Fate and Zero

 

第39話 「ゼロ戦…」

 

 

 

「キュルケにタバサ! なんでこんな場所に居るのよ!?」

 

思いがけない人物の登場に驚くルイズ。

 

「あら、朝早くから門の前に立ってた貴女達が、外から来た誰かと話し始めたと思ったら急に走り出すんですもの、何かあると思って付いてきたのよ!」

 

「……連れてこられた」

 

いつもの様に自分の部屋でゆっくりと本を読んで居たタバサであったが、キュルケに事情を聞かさせる事もなく拉致されたのであった。

 

「ちょっとキュルケ! 事情は分かってるの!? 遊びじゃないのよ!?」

 

「それ位、分かってるわよ。 それに、トリステインが負けたら隣のあたしの家の領地も危ないんだから、貴女達だけの問題じゃないのよ」

 

「うっ!」

 

キュルケの家とルイズの家は隣同士。

つまり、国境の挟むだけの位置にあると言う事だ。

戦争の影響は受けるであろうし、その後、アルビオンとゲルマニアの戦争になれば真っ先に被害も出るのは目に見えている。

 

「タ、タバサは!?」

 

「……………」

 

タバサは無言でキュルケ、ルイズ、士郎の順で見て……。

 

「一緒に行く」

 

そこにどんな考えがあったのかは明かされなかったが、一緒に行く決心に変わりはない様だった。

 

「はぁ〜〜〜」

 

そんな2人を見て、大きな溜息を吐く士郎。

 

「分かった。 でも、危なくなったら直ぐに逃げるんだぞ」

 

「あ〜ん。 分かってるわ、ダーリン」

 

士郎の言葉にコクンと頷くタバサと抱きつくキュルケ。

それを見たルイズは、

 

「は、離れなさい! ひ、人の使い魔に手を出してるんじゃないわよ!」

 

いつもの様にキュルケに抗議するのであった。

 

 

 

士郎は急いでコルベールの部屋へ向かった。

 

「ガソリンはできてますか!」

 

士郎の声に心地よく眠りに付いていたコルベールは目を覚ます。

 

「な、何だね、急に? それなら、君が言っていた量は完成させて其処に置いてあるが……」

 

「有り難う御座います。 ちょっと飛行機を使わなくっちゃいけなくって」

 

そう言うと、士郎は樽を『倉庫』に放り込む。

 

「……何かあったのかね?」

 

コルベールは先程までの眠そうな表情から一変、真剣な表情で士郎に問い掛ける。

 

「ちょっとした厄介事で……、戻ってきたら何かお礼をしますよ」

 

そう言うと、士郎は急いで『ゼロ戦』が置いてある倉庫へと向かう。

 

「ふむ。 気を付けて行って来なさい」

 

コルベールは後ろ姿の士郎を温かい眼差しで見送った。

 

 

 

「さてっと、燃料はこれで良し」

 

士郎はコルベールの作ったガソリンを燃料タンクに入れ終え、きっちりと蓋を閉める。

 

「ルイズ! 出るから乗れ!」

 

本来は1人乗りであったが、操縦席の後ろに積んであった使い道の無い通信機をどかし、席を確保していた。

 

「分かったわ!」

 

「って、なんで祈祷書なんて物を持ってくるんだ! 結構、激しく動くから危ないぞ」

 

ゲルマニアへ向かう馬車の中で詔を考えようとしていたルイズは、慌てていたので『始祖の祈祷書』を部屋に置いて来るのをすっかり忘れていたのだ。

 

「し、しょうがないじゃない! これは王室の国宝よ! そこらに置いて置ける訳が無いじゃない!」

 

誤魔化し半分に反論するルイズ。

 

「……はぁ〜、分かった。 その代わり、しっかり持ってくれよ。 旋回中に手放して後ろから本に攻撃されたくは無いからな、俺」

 

「分かったわよ……」

 

ぎゅっと祈祷書を抱きしめるルイズであった。

 

「それじゃあ出るから、しっかり捉まってろよ」

 

士郎はタバサに頼みエンジンを始動すると、次々に離陸の準備を進めていく。

スロットルレバーを開くとゼロ戦は加速しながら前に進む。

操縦桿を軽く前方に倒すと尾輪が地面から離れ、そのまま滑走する。

そして、操縦桿を思いっきり引いた。

 

「きゃ! 浮かんだわ! 凄いじゃない!」

 

ルイズは窓から地面がドンドン離れていくのが分かった。

 

「こりゃあ凄えな、相棒!」

 

「あら居たんだ? この頃、話さなかったから忘れてたわ」

 

「ひでぇな、娘っ子」

 

久々に喋ったデルフはルイズの言葉に激しく落ち込んだ。

頑張れデルフリンガー!

空に舞い上がったゼロ戦、その後ろにタバサのシルフィードが現れる。

 

「凄いわ! やっぱりダーリンは素敵ね!」

 

「……不思議」

 

一行は戦地となっているタルブ村へと急行するのであった。

 

 

 

戦況はトリステインが不利な状況であった。

先の姦計によりトリステイン空軍の主力は全滅しており、タルブ村に陣取った敵主力部隊に直接攻撃するのは難しく、竜騎士隊で攻撃を仕掛けても敵軍の竜騎士隊に阻まれ、迎撃されていた。

敵主力艦隊は着々と開戦に向け、トリステイン軍に対する艦隊射撃の準備を進めていた。

 

 

 

「一騎とは舐められたものだ」

 

アルビオンの竜騎士隊の1人は急接近してくる影を見つけていた。

 

(しかし、見慣れぬ竜だ)

 

羽ばたきもせず、轟音を立てながら近づいてくる敵影に不審に思うのだが――

 

「ふん。 どんな竜であろうとも、アルビオンの火竜のブレスを喰らえば御仕舞いだ」

 

既に2騎、竜騎兵を落としていたその騎士は深く考え込まずに突撃して行った。

それが伝説を載せた存在だと知らず。

 

 

 

「酷い……」

 

窓から見える焼け焦げたタルブ村の様子。

ルイズは思わず呟いていた。

 

「………」

 

士郎も表情を強張らせる。

 

「ルイズ! 敵だ! しっかり捉まってろ」

 

「分かったわ」

 

ルイズは士郎の言った通りにギュッと席にしがみつく。

 

「来いよ」

 

急降下してくる火竜はブレスを吐こうとする。

それよりも速く、士郎はボタンを押す。

それにより発射された機関砲弾が、火竜の羽を引き千切り、喉を貫き、ブレスの為の燃焼性の高い油の入った袋に引火し、火竜は爆発した。

爆発音を聞きつけ、アルビオンの竜騎兵がゼロ戦の元へと集まってくる。

結果を言えば、アルビオンの竜騎士隊はゼロ戦の前にあっけなく敗れ去ってしまう。

まず、竜騎士隊の使う魔法や火竜のブレスに比べ、搭載されている機関砲の射程の砲が何十倍と言っていい程長かった事、それに、火竜の最大時速が150キロ前後だった事に対し、ゼロ戦は時速400キロ近い機動を行う事ができ、集まってきた竜騎士隊を難無く撃墜できたのである。

 

ルイズは、ぼんやりと士郎の士郎の操縦を見つめていた。

 

(何も出来ない……)

 

使い魔の士郎の為に何かできる筈だ!

そう思っていたルイズだが、実際には何の役にも立つ事が出来ないでいた。

 

(姫様……)

 

ルイズはポケットを探り、アンリエッタから貰った『水』のルビーを指に嵌め、その指をじっと握り締める。

 

(姫様、シロウと私をお守り下さい……)

 

ガタンとゼロ戦が揺れ、ルイズは祈祷書を床に落としてしまう。

 

(あ!)

 

慌てて床に落ちてページの開いた祈祷書を拾い上げようとするルイズ。

 

(気付かれなったわよね)

 

出発前に注意された事が実際に起きてしまい、バツの悪そうな顔をする。

そうして拾い上げた瞬間、『水』のルビーと『始祖の祈祷書』が光を放つ。

 

 

 

 

 

【今回は少し短めになってしまいました。 大学3年のこの時期ですので、忙しい毎日です。 来年になったらもっとでしょうけど……。 更新の方はできるだけ頑張る心算です! 次回は伝説が炸裂する!】

 


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