Fate / open the demonbane

 

第16話 「寅、再び…」

 

 

 

「3人ともココが離れだ。 一部屋ずつ用意してある、もう少ししたら夕食ができるからそれまでは寛いでいてくれ」

 

「「うん」」「はい」

 

3人とも頷き、それぞれの部屋に入っていく。

 

こうして俺は、少し遅めの夕食の準備を開始した。

さすがに、うちの台所で10人前以上の食事を作るのは大変だった。

 

 

 

「ようやくですか」

 

人が素早く食事の用意を下ってのに、こんなことを言いやがるか、この性悪シスターは。

 

「久しぶりだね。 士郎の食事は、腕は上がってるかな?」

 

エンネア、簡単に作ったもんだから、そんなに期待しないでくれ。

 

「ふ〜ん、シロウが食事を作っているんだ〜」

 

なんだイリヤ、その意味深な言葉は……。

 

と言うか、あんたら3人いつの間に席に着いていたんだ!

食事を運ぼうと、ついさっき机を拭いたときには、いなかっただろうが!

 

(はあ〜、世の中には不条理が満ちている……)

 

そして、居間にはバーサーカー以外全員が集まり、遅めの夕食を開始した。

 

「シロウ、おかわりです」

 

次々に、ご飯を平らげていくセイバー。

 

「……」

 

淡々と箸を進めるライダー。

 

「おい、シロウ。 一緒にのまねえか?」

 

俺に酒を勧めてくるランサー。

 

「ふっ……」

 

人の料理を口にして、皮肉げな笑みを浮かべるアーチャー。

 

「………」

 

外で、1人たたずむバーサーカー。

 

「桜、それとって」

 

「はい、姉さん」

 

姉妹だからなのか、どこか通じ合っている凛と桜。

 

「士郎、お茶をもらえますか」

 

作業のように、食事をするバゼット。

 

「ふ〜ん、士郎。 これは?」

 

日本食は珍しいらしく、あれこれ聞いてくるイリヤ。

 

「士郎、明日は期待しているから」

 

そう言って、プレッシャーをかけてくるエンネア。

 

「まあまあですね」

 

その口の悪さを如何にかしてくれ、カレン。

 

 

 

そんなこんなで、忙しい食事も終わり、就寝の時間になった。

 

 

 

「ふ〜、やっと終わった」

 

「シロウ、入るよ」

 

ふすまの向こうから、イリヤの声が聞こえた。

 

「ああ、イリヤ入っていいぞ」

 

「うん!」

 

ふすまを開けると、同時にイリヤが飛びついてきた。

 

「えへへ」

 

「どうしたんだ、イリヤ?」

 

「もう、シロウ。 男ならこんな時は黙って抱きしめるものよ」

 

「いや、でもな」

 

「あと少しだけ」

 

言っても聞きそうに無い、様子だった。

 

「わかった、少しだけだぞ」

 

「うん」

 

そういって、にっこりと笑うイリヤ。

 

 

しばらくして、俺たちはたわいも無い雑談をしていた。

 

「ところでさ、シロウ。 ノーデンスってどんな所?」

 

この質問の答えには少し困る。

 

「……そうだな、一言で言うと、変わり者の巣窟? ってところかな」

 

「へ〜。 そうなんだ」

 

「ああ、特に気をつけないといけない、変人科学者がいる。 能力的には間違いなく天才なんだが、性格の壊れ具合も天災クラスだ。 関わり合いになると碌な事が無い」

 

「ふ〜ん。じゃあ、あのエンネアって子はどうなの?」

 

「エンネアか? まあ、俺の師匠の義理の妹でな、俺なんかよりもはるかに強いぞ」

 

「うそ!」

 

俺の言った言葉に驚くイリヤ。

 

「シロウ、それホント? だってシロウ、バーサーカーを1人で何回殺したと思っているのよ。 そんなシロウよりも強いの?」

 

「ああ、そうだ。 一応、俺はあそこの幹部って事になっているが、戦闘力でいえば7人いる幹部の中でも4〜5位って所だぞ」

 

「!」

 

ホントに驚いたらしく、イリヤは口をあけたまま固まっている。

 

「それに、エンネアは俺たちよりも階級的にも上で、上級幹部だぞ」

 

「ち、ちょっとシロウの実力で中堅クラス? 他はどんな連中よ!」

 

「そう言ってもな、俺もまだまだ修行中だしな。 幹部連中は、まだかわいい方だぞ。 上級幹部、スポンサーを除けば、まさに人外だぞ。本気でやりあう事になれば、倒せる人間なんていないと思うぞ。 それこそ、世界を敵に回しても勝てる人たちだし」

 

「シロウ、もうこれ以上聞かないわ」

 

弱々しい声で俺に話すイリヤ。

 

「ああ、懸命だ」

 

それを俺は当然、肯定する。

 

「イリヤもう、遅いから寝た方がいいぞ」

 

「うん、そうする。 お休みシロウ」

 

「ああ、お休みイリヤ」

 

俺が返事を返すと、イリヤは自分の部屋に帰っていった。

 

「ホント、非常識な連中の巣窟だよな」

 

《自分も、その一員だと気付いていなかった》

 

「ん? 何か声がしたか? ……まあいいか、もう寝よう」

 

(まったく、この数日で家も随分と賑やかになったもんだな)

そう、思いながら俺の意識は眠りについた。

 

 

 

昨日の騒々しい一夜が明けて、新たな朝が来た。

 

朝食の準備をしに台所へ行くとすでに先客がいた

 

「おはよう、士郎」

 

「おはよう、エンネア」

 

台所にエンネアがいるのに驚きつつも、挨拶を返した。

 

「こんな早くから、何しているんだ?」

 

そうなのだ、食事をする人数が多いので、いつもより早めの5時なのだ。

 

「ん? そんな事。 士郎と一緒に朝食を作るために決まっているじゃん」

 

にゃはと、かわいらしく笑うエンネア。

 

「そうか、久しぶりだな一緒に食事作るの」

 

「そうだね、アルなんか家事は殆どできなかったからね。 九朗も似たようなもんだったし」

 

「そうだな」

 

2年前の事を思い出し、2人で笑いあう。

 

「じゃあ、エンネア。 他の奴らが起きて来る前にとっと準備を終わらすか」

 

「うん」

 

 

 

それから、一時間ほどが経ち、俺たちは朝食の準備を殆ど終わらせていた。

 

「ふう〜、こんなもんだろう」

 

「そうだね。 しっかし、士郎は相変わらずだね」

 

「何がだ?」

 

「いいの、いいの」

(相変わらず、恋愛関係で鈍感な士郎だな。 まあ、そこが良いんだけどね)

 

くすくすと笑っているエンネアを見て、俺はなんとなくその表情が気になった。

 

「今、何考えたんだ?」

 

「別に〜、大した事じゃないよ。 ……士郎、おっきくなったね」

 

「ん?」

 

いきなり、話題を変えるエンネア。

 

「そうか?」

 

「うん、ここ2年あんまり会えなかったから、余計にそう思う」

 

確かに、この2年間で、俺の身長は大分伸びた。

 

「まあ、成長期だしな」

 

いきなり、エンネアが抱きついてきた。

 

「それに士郎」

 

そのエンネアの小さな声は、乱入者の声でかき消された。

 

「せ! 先輩! 何やってるんですか!」

 

現状、朝早くに男女が2人っきりで抱き合っているように見える。

第3者から見られれば誤解されるのは当然かもしれなかった。

 

「桜、落ち着け」

 

「お、落ち着いています。 というか、先輩、エンネアさん! 早く離れてください!」

 

明らかに慌てて詰め寄ってくる桜。

 

「ん? 桜、うらやましいの? だめだよ、女って、日々、己の美貌に研鑽をしていないと、簡単に男に捨てられてしまうもんなんだよね」

 

エンネアの露骨な言葉に、顔を赤くする桜。

 

「な!」

 

「落ち着け、桜。 エンネアを面白そうだからって、人をからかうのはやめろ!」

 

そういって、俺はエンネアを引き剥がす。

 

「もう、士郎。 暖かかったのに」

 

「だったら、暖房の効いた部屋に行けばいいだろうが」

 

そこで、エンネアは大きなため息をつく。

 

「はあ〜〜〜、ホント士郎はニブチンだね。 桜、向こうに行こう」

 

「へ?」

 

訳が分からないといった顔をした桜を、エンネアは引きずっていった。

 

「いったいなんだ?」

 

相変わらず、エンネアのする事が読めなかった。

 

 

 

しばらくして皆が起き出してきて、朝食の時間になろうとしていた。

そして、あの人物がやってきた。

 

「士郎! 朝ご飯頂戴!」

 

「おい、藤ねえ。 日曜の朝だってのに、もう少し静かにできないのか」

 

「別にいいじゃない、士郎のご飯が楽しみで朝早くからお姉ちゃんが駆けつけてきたんだよ」

 

このトラに反省を求めるだけ無駄だったと、改めて思った。

 

「は〜、だったら、席に着いてくれ」

 

「うん」

 

素早く席に着く、藤ねえ。

 

「士郎、この料理何処におけば良い?」

 

エンネアが、手に大皿を持って聞いてくる。

 

「ああ、それは、机の中央においてくれ」

 

「分かった」

 

「士郎。 私の席は何処にすればいいのでしょう?」

 

「カレンは、バゼットの隣に座ってくれ」

 

一瞬、いやそうな顔をするカレン。

 

「分かりました」

 

「シロウ、早く」

 

俺の手を引っ張ってくる、イリヤ。

 

「わかった、イリヤ。 席に着いてくれ」

 

そんなこんなで、あわただしくも全員が席に着いた。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

「「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」」

 

「うん、やっぱり士郎のご飯は美味しいな」

 

ニコニコ顔の藤ねえ。

 

「この卵焼き、先輩の味付けと少し違いますね」

 

「ああ、それはエンネアが作ったんだ」

 

「へえ〜、エンネア料理できたんだ」

 

「それぐらい基本だよ、イリヤ。 カレンはできる?」

 

「まあ、結婚すれば料理は駄犬に作らせる方が美味しいですから、自分からする気はありませんね」

 

おい、今、何気にやばい発言が無かったか?

 

「………」

 

やっぱり今回も来た様だ。

 

「おい、皆、耳をふさげ!」

 

今回は、全員が耳をふさぐことに成功した。

何気に一番最初に耳をふさいだのはランサーだった。

英霊をも恐れさせる、トラの咆哮、恐るべし。

 

「また増えてるよ〜〜〜!!」

 

背後にトラを出現させながら、大声で叫ぶ藤ねえ。

それはもう、立派な兵器だった。

 

「どう言う事なの士郎! 昨日に引き続き、何で人が3人も増えてるの! ウハウハ、ハレーム計画なんて、お姉ちゃん許しません!」

 

1人で暴走する藤ねえ、止めないと何処までも進んでいきそうな様子だった。

 

「おい、人聞きの悪いことを言うな。 ちゃんと説明するから、藤ねえはちゃんと聞け!」

 

「うう! じゃあ説明しなさい」

 

少しは落ち着いた様だった。

 

「ああ、こっちは大十字 エンネア。 藤ねえも知ってるだろう、俺が留学先のアメリカで世話になっていた九郎さんの義妹だよ。 そっちは、その友人の(俺に対してイタズラするとき妙に息が合っているんだよなこの2人)カレン・オルテンシア。 こっちには観光に来たついでに、久しぶりに会いに来たそうだ」

 

「うん、九郎義兄さんに土産話がほしかったのと、久しぶりに士郎に会おうと思って来たんだよ」

 

「私は、この土地を見て回るのも面白いと思いまして」

 

エンネアが元気いっぱいに笑いながら話すのと対照的に、カレンは淡々と話すだけだった。

 

「うう! じゃあ、そっちのちびっ子は!」

 

イリヤに指をさす藤ねえ。

アンタ教師なんだから、初対面の人に向かってその態度は無いだろうと思う。

 

「ああ、イリヤか。 イリヤは親父の実の娘だ。 この家にいるのには何の問題も無いと思うが?」

 

「へ?」

 

口を開けっ放しにする藤ねえ。

 

「……………」

 

しばらく、腕を組んで考え込む。

 

「なんですって!」

 

案の定、大声で驚く藤ねえ。

 

「ど、どういう事、士郎!」

 

「いや、だからイリヤは親父の実の娘なんだってば。 親父とイリヤの実家の折り合いが悪くて、今までこっちに来なかったけどな」

 

「こ、このちびっ子が切嗣さんの実の娘?」

 

「だ・か・ら、そう言ってるだろうが。 イリヤ、写真があったろう、藤ねえに見せてやってくれ」

 

「うん、いいよ」

 

そういって、イリヤは親父と幼い時の自分、そして母親と写った写真を取り出し、藤ねえに渡した。

藤ねえは、受け取った写真を見ると硬直した。

 

「…………」

 

写真を見て、硬直したままの藤ねえ。

そこからイリヤは写真を抜き取る。

 

「う、うわ〜〜〜ん!」

 

藤ねえは、かなりショックだったらしく、朝食の途中で帰っていった。

 

「まったく、五月蝿いトラでしたね」

 

沈黙した食卓の中、カレンの言葉が響き渡った。

 

 

 

 

 

【次回、………と???】