Fate and Zero

 

第13話 「舞踏会…」

 

 

 

俺は、シルフィードに乗って学院に戻る最中に、キュルケとタバサから質問責めにあっていた。

 

「ねえ、シロウ。 あのゴーレムを倒したときの武器は何?」

 

覚悟はしていたが、キュルケは、やはり聞いてきた。

タバサの方も、こちらを見ていた。

両方とも聞く気が満々のようだ。

 

「あれか……、説明しないと駄目かな?」

 

僅かな望みを賭けて二人に聞いてみた。

 

「「駄目」」

 

返事は、思ったとおりだった。

 

「はぁ〜しょうがない、ルイズ。 説明するぞ」

 

「いいわよ。 どうせ、このままってワケには、いかないだろうし」

 

ルイズの許可をもらったので、この2人に、簡単な説明をする。

 

「俺は元々この世界の人間じゃなく、ルイズの召喚でハルケギニアへきたんだ」

 

……………

 

 

 

俺たち4人は、学園に戻ると学院長室へ行き、報告をする。

 

「ふむ……。 ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな……。 美人だったもので、何の疑いもせず秘書に採用してしまった」

 

「いったい、何処で採用されたんですか?」

 

隣に控えていたコルベールが尋ねた。

 

「街の居酒屋じゃ。 私は客で、彼女は給仕をしておったのだが、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな」

 

「で?」

 

コルベールが続きを促すと、オスマンは照れながら告白する。

 

「おほん。 それでも怒らないので、秘書にならないかと、言ってしまった」

 

「なんで?」

 

おそらくここにいる、全員の意見と同じ言葉を、コルベールは言った。

 

「カァーッ!」

 

オスマンは、年寄りとは思えないほどの迫力で、目をむいて怒鳴った。

それから、小さく咳をして真顔に戻る。

 

「おまけに魔法も使えるというもんでな」

 

「死んだ方がいいのでは?」

 

コルベールが呟く。

オスマンは、咳払いをすると真顔でコルベールの方に向き直り重々しい口調で言った。

 

「今思えば、あれも魔法学院にもぐりこむためのフーケの手じゃったに違いない。 居酒屋でくつろぐ私の前に何度も媚を売りに来て……。 終いにゃしりを撫でても怒らない。 惚れてる? とか思うじゃろう? なあ? ねえ?」

 

「そ、そうですな! 美人はただそれだけで、いけない魔法使いですな!」

 

何か、後ろ暗いことがあったのか、コルベールは少し慌てながら、そう言った。

 

「そのとおりじゃ! 君はうまいことを言うな! コルベール君!」

 

そんな2人を、俺たち4人は呆れながら見ていた。

俺たちの冷たい視線に気がついたのか、オスマンはまたも咳払いをし、話題を変える。

 

「さてと、君たちはよくぞフーケを捕まえ、『破壊の杖』を取り戻してきた」

 

誇らしげに、ルイズ、キュルケ、タバサの3人は礼をする。

 

「フーケは、城の衛兵に引き渡した。 そして『破壊の杖』は、無事に宝物庫に収まった。 一件落着じゃ」

 

オスマンは、3人の頭を1人ずつ撫でていった。

 

「君たちの、『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた。 おって沙汰があるじゃろう。 といっても、ミス・タバサはすでに『シュヴァリエ』の爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」

 

その言葉に3人の顔が、ぱあっと輝いた。

 

「ほんとうですか?」

 

キュルケが、驚いた声で言った。

 

「ほんとじゃ。 いいのじゃ、君たちは、そのぐらいのことをしたんじゃから」

 

そんな中、ルイズがチラチラとこちらを見ていた。

 

「……オールド・オスマン。 シロウには、何もないんですか?」

 

「残念ながら、彼は貴族ではない」

 

なるほど、ルイズがこっちを心配そうに見ていたのはその為だったのか。

 

「俺は、別にかまわないぞ」

 

オスマンは、ぽんぽんと手を打った。

 

「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。 このとおり、『破壊の杖』も戻ってきたし、予定どおり執り行う」

 

キュルケの顔が、ぱっと輝いた。

 

「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました!」

 

「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。 用意してきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」

 

3人は礼をすると、ドアの方に向かうが、俺がついて来ないので立ち止まった。

 

「ああ、先にいっててくれ。 俺は後から行く」

 

ルイズは心配そうに見ていたが、頷いて部屋から出て行った。

 

3人が部屋から出て行くと、オスマンと向き合う。

 

「なにか、私の聞きたいことがおありのようじゃな」

 

オスマンの言葉に、頷く。

 

「言ってごらんなさい。 できるだけ力になろう。 君に爵位を授けることはできんが、せめてものお礼じゃ」

 

それから、オスマンは傍にいたコルベールに退室を促した。

なぜか、わくわくした様子でいた、コルベールはしぶしぶ部屋を退室した。

コルベールの気配が、遠ざかるのを感じて、俺は話を始める。

 

「あの『破壊の杖』、あれは何処で手に入れたんですか?」

 

「何処でとは、どういう意味かな?」

 

「あれと同じものが、俺の元いた世界にあります」

 

『破壊の杖』あれは、確かに『M72ロケットランチャー』だった。

 

「ふむ。 元いた世界とは?」

 

「信じられないかもしれませんが、俺はこの世界の人間じゃない」

 

「本当かね?」

 

「ええ、本当です。 俺は、ルイズに『召喚』されて、こちらの世界に来たんです」

 

「なるほど。 そうじゃったか……」

 

オスマンはため息をつく。

 

「あれを私にくれたのは、私の命の恩人じゃ」

 

「その人はどうしたんですか?」

 

「死んでしまった。 今から30年も昔の話じゃ」

 

「そうですか……」

 

「30年前、森を散策していた私は、ワイバーンに襲われた。 そこを救ってくれたのが、あの『破壊の杖』の持ち主じゃ。 彼はもう一本の『破壊の杖』で、ワイバーンを吹き飛ばすと、ばったりと倒れおった。 怪我をしていたのじゃ。 私は彼を学院に運び込み、手厚く看護した。 しかし、看護の甲斐なく……」

 

「亡くなった」

 

オスマンは頷いた。

 

「私は、彼の使った1本を彼の墓に埋め、もう1本を『破壊の杖』と名づけて、宝物庫にしまいこんだ。 恩人の形見としてな……」

 

オスマンは遠い目をしながら語る。

当時の事を思い出しているのだろう。

 

「彼はベットの上で、死ぬまでうわごとのように繰り返しておった。 『ここはどこだ。元の世界に返りたい』とな。 きっと、彼は君と同じ世界から来たんじゃろうな」

 

(厳密に同じ世界とは限らないけどな)

 

平行世界の概念を知る、俺としてはその人物と、俺のいた世界がまったく同一の世界だとは断定できないが、文明的にはほぼ同じだと確信する。

 

「いったい、誰がこっちにその人を呼んだんですか?」

 

一番、気にかかるところはそれだ。

わかれば、変える方法の見当が付くかもしれない。

 

「それはわからん。 どうして彼があの森にいたのかすら、最後までわからんかった」

 

オスマンから聞かされた答えは、見事に空振りだった。

 

「そうですか……。 それともう一つ」

 

俺は、自分の左手の甲を、オスマンに見せた。

 

「このルーンについても聞きたかったんです」

 

オスマンは、少し悩んだ風だったが、口を開いた。

 

「……それなら知っておるよ。 ガンダールヴの印じゃ。 伝説の使い魔の印じゃ」

 

「伝説の使い魔?」

 

「そうじゃ、始祖ブリミルの守護をしていたとされる使い魔じゃ。 言い伝えによれば、その伝説の使い魔はありとあらゆる『武器』を使いこなしたとされる」

 

「…………」

 

(やっぱり、このルーンは『虚無』に関係していたのか)

 

俺はじっと左手にある、ルーンを見つめる。

そこに、オスマンが話しかけてきた。

 

「私からも一ついいかね?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「君は、いったい何者だね? そのルーンを持っているという事ではない。 君自身の事だ。 君はガンダールヴの能力以外にも君自身の力があるじゃろう」

 

オスマンの観察力に俺は驚いた。

 

「ええ、俺はこのルーンの力以外に、自分自身の力があります」

 

「そうか……。 話してもらえるかね」

 

オスマンの真剣な目を見て、俺は返事を決めた。

 

「わかりました。 しかし、この事はあまり他言しないで下さい」

 

「うむ。 私から他人に話すことはせんよ」

 

「簡単に説明します。 この世界と俺のいた世界では『魔法』の概念から言って違いますが、あなたのようなメイジといっていい存在です。 その中でも俺は、特殊な部類に入っていますが」

 

「なるほど、やはりか」

 

「ええ、もう少し詳しく話しましょうか?」

 

「いや、それだけ聞ければ十分じゃ。 それに、特殊な部類に入るというなら言いにくいこともあるじゃろう」

 

オスマンの気遣いに俺は感謝する。

 

「こちらこそ、それほど力になれんですまんの。 ただ、これだけは言っておく。 私はおぬしの味方じゃ。 よくぞ、恩人の杖を取り戻してくれた。 あらためて礼を言うぞ」

 

「いえ……」

 

「おぬしがどういう理屈で、こっちの世界にやってきたのか、私なりに調べるつもりじゃ。 でも……」

 

「でも、なんですか?」

 

「何もわからんくても、恨まんでくれよ。 なあに。 こっちの世界も住めば都じゃ。 嫁さんだって探してやる」

 

オスマンの、洒落にならない冗談が、俺の耳に届いた。

 

 

 

部屋に戻ると、鞘に入れたまま、部屋の隅に置かれていたデルフリンガーを抜いた。

 

「よう」

 

「よう、相棒。 俺を持っていかないなんて、ひでぇじゃねえか」

 

陽気に喋る剣。

 

「わるかった。 なんせ、そのまま馬車で直行だったから、取りに戻る暇がなくてな」

 

「そうかい」

 

「しかし、いつ見てもボロボロだな。 後で研ぎなおすか?」

 

「その必要はねえよ、相棒」

 

そう言うと、デルフリンガーの刀身は光だして、今まさに研がれたように、光り輝いていた。

 

「デルフ? お前……」

 

「これが俺の本当の姿さ! 相棒! いやぁ、てんで忘れていた! そういや、飽き飽きしていたときに、テメエの体を変えたんだった! なにせ、面白いことはありゃしねえし、つまらん連中ばかりだったからな! しっかし、またガンダールヴとやれるってんなら、面白くなりそうだぜ!」

 

こいつが姿を変えていた所為で、はっきりと解析ができなかったが、今ならわかる。

 

「おい、デルフ。 お前、前のガンダールヴが使っていた剣だったのか!」

 

「おう、よくわかったな。 しっかし、もう6000年も昔の話だ。 俺もすっかり忘れてたぜ!」

 

「だったら、ブリミルってやつの事わかるか」

 

ガンダールヴの剣だった、ということは、自然にその主人のブリミルの事も知っているはずだ。

 

「おう。 ……………って、思い出せねえ」

 

デルフリンガーの言葉にズッコケそうになる。

まあ、6000年も昔の話だ、しょうがないだろう。

 

「はぁ〜、この話はまた今度な。 俺は、また出かけてくるから」

 

デルフを鞘に収めると、俺は舞踏会の会場に向かった。

 

 

 

アルヴィーズの食堂の上の階が、大きなホールになっていて、舞踏会はそこで行われていた。

俺はバルコニーの枠にもたれかかり、華やかな会場をぼんやりと眺めている。

中では着飾った生徒や教師たちが、豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談している。

 

シエスタは、忙しく働く合間に、俺に料理を持ってきてくれた。

キュルケは、綺麗なドレスを着てパーティーが始まる前、俺をダンスに誘いに来たが、今はホールの中で多くの男たちに囲まれて、いったい何時になることやら。

タバサは、意外なことに黒いパーティードレスを着て、一生懸命にテーブルの上の料理と格闘していた。

それぞれが、このパーティーを満喫しているようだった。

 

そう思っているとき、ホールの壮麗な扉が開き、ルイズが姿を現した。

門に控えた呼び出しの兵士が、ルイズの到着を告げる。

 

「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな〜〜〜り〜〜〜!」

 

ルイズは長い桃色がかった髪を、バレッタにまとめて、ホワイトのパーティードレスに身を包んでいた。

そして、肘までの白い手袋が、ルイズの高貴さをいやになるぐらいに演出し、胸元の開いたドレスがつくりの小さい顔を、宝石のように輝かせていた。

 

主役が全員揃ったことを確認した楽士たちが、小さく、流れるような音楽を奏で始める。

 

ルイズの周りには、その姿と美貌に驚いた男たちが群がり、さかんにダンスを申し込んでいた。

おそらく、今までノーマークだった女の子の美貌に気がつき、唾をつけようというのだろう。

現金な奴らだ。

 

ホールでは、貴族たちが優雅にダンスを始めた。

しかし、ルイズは誰の誘いも受けずに、バルコニーの方へ来た。

 

「楽しんでいるみたいね」

 

「別に……。 こういうのは、苦手なんだよ。 でも、綺麗だぞルイズ」

 

「な、なに言ってるのよ!」

 

ルイズは赤くなりながら怒鳴ってきた。

 

(???)

 

衣装を褒めたのに、何で怒られなきゃならないんだ?

 

「ところで、ルイズは踊らないのか?」

 

「相手がいないのよ」

 

「へ? いっぱい誘われてたと思ったんだが」

 

ルイズは答えず、手を差し伸べてくる。

 

「え?」

 

「踊ってあげても、よくってよ」

 

照れているらしく、目を逸らしながらルイズは言った。

 

「それを言うなら、踊ってくださいと思うんだが……」

 

俺たちの間でしばらく沈黙が続く。

 

「今日だけだからね」

 

そう言うと、ルイズはドレスの裾を恭しく両手で持ち上げると、膝を曲げて俺に一礼する。

 

「わたくしと一曲踊ってくださいませんこと。 ジェントルマン」

 

顔を赤らめながら、ダンスの誘いをするルイズは激しく可愛くて、綺麗で、清楚であった。

 

「よろこんで。 レディー」

 

ルイズの手をとり、俺はそう答えた。

 

 

 

「この世界のダンスは初めてだぞ」

 

「わたしに合わせて」

 

そう言って、ルイズは俺に手を軽く握った。

周囲の見よう見まねで、ルイズに合わせて踊りだした。

 

「ねえ、シロウ。 ありがとう」

 

「なにが?」

 

「……その、色々助けてくれて」

 

ルイズは軽やかに、優雅にステップを踏みながら、そう呟いた。

 

「当然の事なんだから、気にするな」

 

「どうして?」

 

「俺はルイズの使い魔だろ」

 

そう言って俺は、ルイズに笑いかけた。

 

「ばか……」

 

ルイズは頬を赤らめながら何か呟いた。

 

「なに?」

 

「なんでもない」

 

楽士たちがテンポのいい曲を奏で出した。

 

「もっと踊りましょう。 シロウ」

 

不覚にも、このときのルイズの笑顔にドキッとしてしまった。

 

 

 

この後すぐに、キュルケやタバサのダンスの相手を、本人たちから強制された。

後、シエスタも……。

なぜか、他の女性たちも誘いに来たが、それは丁重に断っていった。

それが、終わるとなぜかルイズの機嫌が悪かった。

 

(なんでさ?)

 

 

 

 

 

【ようやく、一巻の話が終わりました。 皆様のご声援でここまでこれました。 本当に、ありがとう御座います。 本編のほうに少し力を入れますので、次回まで少し時間が空きますのでご了承下さい】

 


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