Fate and Zero
第5話 「魔術…」
私は、広場からシロウをつれて自分の部屋へと戻っていた。
「ねえ、いったいどうやってギーシュに勝ったの?」
あの動きを見たら、シロウがただの平民じゃないのは明らかだ。
「見てただろう、蹴りと剣を使って勝ったぞ」
平然と言い放つシロウに対し熱くなる。
「そんなことじゃないわよ! 蹴りで青銅のゴーレムを砕くは、いきなり剣で切り刻むは、…そうよ! あの剣、いったい何処から取り出したのよ! シロウはそんな物持ってなかった筈よ!」
そうだ、あの剣捌きもそうだが、剣なんてシロウは持ってなかったはずだ。
「ああ、それについちゃあ『魔術』を使った」
「え? 『魔術』って何よ!」
知らない単語がいきなり出てきた。
「ん〜、『魔術』ってのは俺のいた世界では、この世界の『魔法』に当たるもんだと考えてくれていい」
「『魔法』ですって! シロウ。アンタ、魔法は使えないって言っていたじゃない!」
「ああ、俺は現時点では『魔法』は使えないぞ」
シロウの言葉に、訳が分からなくなりそうだ。
「じゃあ、いったいなんなのよ!」
「ああ、前にも言ったが、この世界と俺のいた世界の『魔法』に対しての認識が違う」
「うん」
「この世界の『魔法』は世界を構成するものに直接働きかけるものだ、俺が見た感じこの世界の『魔法』は世界を構成する核みたいなものに魔力で干渉し変化させていた」
そのシロウの言葉に考え込む。
たしかに、昔見た本に『魔法』とは世界に干渉するものだと書かれていた。
「俺たちの世界では、『魔術』と『魔法』という2つの概念がある。 『魔術』とは等価交換を基本とし世界に存在することを魔力を使い行うことだ。 杖などの触媒を絶対に使う必要は無いが詠唱を必要とするものが殆どだ。 今見た限りじゃこの世界の『魔法』とのできる事の差は余り無いな(難易度の差はあるがな)。 一方、俺たちの世界の『魔法』は、世界には存在し得ない事をするんだ。 今じゃ、5つしか残ってないことになってる」
「そっちの『魔法』って例えばどんな事ができるの?」
「そうだな…。 時間移動や死者を甦らせるなんかだな」
ぽつりとでる、シロウの言葉に絶句する。
「え〜〜〜! 何でそんなことできるのよ!」
「まあ、そんな事を『魔法』といいそれ以外を『魔術』って一応呼ばれているんだ。 まあ、これは簡単な説明だから実際はもうちょっと複雑なんだよ」
苦笑するシロウを見つめる。
「まあ、良いわ。 だったら、シロウはどんな『魔術』が使えるの? 一応、使い魔が出来ることは把握しておきたいし」
「まあ、いいぞ。 俺自身が基本的に使える魔術は5つだ」
「5つ? 案外少ないのね」
「まあね、俺は『魔術師』としての才能はあんまり無かったからな。 特化型なんだよ」
「そう」
でも、殆ど『魔法』を成功させたことがないのは自分だ、少し落ち込む。
それを察したのかシロウがやさしく声をかける。
「落ち込むな、ルイズ。自分の『系統』の目星がついたんだ、これから伸ばせばいい。 俺も師匠に会うまでは、ろくに魔術が使えなかったんだから」
「ええ」
そうだ、これからだ!
「続けるぞ。 まず1つ目は『強化』。 比較的初歩の『魔術』で、対象に魔力を通し存在を高める。 これは自由度が高いため極めるのが難しい魔術だ。 俺は自分の身体能力の強化と武器類などに対してしか使えない。 まあ、応用としてこれをわざと失敗して劣化させることができる」
「そうか! あのゴーレムを蹴りで砕けたのはそれね!」
それで、ゴーレムの強度を下げたのか、一つ謎が解けてすっきりする。
「その通りだ。 これは対象の対魔力が低くないとできない裏技みたいなもんだ」
「?『対魔力』って?」
「まあ、この世界では『精神力』って言われているのは、俺の世界じゃ『魔力』っていう。 『対魔力』ってのは、それに対抗する抵抗力のことだ。 何度か魔力っていってたが通じてたみたいだな」
「そうね、一般的には『精神力』って言うけど一部に魔法の力だから『魔力』って言っている人たちもいるのよ」
「そうか。 次に『変化』。 これは物質の構造なんかを変える『魔術』だ。 俺は形の変化ぐらいしか出来ないがな。 そして『解析』。 これはものの情報を読み取る『魔術』だ。 俺はこの分野ではトップクラスの解析能力で生物以外なら、殆どのものの解析が出来る」
「じゃあ、『魔法』なんかも?」
「ああ、一応できるぞ。 あのゴーレムも解析したし」
これは、ちょっと凄いんじゃないだろうか。
「次に行くぞ。4つ目は『結界』。 これは基本的に外界と切り離すという効果を持っている。 まあ、叩き込まれたおかげで『人払い』なんかの効果を持つ結界を張れるぞ」
ふ〜ん、まあそれ程たいしたものじゃなさそうね。
「最後に『投影』だ」
「それはどんな『魔術』なの?」
「これは別名『グラデーション・エア』と言って、魔力を物質化しレプリカを作り出すものだ」
「魔力の物質化ですって! そんなの反則よ!」
非常識だ! そんなことが出来るなんて。
「いやそうでもないぞ」
「なんで?」
「これは本来、儀式なんかで手にはいらないか、すでに失われたオリジナルを数分間だけ代用するために作り出されたものだ。 普通はすぐのに消えてしまう。 それに殆どは中身の無いガラクタだ」
「普通は、って事はシロウは違うんでしょう」
おそらくあのゴーレムたちを切り刻んだ剣は『投影』で作り出したものだ。
しかし、あれはガラクタどころのものじゃなかった。
「ああ、俺は武器関係、特に『剣』に関しては殆どオリジナルに近い能力と強度で作り出すことができ、使用したり壊されたりしない限り半永久的に残る」
なんて、でたらめなの。
こっちの『魔法』では『魔力』つまり『精神力』を物質化するなんて事はできない。
でも、数分間限りのガラクタなら納得できただろう、しかし半永久的になんてでたらめすぎる。
「でも、剣なんて効率が悪すぎるわね」
剣なんて中距離や遠距離からの攻撃に対応できないし、使い勝手はよくない筈だ。
「そうでもないぞ、この世界では剣には魔術的な付加は備わっているものは少なそうだが、俺の世界では色々な聖剣、魔剣なんかがあってそれには様々の効果がある。 それらを使ったらこの学園を更地にすることも出来るぞ」
何気ない一言をさらりと言ってのける。
「ぶ、物騒ね」
冷や汗をかいているのが分かる。
「まあ、そんなのは余り対人戦じゃ使わないし、今回使った剣は割とできは良い普通の剣だ。 それに、そんなのを使ったらあからさまに怪しいだろうが、だからルイズも俺の能力は人に出来るだけ言わないでほしい。 異世界の技術に目がくらむ奴らをいちいち叩きのめすのも面倒だし。 ルイズをそんなことに巻き込みたくない」
「そ、そう。分かったわ」
(シロウは私のこと心配してくれるんだ。)
(いや、つ、使い魔がご主人様を守るのは、と、当然のことよ!)
(でも、シロウって護衛の使い魔としては強力な存在なのよね。それを引き当てたのは…)
なにやらルイズが1人顔を赤くして考え込んでいるようだ。
(ど、どうしたんだいったい?)
「ところで、ルイズ。 俺からも質問があるんだが」
「な、なに!」
声をかけたら、びっくりした声でルイズが反応する。
「このルーンはいったいどんなものなんだ?」
「え?」
ルイズは分からないのか首をかしげる。
「いやな、剣を使ったときに、このルーンからそれの最適な使い方が送られてきて、なおかつ身体能力も上がったんだ」
「どういうこと?あの剣捌きはシロウがやったんじゃないの?」
「いや、やろうと思えば出来るだろうが『魔術』を使わないと正直きつい。 他のルーンと比べて、どうなんだ?」
考え込むルイズ。
「……そうね、他のルーンはそんな効果は聞いたことが無いわ。 普通、ルーンは使い魔の証と言うだけのものだもの。 使い魔の契約をしたとき、に特殊能力を得ることがあるって聞いたことがあるけど、それかしら?」
「そうか…」
ふと、一つの可能性に気づいた。
「なあ、始祖『ブリミル』だったけ、その人の使い魔にこれと同じルーンをした使い魔はいないのか?」
ルイズが『虚無』の使い手だとするとこのルーンは『虚無』専用の使い魔の可能性があり、同じく『虚無』の使い手である始祖『ブリミル』の使い魔も所持していた可能性がある。
「分からないわ。 元々『虚無』は失われた系統でそれに関係した資料は余り残っていないの」
「そうか、だったらこの件は保留にしよう」
うん、とうなずくルイズ。
「だったら、俺の服と剣についてだな」
「え? 服はともかく、剣なんて必要ないじゃない」
まあその疑問は当然か。
「いや、あまり『投影』は人目にさらしたくない。 今回のは、ほかの事に話題が集中するだろうし、出した瞬間は見ていないはずだから、これから見せなければうやむやになるはずだ。 でも、あまり続けているとおかしく思う連中が出てくる」
「そうよね」
納得してくれたみたいだ。
「だったら、今度の虚無の曜日に買い物に行くからついてきなさい」
「ああ、ありがとう」
にっこりと、笑うとルイズの頬に赤みが増す。
「別にいいわよ、アンタは私の使い魔なんだから」
ルイズの優しさだろう、少しひねているけど。
こうして、ルイズへの説明を終える。
(さてと、とっと食堂に戻るか)
【次回、あの人が再登場どうでる、ルイズ。 守りきれるか、ルイズ】