Fate / open the demonbane

 

第29話 「誘拐…」

 

 

 

「藤ねえが居なくなったのに気が付いた状況を詳しく教えてくれ」

 

他の人達は別室に移動しており、居間に居るのは士郎と金田鉄雄の2人だけだった。

士郎に大河の誘拐を伝えに来た鉄雄は士郎から差し出された冷たい麦茶を飲んで息を整えると、自分の見た事を伝え始めた。

 

「へい。 あっしは何時もの様にお嬢を起こしに行ったんですが、部屋に入ってみるとお嬢の姿が何処にも無くって、代わりにこの紙が机に置いてあったんでさぁ」

 

そう言って士郎の目の前に1枚の紙を差し出す。

其処には簡潔にこう書かれていた。

 

『衛宮士郎、藤村大河は預かった。

 今日の正午、新都の公園にて待つ。

 サーヴァントと共に1人で来い』

 

最初の1行以外は魔術で隠蔽してあり、一般人には見えない様にしてあった。

明らかに魔術師の仕業であり、士郎との何らかの因縁のある者の仕業と窺えた。

士郎はその紙をグシャリと握りつぶす。

 

「ここに衛宮の若旦那の名前が書かれてたんで、急ぎ知らせに来た次第でさぁ」

 

「……助かった。 藤ねえは俺が必ず連れ戻すから、雷画の爺さんには心配するなって伝えておいてくれ」

 

「分かりやした。 何処のどいつかは知りやせんが、思いっきり叩きのめしてやってくだせぇ」

 

士郎はよほど信頼されているのだろう、鉄雄は詳しい事を何も聞かずに立ち上がる。

 

「それじゃあ、あっしは親分に伝えに戻りまさぁ」

 

「ああ、頼んだ」

 

 

 

「どうせ聞いてたんだろ、出て来いよ」

 

士郎は閉まっている襖に向かって呼びかける。

すると、隣の部屋で様子を伺っていた人達がぞろぞろと入ってくる。

 

「で、その紙には何て書いてあったの?」

 

士郎はグシャグシャになった紙を広げて凛に渡す。

それを皆が覗き込む。

 

「凛と桜は学校だろう。 早く出た方が良い」

 

「ちょっと待ちなさいよ、士郎! まさかアンタ、本当に1人で行くつもり!?」

 

「そうですよ先輩。 危険です!」

 

いきなりの士郎の言葉に食って掛かる2人。

 

「……あのな、休む理由をどうやってでっち上げる心算だ? 凛はこの前、学校を休んだだろう。 優等生として振舞ってるんだから、早々休めないだろうが。 それに、藤ねえの事を理由に俺を誘き寄せるんだ、周辺にいる凛や桜の事を調べてない筈が無いだろう。 時間を今直ぐにせず正午に指定したのも、それを確かめる為だと思うぞ」

 

士郎の推測に凛と桜は反論できない。

 

「そうだな、私も凛達が小僧に同行するのは反対だ」

 

「アーチャー。 アンタ……」

 

「だったら、せめてライダーを連れて行ってください。 霊体化していれば気付かれませんから」

 

「止めておいた方が良いな。 恐らくその相手は最後のサーヴァントを連れている筈だ。 接近すれば魔術師は兎も角、サーヴァントには気付かれる。 それに、その手紙自体が小僧を釘付けにする罠で、こちらを狙ってくる可能性も否定は出来ない」

 

「確かに、アーチャーの言う通りですね。 桜の安全の為にも傍を離れる訳にはいきません」

 

「そうですか……」

 

アーチャー達の言葉に俯く桜。

 

「大丈夫だって。 2人は安心して学校に言って来いよ。 帰ってきたら藤ねえの無事な顔が見れるからさ」

 

「……ああ〜、もう! 分かったわよ! 良い、士郎! 絶対に藤村先生と一緒に帰ってきなさいよ!」

 

「今日の夕食は私が作りますから、先輩ちゃんと食べてくださいね」

 

凛達は立ち上がると、学校へ行く準備をしに部屋を出て行った。

 

 

 

「で、本気で相手の指示に従う心算?」

 

カレンが士郎に尋ねる。

 

「ああ、その心算だ」

 

「バカね」

 

予想通りの答えに呆れるカレン。

 

「流石にその言い方は無いんじゃないかしら?」

 

イリヤはシロウの弁護に回るが――

 

「うんうん。 バカだね」

 

エンネアまでカレンの考えに賛同する。

 

「ちょっ」

 

「ええ、士郎相手に人質を使うなんて、命知らずだわ」

 

「え?」

 

イリヤは口を挟もうとしたのだが、カレンの思わぬ言葉に驚く。

 

「そうだよね。 士郎の事、碌に知らない奴の仕業だね」

 

「確かにそうですね。 人質を使うなど、彼の事を中途半端にしか調べていない証拠です」

 

「如何言う事?」

 

3人の言い様に、疑問を抱くイリヤ。

 

「ん〜、今まで士郎に対して人質に取るって言う方法を取った奴は何人か居たんだけど」

 

「その殆どが、死んだ方がマシだという状況を経験しています」

 

「確か、社会復帰させる為に記憶を消さなきゃならなくなった人数も少なくないわね」

 

エンネア達の言葉に呆然と立ち尽くすイリヤ。

 

「特に身内を人質に取った、取ろうとした連中には容赦なかったね〜。 士郎」

 

「おい、エンネア。 人を危険人物の様に言うな」

 

「ゴメン、ゴメン。 でも、相手に容赦する心算は無いよね?」

 

エンネアの言葉に士郎は沈黙で答える。

 

「……何か、心配している私がバカみたいじゃない」

 

既にエンネア達からして見れば、士郎が大河を救出するのは当たり前の事なのだ。

士郎達が本気になれば、彼らに勝てる人間などそう多くない事を理解しているのだから、当然と言えば当然である。

 

「でも、油断は禁物だからね、士郎」

『何かする事ある?』

 

「分かってるよ、エンネア」

『ナイアの監視、よろしく頼む。 もしかしたら『アイツ』もコッチに来てるかも知れないから、出来ればそっちの対処も』

 

「だったら良し。 コッチの家事なんかはエンネア達に任せておいて」

『了解。 監視と家の守りは完璧にするから』

 

口で喋りながら念話でも会話すると言う器用な事をする2人だった。

 

「セイバー、聞いての通りだ。 よろしく頼む」

 

士郎の信頼に応えるかの様に、セイバーははっきりと頷く。

 

「はい、私は貴方の剣です。 立ち塞がる敵を倒すのは私の役目ですから」

 

「ありがとな、セイバー。 さてっと、それじゃあ」

 

士郎は腕を捲くりながら立ち上がる。

その場に居る全員の視線が士郎に集まる。

 

「朝食の後片づけをするか」

 

ズテン

 

皆、肩透かしを喰らい、シリアスな雰囲気が台無しであった……。

 

「や、やるわね駄犬」

 

 

 

 

 

新都にある冬木中央公園。

この場所は前回の聖杯戦争で起こった大火災で焼け野原になった住宅跡地である。

覚えてはいると思うが、ランサーとアーチャー達が戦った場所もココである。

時刻は午前11時55分、指定の刻限まで5分だ。

 

セイバーはこの場所で起きた出来事を思い返していた。

 

「……シロウ」

 

「何だ、セイバー? 何か質問か」

 

「いえ、何でもありません。 それよりもシロウ、もう直ぐ約束の刻限です。 気を付けて下さい」

 

セイバーは臨戦体勢こそ取っていなかったが、周囲への警戒をさらに強める。

 

「分かってる。 それと、頼りにしてるからな、セイバー」

 

「その期待に我が剣を持って応えましょう」

 

そう言って微笑むセイバーに、士郎は一瞬、見とれてしまう。

 

「あ、ああ」

 

 

 

約束の刻限、12時を時計の針が指す。

 

「「!!」」

 

その瞬間、士郎達を中心とした公園一帯に結界が張られた。

 

「来たようですね、シロウ」

 

「……」

 

素早く臨戦態勢に移る2人。

そして、2人の目には明らかにサーヴァントと思われる人物と剣を携えた藤村 大河の姿が映った。

 

 

 

 

 

【漸く更新できました! 遅筆ですがお待ちしてくれる方々に感謝を。 士郎君の恐ろしさが垣間見れる今回でした。 そして、次回は久しぶりの戦闘だ! それと、大河の目覚まし代わりの藤村組の構成員チンピラA、彼に名前を付けたいと言う方は募集して下さい。 よさそうな名前を採用します!】

 

【チンピラAの名前を夢識さんの『金田鉄雄』に決定しました! ご応募してくださった皆様、どうもありがとう御座いました】