Fate / open the demonbane
第31話 「再び…」
「な!」
シュナイダルは自身の傀儡と化した大河の消失に呆然となっていた。
操る為に繋いでいたラインは切れて、それが大河が消え去った事を証明していた。
「くそっ! 役立たずが!」
思い通りに運ばず、苛立ちを隠せないでいる。
「アイツの話じゃ身内を大事にしているらしいから、人質に取れば手出しが出来ない筈だと思ったのに、アッサリと見捨てやがった! 当てにならない情報を教えやがって!!」
この後、如何動くのか考えるシュナイダル。
『……スレイヤー、一時撤退だ。 体勢を立て直してから仕掛けるぞ』
自分の安全が確保されていない戦いには決して参加した事の無いシュナイダルであった為、当然の結論と言えた。
尤も、本人は屈辱を味合わせた士郎への恨みで頭の中が一杯になっており、見当違いも甚だしかった。
「……分かった」
セイバーと剣を打ち合わせていたスレイヤーは不満げな面持ちでマスターの命令を受け入れた。
「セイバー。 貴様とは思う存分と戦いたかったがマスターの命令なんでな。 これで退かせてもらうぞ!」
そう言って、セイバーを思いっきり蹴り飛ばす。
「な!」
空中で体勢を立て直し着地するが勢いを殺しきれず、その場に踏み止まれなかった。
その隙にスレイヤーは悠々と戦線を離脱する。
「くっ! 待ちなさい!」
セイバーは急いで追いかけようとするが、士郎に止められる。
「セイバー! 追いかけなくて良い」
「何故ですか! シロウ!」
その言葉を納得出来ないセイバーは士郎に詰め寄る。
「奴を追っても市街戦になるだけだ。 それに、藤ねえを助けるって言う目的は果たした」
「……すいません、シロウ。 熱くなり過ぎました。 ところで、肝心のタイガは何処です?」
辺りを見回すセイバーだが、大河の姿が見当たらない。
「藤ねえならココだよ」
そう言って、士郎は鏃の形をした宝石を見せる。
「ココ?」
「ああ、この中だ」
『覇道の執務室!』
「皆様、お久しぶりです。 謎の美少女こと『総帥』ですわ」
「お嬢、いえ総帥。 今回の議題は何でしょうか?」
「今回の議題は士郎さんの使った『バニッシュ』に付いてですわ」
「総帥、バニッシュとは?」
「バニッシュは士郎さん達が捕縛用に開発した魔術礼装ですわ。 これに貫かれたら次元隔離してある宝石の中に閉じ込められる様になっていますわ」
「成程、これならば相手を傷つけずに捕縛が出来ると言う訳ですね」
「その通りですわ、執事長。 でも、相手の対魔力によって捕縛時間が変わりますから、一瞬で破られる可能性もありますけど、あの『虎』は一般人で対魔力は皆無と言って良い程ですから、士郎さんが出そうとしない限り丸1日はあの中で過ごす事になりますわね」
「総帥、そろそろ会議のお時間です」
「あら、もうそんな時間ですの? それでは皆様、御機嫌よう」
「って言う道具で、今回は助かったよ」
「成程、便利な物です」
(シュナイダルとかいったな……次に会ったら容赦はしないぞ)
士郎はシュナイダルに対しての決意を固める。
この瞬間、九郎達の様な超絶存在でさえ怒らせる事を躊躇わせる人物の怒りを受ける事が決定したシュナイダルであった。
……自業自得ではあるが、とても不幸な人物である。
(それと、アイツの裏にいる人物……気になるな)
「しかし、あんな小物臭い奴が召喚したにしては、サーヴァントは大物っぽかったな」
「……そうですね。 悔しいが、奴と敵対して勝機を掴むのは難しいでしょう」
最良のサーバントであるセイバーも素直に認める強者、スレイヤー。
「さて、セイバー、家に帰るぞ。 藤ねえを隔離空間に飛ばした時点でアイツが操る為に使っていたラインは切れてるだろうけど、他にどんな魔術を掛けてあるか分からないからな。 家でじっくり調べた方がいいだろう」
「ええ。 そうですね、士郎。 それにお昼がまだですので、早急にお願いします」
若干余裕が出てきたのか、冗談を口にするセイバー。
……冗談だよね?
大河の治療より、昼食を作れなんて言わないよね?
……それは家に戻った時に判明する事であった。
何とか大河の診察が昼食の前に行われて事だけは記しておく。
暗い、暗い、闇の中。
其処にポツリと立っている女性が1人。
「おやおや、アッサリと終わってしまったね。 まぁ、今回はあの程度の人間だから期待はしてなかったけどね。 さて、次はどういう風に舞台を整えようか……。 クスクス、クスクス。 面白くなってきそうだね。 君もそう思うだろう」
そう言って、ローブを被った女性は後ろに居る人物に話を振った。
【今年最後の話なのにこれほど短くてすいません。 内定が決まるまで、此方の方に時間が余り割けないのが現状です。 来年の頭から暫くは更新のスピードがかなり落ちると思いますがご了承下さい。 それでは皆様、良いお年を】