Fate and Zero

 

第6話 「誘い…」

 

 

 

俺は、ルイズへの説明を終えて、厨房に来ていた。

 

「すいません、遅くなって」

 

俺は言葉は最後まで言えなかった。

 

「おう! 来たか『我らの剣』」

 

マルトーさんがいきなり抱きついてきた。

 

「なんですか、いきなり」

 

「おう、すまねえ。 いや〜、それにしても今日はスカッとしたぞ!」

 

周りの人たちもそれに合わせてうなずいていた。

 

「いったい、どうしたんですか」

 

一応、年上なので丁寧に聞く。

マルトーさんは俺から体を離すと、両腕を広げて見せた。

 

「お前はメイジのゴーレムを切り裂いたんだぞ! これがどういうことかわかっているのか!」

 

やっと納得がいった。

平民であるコックたちは貴族であるメイジの鼻っ柱を折った俺を英雄みたいに思っているのか。

 

「あいつらは確かに魔法は使える。 だが、平民の中にもそれを超えることの出来る奴だったいるんだ!」

 

『オー』

周りの連中もだんだんと熱くなっている。

 

「なあ、お前どこで剣を習った? どこで剣を習ったら、あんな風に振れるのか、俺にも教えてくれよ」

 

マルトーさんは俺の顔を覗き込んでくる。

 

「特別なことはしていませんよ。 ただ、練習を繰り返すだけです」

 

まあ、あの特訓が普通だったし。

 

「お前たち! 聞いたか!」

 

マルトーさんは厨房に響くように怒鳴った。

若いコックや見習いたちが、返事を寄越す。

 

「聞いていますよ! 親方!」

 

「本当の達人と言うものは、こういうものだ! 決して己の腕前を誇ったりはしないものだ! 見習えよ! 達人は誇らない!」

 

それに倣い、コックたちが嬉しげに唱和する。

 

「達人は誇らない!」

 

すると、マルトーさんはまたこちらの方をむいてきた。

 

「やい、『我らの剣』。 そんなお前がますます好きになったぞ。 どうしてくれる」

 

「いや…、どうしてくれるって言われても」

 

は〜、どうすりゃいいんだと、俺は思う。

 

「シエスタ!」

 

「はい!」

 

マルトーさんが、シエスタの方をむく。

そして、シエスタはニコニコしながら元気のよい返事を返した。

 

「我らの勇者に、アルビオンの古いのを注いでやれ」

 

シエスタは満面の笑みを浮かべ、ぶどう酒の棚から言われたとおりのヴィンテージを持ってくる。

 

「どうぞ、シロウさん」

 

そう言って、俺にグラスをわたしその中にぶどう酒を注いでくる。

酒については色々な人に飲まされた経験があり、かなり強い方だ。

そして俺は周囲の目もあり、断れ切れずそのまま飲み干す。

けっして、シエスタが上目で覗いてきたからでは無いはずだ、…たぶん。

 

「シロウさん、今日はありがとうございました」

 

ぶどう酒を一気飲みした俺に、シエスタが話しかけてくる。

 

「ん? 何かしたっけ」

 

シエスタにお礼を言われる心当たりの無い俺。

 

「いえ、その…と、取り乱したところを…」

 

尻すぼみになっていくシエスタの言葉。

 

「ああ、気にしなくていいよ。 シエスタたちにとってはあれが普通の反応だったんだろう」

 

「いえ、でも」

 

「だから、気にしなくていいよ。 どうしてもって言うならもう1杯注いでくれないか?」

 

俺は空になったグラスをシエスタに差し出す。

 

「はい!」

 

シエスタは満面の笑みを浮かべグラスにぶどう酒を注ぎ足してくれた。

 

 

 

「ところでマルトーさん」

 

「なんだ『我らの剣』」

 

「いや、その呼び方はやめてほしいんですけど…。 調理の件について」

 

俺はマルトーさんに本題をきりだす。

 

「ああ、我らの英雄の頼みだ、好きに使ってくれ」

 

俺の背中を叩き、笑いながらそう言ってくれた。

 

「それじゃあ、ちょっと使わせてもらいますね」

 

さっそく、俺はルイズの夕食の準備に取り掛かった。

 

その時、俺は料理に集中していて、監視をしている存在に気がつかなかった。

 

 

 

そして、夕食の時間となる。

 

「ルイス、夕食だぞ」

 

そう言いながら俺は机の上に、持って来た夕食を準備し始めた。

 

「わかったわ」

 

そういってルイズは席に着く。

それと同時に驚きの表情が浮かぶ。

 

「え? これ、全部シロウが作ったの?」

 

目の前に出されたコース料理に驚きを隠せない様子でいるルイズ。

 

「ああ、そうだぞ。 まあ今日は、初めてあの厨房を使ったんで使い勝手がよくわからなかったが、次からはもう少し手の込んだものも作れるぞ」

 

ルイズの驚きも当然だろう。

他のコックの人たちも驚いていたし、マルトーさんも半ば本気で俺をコックに勧誘していたしな。

 

「あんた、本気で何者よ……」

 

「まあ、料理なんかについちゃ、俺がやらないといけない状況が殆どだったからな。 いやでも上達するさ」

 

哀愁を漂わせた俺の言葉にルイズの追求がやむ。

 

「そ、そう。 まあいいわ」

 

そう言ってルイズは祈りをはじめる。

 

「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。 今夜もささやかな糧を我に与えたもうことを感謝いたします」

 

言い終わると、早速前菜に取り掛かるルイズだった。

 

 

 

私は夕食を終えると、本気であの使い魔、シロウの事を考え始めた。

シロウは戦闘はもちろんの事、家事全般についても私の知っている限りでは最高レベルを誇っていた。

掃除、洗濯はもちろんの事、今日出された夕食は絶品だった。

特に最後に出されたデザートのチョコレートケーキは甘さをしつこくない所ギリギリまで見極めて作ってあり、まさにプロの仕事と言えた。

 

「は〜、すごすぎ」

 

シロウがあれ程の腕を持っているとは思っていなかった。

それに、何かマダマダ隠し玉がありそうな感じもする。

 

「まあ、私もしっかりしないとね」

 

そう思いなおして私は今日の復習をし始めた。

 

 

 

決闘から数日が経ったある日、俺はいつも通りに、食器を厨房に返し終わり俺は部屋に戻ろうとしていた。

 

「まあ、今回もルイズに食事を気に入ってもらえてよかった」

 

知らず知らずのうちに笑顔を浮かべながら食事をしていたルイズを思い浮かべる。

ちょうどその時、俺の目の前に一匹のサラマンダーが現れる。

 

「確か、キュルケって子の使い魔だったよな」

 

そして、サラマンダーは俺にちょこちょこと近づいてきた。

きゅるきゅる、と人懐っこい感じで、サラマンダーは鳴いた。

 

それから、俺の上着の袖をくわえると、ついて来いというように首を振った。

 

「ついて来いって言うのか?」

 

袖をくわえたまま、うなずくサラマンダー。

 

「わかったよ」

 

そして、目の前の開けっ放しのドアについていった。

 

(ん?いったい俺に何のようだ?)

 

キュルケとは一度会っただけで、特に思い当たることも無く、腑に落ちない気分で、キュルケの部屋のドアをくぐった。

 

 

 

部屋に入ると、中は真っ暗だった。

サラマンダーの周りだけ、ぼんやりと明るく光っている。

暗がりから、キュルケの声がした。

 

「扉を閉めて?」

 

言われたとおりに、ドアを閉めた。

 

「ようこそ。 こちらにいらしゃい」

 

「いや、部屋が真っ暗なんだけど」

 

キュルケの指を弾く音が聞こえた。

すると、部屋の中に立てられたロウソクが、一つずつ灯っていく。

 

(魔法の道具か、日用品にこれほど普及してるなんてな)

 

道明かりを照らす街灯のように、ロウソクの明かりが浮かんでいき、キュルケの傍のロウソクがゴールだった。

ぼんやりと、淡い幻想的な光の中に、ベットに腰掛けたキュルケの悩ましい姿があった。

下着姿のキュルケ、その胸が下着を持ち上げて今にもはち切れんばかりの様子だった。

 

「そんなところに突っ立ってないで、いらっしゃいな」

 

「な、何の用?」

 

経験上なにやら、あまりよくないことが起こりそうな気がしてその場に踏みとどまる。

が、やはり自分の心臓の鼓動がかなり早くなっているのを自覚している。

 

(落ち着け。 落ち着け)

 

キュルケは燃えるような赤い髪を優雅にかきあげて、俺を見つめる。

ぼんやりとしたロウソクの明かりに照らされたキュルケの褐色の肌は、野生的な魅力を放っている。

 

(これぐらいなら大丈夫だ、まだまだ理性はある)

 

今まで、狙われてきたせいで多少の抵抗力がついていることに、この時少なからず感謝した。

 

キュルケは大きくため息をつき、そして、悩ましげに首を振った。

 

「あなたは、あたしをはしたない女だと思うでしょうね」

 

「キュルケ?」

 

「思われても、しかたがないの。 わかる? あたしの二つ名は『微熱』」

 

「ああ、聞いたけど」

 

下着の隙間から見えている胸の谷間を、見ないように心がける。

 

「あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。 だから、いきなりこんな風にお呼びだてしたりしてしまうの。 わかっている。 いけないことよ」

 

「そ、そうだね」

 

ココまで来ると、呼び出された用件がなんとなくわかってきた。

 

「でもね、あなたはきっとお許しくださると思うわ」

 

キュルケの潤んだ瞳が俺を見つめる。

こんな風にキュルケに見つめられると、大抵の男はノックダウンするに違いない。

 

「何を?」

 

キュルケがすっと俺の手を握ってきた。

キュルケの体温が感じられ、自分自身の体温が少し上がった気がした。

 

「恋しているのよ。 あたし。あなたに。 恋はまったく、突然ね」

 

真剣な表情で俺を見つめてくるキュルケ。

 

「あなたが、ギーシュを倒したときの姿……。 かっこよかったわ。まるで伝説のイーヴィルディの勇者みたいだったわ! あたしは、それを見て痺れたのよ。 信じられる! 痺れたのよ! 情熱! あああ、情熱だわ!」

 

この手の性格は知り合いにもさすがに……いたよ、似たような人。

 

「二つ名の『微熱』はつまり情熱なのよ! その時から、あたしはぼんやりとしてマドリガルを綴ったわ。 マドリガル。 恋文よ。 あなたの所為なのよ。 シロウ。あなたが毎晩あたしの夢に出てくるものだから、フレイムを使って様子を探らせたり……。 ほんとに、あたしってば、みっともない女だわ。 そう思うでしょう? でも、全部あなたの所為なのよ」

 

フレイムってのは使い魔のサラマンダーの名前か。

しかし、どう言ったらいいのか俺は返答につまる。

キュルケは俺の沈黙を、イエスと受け取ったのか、ゆっくりと目をつむり、唇を近づけてきた。

確かに彼女は魅力的だが、ココでキスをすると後々面倒な事になるのは俺でも十分にわかることだった。

だからこそ、俺はキュルケの肩を押し戻した。

 

「ストップ。 今までの話を要約してみると、君は惚れっぽい?」

 

図星だったようで、キュルケは顔を赤らめた。

 

「そうね……。 人より、ちょっと恋っ気は多いかもしれないわ。 でもそかたないじゃない。 恋は突然だし、すぐにあたしの体を炎のように燃やしてしまうんだもの」

 

キュルケがそう言ったとき、窓の外が叩かれた。

そこには、恨めしげに部屋の中を覗く、1人のハンサムな男の姿があった。

 

「キュルケ……。 待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば……」

 

「ペリッソン! ええと、2時間後に」

 

「話が違う!」

 

キュルケは煩そうに、胸の谷間に差した派手な魔法の杖を取り上げると、そちらのほうを見もしないで杖を振るった。

ロウソクの火から、炎が大蛇のように伸び、窓ごと男を吹っ飛ばした。

 

「まったく無粋なフクロウね」

 

その光景を唖然として俺は見ていた。

 

「でね? 聞いている?」

 

「今の人は?」

 

大丈夫?と続ける前にキュルケの言葉が入る。

 

「彼はただのお友達よ。 とにかく今、あたしが一番恋しているのはあなたよ。 シロウ」

 

キュルケは再び唇を近づけてくるが、今度は窓枠が叩かれた。

 

ここからがキュルケの凄いところで、次々に約束を取り付けていた男たちが押し寄せて来る。

 

(いや〜すごいなこれは)

 

 

 

キュルケが最後の人物を片付けたと思った、その時、いきおいよくドアが開け放たれた。

また、男かと思ったが、ネグリジェ姿のルイズだった。

 

 

 

 

 

【何とかキュルケの手にかかっていない士郎くん。 ルイズを交えての三つ巴? どうなる、次回をお楽しみに】

 


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