Fate and Zero
第8話 「武器屋…」
魔法学院から出て3時間たった今、俺とルイズはトリステインの城下町を歩いていた。
学院から乗ってきた馬は町の門の傍にある駅に預けている。
馬に乗ることなど殆ど無かったので、少しだけ腰が痛かった。
辺りを見渡すと、石造りの街並みに、道端で声を張り上げて、果物や肉等を売る商人たち、老若男女が大勢いる。
「でも、狭いな」
「狭いって、これでも大通りなんだけど」
「これで?」
道幅は5メートルもなく、そこに大勢の人たちが行きかう所為で歩くのも一苦労だ。
「ブルドンネ街。 トリステインで一番大きな通りよ。この先にトリスティンの宮殿があるわ」
「そうか」
ここが一番大きな通りだって?
文明の違いを感じるな。
こうしている間にもルイズは目当ての店に向かう。
「ピエモンの秘薬屋の近くだったから、この辺なんだけど……」
と、目の前に剣の形をした1枚の銅の看板が目に入った。
「あ、あった」
俺とルイズは、石段を上がり、羽扉を開けて、その店の中に入っていった。
入った店の中は薄暗く、光源はランプの灯りのみ。
壁や棚には、剣や槍などが乱雑に並べられており、甲冑も飾ってあった。
店の奥にはパイプをくわえた50ぐらいの男がいた。
「旦那。 貴族の旦那。 うちはまっとうな商売をしてまさあ。 お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」
「客よ」
「こりゃおったまげた。 貴族が剣を!おったまげた!」
「どうして?」
「いえ、若奥さま。 坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖をふる、そして陛下はバルコニーからお手をふりになる、と相場は決まっておりますんで」
「使うのはわたしじゃないわ」
「では、あちらの方で?」
「そうよ」
俺は並んでいる剣を見て回るが、どれもこれもそれほど良い剣ではない。
「もうすこし、良い剣はあるか?」
俺がそう言うと、店の親父が一瞬いやそうな顔を浮かべた。
そして店の奥に行って剣を取ってきた。
「これなんかいかがです?」
大剣で柄は両手で扱えるように長く、立派な拵えをしていた。
ところどころに宝石が散りばめられて、鏡のように両刃の刀身が光っている。
見た目はいかにも切れそうで、頑丈な大剣であった。
「店一番の業物でさ。 貴族のお供をさせるなら、このぐらいは腰から下げてほしいものですな。 といっても、こいつを腰から下げるのは、よほどの大男でないと無理でさあ。 大抵は背中にしょわんといかんですな」
あの剣、外見こそは立派だが、なまくらだな。
「いや、遠慮しとく。 それが店一番って言うなら他に当たるぞ、ルイズ」
店主が慌てて寄ってきた。
「なんでですか? こいつは、かの高名なゲルマニアの錬金術師シュペー卿が鍛えた業物でさあ。 魔法がかかっているから鉄だって一刀両断でさあ。 お値段は少々高く、エキュー金貨で二千。 新金貨で三千ですが……」
「立派な家と、森付きの庭が買えるじゃないの」
ルイズは呆れた声を出す。
「まともな大剣なら、どんなに安くても二百以上。 それに名剣は城に匹敵しますぜ」
「コレがか?」
「おでれーた、おでれーた。 おめえ見る目があるな」
いきなり低い男の声が響いた。
「やい! デル公! お客様の前でしゃべるんじゃねえ!」
店主の怒鳴った先には錆の浮いたボロボロの剣があった。
先ほどの大剣と長さこそは変わらないが、刀身が細い薄手の長剣であったが…。
「インテリジェンスソードか」
意思を持った剣、インテリジェンスソード。
俺も滅多に見たことのない剣の一種だ。
「そうでさ、意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。 いったいどこの魔術師が始めたんでしょうかね、剣をしゃべらせるなんて……」
手にとって、解析をしてみるとなかなか使い勝手の良い能力が備わっているのが分かる。
投影こそできないが、内包している神秘が凄まじく千年や二千年以上存在しているはずだ。
銘はデルフリンガーか。
「これはいくらだ」
主人にそう尋ねてみる。
「ちょっと、そんなのにするの? もっと綺麗なのにしなさいよ」
「値段は、エキュー金貨で10。 新金貨なら15」
「安いじゃない」
「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさあ。 こいつがいると商売の邪魔ばっかりさせられますから」
俺はルイズから預かった財布を取り出すと、言ったとおりの金額を取り出す。
「毎度、どうしても煩いと思ったときは、こうやって鞘に入れればおとなしくなりまさあ」
こうして、俺は店の主人から剣を受け取った。
店を出てしばらくするとルイズが話しかけてきた。
「ねえ、何でこんなオンボロの剣にしたの?」
「オンボロとはなんでい、俺はデルフリンガーさまだ!」
「少し静かにしてくれ、まあ、他の剣と違ってこれが一番使えそうだったんでね。 これでも剣の鑑定にかけたら誰にも負けない自信があるしな、あの剣見てくれだけのナマクラだ」
「さすがは『使い手』だな」
「『使い手』?」
何なんだ?
「ふん、自分の事も知らんのか。 まあいい」
やっぱりこの紋章と何か関係があるのか?
俺は自分の左手の項にあるルーンを見つめていた。
「まあ、いいか。 ルイズ、服を買いに行こうか」
「そうね、とっとと買い物を終わらせないと、帰るのが遅くなるしね」
武器屋から二人が出てくるのを、あたしは路地裏の陰から見ていた。
「ゼロのルイズったら……、剣なんか買って気を引こうとしちゃって……。 あたしが狙ってるってわかったら、早速プレゼント攻撃? なんなのよ〜〜〜〜ッ!」
タバサは自分の仕事は終わったから本を読んでいるし、シルフィードは高空をぐるぐる回っている。
「いいわ」
二人が見えなくなったのを見計らって、あたしは武器屋に1人ではいる。
「おや! 今日はどうかしている! また貴族だ!」
「ねえご主人。 今の貴族が何を買っていったかご存知?」
髪をかきあげながら、笑う。
「へ、へえ。 剣でさ」
「なるほど、やっぱり剣ね……。 どんな剣を買ったいったの?」
「へえ、ボロボロの大剣を一振り」
「ボロボロ? どうして?」
「さあ、持ち合わせがなかったのでは」
「そう」
「若奥様も、剣をお買い求めで?」
商売のチャンスだと思ったらしく、あたしに聞いてくる。
ん〜、シロウにあたしからプレゼントするのがいいわね。
「ええ。 みつくろってくださいな」
武器屋の主人は揉み手をしながら奥へと入っていった。
持って来たのは立派な大剣だった。
「あら。 綺麗な剣じゃない」
「若奥さま、さすがお目が高くていらっしゃる。 何せこいつを鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの錬金術師シュペー卿で。 魔法がかかっているから鉄だって一刀両断でさ。 ごらんなさい、ここにその名が刻まれているでしょう」
「おいくら?」
「へえ。 エキュー金貨で三千。 新金貨で四千五百でさ」
「ちょっと高くない? 庭付きの屋敷が買える値段じゃないの」
「へえ、名剣は、釣り合う黄金を要求するもんでさ」
ちょっと高いわね。
この手でいきますか。
「ご主人……、ちょっとお値段が張りすぎじゃございませんこと?」
あごの下を撫でながらそう言う。
「へ、へえ……。 名剣は……」
カウンターの上に腰をかけて、左の足を持ち上げる。
「お値段、張りすぎじゃ、ございませんこと?」
ゆっくりと、、投げ出した足をカウンターの上に持ち上げた。
店の主人の視線が太腿に釘付けになっているのがわかる。
「さ、さようで? では、新金貨で四千……」
さらに足を持ち上げ、太腿の奥が見せそうにする。
「いえ! 三千でけっこうでさ!」
「暑いわね……」
まだ、答えずに、シャツのボタンを外し始める。
「シャツ、脱いでしまおうかしら……。 よろしくて? ご主人」
ココで少し流し目を送る。
「おお、お値段を間違えておりました! 二千で! へえ!」
まだ答えず、シャツのボタンを一個外す。
「千八百で! へえ!」
さらにもう一個ボタンを外す。
胸の谷間がはっきりと見えていた。
「千六百で! へえ!」
今度はスカートの裾を持ち上げようとして、手を止める。
主人は、息を荒くしながらこちらを見ていた。
「千よ」
そう言って、またスカートの裾に手を伸ばし持ち上げようとして、手を止める。
「あ、ああ……」
「千」
「へえ! 千で結構でさ!」
そう言質をとると服装を直し、小切手に金額を書き込み、カウンターの上に叩きつける。
「買ったわ」
そして、剣をつかむと、用のなくなった店を出た。
店を出ると、中から悔しそうな声が聞こえてきた。
「あの剣を千で売っちまったよ!」
は〜、男って単純ね。
そして待っていた、タバサと合流して、あたし達は学院に帰っていった。
今日の買い物を終えて、ルイズの部屋に帰ってきた。
「ありがとな、ルイズ」
「いいわよ、別に」
剣を買った後、2、3着ほど洋服を買った上に、エプロンも手に入ったの良かった。
制服、だけで過ごす訳にもいかなかったし、料理中の汚れにもそれほど気を使わなくてよくなったからだ。
「まあ、明日の朝食は期待しててくれ」
「そう、楽しみにしているわね」
「ああ、それじゃあお休みルイズ」
「お休み、シロウ」
【次回、出るか、神出鬼没の盗賊?】