Fate and Zero
第37話 「喧嘩…」
「……で、ルイズの部屋まで行ったけどルイズは部屋に居ず、捜そうとした時にアイナの横槍が入ったんだな」
士郎は確認の為、目の前で正座をしているシーアに聞く。
「うん、そう」
慣れない正座の為、足をモゾモゾ動かしながらシーアは答える。
「はぁ〜……」
シーアの話を聞いて盛大な溜息を付く士郎であった。
(アイナの奴、この世界で何をする心算なんだ? ルイズの件、それとシーアの方もちゃんと教育しなきゃならないし……。 やる事が山積みだな)
難題が幾つもあり、頭を抱える士郎。
「士郎、そろそろ立って良い?」
恐る恐る声を掛けるシーア。
「駄目、もう暫く反省だ。 全く、以前も言ったけど人の話は最後まで聞けって言ってるだろう。 生まれて数年しか経っていないシーアは経験が乏しいんだから、1人で行動するのはもう少し経ってからだ」
「もう少しってどれ位?」
可愛らしく首を傾けながら聞いてくるシーア。
見た目は大人の女性、中身は童女であるシーア、その仕草にはとてつもない破壊力が秘められていた。
(エンネアかアル姉さんの入れ知恵だな……)
何時の間にそんな仕草を覚えたのかと思った士郎だったが、直ぐに見当を付ける。
「そうだな……シーアがあの双子に騙されないようになる位だな」
「……分かった」
シーアの脳裏に会う度にイタズラしてくる双子が浮かんでくる。
そして、シーアは双子に騙されないように決意する。
双子からして見れば、自分の慕っている士郎と何時も一緒に居るシーアが羨ましくてちょっかいを出しているのだが、幼いシーアにはまだ理解出来ない事だった。
まぁ、この世界にはその双子は居ないのだから、元の世界に戻るまでは1人行動を禁止された事に未だ気が付いて居ないシーアであった。
この分では元の世界に戻っても当分は1人行動は出来ないであろう……。
一方、士郎の事を誤解して追い出したルイズはと言うと……。
「うぅ〜〜〜〜〜」
ベットの中に潜り込んでウンウンと唸っていた。
(どうやって士郎に謝れって言うのよ!)
ルイズは貴族である。
魔法を使えば爆発しか起こさず、『ゼロ』の二つ名を与えられていたとは言え、王家とも縁の深いトリステインでも随一と言っても良いの公爵家の末娘だ。
それに比肩するかのようにプライドも高い。
そのルイズの貴族としてのプライド(性格もあるだろうが)の所為で、自分の方が明らかに非があると分かっていても使い魔である士郎に対してどう謝っていいのか分からなかった。
「うぅっ〜〜〜、ちいねえさまだったらこんな事にはならない筈なのに……」
自分の尊敬する次女の事を思い浮かべるルイズ。
性格は温厚で美人でスタイルも良く、体は生まれつき弱いが自分と違い魔法の腕も確かだ。
それに比べてルイズは……。
「ああっ! もう!」
ボフっと枕に顔を埋めるルイズ。
(一体、如何しよう…か…し…ら……)
徐々に睡魔に襲われ、眠りに就くルイズであった。
そんなこんなでルイズと士郎が仲直りしないまま3日が過ぎた。
朝日が昇り、ニワトリの泣き声でコルベールは目を覚ました。
「いかんいかん、寝てしまった」
彼はこの3日間、授業も休み研究室に籠りっきりであった。
目の前にはアルコールランプの上に置かれたフラスコがあり、ガラス管が左に置かれたビーカーの中に伸びていた。
ビーカーの中には熱せられた触媒が冷えて凝固していた。
コルベールは士郎から受け取ったガソリンの臭いを嗅ぎ、イメージを膨らませ、最後の仕上げとして慎重に『錬金』の呪文を唱えた。
ボンと煙を出すと共に、ビーカー中の液体が茶褐色の液体へと変わった。
コルベールは恐る恐る茶褐色の液体の臭いを嗅ぐ。
「っ!」
士郎から渡されたガソリンと変わらぬ刺激臭がコルベールの鼻に衝く。
それを確認したコルベールはビーカーの中の液体を近くにあった空のワイン瓶に移し変え、それを片手に研究室から飛び出した。
「シロウ君! シロウ君! できたぞ! できた! 調合できたぞ!」
コルベールは急いで士郎の居る倉庫へやって来た。
「は、早かったですね」
まさか、3日で完成するとは思っていなかった士郎としては驚きの表情を隠せなかった。
コルベールの能力の高さが窺える。
「早く『ヒコウキ』とやらが飛ぶのが見たくてね、寝る間を惜しんで調合した結果だよ!」
士郎はコルベールからガソリンの入ったワイン瓶を受け取ると、自分の鼻を近づけて臭いを嗅いで見る。
「ガソリンですね」
ガソリンの刺激臭を感じた士郎。
「どうやって調合したんですか?」
やはり、一技術者としてどうやってガソリンを調合したのか気になる士郎。
「まずは君から貰ったガソリンの成分を調べて、微生物の化石から作られているらしい事を突き止めた。 それでそれに近い物、木の化石……、つまり石炭を使う事にした。 試行錯誤を繰り返した結果! それを特別な触媒に浸し、近い成分を抽出し、何回か錬金を掛けて漸く完成したのだよ」
コルベールは得意げに話す。
「へぇ〜」
(ヤッパリこの人、天才だな)
科学技術の発達していないこの世界で、これほどの知識と技術を要しているコルベールに対し、士郎は技術者として尊敬の念を抱いた。
「早く、その風車を回してくれたまえ。 ワクワクし過ぎで、眠気が吹っ飛んだよ」
士郎はコルベールの持って来たガソリンを燃料弁から入れると、操縦室に乗り込む前にコルベールに頼み事をする。
「コルベール先生、魔法でプロペラを回して貰えますか?」
「何故かね? これはガソリンの燃える力で回るのでは無いのかね?」
「最初は道具を使って中のクランクを回してエンジンを掛けるんですけど、その道具が無いから魔法で直接お願いします」
「そうかね、よろしい! いつでも合図してくれたまえ」
士郎はゼロ戦に乗り込んで準備を終えると、コルベールに合図を送る。
コルベールが魔法でプロペラを回すと、士郎はエンジンを始動させ、プロペラが自力で動き出す。
「おお!」
その様子をコルベールは驚きと好奇心に満ちた表情で見つめていた。
暫くエンジンを動かした後、士郎はエンジンを切り操縦席から飛び降りた。
「シロウ君! 動いたのは良いのだが、何故飛ばないのかね?」
「動かすなら兎も角、飛ぶのにはガソリンが足りないんですよ。 せめて、樽5つ分はないと」
「そんなにいるのかね! いや、あれ程の重量の物体を飛ばすのだ。 それ位はいるか……。 まあ、乗りかかった船だ! やろうじゃないか!」
コルベールは急ぎ自分の研究室へと戻って行った。
余程、ゼロ戦が空を飛ぶのが見たいのだろう。
再び授業を休んでガソリン作りに没頭するコルベールの給料がかなりカットされる事になるのだが、その事を彼は知る由も無かった。
まぁ、研究の為だから彼も本望であろう……。
「遽しい人だな……」
『そうだね、士郎』
「さてっと、そろそろルイズの様子を見に行きますか」
士郎は何故ルイズが怒ったのか分からなかったが、ムキになっていたのは理解出来ていた為、時間を置いた方が良いと判断していた。
その気遣いは、これまでの経験の賜物であった。
確かに、直ぐにルイズが誤解だと分かっていなければ、時間を置くのは頭を冷やすのに有効な手段だったであろうが、あの後直ぐに誤解だと気が付いてしまったルイズにして見れば、プライドの高さから謝るに謝れない拷問の3日間であった事を士郎は分かる筈もなかった。
結果として、士郎の気遣いが逆に仇となってしまったのだ!
「ルイズ、居るか? 士郎だ」
ルイズの部屋をノックし、部屋に居るかどうかを確認する士郎。
返事は無いが部屋の中から驚いた気配が士郎に伝わった。
「入るぞ」
そう言って中に入った士郎。
その視界にベットの上に大きく丸まったシーツが入る。
其処にルイズが居るのは一目瞭然だった。
(何で今頃になって戻ってくるのよ! 3日も顔を出して無かったくせに!)
戻ってこないかも、と不安を募らせていたルイズにとって3日と言う期間は戻ってくるのを待つには長く、捜しに行くには短かった。
「はぁ〜」
(まだ機嫌が直ってなかったのか?)
未だ、だんまりのルイズに対し、士郎はそんな感想を浮かべる。
「ほら、シーツに包まってないで顔を出せ」
ベットまで移動した士郎はシーツを強引に引っぺがす。
無言でそれに抵抗しようとしたルイズではあるが、力で士郎に勝てる筈も無く、呆気なくシーツを剥がされた。
シーツを取り去ると寝間着姿のルイズが現れる。
顔を合わせる事となった士郎とルイズ。
士郎が何か話を切り出そうとした瞬間――
「うっ、うぅ〜〜〜」
ルイズの目頭から涙が溢れ出し、遂には零れ始めた。
そして、女性が持つ特有のスキル『泣き落とし』が発動した。
「も、もうっ! なんで直ぐに帰ってこないのよ!」
自分の言った以前の言葉を無視して、ポカポカと士郎を叩き始めるルイズ。
こうなってしまった女性に対しては理屈など通じはしない。
その事をとても理解している士郎は為すがままにルイズの拳を受けていた。
(結局、原因は何だったんだ?)
イマイチ状況に付いて行っていない士郎であった。
この後、落ち着いたルイズに原因は何だったのか聞き出そうとするのだが、大声で怒鳴ったりしてそのまま有耶無耶にするルイズであった。
結局の所、ルイズの理不尽を士郎が受け入れる形で今回の騒動は一先ず落ち着く事となった。
やはり、女性が起こす理不尽に振り回されている士郎。
某精霊のルイズに対しての印象は下降の一途を辿っているのは『まだ』関係の無い話である。
【お待たせしました37話をお届けします! 色々と忙しくなった来た学生生活ですが、これからも頑張って行きます。 次回はとうとうレコンキスタが動き始めます。 さあ、士郎! 君は如何動く!】