Fate and Zero

 

第16話 「再会…」

 

 

 

夜が更けて、もう就寝の時間になるというところだった。

ふと、ルイズを見ると、急に立ち上がったり、立ち上がったと思ったらすぐにベットに腰をかけて、枕を抱いてぼんやりとしていた。

 

何故か今日の昼から、ルイズは落ち着きがなかった。

正確にいうと、式典の途中からだ。

それから、ルイズは何も喋らずに、部屋にこもり、先ほどのような態度だった。

 

「ルイズ、どうかしたのか?」

 

声をかけてみるが、ルイズはやはり反応しない。

立ち上がり、ルイズの目の前で手を振ってみたが、やはり反応がない。

 

「おーい、聞こえているか?」

 

頬を軽く叩いてみるが、これもまた反応がない。

 

(本当に、いったい如何したんだ?)

 

そんな事を考えていると、ドアがノックされた。

 

「こんな時間にいったい誰だ?」

 

ノックは規則正しく叩かれる。

初めに長く二回、それから短く三回……。

 

そのノックの仕方にルイズが反応した。

急いで立ち上がると、ドアを開いた。

そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をかぶった、少女だった。

 

少女は辺りを窺うように首を回し、そそくさと部屋に入ってきて、後ろ手に扉を閉めた。

 

「……あなたは?」

 

ルイズが驚いたような声を上げたが、頭巾をかぶった少女は、口元に指を立てた。

それから、頭巾と同じ黒のマントの隙間から、杖を取り出すと同時に、短い呪文を唱えながらそれを軽く振るった。

それと同時に、光の粉が部屋を舞う。

 

「……ディティクトマジック(探知)?」

 

ルイズが尋ねると、少女は頷いた。

 

「どこに耳や目がひかっているか、分かりませんからね」

 

部屋の中を舞う、光の粉が無くなると、少女は頭巾を取った。

そこに現れたのは、アンリエッタ王女だった。

 

「姫殿下!」

 

ルイズは慌てて膝をつく。

アンリエッタ王女は涼しげな、心地よい声で言った。

 

「お久しぶりね。 ルイズ・フランソワーズ」

 

ルイズの部屋に現れたアンリエッタ王女は、感極まった表情を浮かべて、膝をついたルイズを抱きしめた。

 

「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」

 

「姫殿下、いけません。 こんな下賎な場所へ、お越しになるなんて……」

 

ルイズはかしこまった声で言うが、アンリエッタ王女はそれに反論する。

 

「ああ! ルイズ! ルイズ・フランソワーズ! そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい! あなたとわたくしはおともだち! おともだちじゃない!」

 

「もったいないお言葉でございます。 姫殿下」

 

それでもルイズは緊張した声で言った。

 

「やめて! ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をしたよってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ! ああ、もう、わたくしには心を許せるおともだちはいないのかしら。 昔なじみの懐かしいルイズ・フランソワーズ、あなたにまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」

 

芝居がかった言い方だったが、ルイズはかなり堪えた様子だった。

 

「姫殿下……」

 

「幼い頃、いっしょになって宮廷の中庭で蝶を追いかけたじゃないの! 泥だらけになって!」

 

はにかんだ顔で、ルイズは応えた。

 

「……ええ、お召し物を汚してしまって、侍従のラ・ポルトさまに叱られました」

 

「そうよ! そうよルイズ! ふわふわのクリーム菓子を取り合って、つかみあいになったこともあるわ! ああ、ケンカになると、いつもわたくしが負かされたわね。 あなたに髪の毛をつかまれて、よく泣いたものよ」

 

「いえ、姫様が勝利を収めになったことも、一度ならずありました」

 

「思い出したわ! わたくしたちがほら、アミアンの包囲戦と呼んでいるあの一戦よ!」

 

「姫様の寝室で、ドレスを奪い合ったことですね」

 

「そうよ、『宮廷ごっこ』の最中、どっちがお姫様の役をやるかで揉めて取っ組み合いになったわね! わたくしの一発がうまい具合にルイズ・フランソワーズ、あなたのお腹に決まって」

 

「姫様の御前でわたし、気絶いたしました」

 

それから2人は顔を見せ合いながらあははは、と笑った。

一見おしとやかそうだが、中々おてんばな王女様だ。

 

「その調子よ。 ルイズ。 ああいやだ、懐かしくて、わたくし、涙が出てしまうわ」

 

「ルイズ。 どんな知り合いなんだ?」

 

尋ねると、ルイズは懐かしそうに言った。

 

「姫さまがご幼少のみぎり、恐れ多くもお遊び相手を勤めさせていただいていたのよ」

 

それからルイズはアンリエッタ王女に向き直った。

 

「でも感激です。 姫さまが、そんな昔のことを覚えていてくださっていたなんて……。 わたしのことなど、とっくにお忘れになったかと思いました」

 

王女は深いため息をついて、ベットに腰をかけた。

 

「忘れるわけないじゃない。 あの頃は、毎日が楽しかったわ。 なんにも悩みなんかなくって」

 

王女の口から出されたのは、深い憂いのある声だった。

 

「姫さま?」

 

ルイズが心配そうに、アンリエッタ王女の顔を覗き込む。

 

「あなたが羨ましいわ。 自由って素敵ね。 ルイズ・フランソワーズ」

 

「なにをおしゃいます。 あなたはお姫様じゃない」

 

「王国に生まれた姫なんて、籠に買われた鳥も同然。 飼い主の機嫌一つで、あっちに行ったり、こっちに行ったり……」

 

アンリエッタ王女は、窓の外に浮かぶ月を眺めて、寂しそうに言った。

それからルイズの手を取って、にっこりと笑う。

 

「結婚するのよ。 わたくし」

 

「……おめでとうございます」

 

アンリエッタ王女の声に、悲しいものをルイズも感じたのか、沈んだ声だった。

そこで初めて俺と、アンリエッタ王女の目が合った。

 

「あら、ごめんなさい。 もしかして、お邪魔だったかしら」

 

「お邪魔? どうしてですか?」

 

「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう? いやだわ。 わたくしったら、つい懐かしさにかまけて、とんだ粗相をいたしてしまったみたいね」

 

「はい? こ、恋人! ち、違います姫さま! シロウは使い魔です! こ、恋人なんかじゃありません!」

 

ルイズは顔を真っ赤にしながら首をぶんぶんと横に振って、アンリエッタ王女の言葉を否定した。

 

「使い魔?」

 

アンリエッタ王女はきょとんとした表情でこちらを見てきた。

 

「人にしか見えませんが……」

 

「人です。 姫さま」

 

「衛宮 士郎と言います」

 

そういいながら、アンリエッタ王女に一礼をした。

 

「ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」

 

「好きで使い魔にしたわけじゃありません」

 

すると、アンリエッタ王女はため息をついた。

 

「姫さま、どうかなさったんですか?」

 

「いえ、なんでもないわ。 ごめんなさいね……、いやだわ、自分が恥ずかしいわ。 あなたに話せるようなことじゃないのに……、わたくしってば……」

 

「おっしゃってください。 あんなに明るかった姫様が、そんな風にため息をつくってことは、何かとんでもないお悩みがあるのでしょう?」

 

「……いえ、話せません。 悩みがあると言ったことは忘れてちょうだい。 ルイズ」

 

(……この人、絶対に何か厄介ごとを持ちかけに来たな)

 

今までの経験から言って、自分も何か厄介ごとに巻き込まれるとわかってしまう。

 

(それにしても、中々したたかな王女様だ)

 

当然と言うか、ルイズは言う。

 

「いけません! 昔は何でも話し合ったじゃございませんか! わたしをおともだちと呼んでくださったのは姫さまです。 そのおともだちに、悩みを話せないのですか?」

 

ルイズがそう言うと、アンリエッタは嬉しそうに微笑んだ。

 

(やっぱりな)

 

[士郎にスキル直感(偽)が追加されました]

 

(なんだ? 今の幻聴?)

 

「わたくしをおともだちと呼んでくれるのね、ルイズ・フランソワーズ。 とても嬉しいわ。 ……今から話すことは、誰にも話してはいけません」

 

王女は、こちらの方をちらりと見た。

 

「席を外しましょうか?」

 

アンリエッタ王女は首を振った。

 

「いえ、メイジにとって使い魔は一心同体。 席を外す理由がありません」

 

そして、物悲しい様子で、アンリエッタ王女は語りだした。

 

 

 

 

 

【次回、アンリエッタ王女から語られる内容とはいったい! そして、我らが主人公に更なる災難が降りかかるのか?】

 

『直感(偽)』 ランクB+

士郎が今まであった幾多の経験から導きだされる予測、特に女性から被害を受けるであろうと言う事を予測することに賭けてはかなりの的中率を誇る。

しかし、それらに関しては、予測はできても回避はできない。

 


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