Fate and Zero

 

第4話 「決闘…」

 

 

 

ヴェストリ広場は、魔法学院の『風』と『火』の塔の間にある、中庭にあった。

西側にあるこの広場には、決闘の噂を聞きつけた生徒たちで、溢れかえっていた。

 

「諸君! 決闘だ!」

 

ギーシュが薔薇の造花を掲げると、『うおーッ!』と暇人たちの歓声が巻き起こった。

 

「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの使い魔だ!」

 

(まったく、何処の世界にもこんな野次馬連中はいるもんだな)

 

ギーシュは腕を振って、歓声にこたえている。

しばらくして、ギーシュは俺のほうを睨みつける。

 

「とりあえず、逃げずに来たことは、誉めてやろうじゃないか」

 

ギーシュは薔薇の造花を弄りながら言った。

 

(あれは魔法具か。 さてと、どうやって勝負を決めようか? 周囲の目があるからそれほど強力な武器は使えないしな。 それに平民ってことになってるから、おおっぴらに魔術を使用しながらの戦いはできないな)

 

「おいおい、勝つと決まってるのに、なんで逃げなきゃならないんだよ」

 

ギーシュをさらに挑発し、平常心をさらに奪う。

 

「ならば、貴族の力を思い知れ!」

 

ギーシュが薔薇を振るい、その花びらの1枚が宙に舞う。

そして、甲冑を来た女戦士の形をした人形となる。

 

(ふ〜ん、金属製のゴーレムか)

 

『解析』 材質:青銅  対魔力:F  種別:半自動型ゴーレム

 

(対魔力:Fって、ほぼゼロに近いじゃないか。 でも花びらの数から見て、他に何体か使役できそうだな。 半自動型なのは、少し厄介だが気にするほどじゃない。 対魔力:Fだとあれが使えるな)

 

「さあ、僕の二つ名は『青銅』。 青銅のギーシュが作り出した、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手しよう」

 

そして、『ワルキューレ』が俺に向かって突進してくる。

 

 

 

ギーシュとシロウの決闘が始まってしまった。

 

(あのバカ、いくらなんでも魔法を使えない平民が貴族に勝てるわけないじゃない)

 

そう思っているうちに、『ワルキューレ』の拳がシロウにせまる。

 

(やられる!)

 

私はそう思った。

 

しかし、シロウは体をひねりその拳を受け流すと、『ワルキュレ』の胴体部分に掌打を決める。

その掌打によって『ワルキューレ』がバランスを崩す。

そして、続けざまに同じところへと鋭い蹴りを放つ。

しかし、青銅の体である『ワルキューレ』には通じない。と、誰もがそう思ったはずだ。

だが、予想に反しシロウの放った蹴りは『ワルキューレ』の青銅の体を打ち砕いた。

 

「うそ!」

 

粉々になった『ワルキューレ』、その信じられない光景に私は呆然とした。

他のメイジたちもそうだろうが、一番信じられないのはギーシュのはずだ。

 

「バカな! ただの蹴りで僕の『ワルキューレ』が破壊されるはずがない」

 

「もうお仕舞いか?」

 

淡々とシロウがギーシュに問いかける。

 

「まだだ!」

 

ギーシュはそう言い放つと、手に持つ薔薇を振るう。

そして新たなゴーレムが6体現れた。

 

 

 

 

 

私はオスマン氏に、春の使い魔召喚の際にルイズが召喚した少年のことを説明していた。

ルイズがその少年と『契約』した際に現れたルーンについて気になり、それについて調べていたら……

 

「始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に行き着いた、というわけじゃね?」

 

オスマン氏は私の書いた少年に現れたルーンのスケッチをじっと見つめている。

 

「そうです! あの少年の左腕に刻まれたルーンは、伝説の使い魔『ガンダールブ』に刻まれたいたモノとまったく同じであります!」

 

「で、君の結論は?」

 

「あの少年は、『ガンダールヴ』です! これが大事じゃなくて、なんなんですか! オールド・オスマン!

 

私は、大きな声を上げオスマン氏にうったえかける。

 

「ふむ……。 確かにルーンが同じじゃ。 ルーンが同じということは、ただの平民だったその少年は、『ガンダールブ』になった、ということになるんじゃろうな」

 

「どうしましょう」

 

「しかし、それだけで、そう決めつけるのは早計かもしれん」

 

「それもそうですな」

 

ちょうどその時、ドアがノックされた。

 

「誰じゃ?」

 

扉の向こうから、ミス・ロングビルの声が聞こえてきた。

 

「私です。 オールド・オスマン」

 

「なんじゃ?」

 

「ヴェストリ広場で、決闘をしようとしている生徒がいるようです。 大騒ぎになっており、止めに入ろうとしている教師がいますが、生徒たちに邪魔されて、止められないようです」

 

「まったく、暇をもてあました貴族ほど、たちの悪い生き物はおらんわい。 で、誰が暴れておるんだね?」

 

「1人は、ギーシュ・ド・グラモン」

 

「あの、グラモンとこのバカ息子か。 オヤジに輪をかけて女好きじゃからの、おおかた女の子の取り合いじゃろう。 まったく、あの親子は。 相手は誰じゃ?」

 

「……それが、メイジではありません。 ミス・ヴァリエールの使い魔の少年のようです」

 

ミス・ロングビルの言葉に私とオスマン氏は顔を見合わせた。

 

「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」

 

オスマン氏の目が、高のように鋭く光る。

 

「アホか。 たかが子供のケンカを止めるのに、秘宝を使ってどうするんじゃ。 放っておきなさい」

 

「わかりました」

 

ミス・ロングビルが去って行く足音が聞こえた。

 

 

「オールド・オスマン」

 

「うむ」

 

オスマン氏は、杖を振るった。

そして、壁にかかった大きな鏡に、ヴェストリ広場の様子が映し出された。

 

 

 

 

 

新たに現れた6体のうち2体の『ワルキューレ』がシロウに飛びかかる。

が、2体の『ワルキューレ』は、ぐしゃっと音を立てて、真っ二つになり地面に落ちる。

 

(え?!)

 

「な!!」

 

シロウの左手にはいつの間にか剣が握られていた。

『ワルキューレ』を切り裂くと同時に、シロウはギーシュにめがけて突っ込む。

 

それを見て、すぐにギーシュは残り全ての『ワルキューレ』でシロウを囲む。

そして一気に揉みつぶす……。 かに見えた瞬間、4体の『ワルキューレ』はバラバラに切り裂かれていた。

 

(速すぎる!)

 

振るう剣がまったく見えない、閃光がはしったと思うとその時にはすでに終わっている。

あんな風に剣を振るえる人間がいるとは思えなかった。

 

無防備なギーシュの体にシロウの右拳が突き刺さり、派手に飛ぶ。

地面に寝転がったギーシュの顔に、シロウは右手に持ちかえた剣を突きつける。

 

「まだ、続けるか?」

 

呟くように、しかしはっきりと聞こえるシロウの声。

ギーシュは首を振る。

その目は、完全に戦意を喪失していた。

 

「ま、参った」

 

震えるギーシュの声がこの決闘の終わりの言葉となった。

 

周りからは信じられない歓声が起きる。

 

信じられなかった、目の前の出来事が。

だれが、信じるだろうか、魔法の使えない平民が、メイジに勝つなど。

私は駆け寄った、自分の使い魔に。

 

「シロウ!」

 

気楽に返事をするシロウ。

 

「おお、ルイズ。 勝ったぞ」

 

まるで当たり前のように、そこに立つ自分の使い魔。

 

「なんなのだ、君は」

 

立ち上がったギーシューから、怯えを含んだ声をかけられる。

 

「現在はルイズの使い魔、衛宮 士郎。 それだけだ」

 

そう、自信満々に言い放つシロウの言葉に、心の中の何かが熱くなるのを感じた。

 

 

 

 

 

『遠見の鏡』で一部始終を見終えると、ワシとミスタ・コルベールは顔を見合わせる。

 

「オールド・オスマン」

 

「うむ」

 

「あの少年が、勝ってしまいましたが……」

 

「うむ」

 

「ギーシュは一番レベルの低い『ドット』メイジですが、それでも平均以上の実力者です。 それが唯の平民に敗れるわけはありません! やはり彼は『ガンダールヴ』!」

 

興奮するミスタ・コルベール。

 

「うむむ……」

 

「オールド・オスマン。 さっそく王室に報告して、指示を仰がないことには……」

 

「それには及ばん」

 

「どうしてですか? これは世紀の大発見ですよ! 現代に蘇った『ガンダールヴ』!」

 

もっともな疑問じゃな。

 

「ミスタ・コルベール。 『ガンダールヴ』はただの使い魔ではない」

 

「そのとおりです。 始祖ブリミルの用いた『ガンダールヴ』。 その姿形の記述はありませんが、主人の呪文詠唱の時間を守るために特化した存在と伝え聞きます」

 

「そのとおりじゃ。 始祖ブリミルは、呪文を唱える時間が長かった……、その強力な呪文ゆえに。 知ってのとおり、詠唱時間中のメイジは無力じゃ。 そんな無力な間、己の体を守るために始祖ブリミルが用いた使い魔が『ガンダールヴ』じゃ。 その強さは……千人もの軍隊を壊滅させるほどの力を持ち、並みのメイジたちではまったく歯が立たなかったとされるほどじゃ。 ……で、ミスタ・コルベール」

 

「はい」

 

「その少年は、本当に唯の人間だったのかね?」

 

「はい。 どこからどう見ても、唯の平民の少年でした。 ミス・ヴェリエールが呼び出した際に、念のため『ディテクト・マジック』で確かめたのですが、彼はメイジでは無く、正真正銘、唯の少年でした」

 

「そんな『唯』の少年を、現代の『ガンダールヴ』にしたのは、誰なんじゃね?」

 

「ミス・ヴェリエールですが……」

 

「彼女は優秀なメイジなのかね?」

 

「いえ、というか、むしろ無能というか……」

 

「ミスタ・コルベール。 ここに謎が2つある」

 

「なんですか?」

 

「まず1つ目は、無能なメイジと契約した少年が、何故『ガンダールヴ』になったかということ」

 

「そうですね……」

 

「2つ目は、少年は本当に『唯』の少年なのかということ」

 

「オールド・オスマン何か疑問でもおありですか?」

 

「ああ、他の連中は彼の戦闘力に注目しすぎて見過ごしておるが、あの剣はいったい何処からでてきたんじゃろうか? ちょうどあのゴーレムが蹴りで粉々になって注意がそれておった時……」

 

「あ!」

 

「ワシは、彼が何か呟いたように見えたんじゃよ」

 

ワシらには疑問が残される。

 

「とにかく、王室のボンクラどもに『ガンダールヴ』とその主人を渡すわけにもいくまい。 そんなオモチャを与えてしまっては、また戦でも引き起こすじゃろうて。 宮廷で暇をもてあましている連中はまったく、戦が好きじゃからな」

 

「ははあ。 学院長の深謀には恐れ入ります」

 

「この件はわしが預かる。 他言無用じゃ。 ミスタ・コルベール」

 

「は、はい! かしこまりました!」

 

そう言うとミスタ・コルベールこの部屋から出て行く。

 

「ふう〜。 ……伝説の使い魔『ガンダールヴ』か……」

 

あらゆる『武器』を使いこなしたとされる『ガンダールヴ』。

 

(あの、少年は……。 あまりにも堂々としすぎておる。 もし、『ガンダールヴ』に『なった』『平民』にしては……。 おそらく彼は、平民ではない、しかしメイジでもない)

 

 

 

 

 

【次回、問い詰めるルイズに対抗できるか士郎くん】

 


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