Fate and Zero

 

第10話 「宝物庫…」

 

 

 

今、俺の目の前に巨大なゴーレムがいる。

その肩の上には、黒いローブを羽織った女性らしき人物が居る。

 

俺は急いで、ウィンドラゴンのシルフィードを操っているタバサに話しかける。

 

「急いでルイズたちのところへ下ろしてくれ!」

 

そう言うと、タバサは無言で頷き、シルフィードに話しかける。

 

「ルイズたちのところ」

 

俺たちが地上に着くといきなりルイズが罵声を浴びせてきた。

 

「な、なんで縛られているのよ! あんたってば!」

 

「お前らが縛ったんだろうが!」

 

そう言いながら俺はナイフを投影すると、縛っているロープを切り裂いた。

 

「ったく、こんなことを言っている場合じゃない。 ひとまずココを離れるぞ!」

 

ルイズとキュルケを抱えて、シルフィードの背中に飛び乗る。

それと同時に、タバサがシルフィードに命じる。

 

「上昇」

 

シルフィードが上昇した、すぐ後にゴーレムの足がさっきまでいた場所にめり込んだ。

 

「いったいなんだ?」

 

何故こんなところで、あれほど巨大なゴーレムが出現しているのかが、わからなかった。

 

「わかんないけど……。 巨大な土ゴーレムね」

 

「……あんな大きいゴーレムを操れるなんて、トライアングルクラス以上のメイジじゃないとできないわ」

 

(ちぃっ。あのナルシストのゴーレムとは比べ物にならないぐらいか。 普通に魔術を使って戦えばそれほど苦戦するようなものでもないが、生身だとかなりキツイぞ)

 

 

 

 

 

ゴーレムがその巨大な腕を振り上げて、そのままヒビの入った壁にむかって拳を打ち下ろした。

私は、インパクトの瞬間、ゴーレムの拳を鉄に変えた。

壁に拳がめり込み、バカッと鈍い音がして、壁が崩れた。

 

(うまくいったわ)

 

予想外の幸運で、宝物庫の壁の破壊に成功して、顔に笑みが浮かぶ。

 

私はそのまま、ゴーレムの腕を伝い、壁に開いた穴から、宝物庫の中に入り込んだ。

中には様々な宝があったが、今回の私の狙いは唯一つ『破壊の杖』だ。

見渡すと様々な杖がかかった一画があり、その中に、どう見ても魔法の杖に見えない品があった。

全長は一メートルほどの長さで、見たことのない金属でできていた。

私は、その下にかけられた鉄製のプレートを見つめると、『破壊の杖。持ち出し不可』と書いてある。

私は顔の笑みがますます深くなるのを感じた。

私は『破壊の杖』を手に取る、それと同時に、その軽さに驚いた。

 

(いったい何でできているのかしら?)

 

しかし、今は考えている暇はない、急いで宝物庫を立ち去る。

ゴーレムの肩に乗り、去り際に杖を振るう。

 

すると、宝物この壁に文字が刻まれる。

 

『破壊の杖、確かに領収しました。 土くれのフーケ』

 

 

 

穴から黒いローブをかぶった人物が出てきて、再びゴーレムの肩に乗る。

すると、ゴーレムは歩き出し、魔法学院の城壁をひとまたぎで乗り越え、地響きを立てながら草原を歩いていく。

 

「あいつ、壁をぶち壊していったけど、なにをしたんだ?」

 

「宝物庫」

 

タバサが相変わらず短い言葉で答える。

 

「あの黒いローブのメイジ、壁の穴から出てきたときに、何かを握っていたわ」

 

(あの円柱みたいなものか)

 

「しかし、泥棒なんだろうけど……随分と派手に盗んでいったな」

 

草原の真ん中を歩いていた巨大なゴーレムは、突然ぐしゃっと崩れ落ちた。

巨大ゴーレムは大きな土の山となった。

 

いそいでシルフィードがその場所まで飛んでいく。

 

俺たちが地面に降り立ったときには、月明かりに照らされた、小山のように盛り上がった土山以外に、何も無かった。

 

 

 

翌朝……。

トリステイン魔法学院では、昨夜から大騒ぎになっていた。

それはそうだろう、なにせ大勢のメイジいる魔法学院に進入をやすやすと許したばかりか、宝物庫の壁にゴーレムで穴を開けるという大胆な方法をつかったのだから。

ルイズから聞いた話では、壁には『土くれのフーケ』という、盗賊の犯行声明があったそうだ。

 

 

 

「それで、犯行現場を見ていたのは誰だね?」

 

この学院の学院長であるオールド・オスマンは尋ねてきた。

 

「この3人です」

 

教師の1人がさっと進み出て、ルイズにキュルケ、タバサを指差した。

使い魔である俺は数に入っていないらしい。

 

「ふむ……、君たちか」

 

オスマンはなぜか興味深そうに、俺の方を見る。

 

「詳しく説明したまえ」

 

ルイズが前に進み出て、昨夜の事を見たままに伝える。

 

「あの、大きなゴーレムが現れて、ここの壁を壊したんです。 肩に乗っていた黒いローブを着たメイジがこの宝物庫の中から何かを……、その『破壊の杖』だと思いますけど……、盗み出したあと、またゴーレムの肩に乗りました。 ゴーレムは城壁を乗り越えて歩き出して……、しばらくすると崩れて土になりました」

 

「それで?」

 

「後には、土しかありませんでした。 肩に乗っていた黒いローブを着たメイジは、影も形もなっていました」

 

「ふむ……」

 

オスマンはあごひげを撫でる。

 

「後を追おうにも、手がかり無しというわけか……。 ときに、ミス・ロングビルはどうしたのかね?」

 

オスマンは、近くにいたコーベルに尋ねた。

 

「それがその……、朝から姿が見えませんで」

 

「この非常時に、どこに行ったのじゃ」

 

「どこなんでしょう?」

 

そんなふうに2人が話していると、1人の女性が現れた。

 

「ミス・ロングビル! どこに行っていたんですか! 大変ですぞ! 事件ですぞ!」

 

興奮した様子で、コーベルが喋る。

 

「申し訳ありません。 今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。 そして、宝物庫はこのとおり。 すぐに壁のフーケのサインを見つけたので、これが国中の貴族を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査を始めました」

 

「仕事が早いの。 ミス・ロングビル」

 

コーベルが慌てた様子で続きを促す。

 

「で、結果は?」

 

「はい。 フーケの居場所がわかりました」

 

「な、なんですと!」

 

驚くコーベルを無視してオスマンは聞く。

 

「誰に聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」

 

「はい。近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入った黒ずくめのローブの男を見たそうです。 おそらく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」

 

(黒ずくめのローブの男だと? あれは女性のはずだ? 万が一に備えての変装? いや、決めるにはまだ情報が少ないが、このロングビルって人は注意していた方がいいな)

 

そう思うのと、同時にルイズの叫び声が聞こえた。

 

「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません!」

 

(おいおい、いきなり断定するなルイズ!)

 

「そこは近いのかね?」

 

オスマンはロングビルに尋ねる。

 

「はい。 徒歩で半日。 馬で四時間といったところでしょうか」

 

(やっぱり何かあるな。 この短時間でそんな事を調べられる方がおかしい)

 

「すぐに王室に報告しましょう! 王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくてわ!」

 

教師の一人がそう叫んだが、オスマンは首を振り、大声で怒鳴った。

 

「ばかもの! 王室に知らせているうちにフーケは逃げてしまうわ! 魔法学院の宝が盗まれた! この魔法学院の問題じゃ! 当然我らで解決する!」

 

オスマンは咳払いをすると、有志を募った。

 

「では、捜索隊を編成する。 我と思う者は、杖を掲げよ」

 

 

 

 

 

【次回、『破壊の杖』の行方は? どうなる探索隊!】

 


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