Fate and Zero

 

第23話 「出会い…」

 

 

 

士郎は甲板に出て、外の様子を見ていた。

 

(さてと、これからどうなるのやら……)

 

キュルケたちの事が心配ではあるが、現状、連絡手段などが無いため確認の取りようがない。

それに加えて、桟橋で襲ってきた仮面を被った男の事も気がかりであった。

 

(あの人たちなら、障害があってもその周りごと吹き飛ばして進んでいくんだろうけど……)

 

『士郎』

 

『何だ? シーア。 珍しいな。 もう大丈夫か?』

 

普段はシーアは力を蓄えるために眠っており、念話で話しかけてくること自体が珍しかった。

それに加えて、前回の戦いで、想像以上にシーアは消耗してしまったために、ここ数ヶ月眠ったままだった。

 

『ここは何処?』

 

『ああ、こっちに来てまだ一度も起きてなかったから知らないのか。 異世界だよ』

 

『異世界? どうして?』

 

『ああ、何の因果か、使い魔としてこっちの世界に召喚されたらしくてな、そっちに大まかな情報を送るよ』

 

そう言って、士郎はラインを通じ、今まであったことをシーアに伝える。

本来このような事は、上手く情報を伝えることが出来ず、下手をすれば魔術師がラインを通じて魔道書の情報が逆流してきて廃人になる可能性が有る危険な行いだったが、士郎とシーアは例外だった。

 

『ん〜。 分かった。 士郎、相変わらず』

 

少し、すねた口調になるシーア。

 

『何がだ?』

 

訳がわからず、首をかしげる士郎。

 

『それが……、もう良い。 何かあったら力になるから』

 

『ああ、ありがとな』

 

そう言うと、念話が切れた。

どうやら、シーアが再び眠りについたようだった。

 

「どうしたの? シロウ」

 

念話が切れるとほぼ同時に、ルイズが声をかけてきた。

 

「ああ、ルイズ。 外の景色を見てた」

 

「そう」

 

ルイズは士郎の隣の方まで来る。

そして、一緒に外の景色を見る。

そんな2人の元に、船長との話を終えたワルドがやって来た。

 

「船長の話では、ニューカッスル付近に陣を配置した王軍は、包囲されて苦戦中のようだ」

 

ルイズは、驚きの表情をする。

 

「ウェールズ皇太子は?」

 

「わからん。 生きてはいるようだが……」

 

「どうせ、港町はすべて反乱軍に押さえられているんでしょう?」

 

「そうだろね」

 

「どうやって、王党派と連絡を取ればいいのかしら?」

 

「陣中突破しかあるまいな。 スカボローからニューカッスルまでは馬で1日だ」

 

「反乱軍の間をすり抜けて?」

 

「そうだ。 それしかないだろう。 まあ、反乱軍も公然とトリスティンの貴族に手出しはできんだろう。 スキを見て、ニューカッスルの陣へと向かう。 ただ、夜の闇には気をつけないといけないがな」

 

ルイズは緊張した顔で頷いた。

 

「そういえば、ワルド。 あなたのグリフォンはどうしたの?」

 

ワルドは微笑んで、舷側から身を乗り出すと、口笛を吹く。

すると、下からグリフォンがあがってきて、甲板に着陸し、他の船員たちを驚かした。

 

 

 

暫らくすると、鐘楼の上に立った見張りの船員が、大声を上げた。

 

「アルビオンが見えたぞ!」

 

広がる雲の上に、黒々とした大陸が見えた。

浮遊大陸アルビオン。

空中を浮遊し、主に大洋の上をさまよっており、月に数度、ハルケギニアの上を通過する。

大きさはトリステインの国土ほどある。

そして、大陸の大河から溢れた水が、空に落ち込み、それが白い霧となって、大陸の下半分を包んでいる。

その為、アルビオンの事を通称『白の国』と言う。

 

「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」

 

鐘楼の上にいた、見張りの船員が大声を上げた。

士郎はその方向を向く。

士郎たちが乗る船より、一回り大きい船が確かに近づいてきた。

舷側に開いた穴からは、大砲が突き出ていて、明らかに民間船では無い。

 

「軍艦か?」

 

「いやだわ。 反乱勢……貴族派の船かしら?」

 

 

 

後甲板で、ワルドと並んで操船の指揮をしていた船長は、見張りが指を差した方角を見上げた。

黒くタールが塗られた船体は、士郎たちの乗る船にぴたりと20以上も並んだ砲門を向けている。

 

「アルビオンの貴族派か? お前たちのために荷を積んでいる船だと、教えてやれ」

 

見張りの船員は、船長の指示通りに手旗を振った。

しかし、黒い船からは何の返信もない。

副長が青ざめた顔で、船長に駆け寄る。

 

「あの船は旗を掲げておりません!」

 

「してみると、く、空賊か?」

 

船長の顔も、みるみるうちに青ざめる。

 

「間違いありません! 内乱の混乱に乗じて、活動が活発になっていると聞き及びますから……」

 

「逃げろ! 取り舵いっぱい!」

 

船長は船を空賊から遠ざけようとするが、時すでに遅く、黒船は並走を始めた。

脅しとして黒船は、士郎たちの乗り込んだ船の針路の先をめがけて、大砲を1発放った

ぼこん!

鈍い音がして、砲弾が雲の彼方に消えていく。

そして、黒船のマストに、4色の旗流信号がすらすらと上る。

 

「停船命令です、船長」

 

船長は苦渋の決断をせまられた。

この船にも大砲は装備されているが、3門ばかりの移動式の砲台だ。

片舷側で20門以上ある向こう側の船の火力からしてみれば、役に立たない飾りのようなものだろう。

助けを求めるように、隣に立つワルドを見る。

 

「魔法は、この船を浮かべるために打ち止めだよ。 あの船に従うんだな」

 

船長は肩を落とし小声で「これで破産だ」と呟き、部下に命令をする。

 

「裏帆を打て! 停船だ!」

 

 

 

ルイズは、いきなり並走してきて大砲を放った黒船と、行き足を弱めて、停船した自船の様子に怯えていた。

そして、不安そうに士郎の後ろから、黒船を見る。

 

「空賊だ! 抵抗するな!」

 

黒船から、メガホンを持った男が怒鳴ってきた。

 

「空賊ですって?」

 

ルイズが驚きの声を上げる。

黒船の舷側に、弓や長銃を構えた男たちがずらりと並び、こちらに狙いを定めてきた。

鉤のついたロープが投げられて、士郎たちの乗る船に引っかかる。

手に斧や曲刀を持った男たち数十人が、ロープを伝ってやってくる。

 

「下がってろ、ルイズ」

 

士郎はルイズを自分の後ろに隠れるようにする。

 

(この状況はきついな)

 

目の前の男たちを蹴散らすこと自体は、士郎にとって造作も無いことだが、その間、黒船から大砲を砲撃されたら足であるこの船を落とされてしまう。

目の前の空賊たちが、アルビオンの貴族派に繋がっている可能性も否定できないため、おいそれと捕まるわけにもいけないが、下手に騒ぎを起こすことも出来ない。

シーアが目覚めた今なら、空中でもルイズと2人なら逃げ出すことが不可能という訳ではないが、ワルドの存在が邪魔になる。

 

(……敵の可能性が大だからな……)

 

いきなり現れた空賊に驚いたのか、前甲板に繋いであったワルドのグリフォンが、騒ぎ出した。

その瞬間、グリフォンの頭が青白い雲で覆われた。

グリフォンは甲板に倒れて、寝息を立て始めた。

 

(アレは確か、『眠りの雲』……。 メイジもいるのか……)

 

ドスンと、音を立て、甲板に空賊たちが降り立った。

その中にひときわ派手な格好をした空賊が1人いた。

汗と油で黒く汚れて真っ黒なシャツの胸をはだけ、そこから赤銅色の日焼けした逞しい胸が覗いている。

ぼさぼさの長い黒髪は、赤い布で乱暴に纏め上げられており、無精ひげが顔中に生えている。

左目には眼帯が巻いてあった。

周囲の様子からすると、その男が頭のようだ。

 

(変装か?)

 

士郎だけが、男が変装をしていることに気がつく。

士郎は、生半可な変装では誤魔化せられない。

身近によく変装させられる人物がいたからかもしれない……。

 

「船長はどこでえ」

 

荒っぽい仕草と言葉遣いで、辺りを見回す。

 

「私だが」

 

震えながらも、精一杯の威厳を保つ努力をしながら、船長は手を上げる。

頭は大股で船長に近づき、顔をぴたぴたと抜いた曲刀で叩いた。

 

「船の名前と、積荷は?」

 

「トリステインのマリー・ガラント号。 積荷は硫黄だ」

 

空賊の間から、歓声が漏れる。

頭の男はにやっと笑うと、船長の帽子を取り上げ、自分が被った。

 

「船ごと全部買った! 料金はてめえらの命だ」

 

船長が屈辱で身を震わせる。

それから頭は、甲板に佇むルイズとワルドの存在に気がついた。

 

「おや、貴族の客まで乗せてるのか」

 

頭はルイズに近づき、顎を手で持ち上げた。

 

「こりゃあ別嬪だ。 お前、おれの船で皿洗いをやらねえか?」

 

頭の男は下卑た笑い声をあげる。

ルイズはその手をぴしゃりとはねつける。

そして、瞳に燃えるような怒りをこめて、男を睨みつける。

 

「下がりなさい! 下郎」

 

「驚いた! 下郎ときたもんだ!」

 

男は大声で笑う。

 

(ここは、こいつらに捕まった方が得策か……)

 

頭の男が変装をしているということは、空賊をするために顔を隠さなくてはいけない存在だと言うことだ。

現状で、顔を隠さなければならなく、メイジのいる組織の最有力候補は王党派だ。

苦戦を強いられていると言うならば、このような手段を取る可能性が高い。

もちろん、貴族派やそれに繋がる組織の可能性も有るが、実際に空賊が出るなどと、知れ渡ったら、これからの物資の補給が滞るため、メリットに比べてデメリットが大きい。

やはり、後のない王党派は、なりふり構わないだろうが……。

 

(他にこれといった手段も無いしな。 ココはおとなしくしておくか)

 

いざとなったら、脱出できるという自信の現れだった。

空賊の頭が、ルイズとワルドの方に指差して言った。

 

「てめえら。 こいつらも運びな。 身代金がたんまりと貰えるだろうぜ」

 

 

 

空賊に捕らえられた士郎たちは、船倉に閉じ込められた。

ルイズとワルドは杖を取り上げられ、士郎もデルフリンガーを取り上げられた。

武器の無い護衛、杖の無いメイジは、ただの人である。

もっとも、ルイズと士郎はそれぞれ違う意味で、あまり関係が無かったが……。

周りには、酒樽や火薬樽、大砲の砲丸などが雑然と置かれている。

ワルドは興味深そうに、そんな積荷を見て回っていた。

士郎とルイズは樽に腰掛けて、じっとしていた。

暫らくして、扉が開いた。

太った男が、スープの入った皿を持ってやってきた。

 

「飯だ」

 

扉の近くにいた士郎が、受け取ろうとすると、男はその皿をひょいと持ち上げた。

 

「質問に答えてからだ」

 

ルイズが立ち上がる。

 

「言ってごらんなさい」

 

「お前たち、アルビオンに何の用なんだ?」

 

「旅行よ」

 

ルイズは、腰に手を当てて、毅然とした態度で答えた。

 

「トリステイン貴族が、いまどきアルビオンに旅行? いったい、何を見物するつもりだい?」

 

「そんなこと、あなたに言う必要は無いわ」

 

「ずいぶんと強がるじゃねえか」

 

男は笑うと、皿と水の入ったコップを士郎に渡す。

士郎はそれを暫らく見て、それからルイズの元に持っていった。

 

「ほら」

 

士郎は毒などが入っていないことを確認してから、ルイズに進める。

 

「あんな連中の寄越したスープなんか飲めないわ」

 

ルイズはそっぽを向いた。

 

「ルイズ。 食べないと、いざって時に体が持たないぞ」

 

士郎の言葉に、しぶしぶといった顔でスープの皿を手に取った。

3人で1つの皿のスープを飲む。

飲み終わって暫らくすると、再びドアが開いた。

今度は痩せた男だった。

男は、じろりと3人を見回すと、楽しそうに言った。

 

「おめえらは、もしかしてアルビオンの貴族派か?」

 

ルイズたちは答えない。

 

「おいおい、だんまりじゃわからねえよ。 でも、そうだったら失礼したな。 俺たちは、貴族派の皆さんのおかげで、商売させてもらってるんだ。 王党派に味方しようとする酔狂な連中がいてな。 そいつらを捕まえる密命を帯びているのさ」

 

「じゃあ、この船はやっぱり、反乱軍の軍艦なのね?」

 

「いやいや、俺たちは雇われているわけじゃねえ。 あくまで対等な関係で協力し合っているのさ。 まあ、おめえらには関係ねえことだがな。 で、どうなんだ? 貴族派なのか? そうだったら、きちんと港まで送ってやるよ」

 

(やっぱり……。 十中八九こいつら王党派だな)

 

本当に王党派を捕まえるなどと言う密命を帯びているのなら、ワザワザそれを教える必要は無い。

そんな事を教えれば、王党派だと名乗るものなどほぼ皆無だろう。

 

(でもまあ、ルイズの性格を考えると、こんなことを言われたら)

 

「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか。 バカ言っちゃいけないわ。 わたしは王党派の使いよ。 まだ、あんたたちが勝ったわけじゃないんだから、アルビオンは王国だし、正統なる政府は、アルビオンの王室ね。 わたしはトリステインを代表してそこに向かう貴族なのだから、つまりは大使ね。 だから、大使としての扱いをあんたたちに要求するわ」

 

(やっぱり、こうなるか……)

 

予想通りの展開に、士郎が溜息をつく。

それをルイズは見て呆れられたと勘違いをした。

 

「な、なによ! シロウ、文句でもあるの!」

 

「いいや、ルイズらしいと思ってさ」

 

そんな様子を見て、男は笑う。

 

「正直なのは、確かに美徳だが、お前たち、ただじゃ済まないぞ」

 

「あんたたちに嘘をついて頭を下げるぐらいなら、死んだほうがマシよ」

 

ルイズは男に面と向かって言いきった。

 

「頭に報告してくる。 その間によく考えるんだな」

 

男はそう言って、去っていく。

 

「は〜、相変わらずの後先考えないなルイズ」

 

「なによ、もう済んだことでしょ。 こうなったら後には引けないし、最後の最後まで諦めないわ」

 

ただ真っ直ぐ前を見つめるルイズ。

 

「いや、それでこそルイズだ」

 

暫らくして、先ほどの男がやってきた。

 

「頭がお呼びだ」

 

 

 

狭い通路を通り、細い階段を上り、3人が連れて行かれた先は、立派な部屋だった。

どうやらここが、この空賊船の船長室のようだ。

扉を開けると、目の前に豪華なディナーテーブルがあり、その上座に頭と呼ばれた男が腰掛けていた。

男は大きな水晶のついた杖をいじっている。

周りには、ガラの悪そうな男たちがニヤニヤと笑って、入ってきた3人を見ている。

3人を連れてきた男が、後ろからルイズをつついた。

 

「おい、お前たち、頭の前だ。 挨拶をしろ」

 

しかし、ルイズは頭を睨むだけだった。

 

「気の強い女は好きだぜ。 子供でもな。 さてと、名乗りな」

 

「大使としての扱いを要求するわ」

 

ルイズは頭の言葉を無視する。

 

「そうじゃなかったら、一言だってあんたたちになんか口をきくもんですか」

 

頭もルイズの言葉を無視して言った。

 

「王党派と言ったな?」

 

「ええ、言ったわ」

 

「なにしに行くんだ? あいつらは、明日にでも消えちまうよ」

 

「あんたたちに言うことじゃないわ」

 

「貴族派につく気はないかね? あいつらは、メイジを欲しがっている。 たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」

 

「死んでもイヤよ」

 

ルイズの体が微かに震えていることに、士郎は気がつく。

 

(まったく)

 

内心、苦笑する士郎。

自分の大事なものの為に、決して後を引かないルイズ。

士郎にはその気持ちが、何処と無く分かる。

 

(俺も、似たようなものだからな)

 

「もう一度言う。 貴族派につく気はないかね?」

 

ルイズは頭を睨みつけ、腕を腰に当てて、胸を張った。

そして、口を開こうとしたとき、それより早く士郎が喋った。

 

「つく気はない!」

 

頭はじろりと士郎を睨みつける。

鋭い眼光は、人を睨む事を慣れているようだった。

 

「貴様は何だ?」

 

「使い魔ですよ。 皇太子殿」

 

「「「!」」」

 

士郎の一言により、場が固まる

 

(これで、決定だな。 カマをかけたが引っかかってくれたな)

 

士郎自身、目の前の人物が皇太子である確率は高いだろうとは思っていたが、当たっていたことに安堵を覚える。

 

「クッハッハッハ!」

 

頭は大声で笑うと、黒髪のカツラを取り、眼帯を外し、付け髭を外す。

すると、凛々しい金髪の若者が現れた。

 

「その通りだよ、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

 

「え? え? どういう事?」

 

いきなりの展開でついていけないルイズ。

ワルドは興味深そうにウェールズを見る。

 

「やっぱり気がついていなかったんだな、ルイズ」

 

「だからなにがよ! 説明しなさい!」

 

顔を真っ赤にして怒鳴るルイズ。

ウェールズも士郎に喋りかけてくる。

 

「ふむ、使い魔君。 君がいつから私たちの事に気がついていたのか、興味があるのだが、よければ教えてくれないかね?」

 

「いいですよ。 まあ、怪しいと思ったのは、最初に乗り込んできたときに見たときですよ。 俺、多少の変装は見破れますからね、変装しなければならないメイジ。 そこが、この船が王党派の船だと思った最初の理由ですね。 捕まってからは、他の人間を観察して見て、殆どの人は歩幅が一定で歩いていた。 これは訓練された兵の動きですよ。 それに王党派を捕まえるなんて密命を帯びている事を普通は喋りませんよ。 それに、そんな杖を普段持っているのは王族ぐらいか、それに近い権力者ですよ」

 

最後にウェールズの持っている杖を指差す。

 

「これはこれは、とんだ失敗だったな」

 

頭を抱えて笑う、ウェールズ。

 

「まあ、敵の補給路を断つためと、自分たちの補給のため、それに反乱軍の目を誤魔化すために空賊を装っていたんでしょうけど」

 

「うむ、その通りだ。 君は戦を知っている、君のような使い魔ならぜひ欲しいね。 それはそうと、先ほどは失礼した、君たちが王党派だと中々信じられなくてね。 まさか、外国に我々の味方の貴族がいるなどとは、夢にも思わなくてね。 君たちを試すような真似をして済まない。 して、大使殿。 御用の向きをうかがおうか」

 

ぽかんと口を開いたままのルイズに変わり、ワルドが前に出る。

 

「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」

 

ワルドは優雅に頭を下げる。

 

「ふむ、姫殿下とな? 君は?」

 

「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵。 そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔の青年にございます。 殿下」

 

「なるほど! して、その密書とやらは?」

 

ルイズが慌てて、胸ポケットからアンリエッタの手紙を取り出した。

恭しくウェールズに近づいたが、途中で立ち止まる。

それから、ちょっと躊躇うように、口を開いた。

 

「あ、あの……」

 

「なんだね?」

 

「その、失礼ですが、ほんとに皇太子さま?」

 

ウェールズは笑った。

 

「まあ、さっきまでの顔を見れば、無理も無い。 僕はウェールズだよ。 正真正銘の皇太子さ。 何なら証拠をお見せしよう」

 

ウェールズは、ルイズの指に光る水のルビーに、自分の薬指に光る指輪を近づける。

すると、2つの宝石は、共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。

 

「この指輪は、アルビオン王家に伝わる、風のルビーだ。 君が嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた、水のルビーだね?」

 

ルイズは頷く。

 

「水と風は虹を作る。 王家の間にかかる虹さ」

 

「大変失礼しました」

 

ルイズは一礼して、手紙をウェールズに渡した。

ウェールズは愛おしそうにその手紙を見つめると、花押に接吻した。

それから慎重に封を開き、中の便箋を取り出し、読み始めた。

真剣な顔で、手紙を読んでいたが、そのうちに顔を上げた。

 

「姫は結婚するのか? あの、愛らしいアンリエッタが。 私の可愛い……、従妹は」

 

ワルドは無言で頭を下げ、肯定の意を表す。

ウェールズは再び手紙を読み始めて、最後の1行まで読むと、微笑んだ。

 

「了解した。 姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。 何より大切な、姫から貰った手紙だが、姫の望みは私の望みだ。 そのようにしよう」

 

ルイズの顔が喜びで溢れる。

 

「しかしながら、今、手元には無い。 ニューカッスルの城にあるんだ。 姫の手紙を、空賊船に連れて行くわけにはいかぬのでね」

 

ウェールズは笑いながら言う。

 

「多少、面倒だが、ニューカッスルまでご足労願いたい」

 

その時、慌てて1人の男が部屋に飛び込んできた。

 

「頭! 大変です! 風竜が1匹この船に向かって来ます」

 

「なに?」

 

ウェールズは急いで甲板に向かう。

それを士郎とルイズは追いかける。

 

甲板に出ると、士郎たちが見慣れた風竜と人物を目にする。

 

「シルフィード!」

 

ルイズの声に、ウェールズは反応する。

 

「知っているのかね?」

 

「ええ、任務を手伝ってくれている、知り合いです」

 

「そうか」

 

そう聞いた、ウェールズは船員たちに大声を張り上げる。

 

「アレは反乱軍ではない! 客人だ!」

 

その声により、戦闘態勢を解く船員たち。

そうする間に、シルフィードは船の甲板に降り立った。

 

「ダーリン! 会いたかった!」

 

いきなり、士郎に飛び掛るキュルケ。

それをルイズは食い止める。

 

「何してんのよ! キュルケ」

 

「あら、いたの? ルイズ」

 

ルイズの怒りの視線に、挑発の視線を返すキュルケ。

 

「どうでもいいけど、よくこの船にいるってわかったな?」

 

士郎の言葉に、1人の男が反応する。

 

「それは僕の可愛いヴェルダンデのおかげさ! ヴェルダンデは宝石が大好きだからね、ルイズの水のルビーを追いかけてきたのさ!」

 

(ひ、非常識な。 かなり距離が離れてても判るのかよ!)

 

「ところでタバサ、フーケはどうしたんだ?」

 

いつの間にか隣に来て本を読んでいるタバサに聞く。

 

「あっち」

 

タバサは杖でシルフィードの背中を指す。

そこには、縄で縛られた人影が見える。

 

「ギーシュはまったく役に立たなかったけど、ダーリンの秘薬のおかげで、わりと早く決着がついてね。 いそいで追いかけたいから、そのままつれてきたの。 杖は取り上げているから安全よ」

 

キュルケが笑顔で言ってくる。

ギーシュは、隅でいじけていた。

 

「ふん、だったらこの縄ぐらい、解いて貰いたいね」

 

フーケの声にウェールズが反応した。

 

「まさか!」

 

「はん! 久しぶりね、ウェールズ」

 

「マチルダ……」

 

ウェールズの表情が驚愕に染まる。

 

 

 

 

 

【次回、原作では会うことの無かった2人の出会いが物語をどのようにするのか……、フーケの行く末は! 任務の行く末は! 乞うご期待】

 


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