Fate and Zero

 

第14話 「1日…」

 

 

 

朝日が、上る時間。

 

「マルトーさん、こっちの下ごしらえ終わりました」

 

「そうか、毎朝ありがとよ」

 

コック長のマルトーさんが、そう返事をする。

 

「いえ、俺も毎朝使わせてもらっていますし、お互い様です」

 

「そうか、さすが『我らの剣』」

 

そう言いながら、俺の背中をバンバンと叩いてくる。

 

「それじゃあ、俺はこの辺で抜けますよ」

 

「おう、これだけしてくれたら、十分だ」

 

俺は、エプロンを取り、厨房を後にした。

 

 

 

「さてと、ルイズを起こすか」

 

目の前にすやすやと寝ている、ルイズ。

 

「ルイズ、起きろ。 朝だぞ」

 

俺の声に反応して、目をこすりながら、ルイズは上半身を起こす。

 

「わかった」

 

「ほら、顔を洗うぞ」

 

洗面器に入っている水を使ってルイズの顔を洗う。

そして、タオルでルイズの顔を拭く。

 

「目は覚めたか?」

 

「ええ」

 

こちらをはっきりとした目で、見るルイズ。

きちんと目が覚めたようだった。

 

「おはよう、ルイズ」

 

「ええ、おはよう。 シロウ」

 

「ルイズ、着替えはテーブルの上に置いてあるから、自分で着てくれ。 俺は、朝食を取ってくる」

 

「わかったわ、シロウ」

 

そう言うと、俺は再び、厨房に向かう。

 

 

 

厨房に行く途中で、ばったりとシエスタにあった。

 

「あ! おはようございます。 シロウさん」

 

「ああ、おはようシエスタ」

 

「すいません、ちょっと今朝は忙しいのでこれで失礼します。 また後でお料理とか教えてくださいね」

 

「ああ、分かった」

 

言い終わると同時に、忙しそうに走っていくシエスタ。

 

(まったく、律儀な子だよな)

 

「さて、とっと料理を持っていくか」

 

 

 

厨房から、料理をもってルイズの部屋の前まで来た。

ノックをして部屋にいる、ルイズに呼びかける。

 

「入るぞ、ルイズ」

 

「ええ、いいわ」

 

部屋の入ると、朝食をテーブルの上に置き、紅茶を入れる。

 

「今日のも、おいしそうね」

 

「おりがとう、ルイズ。 さあ、冷めないうちに、どうぞ」

 

「ええ、いただくわ」

 

 

 

ルイズは、朝食を食べ終わると、俺に質問をしてきた。

 

「シロウは、今日どうするの?」

 

「ああ、図書館で調べ物をするのは午前中だけ予定だから、午後にはルイズのところに行くよ」

 

「そう……、私はもう授業に行くから、部屋の片づけをお願いね」

 

「ああ、わかった。 ルイズ、気をつけろよ」

 

「当たり前よ!」

 

胸を張って言うルイズ。

 

「じゃあね」

 

「ああ」

 

そういって、ルイズは部屋を後にした。

 

 

 

俺は今、図書館の一区画の『フェニアのライブラリー』にいる。

本来ここは、教師のみしか閲覧できないらしいが、特例として、オスマンから許可を得ていた。

 

「ふ〜、やっぱり疲れるな」

 

俺は、本来違う世界である、この世界の言葉を最初から理解できていた。

おそらく、召喚されたときの、作用だろう。

 

しかし、それは文字までには作用していなかった。

だから、本を読むときに困ってしまった。

 

解決策として、俺は【解析】を使うことにした。

元々、この世界の言葉という、基礎の知識があるため、それを基準に文字の配列を【解析】していった。

 

最初の方は、一ページ読むのに1時間ほどかかっていたが、今は、普通に読むのと殆ど差がない位までになった。

そのおかげで、この世界についての知識は大体は身につけた。

 

「もう、昼時か。 さてと、今日はこの位にするか」

 

本を閉じ、ルイズが待っている、食堂に足を運ぶ。

 

 

 

それから、何事もなくルイズの午後の授業も終わり、夕食時になった。

 

「で、キュルケ。 毎度、毎度、何でアンタ達がここにいるのよ!」

 

ルイズの視線は、椅子に座っている、キュルケとタバサに向けられていた。

 

「いいじゃない。 あたしもダーリンの手料理が食べたいし」

 

「何がダーリンよ! シロウは私の使い魔よ!」

 

「ケチケチしなくてもいいでしょう」

 

「なんですって!」

 

いつもの事ながらこれ以上ほっておくと、大喧嘩になる。

 

「ハイそこまで、食事時ぐらいは静かにな」

 

そういって、俺は3人の前に、食事を並べる。

 

「わかったわ」

「そうね」

 

食事が進み、ルイズとキュルケの雰囲気もだいぶん落ち着いてきた。

 

「ほんとうに、シロウの料理は美味しいわね」

 

「それには、あたしも賛成だわ」

 

「美味」

 

3人とも、俺の料理を褒めてくれる。

 

「そうか、ありがとうな」

 

やはり、他人から料理を褒められるのは、嬉しい。

だから、笑顔で返答した。

 

「う! 本当の事よ」

 

「そ、そうね」

 

「本当」

 

3人が顔を赤くして目を逸らす。

 

(ん? 俺、何かしたか?)

 

こうして、夕食も終わり、しばらく雑談した後に、2人とも自分の部屋に戻っていった。

 

ルイズは、明日の授業の準備をおえると、ねる準備をする。

 

「それじゃあ、お休み。 シロウ」

 

ベットから、ルイズの言葉がきた。

 

「ああ、お休み。 ルイズ」

 

俺は、それに返事をして、自分も眠る。

 

 

 

 

 

「まったく、かよわい女1人閉じ込めるのにこの物々しさはどうなのかしらね?」

 

トリステインの城下町の一角にあるチェルノボーグの監獄に私は閉じ込められていた。

先日『破壊の杖』の一件で、捕まってしまい、今まで散々貴族達のお宝を荒らしまくった怪盗だったので、魔法衛士隊に引き渡されるなり、すぐに城下で一番監視と防備が備わった、チェルノボーグの監獄にぶち込まれた。

 

裁判は来週中にも行われるらしいが、あれだけ国中の貴族達のプライドを傷つけまくったのだ、軽い刑で終わるはずがない。

おそらく、縛り首。 よくって島流しだろう。

どっちにしろこのハルケギニアの大地に二度と立つはずがない。

 

脱獄も考えたが、すぐに諦めた。

監獄の中には粗末なベットと、木の机以外に目立つものはない。

ご丁寧に、食器まで木製だ。

しかも、杖を取り上げられているので、得意の【錬金】も使えない。

まったく、杖を持たないメイジは無力だ。

おまけにここの壁や鉄格子には魔法の障壁が張り巡らされていて、たとえ【錬金】が使えたとしても、ここから脱獄するのは不可能だろう。

 

わたしは、自分を捕まえたあの奇妙な使い魔について考えてみた。

 

「たいしたものね」

 

唯の人間とは思えない身体能力、常に先を読む頭、それに自分のゴーレムをあっさりと倒した武器。

いったい、何者なのだろう?

しかし、今となってはもう関係のないことだ。

 

とりあえず寝ようと思い、横になって目をつむったが、階段から誰かが降りてくる音が聞こえたので、すぐに開いた。

足音の中に、ガシャガシャと拍車の音が混じっている。

牢番なら、足音に拍車の音が混じるわけがない。

 

しばらくして、鉄格子の向こうに、長身の黒マントをまとった人物が現れた。

白い仮面に覆われて顔が見えないが、マントの中から長い魔法の杖が突き出ているところを見ると、どうやらメイジのようだ。

 

「こんな夜更けにお客さんなんて、珍しいわね」

 

マントの人物は、こちらを観察するようにじっと見つめている。

 

(貴族達の刺客かね?)

 

盗んだ貴族の宝の中には、王室に無許可で手に入れた禁断の品や、他人に知られたらまずいものが混じっている。

裁判なんかで、それが明るみに出たらまずい貴族の手のものかもしれない。

ようするに、口封じというわけだ。

 

「『土くれ』だな?」

 

マントの人物が口を開いた。

年若く、力強い男の声だった。

 

「誰がつけたかは知らないけれど、確かにそう呼ばれているわ」

 

男は両手を広げて、敵意のないことを示してきた。

 

「話をしにきた」

 

「話? 弁護でもしてくれるっていうの? 物好きね」

 

「何なら弁護をしてもかまわんが。 マチルダ・オブ・サウスゴータ」

 

男からかつて捨てた、いや、捨てることを強いられた貴族の名前を告げられた。

その名を知るものは、もうこの世にはいないはずであった。

 

「あんた、何者?」

 

平静を装ったが、無理だった。

男はその問いに答えず、笑って質問をしてきた。

 

「再びアルビオンに仕える気はないかね? マチルダ」

 

「まさか! 父を殺し、家名を奪った王家に仕える気なんかさらさらないわ!」

 

わたしは怒鳴り声で返事をした。

 

「勘違いをするな。何もアルビオン王家に仕えろと言っているわけではない。 アルビオン王家は倒れる。 近いうちにね」

 

「どういうこと?」

 

「革命さ。 無能な王家はつぶれる。 そして、我々有能な貴族が政を行うのだ」

 

「でも、あんたはトリステインの貴族じゃないの。 アルビオンの革命とやらと、何の関係があるって言うの?」

 

「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。 我々には国境はない。 ハルケギニアは我々の手で一つになり、始祖ブリミルの光臨せし『聖地』を取り戻すのだ」

 

「で、その国境を越えた貴族の連盟とやらが、このこそ泥になんの用?」

 

「我々は優秀なメイジが1人でも多く欲しい。 協力してくれないかね? 『土くれ』よ」

 

「夢の絵は、寝てから描くものよ」

 

ハルケギニアを1つにする?

トリステイン王国、帝政ゲルマニア、アルビオン王国、そしてガリア王国……、未だに小競り合いの絶えない国同士が、1つにまとまるなど夢物語だ。

おまけに『聖地』を取り返すだって?

あの強力なエルフどもから?

ハルケギニアから東に離れた土地に住まうエルフたちによって、『聖地』が奪われて数百年。

それから何度も、多くの国が『聖地』を奪回しようとして兵を送ったが、そのたびに無残な敗北を喫してきた。

長命と独特の尖った耳と文化を持つエルフたちは、その全てが強力な魔法使いであり、優秀な戦士でもある。

同じ数で戦っても、人間には勝利はないことは、この数百年の歴史が証明している。

 

「わたしは貴族が嫌いだし、ハルケギニアの統一なんかにゃ興味ないわ。 おまけに『聖地』を取り返すだって? エルフどもがあそこにいたいって言うんなら、好きにさせればいいじゃない」

 

男は腰に下げた長柄の杖に手をかけた。

 

「『土くれ』よ。 お前は選択することができる」

 

「言ってごらん」

 

「我々の同士になるか……」

 

わたしは、男の言葉の続きを言う。

 

「ここで死ぬか、でしょ?」

 

「そのとおりだ。 我々の事を知ったからには、生かしてはおけんからな」

 

「ほんとに、あんたら貴族って奴は、困った連中だわ。 他人の都合なんか考えないんだからね」

 

私は笑いながら言う。

 

「つまり選択じゃない。 強制でしょ?」

 

男の方も笑う。

 

「そうだ」

 

「だったらはっきり、味方になれっていいなさいな。 命令もできない男は嫌いだわ」

 

「我々と一緒に来い」

 

「あんたらの貴族の連盟とやらは、なんていうのかしら」

 

「味方になるのか? ならないのか? どっちなんだ」

 

「これから旗を振る組織の名前は、先に聞いておきたいのよ」

 

男はポケットから鍵を取り出し、鉄格子に付いた錠前に差し込んで言った。

 

「レコン・キスタ」

 

 

 

 

 

【お久しぶりです。 いよいよ、2巻目の話が始まりました。 皆様の声援ありがたく頂いています。 色々と急がしにので更新のスピードは落ちていますが、頑張って続けていきますのでこれからもご愛読よろしくお願いします】

 


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