Fate / open the demonbane

 

第32話 「出現…」

 

 

 

気絶した大河を背負い、無事に家までたどり着いた士郎達。

大河を早く横にさせようとドアを開ける。

 

「ただいま」

 

「シロウ、お帰りっ!」

 

玄関で待機していたイリヤが士郎に飛びついて来た。

背負う大河を支える為に右手を、玄関のドアを開く為に左手を使っていた士郎。

その為、人間砲弾となったイリヤを両手で受け止める事が出来ず――

 

「ぐはっ!」

 

腹に直撃した。

イリヤに怪我をさせない為、力を入れていない状態で。

崩れ落ちそうになる士郎だが、目の前のイリヤと背中の大河の為に堪える。

 

「大丈夫ですか士郎!」

 

慌てて士郎の傍に駆け寄り支えるセイバー。

そうして事態を引き起こしたイリヤを睨み付ける。

 

「何をするのですか、イリヤスフィール!」

 

セイバーの剣幕に思わず一歩下がるイリヤ。

しかし、その程度で引き下がる白い悪魔ではなかった。

 

「何? ただの兄妹のスキンシップよ。羨ましいのセイバー?」

 

そう言って、士郎に再び抱きつくイリヤ。

今度は飛びかからなかった。

 

「なっ! 何をしているのですかイリヤスフィール! シロウから離れなさい!」

 

「イヤよ。そっちこそシロウから離れなさい」

 

2人が言い合いを始めようとした丁度その時に介入者が現れる。

 

「まぁ、面白くなりそうだからほって置くのが正しいのでしょうけど、まずはそちらの方を介抱するのが専決でしょう」

 

クスクスと楽しそうに笑うカレンの前半の言葉に士郎はイヤそうな顔をするが、後半の言葉に話を合わせる。

 

「2人共、藤ねえを早く横にしたいから離れてくれ。これじゃあ、碌に動けない」

 

セイバーはその言葉にハッとし、イリヤは渋々離れる。

 

「それで、不埒者の始末はすんだのですか?」

 

「いや、逃げられた」

 

「貴方がですか?」

 

士郎の実力を良く知るバゼットは信じられないといった表情を浮かべる。

 

「藤ねえの救出が最優先だったからな。相手の魔術師の素性は割れたからな、藤ねえを道具みたいに使った礼はさせてもらうさ」

 

士郎の最後の言葉と浮かべた笑みに、その場に居た気絶した大河を除く4人が後ずさる。

そんな4人を置いて士郎はとっと家の中に入って行った。

 

 

 

凛達が帰ってきてから、士郎達は再び会議を開いていた。

 

「ふぅ〜ん。で、士郎。そいつらに対しての今後の対処は如何するわけ?」

 

「現在、敵だって言えるのはあの組だけだからな、そいつ等の足取りを追う。如何やら裏に誰かいるみたいだからそいつの事を吐かせる」

 

「先輩。裏に誰かって?」

 

桜はその魔術師を退治するだけだと思っていただけなので、思わず聞き返した。

 

「魔術師の方は没落寸前の家系の典型的な小者だけど、セイバーを相手にしたサーヴァント。あれはかなりの大物だ。」

 

カレンは士郎の言わんとする事が分かった。

 

「成程、通常サーヴァントは触媒を使って狙わない限り本人に近しいのが選ばれるけど、近しい雰囲気の無いマスターとサーヴァント。ならば触媒を用いて召喚されたと考えるべきでしょうね。しかし、その魔術師には触媒を用意するのは難しい」

 

「ああ。それにソイツが誰かに俺の情報を聞かされたって洩らしていたから、裏に誰かいるのはまず間違い無い」

 

「敵はあの金ぴかと邪神に乗っ取られたキャスター、魔術師達にその黒幕ってわけね」

 

「分かっている限りならそうだな」

 

「士郎! アイツが来る!」

 

それまで会議に口を出していなかったエンネアが突如臨戦態勢に入る。

士郎もやや遅れながらもその気配を感じ取り、臨戦体勢に入る。

他の人間も士郎達の様子に何かを感じ、警戒の態勢を取る。

 

「おやおや、皆さんお揃いで」

 

何の前触れも無く、虚空からローブを被った女が突如現れた。

 

「久しぶりだね、ナイア」

 

エンネアからは何時もの少女らしい雰囲気は消え去り、凄まじいプレッシャーが放たれる。

周囲は突然の事に士郎以外、固ってしまう。

 

「ああ、久しぶりだね。元気そうでなにより」

 

そんな中を平然と佇むナイア。

 

「で、今回はどんな台本を書いてるのかな?」

 

「イヤイヤ、今回の件に付いてボクは殆ど手をつけてないよ。立場的には協力者って所だね」

 

胡散臭いナイアの言葉を如何受け止めたのかは分からないが、先を促すエンネア。

 

「そう。じゃあ、何の用でココに来たのかな?」

 

「いやね、君達に伝える事があってやってきたのさ」

 

「何」

 

「なぁにただの宣戦布告さ。後3日以内に此方は大聖杯を作動させるように仕掛けるから、それを無事に防げるかな」

 

「防いで見せるさ。そんなの当たり前だろ」

 

ナイアに対し士郎は真っ直ぐな瞳を向け、そう言い放った。

 

「これはこれは頼もしい。流石は九郎君の弟子だ。やはり、楽しみだね。それじゃボクはこれで失礼するよ」

 

ナイアは先ほどのように霞のようにこの場から消え去った。

何事も無かったように。

 

この夜から、冬木の地での聖杯戦争が激化していくであろうことを皆が薄々感じていた。

 

 

 

 

 

【久しぶりに更新です! 今年初ですね……。かなり遅れて申し訳ありませんでした! ううっ、色々と手直しをしたいんですけど時間が中々取れない! 読んでくださっている皆様には感謝を!】