Fate and Zero

 

第21話 「不意打ち…」

 

 

 

「ん……、ん……」

 

士郎との決闘で気絶していたワルドが目を覚ました。

 

「大丈夫ですか」

 

「ああ」

 

少し頭を振りながら答えるワルド。

 

「どうやら、僕は負けたみたいだね」

 

「ええ、俺の勝ちです」

 

「ふ〜、強いなやっぱり」

 

「でも、本気じゃなかったでしょう」

 

ワルドの表情が一瞬固まる。

 

「まあね、それは君も同じだろう」

 

「そうですね。 さすがに大怪我をさせるようなことは出来ないですしね」

 

「違いない」

 

そう言うと、2人は苦笑を浮かべる。

 

「ところで、ルイズは?」

 

「部屋に戻るって言ってました」

 

「そうかい……」

 

「それじゃあ、俺も失礼します」

 

そう言いながら士郎は中庭から去っていく。

 

 

 

ワルドとの決闘が終わり、士郎は一息ついていた。

 

「ふ〜、うまくいったな」

 

士郎からすれば、こちらの手の内をばらさずに勝てたので、安心していた。

その時、士郎の部屋がノックされた。

 

「シロウ、入るわよ」

 

ルイズが入室を求めてきた。

 

「ああ、いいよ」

 

ドアが開き、ルイズが部屋の中に入ってくる。

 

「どうしたんだ、ルイズ?」

 

「なんで、決闘なんてしたの?」

 

ルイズは、士郎に問いかける。

 

(まいったな……)

 

士郎は、ルイズにその事を説明しようかどうか、迷ってしまう。

その事を説明すると、どうしてもワルドを疑っていることを説明しなければならないからだ。

ルイズはワルドの事を尊敬している節があるため、不確かなことは言えなかった。

 

「……まあ、特に理由は無いさ」

 

士郎はあいまいに誤魔化すことにした。

 

「……そう。 じゃあね」

 

そう言うと、ルイズはどこか不機嫌そうにすぐに部屋を出て行った。

 

「……なんだったんだ?」

 

わけが分からなくなる士郎。

 

 

 

そして、その夜。

ギーシュたちが1階の酒場で酒を飲みながら騒いでいた。

明日、アルビオンに渡る日だという事で、盛り上げるためらしい。

士郎も、キュルケに誘われ、酒場に来ていた。

 

「ダーリン、飲んでる?」

 

キュルケがグラスを手に士郎に話しかける。

 

「ああ」

 

そういいながらも、士郎は殆ど酒を飲んでいなかった。

 

(何かあるなら今夜だな)

 

士郎は敵がこの浮かれている状況を見過ごす筈は無いと思っていた。

もっとも、浮かれて酒をドンドン飲んでいるのは、ギーシュとキュルケのみだったが。

タバサは来たときと同じでパジャマのままで本を読みふけっていた。

 

「何の本を読んでいるんだ?」

 

士郎が問いかけると、タバサは黙って本とタイトルを見せる。

『古代の幻獣たち〜竜の章』そう書かれていた。

 

「ふん〜、シルフィードの事が載っているのか?」

 

士郎の言葉に、常人には読み取れないほど、ほんの少し表情が変化するタバサ。

 

「……載ってない」

 

「そうか、……邪魔して悪かったな」

 

士郎がそう言うと、タバサは再び本を読むのを再開する。

そして、再び席に着こうとしたとき、轟音が鳴り響く。

 

「な、なんだ!」

 

ギーシュが慌てたように辺りを見渡す。

すると、宿の入り口からかなりの数の武装した傭兵が入ってきた。

 

「敵か!」

 

「そうよ」

 

身に覚えの有る声が返ってきた。

 

「フーケ!」

 

ルイズが叫ぶ。

 

「感激だわ。 覚えていてくれたのね」

 

「今は牢屋にいるんじゃなかったのか?」

 

士郎は背中にしょったデルフリンガーを握り締めながら言った。

 

「親切な人がいてね。 私みたいな美人はもっと世の中のために役に立たなくてはいけないと言って、出してくれたのよ」

 

暗くてすぐには確認できなかったが、フーケの後ろの方に黒いマントと白い仮面を着けた貴族らしい人物がいた。

仮面の所為ではっきりとは確認できないが男のようだった。

 

「で、何しに来たのよ、アンタ」

 

ルイズが挑発的に言う。

 

「素敵なバカンスをありがとうって、お礼を言いにきたんじゃないの!」

 

フーケが腕を振り下ろすと、傭兵たちが一斉に弓矢を放つ。

 

「ちっ」

 

士郎は舌打ちしながらも、素早くデルフリンガーを抜き放って、床と一体化している岩のテーブルの足を切り、それを立てて盾にして矢を防ぐ。

ギーシュ、キュルケ、タバサにワルドが呪文を唱え応戦しようとテーブルから顔を出そうとすると、すぐに矢が飛んできた。

傭兵たちはメイジとの戦闘がなれているらしく、大まかな魔法の射程を見極めており、キュルケたちが魔法で応戦するたびに、その見極めを正確にして、射程外からの攻撃を仕掛けてくる。

 

「やっかいね」

 

傭兵たちは暗闇を背にしているため、どうしても距離の目測がキュルケたちは甘くなってしまう。

かと言って、大量の弓矢の所為で、大きな魔法を使う事ができず、チマチマとした小技が中心となっていた。

 

他にいた貴族の客は、カウンターの後ろで震えていて、戦力になりそうもなく、太った店の店主は壊れていく店を見ながら、自分も壊れた笑いをしていた。

 

「参ったね」

 

ワルドの言葉に、キュルケが頷く。

 

「やっぱり、この前の連中は、唯の物盗りじゃなかったわね」

 

「フーケがいるってことは、アルビオンの貴族が後ろにいると思っていいな」

 

キュルケが、杖をいじくりながら呟く。

 

「……やつらはちびちびとこっちに魔法を使わせて、精神力が切れたところを見計らって、一斉に突撃してくるわよ。 そしたらどうすんの?」

 

「ぼくの『ワルキューレ』でふせいでやる」

 

青ざめた顔でギーシュが言った。

 

「やめとけ、戦ったから分かるが『ワルキューレ』だと1個小隊の足止めがせいぜいだろう。 あっという間に押し切られるぞ」

 

士郎はすぐにギーシュの案を却下するが、ギーシュはそれを聞き入れない。

 

「やってみなくちゃわからない」

 

「あのね、ギーシュ。 ダーリンの言う通りよ。 あたしは戦については、あなたよりちょっとばかし専門家なの、そのぐらいすぐに見当がつくわ」

 

「ぼくはグラモン元帥の息子だぞ。 卑しき傭兵ごときに後れをとってなるものか」

 

「ったく、トリステインの貴族は口だけは勇ましいんだから。 だから戦に弱いのよ」

 

ギーシュが立ち上がり、呪文を唱えようとしたが、ワルドがシャツの袖を引っ張って、それを制した。

 

「いいか諸君。 このような任務は、半数が目的地に着けば、成功とされる」

 

こんなときでも本を広げていたタバサが本を閉じて、ワルドの方を向いた。

そして、自分とキュルケ、ギーシュを杖で指し「囮」と呟く。

それから、ワルドと士郎、ルイズを指して「桟橋へ」と呟いた。

 

「聞いての通りだ。 裏口に回るぞ」

 

「え? え? ええ!」

 

ルイズが驚きの声を上げる。

 

「今からここで彼女たちが敵をひきつける。 せいぜい派手に暴れて、目立ってもらう。 その隙に、僕らは裏口から出て桟橋に向かう。 以上だ」

 

キュルケは自慢の赤髪をかきあげながら、つまらなそうに、唇を尖らせながら言う。

 

「まあ、しかたがないわね。 あたしたち、あなたたちが何をしにアルビオンに行くのかすら知らないもんね」

 

「うむむ、ここで死ぬのかな。 どうなのかな。 死んだら、姫殿下とモンモランシーには会えなくなってしまうな……」

 

タバサは士郎に向かって頷いた。

 

「行って」

 

「分かった」

 

キュルケはルイズの方を向き話しかける。

 

「ねえ、ヴェリエール。 勘違いしないでね? あんたのために囮になるんじゃないんだからね」

 

「わ、わかってるわよ」

 

ルイズはそれでも、キュルケたちにぺこりと頭を下げた。

 

「ねえ、ダーリン。 帰ったら美味しい料理作ってちょうだいね」

 

「期待」

 

キュルケとタバサのお願いを、士郎は聞き入れる。

 

「ああ、とびっきりの料理を作ってやるよ」

 

士郎たちは、低い姿勢でテーブルの影から走り出す。

途中、矢が飛んできたが、タバサが風の障壁を張ってそれを防いだ。

 

士郎たちが裏口の方に向かったのを確かめると、キュルケは手鏡をもって、突然化粧を直し始めた。

 

「こんな時に君は化粧をするのか?」

 

呆れたようにギーシュは言う。

 

「だって歌劇の始まりよ? 主演女優がすっぴんじゃ……」

 

立ち上がりキュルケは左手に持っていたビンを傭兵たちの真上に投げつけて、それを目掛けて火球を放つ。

 

「しまらないじゃないの!」

 

ビンに入っていた度数の高い酒に火が引火して、突撃をしようとしていた傭兵たちが当然現れた燃え上がる炎にたじろいだ。

その隙をキュルケが見逃す筈も無く、色気たっぷりの仕草で呪文を詠唱し、再び杖を振るう。

すると、炎はますます燃え上がり、傭兵たちにも燃え移る。

炎に巻かれて、傭兵たちは床でのた打ち回る。

 

立ち上がったキュルケは、優雅に髪をかきあげて、杖を掲げた。

そんなキュルケに数本の矢が飛んできたが、タバサの風の魔法がそれを防いだ。

 

「名もなき傭兵の皆様方。 あなたがたがどうして、あたしたちを襲うのか、まったくこちとら存じませんけども」

 

降りしきる矢の嵐の中、キュルケは微笑を浮かべて一礼した。

 

「この『微熱』のキュルケ、謹んでお相手つかまつりますわ」

 

 

 

 

 

【さて、2手に分かれた士郎たち、次回は桟橋の話とフーケとの戦いを中心にお送りします】

 


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