Fate and Zero

 

第1話 「使い魔召喚…」

 

 

 

「あんた誰?」

 

抜けるような青空をバックに、俺の顔をまじまじと覗き込んでいる女の子が言った。

年は俺より1か2つ下だろう。黒いマントの下に、白いブラウス、グレーのプリーッツスカートを着た体をかがめ、呆れたように覗き込んでいる。

桃色がかったブロンドの髪に透き通るような白い肌、そして鳶色の目をしている。

 

「誰って……。俺は衛宮 士郎」

 

仰向けに寝転んでいたらしく、そう言いながら俺は顔を上げて辺りを見回す。

黒いマントを着けて、俺を物珍しそうに見ている人間がたくさんいた。

周りには豊かな草原が広がっており、遠くには石造りの大きな城が見えた。

 

「どこの平民?」

 

平民? どういうことだ? ここは俺のいた世界じゃないのか?

 

「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」

 

誰かがそう言うと、俺の顔を覗き込んでいる少女以外の全員が笑った。

 

「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」

 

目の前の少女が、鈴のようによく通る上品な声で怒鳴った。

 

「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」

 

「さすがはゼロのルイズ」

 

誰かがそう言うと、人垣がどっと爆笑する。

(この子、ルイズっていうのか)

 

それにしても、こりゃ異世界に飛ばされったようだな

こう言うのは師匠や、あのおちゃらけ爺さん達の分野なんだけどな〜

 

「ミスター・コルベール!」

 

ルイズと呼ばれた少女が怒鳴る。

人垣が割れて、1人の中年男性が現れた。

 

「なんだね。ミス・ヴァリエール」

 

「あの!もう1回召喚させてください!」

 

召喚!

ということは、俺はこの少女に、召喚されたのか?

考え事に集中しようとしていると、ミスター・コルベールと呼ばれた、黒いローブの男性は首を横に振った。

 

「それはダメだ。 ミス・ヴァリエール」

 

「どうしてですか!」

 

「決まりだよ。2年生に進級する際、君達は『使い魔』を召喚する。今やっているとおりだ」

 

使い魔? まさか俺がか?

 

「それによって現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。 一度呼び出した『使い魔』は変更することはできない。 なぜなら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。 好むとこのまざるにかかわらず、彼を使い魔にするしかない」

 

「でも! 平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」

 

おとなしく話を聞いているとここは俺の居た世界とは神秘に関することがだいぶん違う世界だと確信する。

 

「これは伝統なんだ。 ミス・ヴァリエール。 例外は認められない。 呼び出された以上、君の『使い魔』にならなければならない。 古今東西、人を使い魔にした例は無いが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する」

 

「そんな……」

 

ルイズはがっくりと肩を落とした。

 

「さて、では、儀式を続けなさい」

 

「えー、彼と?」

 

「そうだ。 早く。 次の授業が始まってしまうじゃないか。 君にはかなり時間を使っているのだから、早く契約をしたまえ」

 

そうだそうだ、と野次が飛ぶ。

ルイズが声をかけてくる。

 

「ねえ、あんた、感謝しなさいよね。 貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」

 

手に持った小さな杖を軽く振り呪文を唱えた。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 5つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

 

すっと俺の額に杖を置く。

そしてルイズがさらに近づいてくる。

(ん、なんだ?)

 

「いいからじっとしてなさい」

 

怒った様な声で、ルイズが言った。

すると、ルイズが俺の頭に左手でがっちりと掴んだと思ったら、ルイズの唇と俺の唇が重ねられる。

 

(うわ〜〜、け、契約って、契約って)

いきなりの事で頭の中がパニック状態になる。

 

顔を真っ赤にしたルイズが唇を離す。

 

「終わりました」

 

「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」

 

コルベールが、嬉しそうに言った。

 

「相手がただの平民だから、『契約』できたんだよ」

 

「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんかできないって」

 

何人かの生徒が、笑いながら言った。

ルイズが睨みつける。

 

「バカにしないで!私だってたまにはうまくいくわよ」

 

「本当にたまによね、ゼロのルイズ」

 

さらに笑いが広がる。

いきなり、俺の体が熱くなる。

 

「ぐあ!」

 

ルイズが、苛立たしそうな声で言った。

 

「『使い魔のルーン』が刻まれているだけだから、すぐ終わるわよ」

 

その言葉どおり、すぐに熱が引いて、自分の左手の甲に見慣れない文字が現れる。

その文字を見た、コルベールと呼ばれた黒いローブの男性は

 

「ふむ……、珍しいルーンだな…。 よろしい、皆教室に戻るぞ」

 

そう、言うとコルベールは宙に浮いた。

それに続き、他の生徒たちも一斉に宙へ浮いた。

(ああ〜、これで決定だ。ここは絶対に異世界だ)

 

「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」

 

「あいつは『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」

 

「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」

 

口々にそう言って笑いながら、城のような石造りの建物へと飛んでいった。

残されたのは、俺とルイズだけだった。

 

(は〜〜、なんか大変なことになりそう)

 

 

 

 

 

ルイズは2人っきりになると、ため息をついた。

それから俺の方を向いて、大声でどなった。

 

「あんた、なんなのよ!」

 

「は〜、いきなりこんな世界に召喚されて少なからずショックを受けているんだ」

 

この言葉にルイズは首をかしげた。

 

「何わかんないこと言ってんの! あんた何処の田舎から来たのよ」

 

(は〜、このままじゃあ埒が明かないな)

 

「落ち着け、少し情報交換をしよう。ここはどこだ?」

 

「トリステインよ! そしてここはかの高名なトリステイン魔法学院!」

 

(というと、ルイズはそこの学生という訳か)

 

「あのさあ〜、ルイズさん」

 

「なによ」

 

「俺は、この世界の人間じゃあないんだ」

 

俺はルイズにこの世界に来た経緯を話す。

 

 

 

 

 

「それ本当?」

 

ルイズが、疑わしげに俺を見つめる。手には夜食用のパンを握っていた。

今、俺たちはルイズの部屋に居る。 12畳ほどの大きさで窓を南側に、ベットが西側に置かれ、北側に扉があった。

東側には大きなタンスがある。部屋の中にある、どれもこれもが、高価なアンティークに見えた。

俺はルイズが授業から帰ってきて改めて説明していた。

 

「嘘をついても意味が無いだろう」

 

ふと、窓のその外をみると、空には月が2つありあらためて異世界にいると思い知らされる。

 

「信じられないわ」

 

「まあ、俺もいきなり君の立場になったら信じられるかどうか分かんないな」

 

「別の世界って、どういうこと」

 

「そのままの意味だよ。 俺たちの世界とこの世界じゃあ魔法の認識から違うし、月も1つだけだ」

 

「そんな世界どこにあるの?」

 

「ふ〜ん、やっぱり異世界に関する知識は無いのか」

 

ルイズが怒鳴る。

 

「何よ! 悪い!」

 

「落ち着け。 じゃあ、念のために聞くが、俺が元の世界に帰る方法は知らないのか?」

 

「ええ、元々『サモン・サーヴァント』は、このハルケギニアの生き物を呼び出すものなのよ。 普通は動物や幻獣なんだけどね。」

 

(はあ〜やっぱり。これじゃあ師匠たちが見つけてくれるまでこのままか)

 

「ルイズ、それじゃあ帰る方法が見つかるまで君の使い魔をやるよ」

 

「ふん、当然じゃない」

 

「ところで、使い魔って基本的に何をするんだ?」

 

「まず、使い魔は主人の目や耳になる能力を与えられるんだけどそれは無いみたいね」

 

ルイズがため息交じりで答えるので、俺は苦笑するしかなかった。

 

「次にあげられるのは、主人の望むもの見つけてくる事。 例えば秘薬ね」

 

「秘薬って?」

 

「特定の魔法に使用する触媒の事よ、でもあんた異世界から来たってんならそんなの知らないわよね」

 

「そして、これが一番なんだけど、主人を守る事なんだけど人間じゃあね。 あなたは魔法は使えないんでしょ」

 

「ああ、俺は『魔法』はまったく使えない」

 

(まあ、嘘じゃあ無いしな)

 

「ふ〜ん、それじゃあアナタなにができるのかしら?」

 

挑発するようにルイズは聞いてくる。

(なんか、凛の奴に似ているな)

 

「う〜ん、主に家事全般に戦闘かな」

 

ルイズはまったく信じていないようで

 

「あっそう」

 

「ところでさ、この世界の魔法の仕組みについて教えてくれないか?」

 

ルイズは少し胸を張り

 

「いいわよ。魔法には4つの系統がありそれぞれ『風』『水』『火』『土』となっているわ。 その他に魔力自体を扱う簡単なコモン・マジックって言うのがあるけど『ロック』なんかはこの部類に入るわ」

 

(ん、4つ?)

ルイズはさらに続ける。

 

「1つの系統を操れるメイジを『ドット』メイジ。 さらに『風』『水』の用に2つを足せるのが『ライン』メイジ。 『土』『土』『火』のように3つ足せるのが『トライアングル』メイジ。 同じ系統を足すとその系統はより強力になるわ。 そして4つの系統を足せるのが最高とされる『スクウェア』メイジよ!」

 

「そうなのか。 ところでさ?」

 

「なに?」

 

疑問に思うことを聞いてみる。

 

「ルイズはどの系統が得意なんだ?」

 

その問いに、ルイズが固まる。

 

「なっ! そんな事どうでもいいでしょう!」

 

「いやさ、俺のマスターになるんだろう、そうしたら実力ぐらいしっておきたいしさ」

 

俺の問いに、ルイズは言いにくそうに小声で答える。

 

「わかんない」

 

「え、どうして?」

 

ルイズは大声で叫ぶ。

 

「わかんないのよ! いつも失敗して爆発ばかりしてんの! 悪いか!」

 

(逆切れか!)

 

「落ち着けって、失敗の理由は分かっているのか?」

 

「分かんないわよ!」

 

(ふ〜ん、ルイズ自身の魔力量自体はかなり高いんだが……、もしかして!)

 

「ところでさ、4つの系統以外に他の系統はないのか?」

 

質問を変えてきたと思ったのだろう、ルイズは平静を取り戻したようだった。

 

「あるわよ。 今は失われた系統の『虚無』。始祖ブリミルが使ったとされているわ」

 

「なあ、もうひとつ聞くけど、『コントラクト・サーヴァント』だったっけ。 それは、一発でできたんだよな?」

 

契約の時の事を思い出したらしく、顔を真っ赤にしながら答える

 

「そうよ!」

 

「なるほど」

 

ルイズの言葉にうなずく。それをルイズが苛立たしそうな声で俺に聞いてくる。

 

「いったい、何なのよ」

 

「ルイズ、たぶん君の系統は『虚無』だ」

 

いきなりの事であっけにとられたらしく、ルイズは口を大きくあける。

 

「……いきなり何言ってんの、伝説の系統よそんな訳ないじゃない」

 

だが俺はその言葉を封じる。

 

「いいや、頭ごなしにそう否定するもんじゃないぞ、ルイズ」

 

「なんの根拠があってそんな事いってるのよ!」

 

「根拠は君が俺との『コントラクト・サーヴァント』を成功させたことだ。 あの時の呪文の詠唱には『5つの力を司るペンタゴン』そう言っていた。 5つの力を司る、つまり『風』『水』『火』『土』の4つの他に君の言う『虚無』の事も含まれていたんだろう」

 

その言葉にルイズはハッとなった。

 

「え〜っと」

 

俺はさらに続ける。

 

「その詠唱に『虚無』の事が含まれていたので『コントラクト・サーヴァント』は成功した。 つまり、君の系統は『虚無』でルイズ自身がその事に気づいていなかったせいで今まで魔法が成功していなかったんだと思う」

 

(俺も、自分が特別な属性だからな)

 

「そんな?」

 

「それに聞いた限りルイズの4系統の魔法は失敗しているんじゃなく爆発を起こして成功していないだけなんだろう。 それとコモン・マジックでは爆発は起こしていないんだろう?」

 

「まあ、そうだけど」

 

「まあいきなり言って、ハイそうですかとはいかないと思う。 だけどその事を頭の片隅に入れておいてくれ」

 

ルイズはその言葉に小さくうなずいた。

 

「わかったわ」

 

 

 

ルイズがいきなりベットに寝転ぶ。

 

「はあ〜、なんだか疲れちゃった。」

 

「そうか?だったら早く寝たほうがいいぞ」

 

そう言うといきなりルイズは服を脱ぎ始めた。

 

「ち、ちょっと待て!」

 

ルイズがこちらに振り向く。

 

「何なのよもう」

 

「男の居る前でいきなり服を脱ぐんじゃない!」

 

「男?使い魔を男として認識なんてしてないわよ」

 

この言葉には『少し』カチンときた。

(少し、からかってやろう)

 

「へ〜、だったら契約のとき顔を真っ赤にしていたのはルイズじゃあ無かったんだ」

 

ルイズはこの切り替えしに顔を真っ赤にしながら答える。

 

「ち、違うわよ!」

 

俺はすこし肩を下ろし残念そうに見せる。

 

「そうか〜、可愛かったのに」

 

ルイズはさらに、顔を赤くする。

 

「な!な!な!」

 

ルイズの思考が停止しているうちに

 

「冗談だよ。 女性たるもの、特に嫁入り前の女の子は無闇に人前で肌を出さないほうがいいぞ。 着替え終わったら呼んでくれ」

 

そう言って俺は、部屋を出る。

 

 

 

しばらくしてルイズからお呼びがかかり部屋へと入ると、頬を膨らませたルイズが居た。

 

「私はもう寝るから部屋の片付けとかよろしくね!それとシロウ、あんたは床で寝なさい!」

 

ルイズからなげられた1枚の毛布をうけとし、俺は苦笑を浮かべた。

 

「了解」

 

こうして夜が更けていった。

 

 

 

 

 

【さて、ルイズは少しづつ、自分の系統の事に気がついてきたみたいだ。 次回はこの世界で始めての朝。 新しい人物との出会いだ。 ふっふっふ《邪悪》】

 

 


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