Fate and Zero

 

第7話 「追跡…」

 

 

 

遅い。

シロウの奴、食堂に行ってから結構経つのに、まだ帰ってきていない。

いつもならもうとっくに帰ってきているはずなのに、何かあったのかしら?

 

そう思って私は部屋の外に出た。

 

すると、キュルケの部屋から結構大きな物音がする。

 

また、男でも連れ込んでるのかしら?

やっぱり注意しなくちゃ。

 

そして、キュルケの部屋のドアを開ける。

 

そこには、下着姿のキュルケとシロウがいた。

 

……………

 

「な! 何やってんのよ! シロウ!」

 

下着姿のキュルケはなぜか疲れた様子をしていて、キュルケの性格を合わせるとココで何が起きていたのかが考えてしまった。

 

「ルイ『取り込み中よ。 ヴァリエール』」

 

シロウが何か言おうとしたことをキュルケが遮る。

 

「ツェルプストー! 誰の使い魔に手を出してんのよ!」

 

自分の中に怒りが満ちていくのがわかる。

 

「しかたないじゃない。 好きになっちゃったんだもん」

 

なぜかシロウがため息をつく。

 

「恋と炎はフォン・ツェルプストーの宿命なのよ。 身を焦がす宿命よ。 恋の業火で焼かれるなら、あたしの家系は本望なのよ。 あなたが一番ご存知のはずでしょう」

 

「来なさい。 シロウ」

 

じろりとシロウを睨む。

 

「ねえルイズ。 彼は確かにあなたの使い魔かもしれないけれども、意思だってあるのよ。 そこを尊重してあげないと」

 

「おい、だったら人の話を聞いてくれ」

 

シロウの声が響く。

 

「何かしら?」

 

「キュルケだったか? 俺は君と付き合う心算は無いから、これで帰らせてもらうよ。 それと忠告、からかい混じりでこんなことはしない方がいい。 自分を安売りしているのと一緒だ」

 

そういってシロウは私を連れて、部屋を出た。

 

 

 

シロウと一緒に自分の部屋に戻ると私はベットに腰掛けた。

 

「ねえ、シロウ? アナタ、キュルケとはあの部屋で何をしていたの」

 

ご、ご主人様としては使い魔が何をしていたのか知る義務があるから聞かないとね。

 

「ああ、彼女の使い魔のサラマンダーに連れられて、部屋に入って少し話をしていたら、窓から次々に人が来て、それを彼女が撃退していた。 そこにルイズが来たんだよ」

 

ウソはついてないみたいね。

まあ、キュルケには手を出していないならそれでいいわ。

 

「そう、分かったわ」

 

それにしても、なんかシロウ慣れてなかった?

 

 

 

 

「ところでルイズ」

 

「何?」

 

俺は気になっていたことを尋ねてみる。

 

「キュルケとは何だか仲が悪いみたいだけど何かあるのか?」

 

「私の実家があるヴァリエールの領地はね、ゲルマニアとの国境沿いにあるの。 だから戦争になるといっつも先頭を切ってゲルマニアと戦ってきたの。 そして、国境の向こうの地名はツェルプストー! キュルケの生まれた土地よ!」

 

「そうか…」

 

「つまり、あのキュルケの家は……。 フォン・ツェルプストー家は……、ヴァリエールの領地を治める貴族にとって不倶戴天の天敵なのよ。 実家の領地は国境挟んで隣同士! 寮では隣の部屋! 許せない!」

 

「家同士で仲が悪いのか…」

 

本人は否定するかもしれないがケンカ友達にみえたんだが。

 

「それに、キュルケのひいひいひいおじいさんのツェルプストーは、わたしのひいひいひいおじいさんの恋人を奪ったのよ! 今から200年前に!」

 

「随分昔の話だな」

 

よくそんな事伝わっていたと思う。

 

「それから、あのツェルプストーの一族は、散々ヴァリエールの名を辱めたわ! ひいひいおじいさんは、キュルケのひいひいおじいさんに、婚約者を奪われたの」

 

「はぁ」

 

なんかこの後の予想がつくぞ。

 

「ひいおじいさんなんかね! 奥さんを取られたのよ! あの女のひいおじいさんに! いや、弟の方だったかしら?」

 

「ともかく、ルイズの家系は、あのキュルケの家系に恋人を取られまくったワケか」

 

「それだけじゃないわ。 戦争の度に殺しあっているのよ。 お互いに殺し殺された一族の数は、もう、数え切れないわ!」

 

「そうなのか…」

 

やぶ蛇だったな。

 

「明日は買い物でしょ、もう寝るわ。 お休み」

 

「ああ、お休みルイズ」

 

そうして、俺たちは明日の事を思いつつ眠りに着いた。

 

 

 

日がかなり高くなりあたしは目を覚ました。

辺りを見回すと、周りが焼け焦げている。

しばらくぼんやりとしていたが、昨晩の出来事を思い出した。

 

「そうだわ、ふぁ、いろんな連中が顔を出すから、ふっ飛ばしたんだっけ」

 

起き上がって、服を着ると化粧をする。

今日はどうやってシロウを口説こうか、考えるだけでウキウキしてくる。

 

化粧を終えると、自分の部屋から出て、ルイズの部屋の扉をノックした。

だが、ノックの返事は無い。 開けようとしたが鍵が掛かっていた。

 

「しょうがないわね」

 

『アンロック』の呪文をドアにかけると、鍵が開く音がした。

学院内で『アンロック』の呪文を唱えるのは、重大な校則違反なんだけど、恋の情熱はすべてのルールを優越する、というのがツェルプストー家の家訓なのよ。

 

しかし、部屋の中はもぬけからで、二人ともいなかった。

あたしは部屋の中を見回してみる。

 

「相変わらず、色気の無い部屋ね……」

 

ルイズのかばんが無いことに気がつく。

虚無の曜日なのに、かばんが無いということはどこかに出かけたのだろうか?

窓から外を見てみる。

すると、門から馬に乗って出て行く、シロウとルイズの姿が見えた。

 

「なによー、出かけるの?」

 

それから少し考え込んで、ルイズの部屋を飛び出した。

 

そうよ、あの子に手伝ってもらいましょう。

 

 

 

目的の部屋にたどり着き、ドアをノックする。

かなり強めに叩いているのだが、返事が無い。

きっと読書に集中するために、『サイレント』の呪文を使っているに違いない。

そう思い、思いっきりドアを開けた。

 

そこには、青みがかった髪に、メガネの奥にブルーの瞳を持つ少女、あたしの数少ない友人のタバサが本の世界に没頭していた。

タバサは、小柄なルイズよりも5センチ低く、体の線も細いので、実際の年齢より4つか5つ若く見られることが多い。

 

「      」

 

「      」

 

何度か声を上げるが『サイレント』の呪文の効果でタバサに伝わっていないようだ。

 

すると、タバサが『サイレント』の魔法を解いた。

 

「タバサ。 今から出かけるわよ! 早く支度してちょうだい!」

 

タバサが短くぼそっとした声で答えた。

 

「虚無の曜日」

 

そう言うとタバサは本に目線を移す。

 

「わかってる。 あなたにとって虚無の曜日がどんな日だか、あたしは痛いほどよく知っているわよ。 でも、今はね、そんなこといってられないの。 恋なのよ! 恋!」

 

しかし、タバサは首を横に振った。

 

「そうね。 あなたは説明しないと動かないのよね。 ああもう! あたしね、恋したの! でね? その人が今日、あのにっくいヴァリエールと出かけたの! あたしはそれを追って、二人がどこに行くのか突き止めなくちゃいけないの! わかった?」

 

首を傾げるタバサ。

なぜ、自分に頼むか分からなかったらしい。

 

「出かけたのよ! 馬に乗って! あなたの使い魔じゃないと追いつかないのよ! 助けて!」

 

すると、タバサは頷いた。

 

「ありがとう! じゃ、追いかけてくれるのね!」

 

タバサは再び頷いた。

そして、窓を開け口笛を吹くタバサ。

ピューっと、甲高い口笛の音が、青空に吸い込まれていった。

 

それから、窓枠によじ登り、外に向かって飛び降りた。

あたしもそれに続いて飛び降りる。

 

そして、5階の窓から落下するあたし達を一匹のウィンドドラゴンが受け止めた。

 

「いつ見ても、あなたのシルフィードは惚れ惚れするわね」

 

タバサの使い魔はウィンドドラゴンの幼生で名前はシルフィードと言う。

 

シルフィードは寮塔に当たって上空に抜ける上昇気流を器用に捕らえると、一瞬で200メートルの空を駆け上った。

 

「どっち?」

 

タバサが尋ねてくる。

あ!しまった。

 

「わかんない……。 慌ててたから」

 

「馬二頭。 食べちゃだめ」

 

シルフィードは短く鳴いて主人に了解の意を伝えると、青い鱗を輝かせ、力強く翼を振り始めた。

上空に上って、草原を走る馬を見つけるのだ。

タバサは、忠実な使い魔が仕事を始めたのを確認すると、持って来た本に再び目を移した。

 

(ありがとね、タバサ。)

 

 

 

 

 

【次回、士郎君がとうとうあの剣と出会う……筈?】

 


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