Fate and Zero

 

第3話 「挑戦…」

 

 

 

(えっ〜と、ここの料理長に会うにはどうすればいいんだ?)

ルイズの食事を作るため、俺はこの学校の厨房へと向かっていた。

 

「あのう〜、どうかなさいましたか?」

 

声のした方へと振り向くと、大きな銀のトレイを持ち、メイドの格好をした俺と同い年くらいの黒髪の少女がこちらを心配そうに見ていた。

 

「すみません、ココの厨房を取り仕切っている人に会おうと思いまして」

 

「ああ! コック長の事ですね。 分かりました、ご案内します。 それと、楽に喋ってくれてかまいませんよ」

 

少女はにっこりと屈託の無い笑顔を見せながら言った。

 

「ありがとう。 ああ、俺の名前は衛宮 士郎っていう、好きなように呼んでくれ」

 

俺もその笑顔につられて、顔に笑みを浮かべながらそう言う。

 

「か、変わったお名前ですね……。 わ、私はシエスタって言います」

 

シエスタは少しうつむきながらそう言う。

 

(ん〜? どうしたんだ?)

 

「こ、こちらです。 ついて来て下さい」

 

シエスタは早足で歩いて行く。

気のせいか頬が少し赤くなっている。

 

(風邪か?)

 

本当に、どうしたのか俺は考えながら、シエスタに遅れないようについて行った。

 

 

 

食堂の裏にある厨房に着き、シエスタからある人物を紹介してもらっていた。

 

「シロウさん、こちらがコック長のマルトーさんです」

 

紹介されたのは、年の頃は40過ぎの、丸々と太ったおっさんだった。

 

「おう、坊主。 おれになんか用なのか?」

 

「ええ、ルイズ。 いえ、ココの生徒の食事を1人分、自分で作りたいので厨房を貸していただけませんか?」

 

「ん〜、あんたコックか?」

 

マルトーさんが嫌そうに聞いてきた。

 

「本職じゃありませんが何度か経験はあります」

 

その言葉に何か考え込むマルトーさん。

 

「あんたの話はわかった。 しかし、いきなり他人に厨房は任せられねえ。 幾つか俺の出す課題を合格出来たら許してやるよ」

 

「まあ、当然ですね。 分かりました、何から始めればいいんですか?」

 

辺りを見回すマルトーさん、そしてニヤリとわらう。

 

「そうだな、まずはそこのシエスタの手伝いから始めてもらおうか」

 

 

 

大きな銀のトレイに、デザートのケーキが並んでいる。

俺がそのトレイを持ち、シエスタがはさみでケーキをつまみ、一つずつ貴族に配って行く。

 

「す、すいません、シロウさん。 お手伝いしてもらって」

 

申し訳なさそうに、シエスタが言ってくる。

 

「ああ、別にいいよ。 こっちの事情もあるんだし」

 

(しかっし、本当はただ人手がほしかっただけじゃないのか? あのおっさん)

 

「そうですか。 でも、ありがとうございます」

 

そういって、微笑むシエスタ。

 

(まあいいか)

 

 

 

金髪の巻き髪に、フリルのついたシャツを着て、薔薇をシャツのポケットに挿している、メイジがいた。

周りの友人らしき人が、口々に彼を冷やかしている。

 

「なあ、ギーシュ! お前、今は誰とつきあっているんだよ!」

 

「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」

 

ギーシュと呼ばれたメイジは、すっと唇の前に指を立てた。

 

「つきあう? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。 薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」

 

(はあ〜、ナルシストかよ。 まあ、この程度のキチガ○には悲しいけど耐性がついてるからな)

 

そのとき、ギーシュのポケットから何かが落ちた。

ガラスでできた小壜である。

中に紫の液体が揺れている。

余りキチガ○には、かかわりたくないがしかたない。

 

「おい、ポケットから小壜が落ちたぞ」

 

しかし、ギーシュは振り向かない。

 

(はあ〜〜〜)

 

俺はシエスタにトレイを持ってもらうと、しゃがみこんで小壜を拾った。

 

「ほら、落し物だ」

 

それをテーブルの上におくと、ギーシュは苦々しげに、俺を見つめ、その小壜を押しやった。

 

「これは僕のじゃない。 君は何を言ってるんだね?」

 

しかし、すぐにその小壜のことに思いあたった友人が騒ぎ始めた。

 

「おお?その香水は、もしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」

 

「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」

 

「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今、モンモランシーとつきあっている。 そうだな?」

 

「違う。 いいかい? 彼女の名誉のために言っておくが……」

 

ギーシュが何か言いかけたとき、後ろのテーブルに座っていた栗色の髪をし、茶色のマントを着けた少女が立ち上がり、ギーシュの席に向かいコツコツと歩いて行く。

着ているマントの色からすると、1年生なのだろう。

 

「ギーシュさま……」

 

そして、ボロボロと泣き始める。

 

「やはり、ミス・モンモランシーと……」

 

「彼らは誤解しているんだ。 ケティ。 いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけだ……」

 

しかし、ケティと呼ばれた少女は、思いっきりギーシュの頬をひっぱたいた。

 

「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」

 

ギーシュは、叩かれた頬をさすった。

 

(二股かよ!)

 

すると、遠くの席から見事な巻き髪の女の子が立ち上がった。

いかめしい顔つきで、かつかつとギーシュの席までやってきた。

 

「モンモランシー。 誤解だ。 彼女とはただいっしょに、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけだ……」

 

(うわ〜、最低だな。 『僕の心の中に住んでいるのは、君だけだ』なんてさっき言ってたくせに)

 

ギーシュは、首を振りながら必死に言い訳をしている。

冷静な態度を装っていたが、冷や汗が一滴、額を伝っていた。

 

「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね?」

 

「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。 咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれよ。 僕まで悲しくなるじゃないか!」

 

(はあ〜、火に油だな。 自分の言ってることわかってんのか?)

 

その言葉に反応しモンモランシーは、テーブルに置かれたワインの壜を掴むと、中身をどぼどぼとギーシュの頭の上からかけた。

そして……、

 

「うそつき!」

 

と怒鳴って去っていった。

 

沈黙が流れた。

 

ギーシュはハンカチを取りだすと、ゆっくりと顔を拭いた。 そして、首を振りながら芝居がかった仕草で言った。

 

「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」

 

(いや、してるとおもうぞ、毒つきの棘にさされたんだから。 まあ、これ以上こんなキチ○イにかかわりたくないし、さっさと行くか)

 

シエスタから銀のトレイを受け取り、再び歩き出した。

 

そんな俺を、あのキ○ガイが呼び止めた。

 

「まちたまえ」

 

(あ〜〜〜もう、何でこんなのばっかりに縁があるんだよ!)

 

「なんだ」

 

ギーシュは、椅子の上で体を回転させると、足を組む。

いちいち、キザったらしい仕草が嫌になってくる。

 

「君が軽率に、香水の壜なんか拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。 どうしてくれるんだね?」

 

その言葉に心底、呆れる。

 

「二股かけたお前が悪い。 それに、こんな事してないでさっさと謝りに行けよ」

 

ギーシュの友人らしき人物たちがどっと笑った。

 

「そのとおりだギーシュ! お前が悪い!」

 

「本命のご機嫌取りに行けよ」

 

ギーシュの顔に、さっと赤みが差す。

 

「いいかい? 給仕君。 僕は君が香水の壜をテーブルに置いたとき、知らないフリをしたじゃないか。 話を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」

 

「はあ〜、何度も言うが意図的に二股をかけたお前が悪い。 壜をテーブルに置いたすぐに騒ぎ始めたのは周りの友人だろう。 それに女のこの方には、壜が落ちるところを見られていたんだから間違いなくすぐにばれる。 あと、俺は給仕じゃないぞ」

 

「ふん……。ああ、君は……」

 

ギーシュは、バカにしたように鼻を鳴らした。

 

「確か、あのゼロのルイズが呼び出した、平民だったな。 平民に貴族の機転を期待した僕が間違っていた。 行きたまえ」

 

(まったく)

 

俺は大げさに肩をすくめ、言葉をつむぐ。

 

「はあ〜、貴族の機転ってのは自分の非を認めず、他人に当たるアンタみたいな機転のことなのか?」

 

ギーシュの目が光る。

 

「どうやら、君は貴族に対する礼を知らないようだな」

 

「あいにく、人としての礼儀を知らないような人物には礼なんて必要ないだろう」

 

ヤレヤレといわんばかりに、肩をすくめ首を振る。

 

「よかろう。 君に礼儀を教えてやろう。 ちょうどいい腹ごなしだ」

 

ギーシュは立ち上がった。

 

「できるのか?」

 

こちらの挑発にあっさり乗ってくるギーシュ。

 

「ふざけるな。 ヴェストリ広場で待っている。 ケーキを配り終わったら、来たまえ」

 

ギーシュは、くるりと体を翻した。

ギーシュの友人たちは、わくわくした顔で立ち上がり、ギーシュのあとを追う。

1人がテーブルに残っている。見張りのつもりだろうか。

 

となりのシエスタがぶるぶると震えながらこっちを見ている。

 

「どうかした?」

 

「あ、あなた、殺されちゃう……」

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

「貴族を本気で怒らせたら……」

 

ポンと震えるシエスタの頭に手を置く。

 

「え!」

 

「大丈夫だから」

 

(そうだよな、魔法が使えない人たちにとっては逆らえない恐怖だもんな)

 

シエスタの頭をなで終わると、後ろからルイズが駆け寄ってきた。

 

「あんた! 何してんのよ! 見てたわよ!」

 

「ん? どうしたんだルイズ?」

 

「どうしたんだじゃないわよ! なに勝手に決闘なんか約束してんのよ!」

 

「は〜〜〜、心配するな。 ちょうどいい機会だルイズの使い魔の実力を見せてやるよ」

 

「あのね? 絶対に勝てないし、あんたは怪我するわ。 いや、怪我で済んだら運がいいわよ!」

 

ルイズの反発する声に優しくこたえる。

 

「大丈夫だ。 心配するな」

 

「聞いて? メイジに平民は絶対に勝てないの!」

 

ルイズの言葉を聞き流す。

 

「ヴェストリの広場ってのはどこだ」

 

残っていたギーシュの友人が顎をしゃくった。

 

「こっちだ、平民」

 

歩き出したその後をついて行く。

 

「ああもう! ほんとに! 使い魔のくせに勝手なことばかりするんだから!」

 

(さ〜てと、どうなるかな)

 

 

 

 

【次回、鍛え上げられた士郎君の前に立ちはだかる○チガイ。 圧倒的な戦力差を知らない。 ○チガイの未来は……】

 


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