Fate and Zero

 

第29話 「報告…」

 

 

 

暗闇の中、そこに3人の人影があった。

その1つは、既に動かなくなったウェールズ皇太子だった。

 

「――――――――――」

 

「おお! アナタか! 流石に仕事が早い」

 

この男こそアルビオンの大司教を務め、今回の戦争ではアルビオンの貴族派の総司令官となり、新政府であるアルビオンの初代皇帝の椅子に座った人物だ。

年の頃は30代半ば位で、丸い帽子を被り、緑のローブとマントを身に着けている。

高い鷲鼻、知的な色をたたえた碧眼に、帽子の裾からカールした金髪が覗いていた。

 

「――――――――――」

 

「もう、行ってしまうのかね?」

 

「――――――――――」

 

「しかし、アナタは余の最大の敵であったウェールズを葬って」

 

「――――――――――」

 

「わ、分かりました。 手はず通りに奴らには温かいパンをくれてやりましょう」

 

何を言われたのか、急に弱腰になるクロムウェル。

 

「―――――」

 

「はい」

 

クロムウェルは呪文を詠唱し始める。

その呪文が完成すると、死んでいた筈のウェールズが動き始めた。

骸だったはずのウェールズの体に、見る見るうちに生気がみなぎっていく。

ウェールズが1人で起き上がった時、そこには2人しか居なかった。

 

 

 

 

 

士郎達が魔法学院に帰還してから3日後に、正式にトリステイン王国王女アンリエッタと帝政ゲルマニア肯定アルブレヒト三世との婚姻が発表された。

式は1ヵ月後に行われ、それに先立ち軍事同盟が締結される事となった。

同盟の締結式は、ゲルマニアの首都であるヴィンドボナで行われ、トリステインからは宰相のマザリー枢機卿が出席し、条約文に署名した。

その翌日、アルビオンの新政府樹立の公布が為され、両国の間に緊張が走ったが、アルビオンの初代皇帝のクロムウェルは直ぐに特使をトリステインとゲルマニアに派遣し、不可侵条約の締結を打診してくる。

両国は協議の結果、それを受け入れた。

両軍の空軍力を合わせてもアルビオンには及ばない為、軍備の未だ整っていない両国にとっては、この申し出は願ったりであった。

そして、ハルケギニアに表面上の平和が訪れる。

それは、魔法学院も例外ではなかった。

 

 

 

 

 

とある一室に、ある少女3人が集まっていた。

 

「出来たわ」

 

桃色の少女が言う。

 

「思ったより時間がかかったわね」

 

赤色の少女が言う。

 

「苦労」

 

青色の少女が言う。

 

「仕方がないわよ。 『―――』はやたらと勘が良いみたいなんだもん」

 

「流石はダーリンと言ったところね」

 

「………」

 

「それより読むわよ」

 

「ええ、そうね」

 

「了解」

 

そう言うと3人の少女は身を乗り出し、1つの報告書を読み始めた。

その内容を大まかにして伝える。

 

 

 

『彼』は朝早くに起きると、寝ている主人を起こさないように部屋を出る。

部屋を出た後、裏庭で自己鍛錬を始める。

自己鍛錬の内容はまちまちだが、主に筋力トレーニング、体術の訓練と言った肉体面の鍛練のみである。

小1時間ほどの鍛練が終了すると彼は汗を流す為、厨房から貰ってきた古い大釜に湯を張った風呂に浸かる。

 

 

 

「ちょっと! これ誰が調べたのよ!」

 

風呂云々のところで、桃色の少女が爆発する。

 

「あら、アタシの使い魔よ。 (視覚を共有したから、ダーリンの裸は少し見たんだけどね。 凄かったわね……)」

 

赤色の少女は得をしたと思いながら、それを口には出さない。

 

「続き」

 

青色の少女は続きを促す。

桃色の少女は渋々、次のページをめくる。

 

 

 

風呂から上がり『彼』は身支度を整えると、その足で厨房へと向かう。

『彼』が厨房に着くと、そこに居る平民達に熱烈な歓迎を受ける。

特に、ある『メイド』が『彼』の傍によく来る。

『彼』はその歓迎を一通り受けると、主人の朝食を作る為に厨房に立つ。

その背中は歴戦の貫禄を持っていた。

そして、その調理のスピード、味、盛り付け、どれをとってもその場の誰にも負けてはいなかった。

『彼』が一通りの調理を終えると、他のコック達等が『彼』の周りに集まり、調理についての質問が始まる。

『彼』はそれを丁寧に答えていき、そのアドバイスをコック達は素直に受け入れている。

その厨房の料理長の一言。

 

『流石は、我らの剣。 おい、お前ら。 アレ位にとまでは言わねえが、もっと精進しろ』

 

『彼』の存在は厨房に活気を呼び、学院ではこの頃、さらに料理が美味しくなったと評判であった。

 

 

 

「なんと言うか……すごいわね」

 

この学院のコック達はその道では一流の者たちである筈なのだが、そのコック達よりも『彼』が腕が立つなど『彼の料理』を味わっていなければ、桃色の少女は信じられなかっただろう。

 

「それよりもこの『メイド』少し厄介ね」

 

赤色の少女は女のカンを働かせる。

 

「要注意」

 

青色の少女も警戒を強める。

 

 

 

朝食の時間になると『彼』は出来た食事を持って部屋へと向かう。

部屋に着くとこの頃は、主人だけではなく2人の少女も居る。

そして、『彼』を含める4人は席に着き朝食を食べ始める。

 

 

 

「ホントに、なんで来てるのかしら? この2人……」

 

桃色の少女は他の2人の少女を見る。

 

「あら、あんなに美味しい食事を食べられるのよ。 それにダーリンの下に来るのは当然じゃない」

 

赤色の少女は物怖じせずに、その大きな胸を張りながら答える。

 

「美味」

 

青色の少女も何時も通りにポツリと呟く。

 

 

 

朝食を終えると『彼』は食器をかたずけ始め、少女達を授業に送り出す。

少女達を送り出し終わったら、部屋の掃除に選択を始める。

そして、昼時になると『彼』は朝作っておいた弁当を持って中庭へ向かう。

そこで昼食を取っていると休憩時間と言い、またもやあの『メイド』が高確率でやって来る。

『彼』はそれを疑いもせずに、『メイド』に相席を許す。

 

 

 

「な! 何なのよ! コレは! 最近、『―――』と2人で食事なんてしてないのに!」

 

またもや爆発する桃色の少女。

 

「そう言えば……、中庭で小さいけど突然、竜巻が起こった事があったわね。 何か知らない?」

 

赤色の少女は隣に居る青色の少女に聞く。

 

「……知らない」

 

青色の少女は赤色の少女の隠された追求をかわす。

竜巻の真相は、ある使い魔が主人の命を受け、共に引き起こしたものである。

小規模であるとは言え、末恐ろしい……。

 

 

 

午後になると主人の授業の様子を覗きに来る事もあるが、殆ど『彼』は図書館へと向かう。

そこで、このハルケギニア関する様々な調べ物をしている。

近頃、授業の合間にある1人の教師が『彼』の元へとやって来る。

『炎蛇』の異名を持つ『火』のトライアングルメイジのコルベールだ。

その大層な異名を付けられる教師にはとても見えないので、何故その様な異名を持っているのか、この魔法学院の不思議の1つでもあった。

なぜ、教師であるコルベールと『彼』が親しくしているかと言うと、彼が『愉快な蛇くん』とか言う発明品を授業中に持って来たことがあり、それを見た『彼』が『エンジン』と言う自分の世界の発明品であると言っていた事が始まりである。

我々メイジには、魔法があるのでワザワザその様な発明品を創る等普通はしない為、コルベール教師は変わり者として扱われたのだが、『彼』自身はそうは思わず、様々な意見交換等の話をしているのをそれから度々見られるようになった。

 

 

 

「ホント、あんなのに『―――』が興味を持つなんて」

 

桃色の少女は困惑の表情を浮かべる。

 

「そうね。 何であんなのに興味を持つのかしら?」

 

赤色の少女はコルベールが持って来た発明品『愉快な蛇くん』油と火の魔法を使って動くオモチャになぜ『―――』が興味を持つのか不思議であった。

 

「不明……」

 

青色の少女も同じの様であった。

 

 

 

その日の授業が終わる頃に『彼』は図書館を出て、主人の元へと向かう。

そこで、『彼』は主人の今日の授業の事を聞く。

少しすると、他の2人の少女もやって来て、お茶をしながらの団欒となる。

暫らく話すと『彼』は夕食の準備の為、再び厨房へと向かう。

そこで朝と同じような光景が繰り返される。

夕食の時も同じだ。

 

 

 

「ホントに、厚かましいわね……この2人」

 

桃色の少女は目の前に居る2人の少女に冷たい視線を注ぐ。

 

「あらあら。 誰かさんは自分の胸と同じで心まで貧相なのね……」

 

そう言うと赤色の少女は笑う。

 

「………」

 

青色の少女は気にしていないといった風に、平然としている。

 

「何ですって!」

 

「やるの?」

 

2人の少女は取っ組み合いを始めるが、もう1人の少女は我関せずと言った具合に無視を決め込み、報告書の続きを読む。

 

 

 

夕食が終わると『彼』は食器を食堂まで片付けに行き、その足で午後の訓練を始める。

訓練と言っても、ただ座って瞑想をしているだけだが……。

それが終わると、部屋に戻って来て明日の準備を始める。

そして、睡眠となる。

これが大まかな『彼』の平日の生活模様だった。

 

 

 

「何やってるんだ、3人共? 締め切った部屋で碌に明かりもつけないで……」

 

部屋に入ってきたのは『彼』、『―――』こと衛宮 士郎だった。

士郎は部屋に入るとカーテンを開け外から光を取り入れる。

 

「全く、折角の休日だってのに……」

 

士郎の顔には呆れが見て取れる。

 

「そ、そんな事より士郎! 士郎の事、色々と聞きたいの!」

 

誤魔化すように桃色の少女ことルイズは言うが……。

 

(バカ!)

 

赤色の少女ことキュルケは内心罵る。

青色の少女ことタバサも冷え切った視線を向ける。

 

「? 如何してだ?」

 

行き成りのルイズの発言に士郎は首を傾げる。

 

「え、えっと……。 そ、そう! 使い魔の事を主人が知りたいと思うのは当然でしょう!」

 

「……まあ良いけど。 そういや、向こうでどんな生活をしてたなんて言った事は無かったもんな」

 

こうして、3人の少女は士郎の口から自身の情報について聞き出すことに成功する。

3人はこんなに簡単にいくなら、この数日の苦労は何だったのかと共通して思っていた。

ちなみに、士郎の口から女性の名が出る度に、何故か士郎は困惑の表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

【5月になりました、皆様は如何お過ごしでしょうか? 今回は3人が士郎の事をストー『ゴフン、ゴフン』調査する話でした! 次回の更新はゾロ目です! 色々な方からのご声援もありこれからも頑張っていきます!】

 


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