Fate and Zero

 

第24話 「入港…」

 

 

 

タバサたちが連れてきたフーケは、すぐさまに倉庫に閉じ込められた。

 

「ねえ、シロウ。 フーケってアルビオンの貴族だったのね」

 

客室に通されたルイズたちは、先ほどの事について喋っていた。

 

「そうだな、ウェルーズ皇太子と知り合いだったみたいだし、かなり位の高い貴族かその親族だったんだろう」

 

「まあ、あのオバサンの事なんかどうでも良いじゃない。 それよりダーリン、これからどうするの?」

 

「密命を果たす為に城まで行かなくちゃならないらしいから、暫らくはボーっとしていて良いだろう」

 

「そうなの……」

 

部屋の隅でまだいじけているギーシュ、関係ないと言わんばかりに本を読みふけるタバサ、ワルドはグリフォンの世話をしに甲板に行っている。

 

「俺はチョット風に当たってくるよ」

 

そう言って、士郎は部屋を出ようとする。

 

「それなら私も行くわ、ダーリン」

 

その士郎について行こうとするキュルケ。

それにルイズは対抗する。

 

「なに言ってんのよ、そんなのダメよ!」

 

「はん、ルイズ。 アンタに許可を貰う必要なんて無いわ」

 

「シロウは私の使い魔よ!」

 

キュルケの挑発にますます熱くなるルイズ。

 

「彼は人間なのよ、シロウの意思を勝手に決め付けないでね」

 

「アンタこそ、決め付けないで!」

 

果てしなくヒートアップしていく2人の言い争いを余所に、士郎はタバサに近づく。

 

「悪い、1時間ぐらいで戻るから、あの2人をよろしく頼む」

 

タバサは本から目線を外し、士郎を真っ直ぐ見る。

 

「分かった」

 

そう言うと、再び本に視線を戻す。

 

「ありがとな」

 

士郎は言い争いをしている2人に気付かれぬように、そっと部屋を出た。

もっとも、普通に出ても今の2人なら気が付かなかっただろうが……。

 

 

 

「ここか……」

 

士郎は、ある倉庫の前に来ていた。

 

「だれだい?」

 

フーケはドアの外に誰かの気配を感じて呼びかける。

士郎はドアを開けて、中に入る。

 

「アンタ……」

 

「こうしてゆっくり喋るのは、初めてだなフーケ」

 

「そうね、使い魔君」

 

立ち上がっていたフーケは警戒を解いて、近くにあった木箱に座り込む。

 

「使い魔君って……、俺には士郎って言う名前がある。 そっちはフーケで良いのか?」

 

「別にかまわないさ、王家の奴らに貴族の地位と一緒に名前も剥奪されたからね。 それにしてもシロウって言ったかい? こんな所に何の用さ」

 

士郎と殆ど接点のない筈のフーケにワザワザ会いに来る理由が思い浮かばないようだ。

 

「ああ、礼と少し話がしたくてね」

 

「礼?」

 

士郎の言葉に思い当たる節が無く首をかしげるフーケ。

 

「いったい何のことさ?」

 

「隠し持った杖で移動中にタバサたちを襲わなかった事だよ」

 

「!」

 

士郎の言葉に驚愕するフーケ。

靴の裏に仕込んである予備の杖の事が悟られたからである。

 

「それは、あんな大空のど真ん中じゃ、無事に陸地にたどり着けるか分かんなかったしね。 しかし、ホントにいったい何者だい、アンタは?」

 

ディティクト・マジックを使われたわけでも無しに、それに目の前の人物はメイジではない筈だった。

それ以前に、この靴は特別製で本格的に調べるならともかく、軽い探査では分からないようになっている。

 

「まあ、今は使い魔をやってる、チョット変わった人間だよ」

 

「チョットね……(どうだか……)」

 

フーケは内心その言葉を信じていなかった。

 

「それで、話ってのは何だい?」

 

士郎に対し、これ以上驚かない様にと、気を引き締めるフーケ。

 

「アンタが『レコン・キスタ』に参加している理由は、ウエストウッドの村と関係があるのか?」

 

「!」

 

フーケは先ほどとは比べ物にならない表情を作る。

 

アンタが何でその村の事を知っているんだい!

 

フーケとしてはその村にいる人物との繋がりは決して表に出してはならないものだった。

しかし、目の前の士郎は、少なくともその村とフーケに何かしらの繋がりがあるという事を知っているようだった。

その為、フーケは一瞬、我を忘れて叫んでいた。

 

「学院長から聞いた。 あの爺さん、本当に侮れないぞ。 アンタが秘書を務めていたときに秘密裏に給料をどこかに送っていたのを調べていたらしい」

 

フーケは、それを聴いて舌打ちをする。

 

(ホントに喰えない爺さんだよ! もしかして私の経歴を知り尽くして学院に入れたんじゃないだろうね?)

 

給料を送る際には、表のルートはもちろん、裏のルートをいくつか経由して送っていたのだ、本腰を入れて根気よく調べても、まず見つからない。

ただの秘書の給料の流れを調べる為にそこまでの時間と労力を掛ける筈がない。

最初から何かあると確信を持って疑っていない限り。

 

「ふ〜〜〜」

 

フーケは熱くなった頭を冷やすために一息つく。

 

「直接の関係は無いさ、これは私怨さ。 王家の連中に一泡吹かせるためのね。 それで、アンタはどうしようって言うんだい?」

 

フーケは目の前の士郎が、たとえ非武装でも油断してくれるとは思っていない。

魔法を使おうとしても、杖を取り出そうとする間に、やられてしまうのは目に見えていた。

予備の杖を取り上げられてしまえば、もう逃げ出すチャンスは無い。

それに、村の件もある。

もしも、村の存在だけで、まだ『彼女』との接点が明らかになっていないとしても、そこまで調べられてしまっていては、『彼女』の存在が表に出るのは時間の問題だろう。

それだけは避けなければならないが、現状ではどうすることも出来ない。

 

「そうか……。 それじゃあ、次は敵同士で会わないことを祈るよ」

 

そう言いながら、何事も無かったかのように部屋を出て行こうとする士郎。

それに、フーケは驚いた。

 

「チ、チョット待ちな! 何でこのまま出て行くんだ」

 

「いや……、アンタにはさっきも言ったようにタバサたちの件で借りがあるからな。 それに、ずっと思っていたがアンタは悪党であっても悪人じゃない。 ウエストウッドって村に大事な人がいるんだろう?」

 

士郎は優しく微笑み掛ける。

 

「だ、だからって! ああもう! アンタ物凄いお人よしだね、私の負けだよ。 まったく、あの子に似てるったりゃありゃしない

 

「それじゃあな」

 

出て行こうとする士郎に背を向けながら、フーケは声を出す。

 

「ああ、お言葉に甘えて、船が着いたらとんずらさせてもらうよ。 それとこれは独り言なんだが、私を牢から連れ出したのはトリスティンの貴族で魔法衛士隊の隊長なんかをやってるって言ってたね〜」

 

フーケのワザとらしい独り言を聞き、士郎はそのまま何も言わずに、出て行った。

 

「は〜、私もやきが回ったもんだね〜。 シロウって言ってたっけ」

 

そう呟きながら、士郎の先ほどの表情を思い浮かべるフーケだった。

 

 

 

士郎たちを乗せた軍艦『イーグル号』は、雲に隠れながら航海していた。

暫らくして、大陸から突き出す岬に、高い城がそびえたつのが見えた。

 

「ニューカッスル城だ!」

 

ギーシュは初めて目にするニューカッスル城に興奮を隠せないようだ。

しかし、イーグル号は真っ直ぐには城に近づかず、大陸の下側に潜り込む進路を取る。

そんな様子に、ルイズは疑問をいだく。

 

「なぜ、下に潜るのですか?」

 

「なに、忌々しい貴族派の連中にニューカッスルは空から封鎖されているのでね、奴らの知らない秘密の港を使うのさ」

 

雲の中を通り、大陸の下側に潜り込むと、日の光を遮られているのと雲の中であるため視界がゼロに等しく、上の大陸に座礁する可能性が高いため、反乱軍の船は大陸の下には近づかないのだとウェールズ皇太子は語った。

地図を頼りに、計測と魔法の明かりで暫らく航海すると、頭上に300メートルほどの大穴がぽっかりと開いていた空間に出た。

 

「一時停止」

 

「一時停止、アイ・サー」

 

ウェールズの命令で素早く裏帆を打つと、暗闇の中でも水兵たちがキビキビとした動作で帆をたたみ、穴の真下で停船する。

 

「微速上昇」

 

「微速上昇、アイ・サー」

 

緩やかな速度で、穴をイーグル号は上昇していく。

暫らくすると、頭上に明かりが見えてきて、まばゆい光に照らされたかと思うと、イーグル号はニューカッスルの秘密の港に到着した。

そこは、真っ白な発光性のコケが生えた鍾乳洞で、岸壁には大勢の人がいた。

イーグル号を降りると、背の高い年老いた老メイジがよってきて、ウェールズの労をねぎらった。

 

「ほほ、これはまた、たいした戦果ですな。 殿下」

 

イーグル号に続いて現れたマリー・ガラント号を見て、老メイジは顔をほころばせた。

 

「喜べ、パリー。 硫黄だ、硫黄!」

 

ウェールズがそう叫べと、集まった兵隊たちが、歓声を上げる。

 

「おお! 硫黄ですと! 火の秘薬ではございませぬか! これで我々の名誉も守られるというものですな!」

 

パリーと呼ばれた老メイジは、おいおいと泣き始めた。

 

「先の陛下よりおつかえして60年……、こんなに嬉しい日はありませぬぞ、殿下。 反乱が起こってからは、苦渋を舐めっぱなしでありましたが、なに、これだけの硫黄があれば……」

 

にっこりとウェールズは笑う。

 

「王家の誇りと名誉を叛徒どもに示しつつ、敗北することが出来るだろう」

 

「栄誉ある敗北ですな! この老骨、武者震いがしますぞ。 ご報告なのですが、叛徒どもは明日の正午に攻撃を開始するとの旨を伝えてまいりました。 まったく、殿下が間に合ってよかったです」

 

「してみると間一髪とはまさにこのこと! 戦に間に合わぬは、これ武人の恥だからな!」

 

ウェールズたちが心底楽しそうに笑いあっているのを、ルイズは呆然と聞いていた。

 

「して、その方たちは?」

 

パリーは見慣れぬルイズたちを見て、ウェールズに尋ねる。

 

「トリスティンからの大使殿だ。 重要な用件で参られた」

 

パリーは一瞬、なぜ滅びかけの王国にと顔をしかめたが、すぐに表情を改めて微笑んだ。

 

「これはこれは大使殿。 遠路はるばる、このアルビオン王国にようこそいらっしゃった。 たいしたおもてなしはできませぬが、今宵はささやかな祝宴が催されます。 是非ともご出席くださいませ」

 

 

 

 

 

【もう少しで、2巻の内容が終わります。 出来れば今年度中に仕上げたいですが……、それでは次回に】

 


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