Fate and Zero

 

第2話 「伝説の…」

 

 

 

「ん、ん〜」

 

朝日の光が私に目を覚ますように伝えてくる。

それと同時に男の声が聞こえてきた。

 

「ルイズ、朝だぞ、起きろ」

 

「ふぁ〜〜、……あんた誰?」

 

「いつまで寝惚けてんだルイズ。 ほら、顔を洗え」

 

そういって男は水の張った洗面器を目の前に差し出す。

 

「ん、洗って」

 

男はため息をつき

 

「了解」

 

私の顔を洗ってくれた。

冷たい水が気持ちよく、私の意識をハッキリさせる。

 

「目は覚めたか」

 

シロウの声がハッキリと私の頭に響く。

 

「じゃあ、おはようルイズ」

 

シロウが笑顔で挨拶をしてくる。

 

「ええ、おはようシロウ」

 

私は少し恥ずかしくなり辺りを見回す。

そして私は驚いた、部屋の中が綺麗に片付いていたのだ。

元々荷物などは少ない部屋だがこれほどまでに綺麗になるなんて思っても見なかった。

 

「シロウ……、これアナタがやったの?」

 

「ああ、そうだぞ。 昨日部屋を片付けておけって言ってただろう」

 

なんて奴、こいつ本当は執事か何かじゃないのかと思った。

 

「俺は先に食ったが。 もうすぐルイズたちは、朝食の時間なんだろう? 着替えは置いておくから着てくれ。 それじゃあ俺は外にでておくから、何かあったらすぐに呼んでくれ」

 

と言って、部屋から出て行ったシロウを見つめこう思った。

(何か、ずいぶんと手慣れてない?……)

 

 

 

ルイズの部屋のドアを閉める。

(ふう〜、まったく世話の焼ける。 しかしまあ、これからしばらくはこっちでの生活になるんだしな〜。 俺1人だと現在この世界を出る手段はあっても無事、もとの世界に帰り着けないしな。 師匠たちがここを特定してくるまで面倒をみますか、なんだか危なっかしいし)

昨日からの考え事まとめながら、扉の前でルイズを待つ。

 

しばらくしてルイズの部屋の扉が開きルイズが出てくる。

 

それと同時に、隣の扉も開く。 すると、中から燃えるような赤い髪の女の子が現れた。

ルイズよりも背が高く、むせるような色気を放っている。 彫りの深い顔に、突き出たバストがなまめかしい。

一番上と二番目のブラウスのボタンを外し、胸元を覗かしている。 褐色の肌が、健康そうだった。

身長、肌の色、雰囲気、胸の大きさ……、全部がルイズと対照的だった。

 

彼女はルイズを見ると、にやっと笑った。

 

「おはよう。 ルイズ」

 

ルイズは顔をしかめながら、嫌そうに挨拶を返す。

 

「おはよう。 キュルケ」

 

「あなたの使い魔って、それ?」

 

俺のほうに指をさしながら、バカにした口調で言った。

 

「そうよ」

 

「あっはっは! ほんとに人間なのね! すっごいじゃない!」

 

なんだかバカにされているようにしか思えなかったが、この世界じゃ人間を使い魔にしたことなんて無いのだから、当然といえば 当然だった。

 

「『サモン・サーヴァント』で、平民をよんじゃうなんて、あなたらしいわ。 さすがはゼロのルイズ」

 

その言葉に、ルイズの白い頬がさっと朱色に染まる。

 

「うるさいわね」

 

「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。 誰かさんと違って、一発で呪文成功よ」

 

キュルケが勝ち誇った声で使い魔を呼んだ。

キュルケの部屋からのっそりと、真っ赤で巨大なトカゲが現れ、むんとした熱気が辺りを襲う。

 

「サラマンダーか」

 

(こんな所で幻想種に会うなんてな……、いや、こんな所だからか)

大きさは、トラほどもあるだろうか。尻尾が燃える炎でできていた。

チロチロと口から炎がでている。

 

「へえ〜、よく知ってるわね。 そうよー!火トカゲよー。 見て? この尻尾。 ここまで鮮やかで大きい尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? ブランドものよー。 好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」

 

「そりゃあよかったわね」

 

苦々しい声でルイズが言った。

 

「素敵でしょう。 あたしの属性にぴったり」

 

「あんた『火』属性だもんね」

 

「ええ。『微熱』のキュルケですもの。 ささやかに燃える情熱は微熱。で も、男の子はそれでイチコロなのですわ。 あなたと違ってね?」

 

キュルケが得意げに胸を張った。 ルイズも負けじと胸を張り返すが、見ていると凄く痛々しい。

両者のボリュームが違いすぎた。

ルイズはそれでもキュルケを睨みつける。やはり、かなりの負けず嫌いのようだ。

 

「私は、あなたみたいにいちいち色気を振りまくほど、暇じゃないだけよ」

 

ルイズの反撃をキュルケは気にせず、俺のほうに向きにっこり笑った。

明らかに余裕の態度だった。

 

「あなた、お名前は?」

 

「衛宮 士郎。 衛宮が家名で士郎が名前だ」

 

「エミヤシロウ? 変わった名前ね」

 

「まあな」

 

(この世界じゃそうだろう)

 

「まあ、それよりもあまりルイズをからかわないでくれるか」

 

「ふ〜ん、まあいいわ。 じゃあ、お先に失礼」

 

そう言うと、炎のような赤髪をかきあげ、颯爽とキュルケは去っていき、その後をチョコチョコと、大柄な体に似合わないかわいい動きで、サラマンダーがその後を追っていく。

 

キュルケがいなくなると、ルイズは拳を握り締めた。

 

「くやしー! なんなのよあの女! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって! ああもう!」

 

「落ち着けルイズ。 別に、いいじゃないか」

 

「よくないわよ! メイジの実力をはかるには使い魔を見ろって言われてるぐらいなのよ!」

 

「ルイズ、それは俺がたいしたことないって、遠回しにいってるのか?」

 

「そうじゃない! メイジでもなんでもない唯の人間でしょう」

 

その言葉に俺はにやっと笑う。

 

「ルイズ。その言葉、しっかりと『覚えて』いろよ」

 

「ふん、私たちもさっさと行くわよ」

 

 

 

トリステイン魔法学院の食堂は、学園の敷地内で一番背の高い、真ん中の本塔の中にあった。

 

食堂には優に100人は座れるであろう長いテーブルが3つ、並んでいて、2年生であるルイズたちは、真ん中のテーブルのようだ。

食堂の正面に向かって左隣のテーブルには、おそらく3年生であろう、少し大人びた感じのメイジたちが、全員紫のマントを着けていた。

そして、右隣のテーブルには茶色のマントを着た1年生らしきメイジたちがいた。

どうやら、学年別にマントの色が分かれているらしい。

1階の上にはロフトがあり、先生らしき人たちはそこで歓談に興じているのがみえた。

 

すべてのテーブルには豪勢な飾りつけがされており、いくつも立てられたロウソク、綺麗に飾られた花、フルーツの盛られた籠があった。

俺がそれを見ていると、得意げに指を立てながらルイズは言った。

 

「トリステイン魔法学院で教えているのは、魔法だけじゃないのよ。 ここにいるメイジほぼ全員が貴族なの。 『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーに、貴族たるべき教育を存分に受けているのよ」

 

ルイズの前の椅子を引き、ルイズ座らせる。

 

「しかしまあ、無駄に豪勢な食事だな」

 

鳥のローストや鱒の形をしたパイ、それにワインまである。

 

(ここ、何歳から酒を飲んでいいんだ?)

 

「まあね、でも貴族の食卓にはふさわしいでしょう」

 

「バカ言え、こんなのを朝食に食ってたらいつか体を壊すぞ。 ……はあ〜、ここの料理長に掛け合って明日からは俺がルイズの料理を作る事にするよ」

 

「え、シロウ。 あんた料理できるの?」

 

ルイズが俺に疑惑の視線を向けてくる。

 

「まあな、そこら辺のコックに負けない位にはな」

 

「ふ〜ん、あっそう。 期待しないで待ってるわ」

 

「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。 今朝もささやかな糧を我に与えたもうことを感謝いたします」

 

祈りの声が、唱和される。ルイズも目をつむってそれに加わっている。

それから、ルイズたちの食事は始まった。

 

 

 

 

 

私の名はコルベール。 トリステイン魔法学院に奉職して20年になる中堅教師である。

二つ名は『炎蛇のコルベール』。 『火』系統を得意とするトライアングルメイジである。

 

私は、先日の『春の使い魔召喚』の際に、ミス・ヴェリエールが召喚した平民の少年のことが気にかかっていた。

正確にいうと、その少年の左手の甲に現れたルーンのことが気になって仕方がなかったのだ。

どこかで見た記憶らしきものがあったので、先日の夜から図書館にこもりっきりで、書物を調べていた。

 

トリステイン魔法学院の図書館は、食堂のある本塔の中にある。

本棚は驚くほどに大きく。およそ30メートル程の高さの本棚が、壁際に並んでいる。

ここには、始祖ブリミルがハルケギニアに新天地を築いて以来約6000年の歴史が、詰め込まれている。

 

私が今いるのは、図書館の一区画、教師のみが閲覧を許される『フェニアのライブラリー』の中だった。

生徒たちのも自由に閲覧できる一般の本棚には、満足のいく回答がなかったからだ。

 

『レビテーション』、空中浮遊の呪文を使い、手の届かない書棚にまで浮かび上がり一心不乱に本を探していた。

そして、その努力が報われたようである一冊の本の記述が目に留まる。

それは始祖ブリミルが使用した使い魔たちが記述された本だった。

その中に記された一節に私は目を奪われた。 じっくりとその部分を読み、古書の一節と使い魔の少年の左手に現れたルーンのスケッチを見比べる。

 

あっ!

 

一瞬、『レビテーション』のための集中が解けて、床に落ちそうになる。

が、体勢を立て直し。 その古書を抱えて本塔の最上階にある学院長室へと走り出す。

 

 

 

ワシは、白い口ひげと髪を揺らし、重厚なつくりのセコイアのテーブルに肘をついて、退屈をもてあましとった。

机の引き出しを引いて、中から水ギセルを取り出す。

すると、部屋の隅に置かれた机で書き物をしている秘書のミス・ロングビルが羽ペンを振い、水ギセルが、ミス・ロングビルの手元まで宙を飛んで行おる。

 

「年寄りの楽しみを取り上げて、楽しいかね?」

 

「オールド・オスマン。 あなたの健康を管理するのも、わたくしの仕事なのですわ」

 

わしは椅子から立ち上がると、ちょっとしたイタズラをミス・ロングビルにしようとした。

ちょうどその時、ドアがガタン!と勢いよくあけられて、中に教師のミスタ・コルベールが入ってきおった。

 

「オールド・オスマン!」

 

「なんじゃね?」

 

「たた、大変です!」

 

「だから何がじゃ、もう少し落ち着いて話したまえ」

 

「ここ、これを見てください!」

 

一冊の古い書物がワシに手渡された。

 

「これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。 これは、持ち出し禁止のはずの本じゃ、ミスタ・コルベール。 一ヶ月減給じゃ分かったな」

 

「待ってください!」

 

減給を言い渡されたのが不服だったのか随分とくらいついてきおる。

 

「これも、見てください!」

 

ミスタ・コルベールがルーンのスケッチらしきものをワシに見せてきおった。

 

(な!ガンダールヴの印じゃ!)

 

「ミス・ロングビル。 席を外しなさい」

 

ミス・ロングビルは座っていた席を立ち上がり、部屋を出て行く。

彼女の退室を見届け終わりミスタ・コルベールに視線を向ける。

 

「詳しい説明をするんじゃ。 ミスタ・コルベール」

 

ワシはその後にもう一言加える。

 

「……それと減給の件は規則じゃからくつがえらんぞ」

 

 

 

 

 

【次回はあのメイドさんも登場し、キザったらしい貴族の出番もあるかも?】

 


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