Fate and Zero

 

第27話 「攻城戦…」

 

 

 

周囲の空気は張り詰め、ルイズ達は動けずにいた。

 

「……………」

 

士郎はアイナの動きに全神経を集中させている。

 

「もう、そんなに固くならなくてもいいじゃない、士郎」

 

そんな士郎を見て、アイナは軽く告げる。

 

「お前の前で気を抜くことができる筈が無いだろ……」

 

士郎は戦闘体勢を維持したまま、目の前のアイナと話しをする。

 

「……相棒、何者だ? この女。 威圧感が半端じゃねえぞ」

 

デルフリンガーもアイナに対する警戒心を最大にしている。

 

「敵だ。 ……それよりさっきの質問に答えてもらうぞ。 何でお前がここに居るんだ?」

 

アイナは性急な態度を取る士郎に苦笑を浮かべる。

 

「もう、せっかちね、士郎。 少しは女性の扱いを覚えたと思っていたのに。 まあ愛しの士郎の質問だから答えてあげる」

 

アイナは一拍置いて士郎にウィンクをする。

 

「それはね……、ひ・み・つ」

 

それと同時に先程と同等の光弾が4つ、士郎に迫る。

それを見た士郎は、地面にデルフリンガーを突き刺す。

 

「おい! 何するんだよ相棒!」

 

投影開始(トレース・オン)!」

 

士郎の両手に2本の夫婦剣が現れる。

 

「まあ、賢明な判断ね。 さっきの剣、業物見たいだけど、私を傷を負わせるには役不足だったし、下手すると折れてしまうものね」

 

「げ!」

 

士郎の行動を解説するアイナに、それを聞いて驚きの声を上げるデルフリンガー。

そして、士郎は迫り来る光弾を切り落とす。

目の前で爆発が目くらましとなり、両者の視界を遮る。

 

「あら?」

 

煙の中から無傷の士郎が飛び出してくる。

 

「効くかよ!」

 

士郎の容赦ない怒涛の斬撃がアイナを襲う。

その斬撃は繰り出される毎に速さが上がり、ルイズ達の目には剣線すら視認できなくなっていた。

しかし、アイナは流水を思わせる動きでそれらを余裕を持ってかわしながら、その太刀筋を評価する。

 

「あらあら、随分と研鑽を積んだのね、士郎」

 

「当たり前だ。 俺が目指す先はまだ遠いんだからな!」

 

その言葉と同時に放たれた横薙ぎの斬撃をアイナは楽にかわす。

しかし、士郎は斬撃の勢いを殺さず、そのまま回し蹴りを放つ。

意外だったのか、アイナはそれをかわせず、初めて士郎の攻撃を両腕で受け止めた。

士郎の蹴りの勢いに逆らわず、アイナはそのまま後ろに跳ぶ。

 

「もう、士郎。 女性を足蹴にするなんて」

 

軽口を叩くアイナ。

 

「アンタには特別だよ」

 

皮肉を口にする士郎に対し、アイナは苦笑を浮かべる。

 

「もう、失礼ね。 まあ、貴方だから許してあげるけどね」

 

「それは迷惑だ! 鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むてきにしてばんじゃく)!」

 

士郎は手にした夫婦剣をアイナに向かって投げつける。

回転しながら迫るそれをアイナは簡単にかわすと同時に干将を叩き落し、干将は粉々に砕ける。

それを承知していたかの様に、次の短剣を投影する士郎。

 

心技(ちから)泰山ニ至リ(やまをくりぬき)

 

士郎はアイナに接近し、左手に持つ獏耶で切りかかる。

その斬撃をアイナの手は軽く掴む。

掴まれた獏耶は音を立てて崩れる。

しかし、士郎はその様な事に気を取られない。

 

心技(つるぎ)黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)

 

士郎の持つ干将を目掛けてアイナの背後に飛んでいった獏耶が戻ってくる。

 

「!」

 

アイナは戻ってきた獏耶を身を捻ってかわす。

 

「惜しかったわね、士郎」

 

2度に亘る奇襲をもってしてもアイナに傷をつけられない。

 

唯名(せきめい)別天ニ納メ(りきゅうにとどき)……)

 

士郎は戻ってきた獏耶を左手に掴む。

 

両雄(われら)共ニ命ヲ別ツ(ともにてんをいだかず)!」

 

「!!!」

 

再び、手にした干将と獏耶で左右から切りつける。

それと同時に、あり得ない筈のもう1組の夫婦剣が綺麗な弧を描き、アイナを背後から襲う。

逃げ場が無く、紛れも無い必殺の攻撃が当たる直前、アイナの姿が消えた。

必中の筈の攻撃は目標を失い、お互いに惹かれあった2組の夫婦剣は激突し合い、砕け散る。

 

「空間転移か」

 

士郎はいつの間にかワルドの傍に立つアイナを睨みつける。

 

「ええ、それにしても『干将』『獏耶』ね〜、お互いに引き合う性質を持つ夫婦剣。 良い物を手に入れたじゃない。 しかも最後の1組はさっきの爆煙にまぎれて私の背後に設置しておくなんてね。 ホントに成長を感じさせるわ」

 

楽しいのか、アイナは微笑を浮かべる。

 

「やっぱりこの程度の奇襲は通用しないか……」

 

アイナの称賛を素直に受け取れない士郎。

士郎にしてみれば決して手加減をした訳ではない、むしろ大抵の者であれば必殺となっていた筈の攻撃だった。

それをいとも簡単に防いだだけではなく、そのカラクリを瞬時に見抜くなどアイナの技量の高さが窺える。

 

「ん〜、私としてはこのまま士郎と思う存分愛し合いたいのだけど……、そうも言ってられないのよね」

 

「ふざけるな!」

 

「もう、士郎は私の愛に応えてくれないの? アナタと私は永劫を共にする運命にあるのに……」

 

ふざけた物言いをするアイナに対し士郎は瞬時に次の攻撃に移る。

 

「応える訳が無いだろうが! 全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)

 

数十の名剣、魔剣等が現れ、その数々の剣の輝きにルイズ達は目を奪われる。

剣達は自らを作り出した者の意思の元、敵に襲い掛かる。

 

「あらあら」

 

そんな言葉とは裏腹に、アイナは落ち着いた様子でそれを待ち構える。

剣はアイナに接触する直前に砕け散った。

アイナが張った防御結界を突き破られなかったのだ。

 

投影開始(トレース・オン)!」

 

それを予想していた士郎は剣を打ち出すと同時にアイナに接近し、新たに投影したバルザイの偃月刀を大上段から振り下ろす。

鉄塊もを易々と切断する一撃をアイナは身を捻ってかわし、士郎の懐に入り込むとアイナの手が士郎の腹に触れる。

 

「じゃあね」

 

「ガハッ!」

 

「相棒ー!」

 

士郎はアイナの放つ衝撃波に吹き飛ばされる。

士郎は衝撃により内側から内臓が引っ掻き回されるような感覚を覚えた。

吹き飛ばされた勢いは衰えず、並んだ椅子にぶつかり、再び瓦礫に埋もれる事になった。

 

「全く士郎ッたら、もう少しはこっちの気持ちを考えてほしいわね〜。 まあ、まだまだ長い時間があるんだし、ゆっくりやっていくとしましょう。 さて、用事の方を済ませるとしましょうか」

 

アイナがワルドの前に立ち、腕を軽く振るうと、瀕死である筈のワルドが立ち上がった。

切られた左腕の出血は止まっているどころか、傷が完全に塞がっていた。

しかし、ワルドの目からは自分の意思を感じられない。

 

「さて、アナタがウェールズね」

 

アイナはウェールズの方を向き、にっこりと微笑む。

 

「な、何者だ……」

 

ウェールズ達は目の前にいるアイナに対し恐怖を隠せないでいる。

 

「何者ね〜。 その問いの答えをアナタ達は理解できるのかしら? 理解できないのなら答えなくても同じなのだけどね〜」

 

アイナは4人を値踏みする様に見回す。

 

う、五月蝿いわね! こっちの質問に答えなさいよ! アンタ! 私の士郎の何なのよ!

 

ルイズはアイナに対し喚き散らす。

アイナは初めてルイズに対し鋭い視線を向ける。

睨まれたルイズはビクンと硬直してしまう。

 

「……アナタが士郎を使い魔にした魔法使い?」

 

「そ、そうよ。 文句ある!」

 

声を震わせながらも、睨み返しながらそう答えるルイズ。

その返事を聞き、アイナは笑い声を抑えようとするが漏れてしまい、それをルイズが聞き咎める。

 

「な、何が可笑しいのよ!」

 

「『くす』 だって、アナタが士郎の主人ですって? ホントに笑わせてくれるわ。 彼は私が認めた人間よ、アナタ如きの力量で彼を使い魔にしたなんて思い込んでるなんてね……。 『くすくすくす』 全く士郎も人が良過ぎるわ」

 

ど、どういう事よ!

 

アイナの笑い声と言葉に耐え切れず、叫び声を上げるルイズ。

 

「そのままの意味よ、士郎がその気になれば『ドス』」

 

アイナの背中に数本のナイフが突き刺さる。

刺された箇所が徐々に凍り始めてくる。

 

「全く、もう気が付いたの? もう少し足止めできると思ってたのに……」

 

アイナはナイフが投げられたであろう場所に振り返る。

そこには肩で息をしながらも無事な士郎の姿があった。

 

「ふ〜ん、かなりその魔道書を使いこなせる様になったみたいね、士郎。 油断してたとはいえ私の防御壁を突き破って傷を負わせるぐらいですもの。 それに、その左手のルーンの効果ね。 感情の強弱に比例して、その使用者の力を強化するみたいね。 まあ、使えば疲労するのが早くなるみたいだけどね」

 

次の瞬間、アイナの背中に突き刺さったナイフは砕け散り、服も傷1つ無い状態に戻っていた。

 

「はっ…はっ…はっ…はっ………。 うるせぇ」

 

悪態を吐く士郎に、そんなアイナの解説に驚きを隠せないデルフリンガー。

 

(この女! ガンダルーヴのルーンの力の事も一瞬で見抜きやがった! 相棒を軽くあしらうこの実力……、人間か? 随分と相棒に執着してやがるようだし、いったい相棒とどんな関係なんだ?)

 

「でも、如何するの? 私を本気で如何にかしたいなら、全力を出さなきゃいけないわよ? まあ、そうしたらこの辺り一帯が無くなるけどね」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

アイナのからかい混じりの言葉に他の4人と1剣が完全に固まる。

まあ、当然の事だろう。

先程の勝負ですらさ入り込む余地が窺えなかったのに、士郎もアイナもまだまだ力を温存していると言うのだから。

まあ、アイナの言う様に彼女を士郎が如何こうし様と言うなら自分とシーアの力を最大限使わなければ無理な話なのだ。

だが、それでもほんの少しの可能性が出来るだけなのだが……。

目の前のアイナにはあの王様の愛用する鎖も効果が無いのだから……。

 

「だからって、止められる俺じゃない!」

 

士郎は爆発的に加速し、アイナに向かって突進する。

 

「ええ、そうね。 それでこそ衛宮 士郎よ」

 

アイナは思いっきり腕を振り上げた。

すると地面から黒い光の帯が現れて、士郎達に巻きつき拘束する。

 

「「「「「!!」」」」」

 

口の周りにも帯が巻きつき、声も出せない。

 

「ちょっとした捕縛呪法よ。 確かワルドと言ったかしら? さっさとそこの皇太子を殺しなさい」

 

アイナの命令に従い、ワルドはウェールズに向かって呪文を唱えるが、そこにはワルドの意思が感じられない。

その様子を、士郎達はただ見ることしか出来ないでいる。

そして、ワルドの呪文が完成すると、鋭い空気の渦がウェールズの胸を貫いた。

 

「「「「ん〜〜!」」」」

 

ウェールズの胸から飛び散った血が近くにいた3人に降りかかる。

そして、ウェールズを拘束していた帯が消え去ると、ウェールズはドサリと地面にうつ伏せに倒れ、辺り一面に血が広がっていく。

それを見た士郎は自分の体をさらに揺さぶる。

すると、ピシっと言う音と共に士郎を拘束していた帯に罅が入り始める。

 

「あら、もう限界? うっふふ、ホントに士郎は私を嬉しくさせてくれるわね〜。 でも、今回はココまでよ。 それじゃあ、また逢いましょうね。 愛しの士郎〜。 ……ああ、それとそこのおじょうちゃん。 士郎はその体から魂の隅々まで私のモノよ、アナタ如きが気安く近づかないでね〜」

 

アイナは士郎に対しウィンクを送り、ルイズに対しては挑発交じりの言葉を残し姿を消した。

それと同時に、ワルドとウェールズの姿も消える。

そして、アイナ達が居なくなって数秒後に士郎達を拘束していた帯が砕け散り、マギウススタイルが解け、本のページが士郎の手に集まり、1冊の本に成る。

士郎は天井に向かって大きく吼える。

 

くっっっそーーーーー!

 

その直後、城が大きく震える。

どうやら、反乱軍が本格的に城を攻撃し始めたようだ。

あちこちから大砲と魔法による爆発音が聞こえてくる。

 

「きゃー!」

 

ルイズは座っていたお尻に何か当たる感触がして、飛び上がった。

そこはやや地面が盛り上がっている。

すると、ボコリと地面に穴が開き、そこから巨大モグラに続いてギーシュが顔を出す。

 

「や〜、迎えに来たよ」

 

ギーシュがヴェルダンデを使い、外の地面から掘り進め現れたのだ。

その穴から空で待っているタバサの使い魔シルフィードに乗って空を滑空し、トリステインに戻るのが士郎達の立てた脱出計画だった。

 

「って、どうしたんだい?」

 

「こ、この変態!」

 

ルイズの右ストレートがギーシュの腹に突き刺さる。

 

「ぐ! な、なぜ?」

 

ルイズの拳が水月に突き刺さり、そのままギーシュは気絶してしまう。

 

「ふ〜〜〜。 兎に角、脱出するぞ」

 

士郎は一度深呼吸をして自分を落ち着かせると、ギーシュを担ぎ、穴の中に飛び込む。

ルイズ達3人もお互いに向かい合い頷くと穴に飛び込んだ。

そして、全員を乗せたシルフィードはトリステインに向かい静かに飛んで行った。

傷ついたモノを癒すように、ゆっくりと優しく。

 

 

 

この日、王党派は反乱軍の猛攻により1人残らず戦死した。

しかし、王党派の反撃は凄まじく自軍の100倍以上の戦力の敵に対し、自軍の10倍以上の被害を与えたとしてニューカッスルの功城戦は歴史に残る戦いと成った。

 

 

 

 

 

【ウェールズ皇太子はワルドの魔の手に掛かり、その息を引き取った? 士郎を圧倒するアイナの正体とは? 謎を残す事になった27話でした。 ようやく2巻のお話が終わりました。 SSの投票により新作を作ることになりました。 そちらの方も是非お楽しみ下さい】

 


<< BACK   NEXT >>


戻る