賢者にして、教育者であり、大魔術師でもある老人。
その遺跡探索に連れ回され。
「レッツゴー! なのである!」
「行くロボ!」
ハチャメチャコンビに材料探しに連れられる。
「士郎さん、今回はこの人物の探索をお願いしますわ。 同伴にあの人達もお願いしますね」
世界的財閥の総帥である女性に頼まれ、お守りと共に人捜し。
………挙げれば限が無い程の探索作業を行っていた。
これも士郎に役立つスキルと一般常識を兼ね備えた所為だった。
ホロリと心の中で涙を流す士郎。
「ど、如何したのかね?」
行き成り黙ってしまった士郎に対し、ギーシュは恐る恐る声を掛けた。
「あ、何でもない、何でもない。 それより夕飯が出来たから皆、食べるぞ」
そう言って、士郎は焚き火にくべた鍋を取り出す。
「ん、そうしよか……」
「……そうね」
士郎の雰囲気から何か感じ取ったのか、ギーシュとキュルケは先程までの陰険な雰囲気を消した。
「空腹」
タバサも読んでいた本を閉じ、顔を上げる。
使い魔達も喜びの声を上げていた。
夕食を食べ終わると、ギーシュはキュルケに切り出した。
「もうそろそろ学院に帰らないかね?」
「あと1件だけ。 1件だけよ!」
キュルケはギーシュの提案に頷かず、1枚の地図を広げ地面に叩き付けた。
「これ! これよ! これでダメだったら学院に帰ろうじゃないの!」
「何と言うお宝なんだね?」
ギーシュは呆れ半分に問い掛ける。
「『竜の羽衣』」
「ほほう、で場所は何処だね?」
「えっと〜、タルブ村って所みたいね」
(タルブ村!?)
士郎はキュルケの発した村の名前に聞き覚えがあった。
シエスタの故郷の名前だった。
【次回はとうとう『竜の羽衣』が登場します。 それを見た士郎の反応は! そして……次回もお楽しみに】