Fate / open the demonbane

 

第25話 「墓参り…」

 

 

 

士郎はイリヤを担ぎながら校内を脱出し、柳洞寺の裏山まで来ていた。

 

「はぁ……。 疲れた〜〜〜」

 

士郎は肉体的にもだが、精神的に疲れ果てていた。

 

「大丈夫? 士郎……」

 

心配そうにイリヤは士郎の顔を覗き込む。

 

「ああ、ちょっと疲れただけだ。 結局、何で学校まで来たんだ?」

 

まさか、会いたかったと言うだけの理由で、学校にイリヤが足を運ぶとは士郎は思っていなかった。

 

「う〜〜〜ん。 士郎に会いたかったって言うのはホントだけど、それ以上に士郎の学校生活を見てみたかったの。 私、そういうの全く知らないし……」

 

「そっか……。 だったら、この聖杯戦争が終わって一段落したら、こっちの高校に転入してくるか?」

 

士郎の言葉を聞き、イリヤが目を輝かせる。

 

「え! いいの?」

 

「ああ。 色々と面倒事があるかも知れないけど、そこは何とかするさ」

 

自分の義妹の為、今の士郎ならその程度の事が出来る権力はある。

 

(いざとなったら、瑠璃さんや九郎兄の力を借りるさ)

 

目の前で無邪気に笑うイリヤを見ながら、士郎はそう考えていた。

 

 

 

「ところで士郎? ここ、何処?」

 

イリヤは辺りを見回しながら、士郎に聞く。

 

「ああ、ここは柳洞寺の裏山だよ。 こっちの道は墓地に続いていて、親父の墓もある」

 

士郎の言葉を聞き、イリヤがはっとなる。

 

「キリツグの?」

 

「ああ、ライガの爺さん、ああ、藤ねえの爺さんの事だけど、その人が親父が死んだ時に、葬式の手配やらしてくれてな、墓もここに作って貰ったんだ」

 

「そう………」

 

何か考え込んでいるような仕草を見せるイリヤ。

 

「行って見るか、イリヤ?」

 

「……いいの?」

 

「当たり前だ。 それに、可愛い娘が来るのを、あの親父が追い返す訳が無いだろ」

 

士郎は、笑顔でイリヤに答える。

 

「……う、うん。 言って見たい!」

 

「それじゃあ、行くぞ」

 

士郎はイリヤに手を差し出し、イリヤはその手を取り、2人は切嗣の墓へと向かった。

 

 

 

「ここだ、イリヤ」

 

士郎は衛宮切嗣と名が刻まれた墓の前に、イリヤを連れてきた。

 

「ここが………」

 

「親父……イリヤを連れてきたぞ」

 

士郎は墓の前に座ると、手を合わせて墓前でその事を報告する。

 

(この日が来るが結構掛かっちまったけど、俺がイリヤの家族としてこれからやって行くよ)

 

「キリツグ………。 な、何で! 何で、死んじゃったのよ! もっと、もっといっぱいしたい事あったのに! もっと、もっと話したかったのに! 何で……」

 

切嗣の墓の前で、イリヤは涙を流し始めた。

 

「イリヤ………」

 

その様子を見て、呆然とする士郎。

まさか、イリヤが泣き出すとは思っていなかったのだろう。

その泣きじゃくる様は、普段のイリヤの姿からは想像も付かなかった。

それは、イリヤがそれ程、切嗣を愛していた証でもある。

 

暫らくして、イリヤの泣きじゃくる様が、ようやく収まってきた。

イリヤは涙を拭うと、士郎に向き直る。

 

「し、士郎! さっき見た事は、誰にも言っちゃダメだからね!」

 

恥ずかしさから、顔を真っ赤に染めるイリヤ。

 

「ああ、分かってる。 この事は、俺とイリヤ、2人だけの秘密にするよ」

 

「宜しい!」

 

士郎の答えを聞き、満足そうに笑顔を浮かべるイリヤ。

 

「おやおや、それはつれないね〜。 ボクも見てたんだけどな〜」

 

「誰だ!」

「誰!」

 

士郎とイリヤは、直ぐに声のした方を振り向く。

そこには昨夜、影の餌食となったはずのキャスターが居た。

 

「キャスター………いや、違うな。 何者だ!」

 

士郎はキャスターの放つ、なんとも形容しがたい気配を感じ取っていた。

そして、イリヤを自分の後ろに隠す。

 

「おや、分かるのかい? 流石だね……」

 

士郎がそれに気が付いた事に、謎の人物は驚いたように言う。

 

『来い! セイバー!』

 

士郎の令呪が1つ消費され、完全武装したセイバーが現れた。

 

「どうしました、士郎?」 

 

行き成り呼び出されて、士郎に状況を聞こうとしたセイバーだが、目の前の人物に驚く。

 

「!! キャスター?」

 

「違う!」

 

即座に士郎は、それを否定する。

 

「おやおや、最良のサーヴァント、セイバーのお出ましか。 物騒だね〜」

 

セイバーは直ぐに戦闘態勢に入る。

 

「その気配、眷属か?」

 

士郎の言葉に、その人物は答えを返す。

 

「おしい! まあ、この体の所為で、気配を完全に隠しきれていないし〜。 かと言ってこの器じゃボクの力をその程度ぐらいしか出せないから、そう思うのは仕方ないけどね」

 

そう言って、その人物はクスクスと笑う。

 

「まさか!」

 

士郎は、その言葉を聞いて目の前の人物に思い当たった。

 

「うん。 士郎君、君の考えてる通りだよ。 流石は、『あの子』が気に入っただけの事はあるね……。 それでこそ、九郎君の後継者、いや候補だったね」

 

「何で、貴様がここに居る『ナイアルラトホテップ』!」

 

その名を呼ばれた途端に、キャスターの姿が膨張し、異形の怪物の姿になる。

しかし、次の瞬間には、まるで逆再生するかのように、キャスターの姿に戻る。

 

「「!!」」

 

その様子を見た、イリヤとセイバーに驚きの表情が浮かんだ。

 

「ボクは君に会う為に来たんだよ。 いや〜、苦労したよ。 その為に色々と干渉したからね。 君との接点がある『あの子』は、独り占めにしたいらしく、ボクが君に会う事を邪魔してくるし……。 だから、この体を借りる事によって目晦ましをしたって訳さ」

 

『それ』は楽しそうに喋る。

 

「……………」

 

「ああ、心配しなくていいよ。 ボクは直接はこの聖杯戦争には関与していないよ。 せいぜい舞台を楽しみに見させてもらうよ」

 

「戯言を!」

 

セイバーは『それ』の間合いに飛び込むと、一刀両断にする。

 

「おやまあ、この辺で失礼するね。 それじゃあ、士郎君。 次は『始まりの地』で会いましょう」

 

セイバーに一刀両断にされた筈の『それ』は霞のように消え去った。

 

「セイバー、助かった……」

 

士郎は『あの存在』が何かしようと思ったら、止められる自信が全く無かった。

 

「いえ……士郎、先程の人物が何者か知っているのですか?」

 

先程のやり取りを聞いて、セイバーは士郎があの人物について、何らかの情報を持っている事は間違いないと確信していた。

 

「ああ、直接は知らないけど、厄介な奴だよ。 帰ったら皆を交えてその事を話す。 この聖杯戦争の雲行きが怪しくなってきたからな……」

 

士郎はこれからの事について考えていた。

これから、降り注ぐ災難を知らずに……。

 

 

 

 

 

【お待たせしました! 第25話をお送りしました! いや〜、今月は結構更新がありました。 あともう1本出す予定ですけど……。 キャスター再登場です? 士郎達とナイアがこれから如何絡んでくるのか? もう1人のサーヴァントは! これからの物語をお楽しみ下さい!】