Fate and Zero
第45話 「戦勝…」
士郎とルイズの活躍により、タブル平原でアルビオン軍に対し勝利を納めたトリステイン王国軍。
トリステインの城下町、ブルドンネ街では派手に戦勝記念のパレードが行なわれていた。
アンリエッタ王女の馬車を先頭に、高名な貴族達の馬車がそれに続き、周囲を魔法衛士隊が固めていた。
狭い路地にはアンリエッタを一目見ようと沢山の人々が詰めかけており、通り沿いの建物の窓や屋上、屋根から口々に歓声が投げかけられる。
「アンリエッタ王女万歳!」
「トリステイン万歳!」
「聖女様万歳!」
観衆達の熱狂も尤もと言える。
アンリエッタが率いたトリステイン軍はタブル平原で自軍を数で上回るアルビオン軍を打ち倒したばかりだからだ。
アンリエッタは人々から『聖女』と崇められ、その人気は絶頂にあった。
この戦勝記念のパレードが終わり次第、アンリエッタには戴冠式が待っており、長いハルケギニア歴史の中でも数例しかない女王の誕生である。
アンリエッタの女王就任は枢機卿マザリーニを筆頭に、殆どの宮廷貴族や大臣達も賛同していた。
それにより隣国ゲルマニア皇帝との婚約は解消される事となった。
ゲルマニア側は渋い顔をしていたが、アルビオンの脅威に対して同盟の為にも受け入れざる得なかった。
所変わってトリステイン魔法学院では禁足令が解かれ、教師や生徒達もトリステインの勝利に喝采を上げていた。
そんな浮かれ気分でいる貴族達をよそに、黙々と鍛錬している人物が居た。
士郎である。
士郎は二刀を構えると、流れるように型通りに動いていく。
「ふぅ〜」
一通りの型を擬え終えた士郎の元にタバサがやって来た。
「今日もお願い」
「ああ、構わないぞ」
タバサは自分の実力を上げる為に、土くれの事件以降から士郎に接近戦の稽古を度々頼んでいた。
タバサは杖を、士郎は刃引きをした二刀を構え向かい合う。
2人の周囲の空気が緊張し始め、先手必勝とばかりにタバサが動きだす。
タバサは身長差を逆手に取り、低く地面スレスレを流れる風のように這いながら一気に接近する。
余りの低さの為、士郎の二刀の射程外となった下からそのまま杖で士郎の足首を狙う。
回避や防御された場合の連撃のパターンをタバサは思い浮かべる。
「!」
しかし、士郎が選んだのは回避でも防御でもなく、攻撃であった。
当たる寸前に士郎はタバサの間合いに一歩踏み込むと同時に、攻撃して来た杖をそのまま踏み付けたのである。
衝撃で杖を落としそうになるタバサであったが何とか耐える。
そこに士郎の追撃が迫る。
杖を押さえつけられている為、防御は不可能。回避するには杖を手放すしか無い。
が、タバサは飛び込むと同時に詠唱していた魔法を放つ。
【風】のスペル『ウィンドブレイク』
杖から地面に向かって突風が放たれ、爆発したように杖が跳ね上がる。
それにより士郎の拘束から杖が解き放たれる。
体勢を崩した士郎に対しタバサは加速した杖の勢いを殺さないよう回転し、新たな呪文を唱えながら叩きつける。
『ブレイド』
騎士がよく接近戦で使う魔法で、杖が魔力を纏い刃となる。
その刃を左の一刀で受け止める士郎。
崩されて筈の体勢は既に元に戻っていた。
迫り来る右の一刀の袈裟切りをバックステップでかわし、一旦距離を取る。
次にタバサが選んだ手段は刺突の連撃。
その小さな体から繰り出されたているとは思えないほどの高速の連撃が士郎を襲う。
しかし、士郎はその連撃を確実に二刀で捌く。
(固い)
その堅実な防御にタバサは城壁を連想した。
どれ程打ち込んでも掠りもしない。
タバサは別の手段を講じようとした時―
「ふっ」
士郎が一気に攻勢に出た。
タバサの杖を絡め取ると、上に弾く。
タバサは杖を弾き飛ばされないように反射的に握りこんでしまう。
そしてその瞬間、それが謝りであった事に気が付いた。
杖と一緒に両腕が弾かれ体勢が崩される。
そんな隙を接近した士郎が逃す筈も無く、タバサの首筋に刃を付きつける。
「これで終わりだな」
「私の負け」
敗北を認めるタバサ。
士郎は首筋から刃を引いた。
「やっぱり強い」
無表情とも思えるタバサの顔に僅かながらに悔しさが滲み出ているように感じた。
「いや、タバサもかなり強くなったよ。俺もヒヤリとする場面があったからな」
「本当?」
「ああ」
「そう」
そっけない返事ではあったが、タバサは僅かに表情を綻ばせた。
「おや、こんな所にいたのかいシロウ」
2人の間にギーシュが現れる。
「どうかしたのか?」
「いや〜、ルイズが君の事を探していたようだよ」
「ルイズが?」
「ああ、何でも用事が出来たみたいで君も一緒にだそうだよ」
「ああ、分かった。タバサすまないけど今日はココまでにしてくれ」
コクンと頷くタバサ。
「この埋め合わせは、また今度するから」
「分かった」
タバサとの稽古を早めに切り上げる了承を取った士郎。
「ギーシュ。ルイズはどこで待ってるんだ?」
「さっきまでは本塔の方に居たから、まだそこらにいると思うよ」
「そっか、ギーシュもありがとな」
ギーシュに礼を言うと、士郎はルイズが待って居るであろう本塔の方に駆け出して行く。
(また、何か厄介事かな……)
嫌な予感を抱きながら。
【次回、士郎の予感は当たるのか? 彼の運命はいかに!】
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