Fate / open the demonbane

 

第23話 「不幸…」

 

 

 

「桜、葛木先生の様子はどうなんだ?」

 

「ええ意識の方ははっきりしている様で、この家に運ばれて来た経緯は話しておきましたよ」

 

「そうか、ありがとな桜」

 

そう言って士郎は桜に微笑みかける。

 

「そ、そんな」

 

桜は照れてうつむく。

士郎達が隣の部屋に移動すると中から声がかけられた。

 

「う、衛宮か?」

 

葛木はヨロヨロと体を起こしながら、部屋に入ってきた人物に声をかける。

 

「ダメです! まだ寝ていてください」

 

桜は起き上がろうとする葛木に駆け寄り布団に寝かせる。

葛木もそれに逆らわず素直に横になる。

 

「葛木先生、色々と聞きたい事があるんですが答えてもらえますか?」

 

「……かまわないがひとつ教えてほしい。 キャスターはどうした?」

 

「……あの影に捕まって生死は分かりません」

 

そこにイリヤが口を挟む。

 

「少なくとも生きてはいるんじゃないかしら? 私の方には来ていないから」

 

「どう言う事よイリヤ?」

 

凛が首をかしげる。

 

「言った通りの意味よ。 私は今回の聖杯だからサーヴァントがリタイアしたなら解る様になっているわ」

 

「そうか……」

 

葛木は無表情のままイリヤを見る。

 

「さて、そちらの質問に答えたのですから、次はこちらの質問に答えて貰います」

 

バゼットは横になっている葛木に話しかける。

 

「何を聞きたいのだ?」

 

「何故、貴方達はあの影に襲われたのですか?」

 

葛木は間を置かずにすぐに答えを返す。

 

「分からん。 アレはいきなり現れて私とキャスターに襲い掛かってきた。 際限なく現れてくるアレにやられて私が気絶してしまった後はそちらが知っている通りだ」

 

「そうですか……」

 

葛木からあの影についての情報を得られるとは思っていない様だったが、やはり落胆を隠せないでいる。

 

「ところで葛木先生は聖杯戦争をこのまま続けるんですか?」

 

凛が本題に入る。

 

「当然だ。 私は巻き込まれた身だが自分の行った事だ、自ら降りる筈がない」

 

「ち、チョット待ってください。 葛木先生、貴方がキャスターを召喚したのでは無いんですか?」

 

葛木は首を振る。

 

「外に出てみたときに、ボロボロになっていた所を拾っただけだ。 アレが聖杯とやらを欲していたから、頼まれて聖杯戦争に参加したにすぎん」

 

「それじゃあ葛木先生は聖杯は欲してはいないけれど、キャスターの願いを叶える為に聖杯戦争を続けると言う事ですか?」

 

桜の問いかけに葛木は頷く。

 

「そう言う事になる」

 

葛木の言葉に一同が沈黙する。

 

「……では、この場で倒すしかありません」

 

セイバーが立ち上がり武装化しようとする。

 

「待て、セイバー!」

 

「何故止めるのですかシロウ? 降りないと言うのであればココで決着を着けなければなりません」

 

士郎はセイバーの頭を軽く叩く。

 

「物騒なことを言うな。 聖杯戦争に関しての記憶を消せば言いだけの事だろう。 何でもかんでも唯倒せば良いってもんじゃない」

 

冷静な意見を述べる士郎。

 

「そ、それはそうですが……」

 

「まったく」

 

深い溜息をつく士郎。

師匠が力押しで物事を解決する所為か、色々と苦労をしてきた士郎だった。

 

「と言う訳で、聖杯戦争に関する記憶を消させてもらいます。 抵抗は無意味ですよ、ココにいる連中の殆どは先生より強いですから」

 

「……私はある意味敗者だからな、従おう。 それに体が碌に動かないので抵抗の仕様が無い」

 

素直にこちらの要望にこたえる葛木。

 

「凛、記憶の操作を頼む」

 

「は〜、解ったわよ。 直ぐに処置するから士郎達はあっちに行っていて良いわよ」

 

その後、記憶の改竄を済ました葛木を柳洞寺に連れ帰り、もう遅いと言う事で士郎達は就寝となった。

 

 

 

翌朝、士郎は起床するといつも通りに着替え朝食の準備に取り掛かった。

桜とエンネアがその補助に回る。

 

「ところで士郎、何人分の食事を作るの?」

 

エンネアの言葉に指を折りながら朝食を食べるであろう人物達を数えていった。

 

「あ! しまった!」

 

「どうしたんですか先輩?」

 

「綾子が来る」

 

士郎の言葉にはっとなる桜。

 

「あ!」

 

平日の学校のある日は大抵、綾子は士郎の家で朝食を取る。

月曜である今日はもちろん家に来るであろう事を、ココ3日正確に言えば2日半の忙しさの所為ですっかり忘れていた。

 

「まあ、藤ねえにした説明で押し通すしかないか」

 

「……」

 

桜はすっかり顔を青くしている。

 

(ど、どどど、どうしましょう。 これって明らかな規約違反です)

 

桜、凛、綾子の3人で極秘裏に結ばれた同盟の内に抜け駆けを禁止する項目があった。

桜と凛の行為は綾子から見れば抜け駆けにうつる可能性が高い。

 

「せ、先輩。 私ちょっと姉さんを起こしに行ってきます」

 

「あ、ちょっと」

 

士郎が静止するよりも早く、桜は台所を後にする。

 

「いったい何なんだ?」

 

桜の突然の行動に士郎はただただ首をかしげた。

 

 

 

朝食が出来上がり食卓に並べている最中、いつもの通り呼び鈴を鳴らさず家にやって来た人物がいた。

 

「し〜ろう〜!! おっはよ〜〜〜! ご飯出来てる?」

 

「士郎ー、邪魔するよー」

 

そう言って朝食の用意してあるであろう居間までやって来た。

 

「な!」

 

綾子は居間に入るなり驚きの表情を作る。

まあ、知らない人物が大勢居たら当然だろう。

 

「よう綾子、藤ねえ、おはよう。 お前らの席はそこな」

 

士郎は開いている席に指を指す。

 

「ち、ちょっと士郎。 なんだいこの人達? って、何で凛と桜がいるんだい!」

 

綾子は辺りを見回し、そこに凛と桜が居るのに気がついた。

 

「あら、おはよう綾子」

 

桜が早めに起こしに行った為か、朝早くなのに珍しく意識のはっきりしている凛。

 

「おはようございます。 主将」

 

ぺこりと頭を下げる桜。

 

「ああ簡単に説明すると、凛と桜なら洋館を改築工事するって事になって、手続きとか色々と手伝いに来た人と暫らく泊まる事になったんだ。 そっちに居る人達は親父の知り合いで、日本の観光に来ていてホテル代わりに家に止まってもらってる。 んでもって、こっちは俺がアメリカに居た頃の知り合いでこっちに遊びに来てる。 最後にイリヤは俺の義妹でな、親父とイリヤの実家と確執があって今までこっちに来なかったんだが、色々とあって暫らくココで暮らすことになった。 まあ、家は使ってない部屋が多いからなちょうど良い機会だよ」

 

早口にまくし立てる士郎。

 

「へ〜、そうかい」

 

綾子は相槌を打つと、凛と桜に小声で話しかける。

 

「おい、後で詳しく話を聞かせてもらうからな」

 

綾子にじっ〜〜と睨まれて苦笑いを浮かべる2人だった。

 

「ほら、いつまでも突っ立ってないで早く席に着け。 せっかくの飯が冷めるだろ」

 

「はいよ」

 

綾子はこれ以上追及せず、士郎の言葉に従い素直に席に着いた。

そして、賑やかな朝食は始まった。

 

 

 

「それじゃあ、俺達は学校に行って来るから」

 

他の4人はすでに家の外に出ていた。

 

「は〜〜〜、分かりました。 何かあったら令呪を使ってでも直ぐに呼んで下さい」

 

「分かってるってセイバー」

 

先程、学校に行く行かないでセイバーと話し合いになった。

結局の所は何か遭ったら令呪で呼び出すということでセイバーが折れた。

セイバー自身が霊体化できない所為でもあったので仕方が無いといえば仕方が無かった。

 

「遅いわよ、士郎」

 

ようやくやって来た士郎に対し、文句を言う凛。

 

「仕方が無いだろ。 セイバー達に居ない間は如何すれば良いか教えてたんだし、それにまだ余裕はあるだろ」

 

「まあ、そうなんだけどね」

 

「それじゃあ行くか」

 

そう言って5人は学校に向かって歩き始めた。

随分久しぶりの風景だと思ったのはいったい誰だったのだろうか?

 

 

 

「如何した一成?」

 

校門の目の前で随分と気落ちした一成を見かけて、声をかける士郎。

 

「ああ、衛宮か……」

 

「あら、生徒会長さん。 随分と落ち込み気味ですわね。 学生の見本となるべき人物とは到底思えませんよ?」

 

一成に対し毒舌を吐く凛。

いつもならそれに対し大いに反発する一成だが、今回は様子が違っていた。

 

「ああ、遠坂か……。 は〜〜〜、すまんお前の言う通りだ」

 

「ち、ちょっと、いったい如何したんだい?」

 

ただならぬ様子に、綾子は慌てた。

 

「美綴か。 昨日、家に侵入して荒らしまわった者が居るのだ。 特に正門前が被害が酷くてな、どうやったのかクレーターが出来ていた。 それに家に居候している葛木先生の婚約者が姿を消してしまっていてな、何かの事件に巻き込まれたのか心配でな。 は〜〜〜、そのような事があったのに気がつかなかった自分が許せん」

 

「そりゃあ、大変だね」

 

ことの大きさに驚く綾子。

他の3人は冷や汗を流している。

特に凛は……。

 

「一成君。 そ、そろそろ授業が始まりますし、ここに立っていては通行人の邪魔ですよ。 教室に行かれたほうが良いんじゃありません?」

 

「ふ〜、そうだな。 それでは行くか士郎」

 

「ああ」

 

とぼとぼと歩く一成。

士郎は凛に人身御供に差し出されたと、明確に理解していたが従うしか他にはなかった。

そうして、士郎の居心地の悪い今日の授業が始まった。 

 

 

 

 

 

【さて、23話をお送りしました。 久々に一成、綾子の登場です。 ほぼ同じぐらいの出番なのに、片や人気投票でもよく上位に食い込んでいる人物と、片やまったく名前が出てこない人物です。 それにしても一成、不幸です……。 そんな君に()()()()です。 では、次のお話で】