Fate † 無双

 

外伝「その名は……」後編

 

 

 

人気の無い裏路地にたむろする人相の悪い3人組。

彼等は盗賊まがいの方法で日々、稼いでいた。

 

「ったく。 ここの太守が変わってから仕事がやり難いったりゃありゃしねぇぜ。 昨日だってお仲間がまた捕まっちまった」

 

「まったくだぜ、アニキ」

 

「……うん、そうなんだな」

 

士郎達の行なう政策により街の治安が格段に向上した為、3人は人目の付かない裏路地などで細々とした稼ぎしか行なう事が出来ないでいた。

良く言えば慎重、悪く言えば臆病。

もっとも、そんな彼等だからこそ今まで捉まらなかったのだろう。

 

「おい、お前達」

 

「如何したんですか?」

 

「何なんだな?」

 

「あっちを見てみろ」

 

リーダーの男に言われ、手下の2人は指し示された方向を見る。

其処にはこんな薄汚れた裏路地には不釣合いの格好をした女性が1人。

明らかに良い所の育ちと分かる。

 

「上玉だ」

 

「そうですね、アニキ」

 

「久々に良いもん喰えそうなんだな」

 

そう言うと3人は久々の上物に対し、胸を期待で躍らせる。

 

「おい、姉ちゃんちょいとまちな!」

 

「え?」

 

それが自分達の年貢の納め時に成るとも知らずに……。

 

 

 

久々に1人で街を散策していた士郎の目に遽しく走る愛紗が映る。

 

「如何したんだ、そんなに慌てて。 一体、何があったんだ?」

 

「なにやら面妖な格好をした者が彼方此方で暴れているとの報告を受けたものですから」

 

「また華蝶仮面か?」

 

士郎は心当たりを聞いて見る。

 

「ええ、部下の報告では奇妙な仮面をしていたとの報告がありましたので、まず間違いでは無いでしょう」

 

(星は今の時間帯は調練が入っていたはずだから、アイツか)

 

士郎は華蝶仮面2号を名乗る人物を思い浮かべようとして直ぐに頭を振り払った。

如何やら頭の中に思い浮かべたくなかったようだ。

 

「「「ぎゃぁーーー」」」

 

爆発音の後、男の野太い悲鳴が響き渡る。

 

「それでは先を急ぐので失礼します、ご主人様」

 

そう言うと爆発音と悲鳴のした方へ一目散と駆けていく。

 

「あの爆発、アイツの仕業か?」

 

ただ華蝶仮面が動いているだけなら(2号なら特に)放っておく士郎だが、先ほどの爆発がどうしても気になってしまった。

 

「……俺も行くか(アイツには出来るだけ会いたくないんだが、別の可能性があるからな)」

 

熟考の末、士郎も爆発音のした方へ向かう事を決めた。

その判断が吉と出るか凶と出るか、それは続きを読めば分かる筈。

 

 

 

「何が如何なってんだよ!?」

 

上玉の女を襲おうと思った矢先、目の前に閃光が奔った。

そう認識した時には爆音と共に吹き飛ばされていた。

 

「誰だ! こんな事をしやがったのは!」

 

「誰なんだな」

 

自分達を吹き飛ばした犯人を捜そうと、躍起になって辺りを見回す3人。

 

『か弱き乙女を狙う極悪非道の輩。貴方達の悪行も其処までです』

 

3人の耳に声が聞こえる。

 

「ど、何処だ」

 

「分からないんだな」

 

「あそこですぜ、アニキ」

 

手下の1人が声のした方向、建物の屋根の上を指刺す。

そこには逆光になって良く分からないが、奇妙な身なりに仮面をした少女が1人佇んでいた。

 

「誰だ! てめぇは!」

 

『この世に蔓延る悪を天に代わって裁く。愛と正義の美少女ヒロイン、魔法少女マジカルしゅりりん参上です!』

 

そう宣言するのと同時に地面へ飛び降り、華麗に着地しポーズを取ると背後が爆発し色取り取りの煙が舞う。

赤いドレス姿に黒のネコミミとシッポ。

顔の上半分を赤いマスクで隠し、右手に何やら書物らしき物を持つ少女の姿が確認された。

 

「「「はぁ?」」」

 

あまりに奇妙な格好と名前に呆然となる3人組。

そして、その隙は今の彼女に対しては致命的な隙となった。

 

『吹き飛んで下さい!』

 

少女、マジカルしゅりりんが左手を前に突き出すと其処に光が集まる。

そして、その光は3人組目掛けて放出され、先程よりも大きな爆発を起こした。

 

「「「ぎゃぁーーー」」」

 

少女の攻撃になすすべも無く吹き飛ばされる3人。

暫く空中浮遊を体験した後、受身も取れず地面に激突しそのまま気絶してしまった。

そんな3人を見届けた後、少女の口から出た言葉は

 

『成敗です』

 

決め台詞だった。

 

〔いや〜見事な手際ですよ。流石は朱、もといマジカルしゅりりんです〕

 

少女とは別の声が本から発せられる。

 

『当然です。この地の平和は私が守るんですから』

 

〔いえいえ、ご謙遜を(まさか、これほど適応するとはこのル、いえ私もびっくりですよ)〕

 

そんな会話を2人?がしていると、怒涛の勢いで駆けつけてきた彼女の目に入ってしまう。

 

「待てぇい! 其処の怪しげな格好をした奴」

 

そんな愛紗の言葉にマジカルしゅりりんは辺りを見回す。

 

「貴様の事だ。貴様の! まったく奇妙な格好をした奴など華蝶仮面で十分と言うのに

 

自慢の青竜刀でキッチリとマジカルしゅりりんを指す。

 

『私ですか?』

 

自分を指差しながら愛紗に聞き返す。

 

「そうだ、貴様だ。貴様がここら周辺で暴れ捲くっているとの報告があったので捕らえさせてもらうぞ!」

 

宣言と同時に飛びかかる愛紗。

 

「はぁっ」

 

青竜刀の一閃が少女に襲い掛かる。

確実に当たると愛紗は確信したのだが、少女が焦る様子は微塵も無い。

 

『無駄です』

 

愛紗の攻撃は少女に当たる寸前、何か硬い物にあった時の様な衝撃と音と共に弾かれてしまう。

 

「なっ」

 

ありえない。そんな思考が愛紗の頭を一瞬支配する。

 

『さようならです』

 

少女は何時の間にか作り出していた光球を地面に叩きつける。

それは閃光弾のように白一色に染め上げ、愛紗を含む周囲の人々は思わず眼を瞑る。

愛紗が再び目を開けた時、すでに少女の姿は消え失せていた。

 

「くっ、面妖な」

 

その日からこの街に華蝶仮面と並び、正体不明で悪党を退治する魔法少女マジカルしゅりりんの姿が確認されるようになった。

 

 

 

その一部始終を遠目で見ていた士郎。

 

「アレはもしかして朱里か?」

 

(それに持ってあの本は新訳ネクロノミコン。いや、感じる雰囲気が全く違って居たぞ。一体、どういう事だ?)

 

「くそっ! 分からない事だらけだ!」

 

 

 

〔(おや、先ほど遠目から見てたのは、お若いですけど士郎さんですね。……なるほど面白そうな展開です! ルビ、いえ私は燃えてきましたよー!)〕

 

『あれ、如何かしたんですか?』

 

〔いえ、何でもありませんよ朱里さん〕

 

 

 

 

 

 

【皆様、お久しぶりです! このネタはこのFate † 無双書く当初から考えて居たものです。いや〜漸く出せた。この日を境にちびっ子達は華蝶仮面派とマジカルしゅりりん派に分かれ骨肉の争いを……(嘘です)

 


<< BACK


戻る