Fate and Zero

 

第31話 「誘惑…」

 

 

 

魔法学院の東の広場、通称『アウストリ』にあるベンチでルイズは1人座っていた。

オスマン学院長から預かった『始祖の祈祷書』も一緒である。

昼食も終え、昼休みである為、ルイズの目の前では何人かの生徒達がボール遊びをしている。

そんな中、ルイズは『始祖の祈祷書』の白紙のページを捲りながら、アンリエッタの結婚式に相応しい詔を考えていた。

 

(………ああ、もう)

 

中々に詰まっている様で、詔を書くために持ってきているノートも白紙だった。

そんな風な時間が過ぎる為に、軽く鬱に入ってるルイズの肩が誰かに叩かれる。

ルイズは慌てて『始祖の祈祷書』とノートを閉じる。

 

「ルイズ、何してるの?」

 

キュルケが笑みを浮かべながら、ルイズの隣に座る。

 

「み、見れば分かるでしょ!」

 

「見れば分かるって言ってもね〜。 チラッと見たけど、その本とノート、白紙じゃない」

 

「この本は『始祖の祈祷書』って言う、国宝の本なのよ」

 

「何でそんな国宝の本をアナタが持ってるの?」

 

そんなキュルケの疑問に、ルイズはアンリエッタの結婚式の事、その式典の際に『始祖の祈祷書』を用いて詔を詠みあげる等を説明する。

 

「なるほど。 この前の密命って言うのは、その王女の結婚式とアルビオン行きが関係しているんでしょ?」

 

キュルケの言葉にルイズは少し考え込んで、手伝いをしてもらった事を思い出し、頷いた。

 

「あたし達は、無事に王女の結婚式が行われる為に危険を冒したって訳なのねぇ。 名誉な任務じゃないの。 それって、この間発表されたトリステインとゲルマニアの同盟が絡んでるんでしょ?」

 

中々鋭いキュルケだと、内心は感心するルイズ。

 

「誰にも言っちゃダメなんだからね」

 

「言うわけないじゃない。 あたしはギーシュみたいなお喋りじゃないのもの。 ところで、2人の祖国は同盟国になったのよ? あたし達もこれから仲良くしなくちゃ。 ねぇ、ラ・ヴァリエール」

 

キュルケはルイズの肩に手を回し、わざとらしい微笑を浮かべる。

 

「ところで聞いた? アルビオンの新政府は不可侵条約を持ちかけてきたそうよ? あたし達のもたらした平和ね!」

 

キュルケの言葉に、気のない相槌を返すルイズ。

それは当然だろう、その為に自分の敬愛するアンリエッタが好きでもない皇帝の元へと嫁ぐ事になったのだから。

明るい気分になれる筈がなかった。

 

「ところでルイズ、そっちのノートは何?」

 

「べ、別に良いでしょ」

 

とっさにノートを隠そうとするルイズだが、それよりも速くキュルケがそのノートを掴む。

 

「あ! か、返しなさいよ!」

 

「ああ、そう言えば詔を考えるって言ってたわね。 これはその為のノートね。 さぁーって、何が書いてあるのかしらね?」

 

ルイズが取り返そうとするのをキュルケは押さえ込み、そのノートを開く。

 

「あれ? 何も書いてないじゃない?」

 

パラパラと捲りながら見るが、そこには白紙のページがあるだけだ。

 

「ねぇ、ルイズ。 アナタ、詩の才能もゼロなわけ?」

 

「な! そんなのどうでも良いでしょ! さっき考え始めたばっかりなんだから、書いてないのは当たり前よ!」

 

キュルケの言葉に、ルイズは怒鳴り返す。

 

「はぁ、素直じゃないわね……。 ダーリンもかわいそう……」

 

「な、何でシロウがそこで出てくるのよ!」

 

「さぁね? でも、そんな情けないところを見せられたら如何思うかしら?」

 

「う、うぐぅ」

 

キュルケの言葉に何か感じたところがあるらしく、ルイズは言葉を失う。

 

(………だ、大丈夫よ)

 

「ダーリンは今、何してるのかしらね〜?」

 

わざとらしく声を出すキュルケ。

それを聞き、ルイズは座っていたベンチから立ち上がる。

 

「あら? 何処に行くの?」

 

「ちょっと、忘れ物を取りに戻るだけよ!」

 

そう言うと、ルイズはそのまま自分の部屋に走っていった。

 

「あらら、からかい過ぎちゃったみたいね」

 

怒ったルイズの後姿を見ながら、キュルケはそんな一言を呟いたのだった。

 

 

 

 

 

「よう、相棒。 何を読んでんだ?」

 

机の上に置いてあったデルフリンガーは、士郎がどんな本を読んでいるのか興味が湧いていた。

 

「ああ、これか。 民話や童話、それに絵本なんかだな」

 

「へぇ、何でそんなもんを読んでんだ?」

 

士郎がハルケギニアの事を色々と調べる為に読書をしているのは知っていたデルフリンガーだったが、なぜそんな本を読んでいるのか疑問に思った。

 

「民話や童話の類にも歴史的事実を織り交ぜたりしてあるのがあるからな……、実際、俺の居た世界でもそれを参考にして架空上の都市だと思われていたものが実際発見されたりした事もあるからな。 そんな訳で、色んな方面から調べてるんだよ」

 

「そりゃあスゲエな、相棒」

 

そんな風に士郎とデルフリンガーが話し合っていると、部屋の扉がノックされる。

 

(誰だ? 休み時間だからルイズが戻って来たにしてもノックなんかしない筈だし)

 

「はい、開いてますよ」

 

「あ、あの、失礼します」

 

開けられた扉からはシエスタが現れた。

 

「あれ? 如何したんだ、シエスタ?」

 

突然のシエスタの来訪に首を傾げる士郎。

 

「あ、あのっ! 今日、とても珍しい品が入って、コック長がシロウさんにも持っていけって言われて!」

 

何やら緊張しまくっているシエスタであった。

 

「珍しい品?」

 

「そうです! 東方のロバ・アル・カリイエから運ばれてきた珍しい品だそうで、『お茶』って言うんです!」

 

「『お茶』?」

 

士郎にとって、その名前は珍しくも何とも無かった。

 

「今、入れますね」

 

そう言うと、シエスタは持って来たティーポットからカップに注ぐと、それを士郎に手渡す。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがと」

 

士郎はそれを受け取ると口に含む。

士郎の鼻腔と舌に緑茶とさして変わらない香りと味が広がる。

 

「『お茶』だな……」

 

まさか、異世界に来て緑茶を飲む事ができるとは思っていなかった士郎はポツリと一言、呟いた。

 

「え! シロウさん、『お茶』を飲んだ事あるんですか!?」

 

「結構、飲んだ事があるんだ」

 

「へぇ〜、シロウさんは東方の出身だったんですね」

 

「まぁ、そんな感じかな……」

 

少し言葉を濁す士郎。

 

「シ、シロウさん! 今度、私の村に来ませんか!?」

 

「え!?」

 

「お姫様の結婚式が今度あるじゃないですか、その時、特別に休みを貰えるんです! それで、久々の帰郷になるんですけど……、うちの村、あ! タルブ村って言って、ラ・ロシェールの向こうで馬で3日位の所なんですけど、そこの草原がとっても綺麗なんです。 それを是非シロウさんに見て貰いたいんです! 遊びに来て下さい」

 

色々と緊張して、言葉としては纏まっていないが、シエスタの気持ちが窺える。

 

「それに、私の村にはとっても美味しいシチュー料理があるんです。 ヨシェナヴェって言うんです! 普通の人が見向きもしない山菜なんかで作るんですけど、とっても美味しいの! 是非、シロウさんに食べて貰いたいんです!」

 

「……どうして俺に見せたり、食べたりして欲しいんだ?」

 

シエスタは恥ずかしそうに俯く。

 

「……シロウさんは、私達に『可能性』を見せてくれたから」

 

「可能性?」

 

「そうです! 平民でも、貴族に勝てるんだって。 私達は何だかんだ言ったって、貴族の人達に怯えて暮らしているんです。 でも、そうじゃないって人が居る事が、何だか自分の事みたいに嬉しくって。 私だけじゃなくって、厨房の皆もそう言ってて」

 

「そっか……」

 

士郎は以前、シエスタに会った時の事を思い出した。

 

(貴族に怯えてたもんな……)

 

「も、勿論それだけじゃなくって。 只、シロウさんに見て貰いたくって……。 でも、行き成り男の人なんか連れて行ったら家族の皆が驚いてしまうわ。 どうしよう……」

 

何やら後半から不穏な事を口走るシエスタ。

 

「そうだ! だ、旦那様よって、言えば良いんだわ」

 

「は、はい!?」

 

シエスタの行き成りの発言に士郎は驚く。

 

「け、結婚するからって言えば喜ぶわ。 皆、母様も、父様も、弟や妹も……、皆、きっと喜ぶわ」

 

ドンドン過激な発言になっていくシエスタ。

 

「シ、シエスタ?」

 

士郎が呆然とした様子で自分を見ているのに気がついたシエスタは正気を取り戻す。

 

「ご、御免なさい! 迷惑でしたよね! そ、それに私ったら、シロウさんが遊びに来るって決まった訳じゃないのに!」

 

「シエスタって時々大胆になるね……」

 

(自分を安売りしないで良いのに)

 

シエスタの様子を見ていた士郎は苦笑いを浮かべるしかなかった。

それと、見当違いな考えも……。

 

「だ、誰の前でも大胆になる訳じゃないんですよ! 家を出るときに、母様から言われました。 大胆になるなら、これと決めた男性にしろって……」

 

「へぇ?」

 

驚いている士郎を余所に、シエスタは眼を瞑ると何かを決心したよう立ち上がる。

そして、シエスタは大きく深呼吸をすると、エプロンに手をかけて、それを肩から外した。

 

「シエスタ!?」

 

シエスタは士郎の制止を無視して、更に服を脱いでいく。

 

「安心してください、責任を取れなんて言いませんから」

 

(そう言う問題じゃない! 俺の感が大警報を鳴らしてる!)

 

それもそうだろう。

そんな事になったのが、あっちの世界の人達にばれたりしたら……。

知らない方が幸せな事態になるのは決定している。

 

「シエスタ、ごめん」

 

士郎はシエスタに謝ると、シエスタに近づく。

 

「え? ええっ!」

 

士郎の急接近に、今度はシエスタの方が困惑してしまう。

士郎の手がシエスタに伸びてくる。

それを見たシエスタは、思わず目を瞑ってしまう。

そして、そのまま眠りに就いてしまった。

 

「ふぅ、上手くいったな」

 

士郎が何をしたのかと言うと、シエスタの動脈を一瞬だけ圧迫して気絶させたのだ!

 

「こんなのあいつ等には通用しないからな……」

 

その時、勢い良く部屋のドアが開かれた!

 

 

 

 

 

【今回は良い所で終わります! 次回は少し間が開きますが、分量を多めにしますのでなにとぞご容赦を。 もう直ぐ2周年ですのでそちらの方も企画をお楽しみ下さい】

 


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