Fate and Zero
第38話 「覚悟…」
夕食を終えて暫くしたルイズは、士郎を前にして『始祖の祈祷書』を広げていた。
「で、姫様の為に考えた詔は完成したんだろう。 どんなのなんだ?」
オスマンからの依頼を受けて日にちは随分たった為、士郎は完成しているものとしてルイズに問い掛ける。
ルイズはやや緊張した様子で喋り始める。
「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 畏れ多くも祝福の詔を詠みあげ奉る……」
そこまで言って、ルイズは黙ってしまう。
「……? ルイズ、続きは?」
急に黙ってしまったルイズに対し、士郎は声を掛ける。
「これから火、水、土、風の4大系統に対する感謝の辞を詩的な言葉で韻を踏みつつ詠みあげなくちゃいけないんだけど……」
「だけど?」
「何にも思いつかない。 詩的なんて言われても困っちゃうわ。 私、詩人なんかじゃ無いんだし」
ルイズは拗ねた風に言う。
「ルイズが思い浮かんだままに詩を詠みあげてみろよ。 こう言うのは彼是考えても良い案は簡単には浮かばないぞ」
心底困った表情を浮かべているルイズに対して、士郎はアドバイスを出す。
ルイズは暫く考え込み、頑張って考えた”詩的”言葉を言い始めた。
「……えっと、炎は熱いので気を付ける事」
「……それは詩的じゃなくって、注意だろ」
出だしから不安を感じさせるルイズ。
「う、五月蝿いわね。 風が吹いたら桶屋が儲かる……」
「……それ、諺だ」
芸術面での才能を微塵も感じさせないルイズであった。
図星を指されて顔を真っ赤にしたルイズは、士郎に食って掛かる。
「わ、悪かったわね! 詩を満足に考えられなくって! だったら士郎が考えてみなさいよっ!」
明らかに逆切れしてくるルイズ。
そんなルイズに苦笑してしまう士郎。
「別に良いけど……」
少し思案した士郎は口を開く。
「『火は我等と共に有り、我等に明かりと温かさを作る恵み。 水は我等と共に有り、我等に潤いと安らぎを与える恵み。 土は我等と共に有り、実りを育む恵み。 風は我等と共に有り、清涼を運ぶ恵み。 我等を守り支える4系統全ての恵みに対し、感謝を意を捧げる』 まぁ、簡単に思いついたもんだから使えないだろうけど、って如何したルイズ!」
簡単に詩を考えた士郎に対して、何日も考えても全く思いつかなかった自分の不甲斐無さを痛感し、ルイズは激しく落ち込んでしまう。
(……………もう寝よう)
現実逃避したルイズはベットに横にシーツを被り、中でゴソゴソと着替える。
「……お休み」
そう言うと、ルイズはそのまま眠りに就き、朝まで目を覚ます事は無かった。
ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世と、トリステイン王女アンリエッタの結婚式が3日後に迫った日、トリステイン艦隊旗艦の『メルカトール』号は新生アルビオン政府の客を向かえる為、艦隊を率いてラ・ロシェールの上空に停泊していた。
艦隊司令長官のラ・ラメー伯爵と艦長フェヴィスは約束の刻限が過ぎても中々現れないアルビオンの艦隊を待っていた。
「奴等は遅いではないか、艦長」
ラ・ラメー伯爵はイライラした口調で呟く。
「自らの王を手に掻けたアルビオンの犬共は、犬共なりに着飾っているのでしょうな」
アルビオン嫌いの艦長がそう呟いた直後、鐘楼に登った見張りの水兵が大声で艦隊の接近を告げる。
「左上方より、艦隊!」
伯爵達が言われた方向を見ると、雲と見紛うばかりの巨艦を先頭に、アルビオン艦隊が静かに降下して来ていた。
「ふむ、アレがアルビオンの『ロイヤル・ソヴリン』級か……」
「しかし……、あの先頭の艦は巨大ですな。 後続の戦列艦が、まるで小さなスループ船の様に見えますぞ」
「ふむ、戦場では会いたくないものだな」
ラ・ラメーは正直に巨艦から受けた印象を呟く。
その直後に起こる事を知らず。
トリステインの王宮に国賓歓迎の為にラ・ロシェールの上空に停泊していた艦隊の全滅の報せが舞い込んだ。
ほぼ同時に、アルビオン政府の急使より宣戦布告文が届けられる
内容は不可侵条約を無視するような親善艦隊への攻撃に対する非難があり、自衛の為にアルビオン政府はトリステイン王国に対し宣戦を布告すると言うものだった。
アンリエッタの出発の準備に遽しかった王宮に衝撃が走る。
直ぐに大臣や将軍が集められ、対策の会議が行われた。
しかし、会議は紛糾するばかりで、具体的な対策を立てられないでいた。
「アルビオン艦隊は我が艦隊が先に攻撃したと言い張っておる! しかしながら、我が方は礼砲をしただけと言うではないか!」
「偶然の事故が誤解を生んだようですな」
「アルビオンに会議の開催を打診しましょう! 今ならまだ誤解は解けるかもしれない!」
各有力貴族の意見を纏め、枢機卿マザリーニは頷く。
「よし、アルビオンに特使を派遣する。 事は慎重を期する。 この双方の誤解が生んだ遺憾なる交戦が、全面戦争に発展しない内に」
その時、急報が届けられる。
「急報です! アルビオン艦隊は降下して占領行動に移りました!」
「場所は何処だ?」
「ラ・ロシェールの近郊! タルブ草原です!」
ルイズは士郎と共にゲルマニアへの馬車を待っていた。
しかし、やって来たのは迎えの馬車ではなく、1人の使者であった。
その使者はオスマンの部屋をルイズに尋ねると早足で向かった。
その様子に尋常で無いものを感じた2人は、その使者の後を追った。
オスマンは結婚式への出席で1週間ほど学院を留守をする為、様々な書類の処理、荷物の準備に追われていた。
そんなオスマンの部屋のドアが猛烈な勢いで叩かれる。
「誰じゃね?」
返事をするよりも速く、王宮の使者が部屋の中へと入って来た。
「王宮からです! 申し上げます! アルビオンがトリステインに宣戦布告! 姫殿下の式は無期延期になりました! 王軍は姫殿下を司令官とし、現在ラ・ロシェールに展開中! 遵って、学院におかれましては安全の為、生徒及び教師の禁足令を願います!」
思わぬ知らせにオスマンは顔色を変える。
「宣戦布告とな? 戦争かね?」
「いかにも! タルブの草原に敵は陣を張り、ラ・ロシェール付近に展開した我が軍と睨み合っております」
「アルビオン軍は強敵だろうて」
「敵軍は巨艦『レキシントン』号を筆頭に、戦列艦が十数隻。 上陸せし総兵力は三千と見積もられます。 我が軍の艦隊主力は既に全滅、かき集めた兵力は僅か二千。 緊急に配備できる兵はそれで精一杯の様です。 しかしながら、それより完全に制空権を奪われたのが致命的です。 敵軍は空からの砲撃に加えて、我が軍を難なく蹴散らすでしょう」
「現在の戦況は?」
オスマンは使者の言葉を重く受け止め、現在の戦況を尋ねる。
「敵の竜騎兵によって、タルブの村は炎で焼かれているそうです……。 姫殿下が前線に赴き兵の士気を奮い立たせていますが、戦況を覆すまでにはなっておりません。 同盟に基づき、ゲルマニアに軍の派遣を要請しましたが、先陣が到着するのは3週間後とか……」
使者の最後の報告を聞き、溜息を付くオスマン。
「……見捨てる気じゃな。 敵はその間にトリステインの城下町をアッサリと落とすじゃろうて」
ドアの向こうで聞き耳を立てていた士郎達。
(爺さん、俺達が居るのに気が付いてるな)
会話の流れを意図的に誘導しているの節が見られ、そう考える士郎。
衝撃の報告を聞き、ルイズはじっとしていられなくなって駆け出そうとするが、士郎に腕を捉まれる。
「何処に行く心算だ、ルイズ?」
淡々と問い掛ける士郎。
「姫様を助けに行くのよっ!! 放してっ!」
ルイズは必死な表情をして手を振り払おうとするが、力の差が違いすぎて振り解けないでいた。
「助けに行って如何するんだ? 戦争だぞ……。 『覚悟』はあるのか?」
「貴族として! 姫様の……トリステインの為に戦うのは当然の事よ! 死ぬ覚悟ぐらい出来てるわ!」
真っ直ぐに士郎を睨み付けるルイズ。
身体は僅かに震えているが、その視線には微塵の揺らぎも無い。
「……駄目だ。 行かせられない」
それでも士郎はルイズを止める。
「何でよ!」
「ルイズに『覚悟』が無いからだ……」
自分の決死の覚悟を士郎に否定され、ルイズは真っ赤になって怒鳴り返す。
しかし、士郎は平然とその怒気を受け止めている。
「なっ! 何ですって! 覚悟が無いですって!」
「死ぬ覚悟じゃない。 俺の言ってる覚悟ってのは、生きる覚悟だ」
「生きる……覚悟?」
士郎の言葉に忽然とするルイズ。
「そうだ。 戦場には耐えず死の気配が渦巻いてる。 それに耐えて、前に進むには生きる覚悟がいる。 何が何でも生き延びてやるって位のな」
「………」
ルイズは大人しく士郎の言葉を聞き入る。
「ルイズ……。 以前、言ったよな。 ウェールズ皇太子達が如何して死を選ぼうとしているのか分からないって。 恋人の為に生きろって。 それ言えるのがルイズの本質だ。 そのルイズがなんで死ぬ覚悟なんてものを抱くんだ! 生きて姫様を助けるって言え! その為だったら俺は幾らでも力を貸す! 俺がお前を守る! ルイズ」
真っ直ぐで力強い士郎の言葉。
それを真正面から受け、ルイズは衝撃を受ける。
「そう……よね。 士郎! 姫様を守るのに力を貸して頂戴! 此処に戻って来る為に!」
先程の悲壮なまでの表情と違い、今のルイズには生気が満ち溢れていた。
「ああルイズ。 当然だ」
「面白そうな話ね。 あたし達も混ぜて頂戴」
士郎達の目の前に、あの2人が現れた。
【ルイズの決意も固まり、いよいよゼロ戦出動と思いきや、あの2人も参戦か? 次回もお楽しみに……】