Fate and Zero

 

第32話 「危険…」

 

 

 

前回、シエスタに誘惑されていた士郎だったが、それを振り払う事に成功した士郎。

しかし、衣服が解け、気絶したシエスタが士郎の腕にある中、部屋の扉が開いた!

 

(不味い!)

 

ドアノブが回される音が聞こえた瞬間からの士郎の反応速度は凄まじいものであった。

今までの経験(直感(偽))の賜物であろう。

色々な人物から送られる災難や騒動、ある意味で士郎の不幸によって出来たものである。

 

まず、自分の体に最速で強化を施す。(0,1秒)

士郎は素早くシエスタの服を元に戻し、ベットの上に寝かせる。(0,4秒)

そして、窓を開いて身を乗り出す。(0,8秒)

レンガのへこみに指を掛け、外に出ると窓を閉める。(1,0秒)

そのまま、地面に飛び降りる。(1,3秒)

地面に着地し、上を見上げる。

 

これまで計1,5秒の早業であった。

 

 

 

「シロウ君! 居るかね!」

 

コルベールは士郎に自分の発明品の意見を聞きに、急ぎルイズの部屋までやって来た。

しかし、扉を開けてみると士郎の姿は見当たらない。

辺りを見てみると、ベットの上に誰か寝ているのかシーツが盛り上がっていた。

 

「ふむ……」

 

この部屋の使用している生徒のルイズは、ここに来る途中にアウストリで見かけていたので、士郎が寝ているのだと思ってしまったコルベール。

一刻も早く、自分の発明品の意見を聞きたいコルベールは寝ている士郎には悪いが起きて貰う事にした。

これから己に降りかかる災難の元になるとも知れずに……。

 

「シロウ君、起きたまえ」

 

士郎を起こそうとコルベールはシーツを剥がす。

すると、其処には士郎ではなく、メイドが寝ていた。

 

なぁ!!!

 

コルベールは驚きの声を上げるが、それ以上の音量がドアの方から聞こえてきた。

 

何をしているんですか!! ミスタ・コルベール!

 

怒鳴り声がした方向に慌てて振り向くコルベール。

其処にはこの部屋の使用者であるルイズが仁王立ちしていた。

 

現状……

 

自分の部屋に断りも無く入っている教師。

(士郎が部屋に居ないから)

 

そして、ベットの上には寝ているメイド。

(ルイズにはコルベールの影に隠れてメイドの顔までは見えない)

 

自分に見つかって慌てている教師。

(ルイズの視点)

 

……ルイズの脳内にはある結論しか思い浮かばなかった。

コルベールが休み時間に生徒の部屋でメイドといかがわしい事をしていた!

 

「こ、これは誤解ですぞ! ミス・ヴァリエール!! 私はシロウ君に会いに来ただ」

 

コルベールは慌てて弁明しようとするが、ルイズは聞こうとはせず言葉を遮る。

 

「こ、この事は学院長に報告します!!」

 

ルイズは顔を真っ赤にしながら、踵を反し学院長室へと向かう。

 

「ミ、ミス・ヴァリエール!!」

 

コルベールも誤解を解く為に、慌ててその後を追いかける。

その姿を何人かの生徒が目撃し、コルベールに対し『生徒を襲った』、『メイドを連れ込んだ』、『二股をかけた』等の根も葉もない噂が暫く続く事になるのは物語には大きな影響を与えない、どうでもいい事であった。

ちなみに、学院の風紀を混乱させたとの事でコルベールには減給が1ヶ月、学院長から言い渡された。

頑張れ、コルベール!

負けるな、コルベール!

その内、君にもきっと良い事がある筈だ?

 

 

 

 

 

「ふぅ〜………、助かったぁ〜〜〜」

 

何とか自分の危機を乗り越えた士郎は安堵の息を漏らした。

 

「後で弁明と手伝うのと、お礼をしておかなくっちゃな……」

 

ある意味で不可抗力とは言え、自分の身代わりになってしまったコルベールに対して、同情の念を感じずにはいられない士郎だった。

 

「何で?」

 

行き成り隣から聞こえてきた声に吃驚して、錆びたブリキのオモチャ様に首を動かして隣を見る士郎。

其処には、何時ものように1人で本を読んでいるタバサの姿があった。

 

「アノ、タバササン。 イツカラソコニ?」

 

黙々と本を読むタバサに、士郎は片言で喋りかける。

 

「昼食後から……」

 

「サッキノハナシハ、キイテイマシタカ?」

 

士郎の質問にコクリと頷くタバサ。

 

(!!!)

 

何やら大きな衝撃を受けた士郎。

 

(不味い。 色々と不味い!)

 

今までの女性関係で起きたトラブルが士郎の脳裏に走馬灯の様に駆け巡る。

 

「あの、タバサさん。 この事はどうか内密に……」

 

タバサは士郎の言葉にコクリと頷くと口を開いた。

 

「1個、貸し」

 

淡々としたタバサの言葉に士郎は頷くしかなかった。

 

「はい」

 

士郎の直感(偽)のスキルは女性関係のトラブルは予測は出来ても回避は出来ない!

それが証明された事件だった……。

その傍らで、内心ピースサインをしていた少女が居たとか居ないとか……。

 

 

 

 

 

「ねえ、タバサ。 ダーリンをこの宝探しに誘いたいんだけど、何か良い方法は無いかしら?」

 

キュルケは街の到る所から集めてきた宝の地図らしき物をを広げていた。

 

「ダーリン、律儀な所があるから、ルイズの傍をそう簡単には離れないだろうし……。 ルイズは頭が固いから学院を休んでまで宝探しなんてやろうとは思わないだろうし……。 それに、今は忙しいみたいだしね」

 

はぁ〜、と軽い溜息を吐くキュルケ。

 

「任せて」

 

キュルケは立ち上がって、思わず聞き返す。

 

「え! 何か良い方法あるの!」

 

コクリと頷くタバサ。

 

「ヤッパリ持つべき者は親友よね。 それで、どんな方法!?」

 

身を乗り出してキュルケはタバサに質問する。

タバサはそっと自分の右手の人差し指を唇に手を当てて、こう答えた。

 

「秘密」

 

そんなタバサの仕草に、キュルケの脳は真っ白になってしまった。

 

 

 

 

 

「はぁ〜」

 

図書館で本を読みながら1人溜息を吐く士郎。

 

(厄介な事にならなきゃ良いんだけど……)

 

士郎は昼間の事件の事を考えていた。

士郎自身の経験則から今後の展開は碌な事にはならないと予測は出来てはいるのだが、それを素直に受け入れずにいた。

 

(タバサだし、早々無茶な頼みをしてくる筈はないか)

 

そう士郎が思考を切り替えた時、ある人物が歩いて来るのが視界に入った。

 

(タバサ?)

 

誰かを捜しているらしく、タバサは辺りをキョロキョロ見回している。

そして、士郎と目線が合うと、トコトコと士郎の方に歩いてきた。

どうやら士郎を捜していたようだ。

 

「シロウ」

 

「どうしたんだタバサ?」

 

「相談がある」

 

「……如何したんだ?」

 

先ほどの事もあって、やや慎重気味になる士郎。

 

「実は……」

 

タバサはキュルケがこの前、街に出かけた時に彼方此方の店から宝の地図らしき物を大量に購入してきた事、その探索のメンバーとしてキュルケにタバサ、そして士郎を誘おうと言う事になった事を説明した。

 

「宝探しね……、面白そうだけど、ルイズが今は忙しい時期だからな……。 また今度誘ってく」

 

ルイズの事が気がかりな士郎はタバサの誘いを断ろうとするのだが、断りの返事を士郎が言い終わる前に、タバサが口を挟んできた。

 

「1個、貸し……」

 

ボソリと小声だが、タバサの声が士郎の耳にはやけにハッキリと聞こえた。

 

「あ、あの……行かなきゃダメか?」

 

恐る恐る聞き返す士郎。

 

「ダメ」

 

タバサはコクリと頷く。

 

「……………(小悪魔か! 青い小悪魔なのか!)」

 

何やら内心、軽いパニックになっている士郎。

そんな士郎にタバサは手を組んでやや上目でこう言い放った。

 

「お願い、シロウ……」

 

その潤んだ瞳は、その手の人物達なら直ぐにでもお持ち帰りしたいと思わせる威力を秘めていた!

無防備状態からのその攻撃に、何とか耐える士郎。

 

(ああぁ〜!! 今、何を考えた!! 師匠の二の舞になってたまるか!)

 

「わ、分かった。 ルイズに話しておくから、じゃあな!」

 

急ぎその場から離れる士郎。

その後ろ姿をタバサはじっと見つめていた。

恐るべし、『雪風』……。

 

 

 

 

 

夕食を終えて暫くした時間、士郎は宝探しの件をルイズに話す事にした。

 

「なあ、ルイズ。 暫く出かけて良いか?」

 

「……何で?」

 

ルイズは士郎がそんな事を言い出したのが不思議に思った。

 

「何かあったの?」

 

「いや、タバサから宝探しに誘われたんだよ。 色々な古い遺跡なんかを探索するみたいで、『虚無』や帰る為の手掛かりを見付けられるかも知れないから、行ってみようと思うんだ」

 

士郎はその可能性が限りなく低い事は重々承知していたが、こうやって筋道をキチンと説明すれば、真面目なルイズを納得させられる可能性が上がるのは分かっていた。

 

「……そう言う事なら別に良いけど、誰と行くの?」

 

ルイズは最も気になる部分を聞く。

 

「俺にタバサ、キュルケ。 後、ギーシュを誘う予定だけど?」

 

ピキ

空間が凍る音がした。

 

「キ、キュルケもですって?」

 

「ああ、そうだけど? 何か問題か?」

 

士郎はルイズの変化に気付かず、無神経な言葉を言い放ってしまった。

 

「無いわよ!! 私の事なんか気にせず、どっかに出かけなさいよ!!」

 

ルイズはすっかり拗ねてしまい、そのままベットに入ると毛布を全身に被せ、寝入ってしまう。

 

「お、俺が悪いのか?」

 

何故、急にルイズが機嫌を損ねたのか分からない士郎だった。

流石は主人公。

 

 

 

 

 

【すいません、予想外にカウンター回りが速くなった為、通常の更新量となってしまいました。 他のお待ちの作品も出来る限り速く書きますのでご容赦を。 次回は士郎達の宝探しが始まりますので、どうぞお楽しみに】

 

『危機反射』 ランクC+

士郎が目の前に襲い掛かる不幸に対して、体が自ずと最小限の被害に食い止めようとするスキル。

これは自分の意識とは無関係に発動されており、ランクが高くなれば自然と不幸を回避するようになる。

 


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