Fate and Zero

 

第12話 「探索U…」

 

 

 

馬車は深い森の中に入っていった。

昼間だというのに薄暗く、気味の悪い森だった。

 

「ここから先は、徒歩で行きましょう」

 

ロングビルがそう言ってきて、全員が馬車を降りる。

森を通る道から、小道が続いている。

 

しばらく歩くと、開けた場所に出た。

森の中の空き地といった風情だ。

結構広く、その真ん中には、廃屋がある。

おそらく元は木こり小屋だったのだろう。

朽ち果てた炭焼き用らしい窯と、壁板の外れた物置が隣に並んでいる。

 

俺たちは小屋の中から見えないように、森の茂みに隠れたまま廃屋を見つめている。

 

「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」

 

ロングビルは廃屋を指差しながらそう言った。

しかし、俺にはあの廃屋の中からは人のいる気配を感じない。

それにより、疑惑が確信に変わっていく。

 

ルイズたちが、ゆっくり相談をし始めた。

フーケがあの中にいるというなら、奇襲をかけようとのことだ。

 

タバサは、ちょこんと地面に正座すると、皆に自分の立てた作戦を説明するために枝を使って地面に絵を書き始めた。

内容は、最初に偵察兼囮が小屋の傍に赴き、中の様子を確認する。

そして、中にフーケがいれば、挑発して外に出す。

小屋の中には、ゴーレムを作り出すほどの土が無いから、乗ってくる筈との事だ。

フーケが外に出たら、魔法で一気に攻撃する。

ゴーレムを作り出す暇を与えず、集中砲火でフーケを静めるという。

 

「で、偵察兼囮役は誰がやるんだ?」

 

薄々とはわかっているが、俺はタバサに尋ねる。

 

「すばしっこいの」

 

全員が一斉に俺の方を見る。

 

「了解」

 

俺は一気に小屋の傍まで近づき、窓から中の様子を伺う。

小屋の中は一部屋しかなく、部屋の真ん中にはかなりの埃が積もったテーブルと、転びかかった椅子、それに崩れた暖炉が見えた。

隅から隅までチェックしていくが、人が隠れられるようなスペースは無い。

 

(これは、決定かな……)

 

立てた仮説が、さらに強まる。

しばらく考えて、俺は頭の上で、腕を交差させる。

誰もいなかったときのサインだ。

 

隠れていた全員が、恐る恐る近寄ってきた。

 

「誰もいないぞ」

 

俺は家の中に指差しながらそう言った。

すると、タバサはドアに向けて杖を振った。

 

「ワナはないみたい」

 

そう呟いて、ドアを開け、中に入っていく。

俺とキュルケは後に続く。

ルイズは外で見張りをするといって、ドアの所に残った。

ロングビルは辺りを偵察してくると言い、森の中に消えた。

 

小屋に入った俺たちは、フーケの残した手がかりがないか調べ始めた。

そして、タバサが呟いた。

 

「破壊の杖」

 

タバサはそれを無造作に持ち上げると、俺たちに見せる。

 

「あっけないわね!」

 

キュルケが叫んだ。

おれは『破壊の杖』を見て、目を丸くした。

 

「おい、それが本当に『破壊の杖』なのか?」

 

「そうよ。 あたし、見たことあるもん。 宝物庫を見学したとき」

 

キュルケが頷きながらそういった。

 

『破壊の杖』を近くで見る。

 

(間違いない、でもこんなのが何でここに)

 

ちょうどその時、外で見張りをしているルイズの悲鳴が聞こえた。

 

「きゃぁああああああ!」

 

「どうした! ルイズ!」

 

ドアの方を振り向いた時、ばこぉーんといい音を立てて、小屋の屋根が吹き飛んだ。

屋根がなくなった所為で、そこにフーケの作り出したと思われるゴーレムがよく見えた。

 

「ゴーレム!」

 

キュルケは大声で叫ぶ。

 

タバサの反応は迅速だった。

自分の身長より大きな杖を振るい、呪文を唱えた。

巨大な竜巻が舞い上がり、ゴーレムにぶつかっていくが、びくともしない。

 

今度は、キュルケが胸にさした杖を引き抜き、呪文を唱える。

杖から炎が伸び、ゴーレムを火炎に包むが、ゴーレムにはまったくの無意味のようだった。

 

「無理よこんなの!」

 

「退却」

 

キュルケとタバサは一目散に逃げ始めた。

 

俺はルイズの姿を探す。

そして、ゴーレムの後ろで杖を振りかざすルイズを見つけた。

 

巨大なゴーレムの表面に爆発が起きる。

俺は、その隙にルイズの元へ駆けつけた。

 

「離れるぞルイズ!」

 

「いやよ! あいつを捕まえれば、誰ももう、わたしをゼロのルイズとは呼ばないでしょ!」

 

真剣な目で訴えてくる、ルイズ。

 

「それに私は貴族よ。 魔法を使えるものを貴族と呼ぶんじゃないわ!」

 

ルイズは杖を握り締めながら宣言する。

 

「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」

 

(まったく、たいしたもんだ)

 

ゴーレムは俺たちを踏み潰そうと、その巨大な足を振り上げる。

ルイズは、それに反応して杖を振り上げるが、呪文が完成するのには間に合わない。

だからこそ、ここに俺がいる!

 

投影開始(トレース・オン)

 

 

 

ガキン

私を踏み潰すはずの音はせず、何か固いもの同士がぶつかり合う音がした。

 

「え?」

 

ズドン

そう音を立てて、ゴーレムが転ぶ。

 

シロウのほうを見てみると、手に大きな石でできた剣のようなものを握っていた。

 

「よく言った、ルイズ。 それでこそ俺のマスターだ」

 

シロウは私の頭をくしゃくしゃに撫でてくる。

それは、不思議と気持ちがよかった。

 

「でもフーケはあのゴーレムに乗ってないみたいだから、一旦ここを離れるぞ」

 

「ええ、わかった」

 

ちょうどその時、タバサの風竜がこちらに飛んできた。

 

「乗って!」

 

シルフィードが着陸するのと同時に、タバサが叫んだ。

そして、シロウが私をシルフィードの上に、押し上げた。

 

「あなたも早く」

 

タバサが珍しく、焦っている様子で話す。

しかしシロウは、シルフィードに乗らずに、ゴーレムに向き直った。

 

「シロウ!」

 

私はシロウに向かって叫ぶ。

 

「早く行け!」

 

タバサは無表情でシロウを見つめていたが、起き上がってきたゴーレムが拳を振り上げるのを見て、やむなくシルフィードを上昇させる。

 

間一髪、私たちのいた、地面にゴーレムの拳がめり込んだ。

シロウは、どのような怪力か?

石で、できた大剣を持ったまま、後ろに跳躍してそれをかわしていた。

 

ゴーレムが拳を上げると、そこには、直径一メートルほどの大穴が開いている。

 

「おいルイズ、こいつは俺が始末してやるからさ、泣くな!」

 

そうシロウに言われて、私が涙を流しているのに気がついた。

悔しかったのだ、何もできない自分に!

 

「さあ、かかってこい。 『土くれ』と、ゼロのルイズの使い魔の勝負だ!」

 

シロウは真っ向からゴーレムを睨み、そう宣言した。

 

「シロウ!」

 

私はシルフィードから飛び降りようとするが、タバサに抱きかかえられてしまう。

 

「シロウを助けて!」

 

私は叫びながら、タバサに頼むが、タバサは首を振った。

 

「近寄れない」

 

近寄ろうとすると、やたらとゴーレムがこぶしを振り回そうとするので、タバサがシロウにシルフィードを近づけることができないのだ。

 

「シロウ!」

 

私が再び怒鳴ったとき、シロウが先ほどの石の剣を構えて、ゴーレムと対峙しているのが見えた。

 

シロウがその大きすぎる剣を振るう。

 

ゴーレムは、先ほどのように足を狙われて、転ばされないように、身をかがめてそれを両腕で受け止めた。

 

シロウの振るった剣は、ゴーレムの掌にめり込む。

そして、シロウは剣を手放し、そこからすぐに離れる。

 

開放されし幻想(オープン・ザ・ファンタズム)

 

シロウの声が当たりにはっきりと響き渡る。

それと同時に、ゴーレムの両手の掌にめり込んだ大きな石の剣が爆発したのだ!

 

ドカン!

 

辺りに爆音が響き渡った。

 

爆発であがった煙が晴れていくと、其処には、無傷のシロウと両腕が無くなったゴーレムがいた。

 

「すごい」

 

それは誰の言葉だったのかわからない。

それは唯、自然に出てきた言葉だ。

それは唯、シロウに対する……。

 

そして、シロウはいつの間にか弓を構えていた。

あれは矢なのだろうか?

矢のようだが、あのように妙な形をした矢は見た事が無い。

しかし、弓から打ち出すというのなら、矢なのだろう。

 

「いけ、『赤原猟犬(フルンディング)』」

 

シロウがそう呟くと、矢は赤い閃光となって、ゴーレムを貫きその上半身を吹き飛ばした。

そして、足だけになったゴーレムは、崩れ落ち、唯の土の塊に変わっていった。

 

すると、タバサは急いで、シルフィードをシロウの所へ近づけてくれた。

 

シルフィードが着陸すると同時に、キュルケが飛び出していき、シロウに抱きついた!

 

「シロウ! 凄いわ! やっぱりダーリンね!」

 

キュルケの言葉に言いようのない怒りがこみ上げてくる。

 

(なんで、シロウに抱きついているのよ! それに何がダーリンよ! シロウは私の使い魔よ!)

 

シルフィードから降りたタバサが、崩れ落ちたゴーレムを見つめながら、呟いた。

 

「フーケはどこ?」

 

その言葉に、私とキュルケは、はっとする。

その時、辺りに偵察に行っていたミス・ロングビルが茂みの中から現れた。

 

「ミス・ロングビル! フーケは何処からあのゴーレムを操っていたのかしら?」

 

キュルケがそう尋ねると、ミス・ロングビルはわからないというように首を横に振った。

 

その時、シロウが口を開いた。

 

「いい加減に猿芝居はやめろ。 フーケ」

 

シロウはミス・ロングビルを見ながらはっきりとそう言った。

 

「な、何を言っているんですか」

 

ミス・ロングビルは表情を強張らせた。

 

「そうよシロウ」

 

オールド・オスマンの秘書であるミス・ロングビルが、フーケだとは信じられない。

 

しかし、シロウは私たち3人を背中に集め、ミス・ロングビルから遠ざけるようにする。

 

「はあ〜、これは誤魔化しきれないみたいね」

 

ミス・ロングビルはめがねを外す。

すると、優しそうだった目は吊り上り、猛禽類のような目に変わる。

 

「そう、私が『土くれのフーケ』。 しかし、よくわかったわね」

 

「当たり前だ、アンタは今朝起きてからフーケの調査をしたというけど、この場所を特定するのが早すぎるんだよ。 ここは俺たちが来たときのように馬車でも、4時間もかかる。 朝方調査を始めたって言うなら、もう少し時間がかかるはずだ。 それにな、俺は目は良いんだよ。 夜見たとき、犯人が女性だって事はなんとなく見当がついていたんだよ。 アンタ言ったよな黒ずくめのローブの男って」

 

今、シロウが聞き捨てなら無いことを言った。

 

「ちょっと、何でそれを言わないのよシロウ!」

 

「まあ、見られた時の為の変装の可能性もあったからな。 それに誰かが、勝手にそれを肯定したし」

 

「うっ!」

 

確かに、間を置かずに肯定したのは、私だった。

 

「それで?」

 

フーケがシロウの推理の続きを促す。

 

「あの廃屋に行くときもそうだ。 迷わず、廃屋に向かっていた。 まるで、来たことがあるみたいに。 そして、あれだけのゴーレムだ。 そう遠くからは操れないだろう。 そう思ってな、一つ仕掛けをさせてもらったよ」

 

そういってシロウは木のある地点に指を指した。

其処には、磨かれた鏡のような刀身をした、ナイフが刺さっていた。

 

「あれを、この周辺に仕掛けておいた。 それで、アンタが物陰からゴーレムを操っているのを見させてもらった」

 

「抜け目が無いわね。 それで、私がワザワザあんた達をここに呼び出した理由がわかるかい?」

 

フーケのその言葉に私たち3人は、はっとする。

そうなのだ、彼女がフーケならワザワザ私たちをここに呼び出す必要は無いのだ。

そんな事をしても、フーケ自身に何の得も無いはずだ。

 

(もしかして、何かのワナ?)

 

「混乱させて、その隙に逃げようとしても無駄だぞフーケ」

 

シロウの言葉に、ピクリとフーケが反応した。

 

「俺もその理由は気になっていたんだが、『破壊の杖』を見てその理由がわかった」

 

「へえ〜」

 

「なんなの? シロウ」

 

キュルケがシロウに尋ねる。

 

「キュルケ、『破壊の杖』の使い方わかるか?」

 

「え? …そんなの知らないわ。 タバサ知ってる?」

 

すると、タバサは首を横に振る。

私はシロウの言葉を考える。

 

「……わかった! フーケは『破壊の杖』の使い方を知りたかったのね!」

 

「そうだろう、フーケ」

 

「その通りよ。 まったく、其処の使い魔君のおかげで、計画がめちゃくちゃだわ」

 

「で、おとなしく捕まるか? フーケ」

 

「いやよ。 って言いたいけど、私のゴーレムをあんなに簡単に壊すような使い魔君を、これ以上敵に回して勝てると思わないしね!」

 

そう言って、フーケは杖を振るおうとする。

 

「な!」

 

一瞬でシロウが距離を詰め、フーケに当身を食らわせた。

 

「残念だったな」

 

フーケは地面に崩れ落ちた。

 

「さてと、フーケを捕まえて、『破壊の杖』も取り戻したと、大成功だな」

 

私は、にっこりと笑うシロウに抱きついた。

私と同時に、キュルケとタバサも抱きついてきた。

 

こうして、『破壊の杖』を取り戻す、任務は終わった。

 

 

 

 

 

【次回、フーケも無事捕まえ、最後の締めに】

 


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