Fate † 無双

 

プロローグ

 

 

 

窓からうっすらと朝日が差し込み、士郎が目を覚ます。

 

「ふぁ〜〜〜」

 

大きなアクビしつつ体を伸ばし、寝床から起き上がる。

 

「よし!」

 

士郎は身支度を済ませると台所に行き、壁に掛けてあったエプロンを装着する。

 

「さて、今日も頑張りますか」

 

 

 

士郎が朝食の準備をしていると、台所に誰か入ってきた。

 

「あ、おはよう士郎。 今日も早いね」

 

可愛いパジャマ姿のエンネアだった。

 

「ああ、おはようエンネア。 牛乳はいつも通り冷蔵庫の中だぞ」

 

「うん」

 

エンネアは冷蔵庫を開けるとそこに入っていた1本の牛乳瓶を取り出し、椅子に座ると蓋を開けて飲み始める。

牛乳を飲み終わり瓶を何時もの所にエンネアは置くと、朝食の準備に精を出している士郎に声をかける。

 

「ふ〜。 士郎、何か手伝うことある?」

 

「それだったらもう少しで飯ができるから、九郎兄とアル姉達を起こしてきてくれないか?」

 

「了解っと!」

 

エンネアは九郎達のいる寝室へと向かう。

ドタドタ走っていく姿を士郎は苦笑を浮かべながら見送っていた。

 

 

 

皆が集まり、座っている席の前に朝食が置かれる。

 

「……で? 毎度毎度、何でココに居るんだ? アンタ達……」

 

士郎はチャッカリと席に着いている目の前の科学者とその発明品に声をかける。

 

「HAHAHAHAHA! この超絶大天才で〜あるこの我輩、ドーークーーターーー・ウェストがそれに相応しい朝食を取りに着ただけであ〜〜〜る。 それは、ノミのようにしつこく寄生する思うが良いのである! ぶっちゃけ、今日もタカリに来ました」

 

「博士、美味いご飯が作れないごく潰しロボ。 だから、ここら辺で一番美味い食事が食べられる所に来るのは当然ロボ!」

 

「は〜〜〜〜〜」

 

何時もの自分勝手なセリフに、大きな溜息を吐く士郎。

 

「ハイ、どうぞ」

 

そして、何を言っても無駄と言う事が分かっているので、2人の前にも食事を出す。

何気にエルザも食事が出来るようなので、ウェストの技術力の高さが窺える場面ではある。

 

「どうもだロボ」

 

「いえいえ」

 

「モグモグ……、ゴックン。 そう言えば士郎は今日の予定、如何なっておるのじゃ?」

 

アルは食べている物を飲み込むと士郎に今日の予定を聞いてきた。

 

「今日? 瑠璃さんから博物館の警備をしてくれって言われてるけど」

 

「博物館の警備じゃと?」

 

「えっと、何でも三国志に縁がある物を集めた特別展示を開くらしく、レプリカが幾つか混じってるけど貴重品も多いから、念の為に俺に警備の依頼をされたよ。 だから今日は帰ってくるのが遅くなると思う」

 

「そうか、そうか」

 

士郎の言葉を聞き、何故か嬉しそうにするアル。

 

「…………アル姉、俺が居なくても、ちゃんと仕事してくれよ」

 

「な! 士『モガ!』」

 

アルが何か喋ろうとしたが、エンネアが口を塞いでそれを阻止する。

 

「大丈夫だよ、士郎。 エンネアが付いてるから。 ところで時間は大丈夫?」

 

エンネアの言葉に士郎は時計を見る。

 

「あ! もうこんな時間か。 エンネア、すまないけど後片付け、よろしく頼む」

 

「うん、いいよ」

 

笑顔で答える、エンネア。

士郎は自分の食器をシンクに入れると、傍に置いていたカバンを取って家を出た。

 

「おい、エンネア。 そろそろ手を離してやれ」

 

九朗は明らかに怒りの表情を浮かべているアルを見て、エンネアに手を離すように言う。

そう言われて、やっと気がついたエンネアが手を離す。

 

「ぷっあ! 何をする、エンネア!」

 

「だってさ、アルが何か言ってたら、士郎に明日の幹部昇進祝いの計画ばれる可能性が大じゃん。 せっかく瑠璃が士郎に、ここ暫らく色んな仕事を頼んで、気付かれないように進めて来たのにさ」

 

「なんじゃと!」

 

アルはエンネアに怒り顔で詰め寄る。

 

「無いって言い切れる? 士郎、九郎よりよっぽど鋭い推理をするんだよ? アルは士郎に色々と隠し事、見抜かれてるじゃん」

 

「う!」

 

思い当たる節が幾つかあるのか、怯むアル。

九朗は、エンネアの何気ない言葉にショックを受けて、部屋の隅でいじけている。

 

どうせ、俺は三流探偵ですよ。 助手の士郎に敵いませんよ……。 ブツブツブツブツ……

 

日頃、探偵業の事で皆から色々と言われている事を、九朗はかなり気にしている様だった。

 

「モグモグ……、エルザ! それは我輩の分だ!」

 

「早い者勝ちロボ」

 

ハチャメチャコンビは気にする事無く、朝食を喰い散らかしていた……。

 

 

 

「ふ〜〜〜、それにしてもスゴイな………。 流石は覇道財閥」

 

士郎は飾られている展示品を見て感嘆の声を上げる。

約1800年前に使用されたとされる古代の武具、銅鐸、銅鏡、掛け軸等の様々な物が置かれていた。

もちろん、幾つかはレプリカであったが、それらも精巧に作られている。

 

「は〜い、皆さん。 これから自由行動の時間ですが、2時間後にはまたココに集合するように、判りましたか?」

 

「「「「「「「は〜〜〜い!!」」」」」」」

 

士郎の背後から女性の声と元気な子供達の声が聞こえて、士郎は思わずそちらの方を振り向く。

 

「あれ? エイダ先生?」

 

そこには士郎の見知った女性が居た。

 

「あら! 士郎君、お久しぶりね」

 

オーガスタ・エイダ・覇道

覇道・瑠璃の母親にして、『ミスカトニック大学ロンドン校付属学園』の学園長であり、覇道財閥のアドバイザーをも勤める才女。

もう40半ばに差し掛かるはずなのに、未だ若々しく如何見ても30前後にしか見えない。

士郎はアメリカに来た当初、仕事で此方に来ていた彼女から英語等をみっちりと教えられた経験がある。

 

「ええ、お久しぶりです。 今日は如何したんです?」

 

「今日は瑠璃に誘われて、あの子達の社会勉強に来ましたの。 士郎君は?」

 

少し首を傾げるエイダ。

 

「俺ですか? 瑠璃さんにこの会場の警備を頼まれたんですよ。 それにしてもエイダ先生を呼んでいるなら、そう言ってくれれば良いのに……」

 

「そうね」

 

エイダは不満そうな士郎を見て、クスクスと笑う。

その仕草はとても可愛らしく、とても年相応には見えない。

 

「ん?」

 

そうやって士郎とエイダが楽しく話している所に、1人の少年が現れたのに士郎は気が付いた。

年は16〜17と士郎より若干、年上の様に見える。

その少年は展示されている1枚の鏡を見て、否、睨みつけている。

 

「……ここから…………じまる…………」

 

士郎の視線に気が付いたのか、少年はその場を直ぐに立ち去る。

 

(何だ? あの立ち姿、只者じゃないぞ。 何か嫌な予感がするな……)

 

「あら、どうかしたの?」

 

いきなり黙った士郎に対し、エイダは如何したのかと心配そうに声をかけてくる。

 

「いえ、何でもありません」

 

「そう、でも何かあったらスグに相談するように! アナタも私の生徒なんですからね」

 

エイダは士郎に指を指しながら、そう言い切った。

 

「ありがとうございます」

 

士郎はエイダの心遣いに感謝の念を抱き、頭を下げる。

 

 

 

士郎は1人、閉館した博物館の裏路地でじっとしていた。

 

(俺の杞憂だといいんだけど……)

 

士郎は仕事中も、あの時の少年の事が頭から離れずにいた。

閉館して暫らくした時、博物館から人影が出てきたのを見つけた。

 

(!! 嫌な予感的中だな……)

 

「待て!」

 

士郎は人影の前に飛び出す。

やはり、人影は士郎が気にしていた少年だった。

 

「………」

 

立ち止まった少年は展示してあった筈の鏡を小脇に抱え、目の前に立ちふさがる士郎を睨みつける。

 

「誰だ貴様。 俺に何の用だ?」

 

「何の用も、俺はこの博物館の警備を任せられているんでね。 その小脇にあるのは展示してあった物だろ?」

 

「だからどうした?」

 

「あのな、それを返してもらうぞ」

 

士郎がそう言った瞬間、少年から鋭い蹴りが繰り出される。

士郎はそれを後ろに跳んでかわす。

 

「っと!」

 

「……チッ」

 

「おとなしく捕まる心算は無いか……」

 

「……邪魔だよ、お前」

 

そう言って再び士郎に向かって蹴りを繰り出されるが、士郎は首を逸らしその蹴りをかわす。

 

「聞く気は無い。 死ね」

 

「問答無用かよ」

 

少年は無造作に幾多の蹴りを放つ。

そのどれもが急所を的確に狙い、士郎の命を刈り取ろうとする。

が、士郎はそのどれもをいなし、かわしていく。

そして、1つの蹴りにカウンターで士郎の蹴りが繰り出される。

少年はそれをとっさにガードし、勢いに逆らわず後ろへ飛ぶ。

 

(コイツ強い!)

 

純粋な体術だけだが、今の攻防で士郎は目の前の少年がどれほどの強いかを把握する。

 

(今のは俺を侮って相手が手加減していたからだけど、本気を出されたら純粋な体術じゃ互角か、それ以上だな……)

 

士郎は冷静に自分との力量を比べる。

 

「チィ……しつこいな」

 

「しつこいじゃねえ。 盗みを働いといて」

 

「盗み? ……ああ、これのことか。 これはお前達には必要ない物だ。 必要無い物を奪って何が悪い」

 

少年は平然とそう言い放つ。

 

「はあ?」

 

(コイツもキ○○イ予備軍か?)

 

話をかみ合わせようとしない少年に対し、士郎は本気でそう思った。

 

「それにこれは貴様には何の関係も無い物だろう。 死にたくなければ尻尾を巻いて失せろ。 そして、今日起こった事を全て忘れろ」

 

「何言ってやがる、このキチ○○野郎! 俺は警備員だって言っただろうが! 盗まれたもんは取り返す!」

 

士郎の発言に、少年は怒鳴り返す。

 

誰がキ○ガ○野郎だ! そうか、あくまで邪魔をするのか? だったら殺してやる! ……突端を開かせる鍵が無くなれば外史は生まれず、このまま終わらせる事が出来るのだからな」

 

「お前だ、お前! 話の前半と後半全然繋がってねえ!」

 

「もう語る言葉は持たん。 死ね!」

 

少年はそう言って、士郎に向かって駆け出した。

 

「うらぁーーーっ!」

 

四方から禍禍しい風切り音と共に打撃が繰り出される。

 

「くっ!」

 

目、眉間、こめかみ、喉、……。

あからさまに急所のみを狙ってくる。

素手の攻撃だと言うのに、まるで真剣のような鋭さを持っていた。

それらを士郎はかわし、受け流し……やり過ごす。

 

「……チィ、本気でしつこいな、貴様」

 

少し驚いたような表情を少年は浮かべる。

 

「この程度の攻撃なら、毎日嫌と言うほど見てるよ」

 

確かに、士郎の周りの人物は非常識な連中ばかりで、士郎自身その仲間入りをしなければ……………。

 

「今度はこっちから行くぞ」

 

士郎はそう言うと、ステップを刻み始める。

 

「!? ボクシングか」

 

士郎は一気に少年との距離を詰めると、左ジャブを繰り出す。

少年は首を傾けそれをかわすが、続けざまに放たれた右フックをボディーに喰らう。

 

「グッ!」

 

だが、やられたままではいない。

士郎の死角から右の蹴りが炸裂する。

士郎はそれを何とか左腕で防御するが、そのまま蹴り飛ばされる。

 

「はっはっは………くそ、油断した」

 

「チィ! 今のを耐えるのかよ……」

 

士郎の放った拳を受ければ、大人でも、まず悶絶するだろう。

それを耐え切り、反撃をしてきたところからも少年の力量が窺える。

 

「ふっ!」

 

「はっ!」

 

士郎の拳と少年の蹴りが数合ぶつかり合う。

 

「ホントにお前、何者だ?」

 

士郎から見て、少年は魔術らしきものは一切使っていない。

 

(ウィンさんじゃあるまいし、ホントに人間か?)

 

「それは此方のセリフだ。 俺の動きにこれほど付いてくるとはな。 しかし、茶番は終わりだ」

 

苛立たしげに言葉を放つと、少年は腰を落として拳を構えた。

 

(!!)

 

その瞬間、少年の放っていた雰囲気がガラリと変わった。

先程までが木刀を使った攻撃だとすると、真剣を抜いたように。

 

(ゴックリ!)

 

周囲の空気が急速に下がり出したように錯覚する。

 

「ふ〜〜〜………」

 

キッ!

士郎は一呼吸置き、少年を睨みつける。

 

「どうやら、覚悟は決まったらしいな。 ……ならば、苦しまないように殺してやる」

 

「ああ、こっちは喋れる程度に痛めつけてやるよ」

 

「良い度胸だ。 なら死ねよーーーーーっ!

 

少年は地面を蹴り、一気に士郎との距離を詰める。

そして、上下からの流れるようなコンビネーションの蹴りが士郎に襲い掛かる。

 

死ぬかよーーーーーっ!

 

士郎は大声で叫びながら、さらに距離を詰める。

少年の蹴りは士郎の頬を掠めたが、それを気にせず懐に入り込み、そのまま溜めた右ストレートを少年の腹に突き刺す。

 

(入った!)

 

そう士郎が確信した瞬間。

 

ビュー!

 

士郎の死角から軌道を変化させた少年の蹴りが士郎の右肩に当たる。

 

(グッ!)

 

鈍い痛みが士郎に襲い掛かったが、士郎は踏みとどまり、少年に向かい体当たりをする。

 

「ガハッ!」

 

2人がもつれあうように倒れる最中、少年の懐から盗み出された銅鏡が零れ落ちる。

 

「チィ! 鏡が……っ!」

 

「させるかよ!」

 

宙を舞う銅鏡に対し、士郎と少年は同時に手を伸ばす。

 

(届けーーーっ!)

 

だが……………。

 

「「………ッ!!」」

 

ガシャン

 

伸ばした手も空しく、銅鏡は地面に叩きつけられ、その身を砕かれた。

 

「しまった………っ!」

 

破砕音を聞いて、少年の顔に焦りが浮かぶ。

 

「どけっ!」

 

少年は士郎を押しのけ鏡が砕けた場所に行く。

 

「くそ、余計な手間を増やしやがって!」

 

少年は転がった士郎を睨みつける。

 

「……何がだよ。 それはこっちのセリフだ!」

 

そう良いながら士郎は立ち上がる。

 

「……何も分かっていない奴が、ペラペラと喋ってんじゃねぇ!」

 

「なんだ! 割れた鏡が!」

 

割れた鏡から急に光が放たれ始める。

 

「……チィ。 もう始まりやがった」

 

憎々しげに喋る少年の姿が、鏡から溢れ出した光の中に飲み込まれていく。

その光は徐々に広がりを見せ、士郎も飲み込む。

 

「どうなってる!」

 

士郎の視界一面を白い光が覆い尽くす。

 

「!!」

 

士郎は体を動かそうとするが、ピクリとも動かない。

 

「無駄だ……」

 

あざ笑うかのように、何処からか少年の声が聞こえてくる。

 

「何がだよ?!」

 

「もう戻れん。 幕は開いた。 飲み込まれろ。 それがお前に下る罰だよ!」

 

「どういう意味―――――うわっ?!」

 

「この世界の真実をその目で見るが良い―――――!」

 

士郎は薄れいく意識の中で、少年の放ったその言葉が脳裏にこびり付いた。

こうして、士郎はこの世界から消えた。

 

 

 

 

 

【新作のプロローグです。 皆様如何でしたでしょうか? この作品は不定期連載なので皆様の御声によって左右されます。 次回の話はこのまま本編を続けるか、いきなり帰還編から入る2つの案があります。 どちらの話が見たいか感想を送ってくださるさいに、付け加えてもらえると助かります。 それではまた今度!】

 


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