Fate / open the demonbane

 

第12話 「衝突…」

 

 

 

俺たちは教会から出た後、郊外にある森へと足を運んでいた。

 

「シロウ。 ココにバーサーカーたちがいるのですか?」

 

「ああ、ココにはアインツベルン家の別荘があるんだ。たぶん今回もココを拠点にしているはずだぞ」

 

「……シロウ。 アナタは何を思っているのですか? 魔術師でありながらアナタのあり方は魔術師ではありえない」

 

セイバーの瞳が俺を見据える。

 

「ああ、たしかに俺は魔術師であって魔術師ではない。 セイバー、……俺は前回の聖杯戦争に巻き込まれて、自分の肉体以外のものを全て無くした」

 

セイバーが驚きの表情をつくる。

 

「では、なぜ私やキリツグを恨まないのですか。 前か」

 

俺はセイバーの声をさえぎる。

 

「セイバー、俺は親父やセイバーの事なんて恨んじゃいないよ。 俺は、確かにあの火災で、それまでに持っていたものの殆どを失った。 だけどなセイバー、そこから得たものもあったんだ。 そして、そのおかげで今俺がココにいる」

 

「アナタは変えようとは思わないのですか? 聖杯が手に入ればあの火災を無かったことにできるかもしれないのに」

 

セイバーが俺をまっすぐに見据える。

確かに、本物の聖杯なら過去にも干渉できるかも知れない……だが。

 

「変えようとは思わないよ、セイバー」

 

「なぜです!」

 

セイバーの願いは過去の改竄だということの検討はついている。

ここで、俺が自分の答えを言っても今のセイバーには聞き入れないものだろう。

 

「セイバー。 その答えは自分で見つけないといけない。 自分の答えと、他人の答えは一緒とは限らないから」

 

「!……シロウ。 アナタは……」

 

「セイバー、もうそろそろ城に着く。 イリヤには森に入った頃から気付かれている筈だ、注意してくれ」

 

その言葉にセイバーの思考が切り替わるのがわかった。

 

「はい、わかりました。 シロウ」

 

 

 

俺たちは屋敷の目の前に来ていた。

そして、屋敷の門の前に立つ少女と巨人の人影があった。

 

「ようこそ、お兄ちゃん」

 

優雅に礼をする、イリヤ。

その傍らに沈黙を守る、バーサーカーが立っている。

 

「2人だけで来たって事は、降参するの? お兄ちゃんだけなら助けてあげるけど」

 

「いや違う、イリヤ。 俺はお前を止めに来た」

 

俺の言葉にイリヤは無邪気な子供の表情から冷酷な魔術師の表情へと変わる。

 

「ふ〜ん、やっぱりシロウもキリツグみたいに裏切るんだ」

 

「いや、お前を止めるのは親父との数少ない約束だからな」

 

「言い訳なんか聞きたくない! やちゃえ、バーサーカー!」

 

そう、イリヤがバーサーカーに命令するとバーサーカーは持っていた斧剣を振り上げた。

 

「GYAAAAA」

 

力任せに振り下ろされるバーサーカーの斧剣だが、その速度と力は凄まじいものがあった。

俺たちは慌てて今いた場所から飛びのく。

そこに斧剣がおろされ地面を抉り取る。

 

「ちぃ。 イリヤ俺はお前を傷つける心算は無い」

 

「しらない、早く決めなさいバーサーカー」

 

話合いに応じる様子の無いイリヤ。

 

「シロウ、下がってください」

 

そして、バーサーカーの斧剣とセイバーの剣が打ち合う。

バーサーカーの斧剣の質量と力任せの剣とセイバーの膨大な魔力をこめた剣が互角にぶつかり合う。

振り下ろされるバーサーカーの斧剣、それを弾くセイバーの剣。

ただ力任せに振るうバーサーカーの剣は、セイバーには届かない。

その様子を見る俺の中には焦りがあった。

 

(どうする、このままじゃセイバーは勝てない)

 

打ち合いが互角だと持久戦になればこちらが不利だと言うのは目に見えている。

セイバーの宝具の真名を開放できたとしてもあのバーサーカーを9回も殺せるかわからない。

 

(やっぱり、使うか?)

 

そう思いながら、2人のサーヴァントの戦いを見つめる。

 

「ふ〜ん、さすがはセイバーってことね。 いいわ、狂いなさいバーサーカー」

 

そうイリヤが言うとバーサーカーのスピードが一段と速くなり、打ち合うセイバーを武器ごと吹き飛ばした。

 

「くっ、まさか、今までは狂化させていなかったのですか」

 

バーサーカーの振り払うような攻撃に、セイバーは受け止めるが受けきれず、吹き飛ばされながらも受身を取り立ち上がる。

目だった外傷は無く、戦闘は続行できそうだった。

 

(まずいな)

 

バーサーカーが今まで狂化していなかったというのは予想外だった。

 

「セイバー! 下がってくれ!」

 

その言葉を聞きセイバーは俺に文句を言ってくる。

 

「なんですか、シロウ! アナタこそ下がっていてください。 あなたはマスターです」

 

「ふ〜ん、やっぱり降参?」

 

笑顔を浮かべながら聞いてくるイリヤ。

 

「いや、俺がバーサーカーの相手をする」

 

その言葉を聞いて信じられないという表情をする2人。

 

「本気? お兄ちゃん」

 

「正気ですか! シロウ」

 

そんな2人の言葉を聞き流す俺。

 

「本気だイリヤ。 俺が1対1でバーサーカーを殺したら話を聞いてもらうぞ」

 

「ふ〜ん、シロウ。 アナタこの前は他のサーヴァントたちが足止めをしていたから殺せたんだよ。 それに、この前の攻撃はもう通用しないよ」

 

「わかっているさ、セイバーそこでじっとしていてくれ。 そんなことで令呪を使いたくない」

 

「くっ、シロウ。 ……わかりました。 ですが危険と判断したら容赦なく割って入ります」

 

しぶしぶながら納得するセイバー。

 

「まあいいわシロウ。 やっちゃえ、バーサーカー!」

 

「GYAAAAA」

 

そう叫び声をあげながらバーサーカーの巨体が俺をめがけて突っ込んでくる。

俺は自分の右胸に入れてあるものの感触を確かめて、スペルを唱える。

 

強制接続(アクセス)

 

強化開始(トレース・オン)

 

俺は普段よりもはるかに高い運動能力でその場を飛びのく。

そこにバーサーカーが巨体で突進をし後ろのあった木を折り倒した。

続けざまに、バーサーカーは右手に持っていた斧剣を振り上げ、振り向きざまにそのまま垂直に振り下ろす。

 

「GYAAAAA」

 

俺はそれを右にとびかわすが、斧剣が地面に叩きつけられたときに飛び散った石などが俺を襲った。

 

「ちぃ」

 

服に幾つか掠ってしまい、所々が破けたしまった。

 

「シロウ、逃げているだけじゃバーサーカーは倒せないよ」

 

笑いながら声をかけてくるイリヤ。

バーサーカーが負けるとは欠片も思っていないようだった。

『解析』と『心眼(真)』を併用しながら真上から、横から繰り出される、バーサーカーの剣筋を覚えていく。

やはり、理性が無いためか剣は力任せに振るっているだけだが、そのスピードとパワーが洒落にならない。

 

(マトモに当たったらスグにアウトだな)

 

俺はバーサーカーの斧剣を回避することに専念していた。

俺は当たれば致命傷を避けられないバーサーカーの剣筋を1回、1回ごとに理解していくので、どれほど速かろうと、回避する分にはさほど苦労はしなかった。

しばらくして、全く当たらないことに痺れを切らしたのかイリヤが叫んだ。

 

「バーサーカー、早くしなさい!」

 

その命令に今まで以上に大降りになったバーサーカー。

 

(今だ!)

 

真上から振り下ろされたバーサーカーの斧剣、それを俺は後ろに飛びのき回避する。

そして、そのまま後ろにあった木を足場にしバーサーカーの真上に飛び上がる。

 

投影開始(トレース・オン)

 

俺の手の中に1本の大剣が現れる。

 

生きている炎(クトゥグア)

 

俺はそのまま大剣をバーサーカーに向かって振り下ろす。

そして、バーサーカーは真っ二つになりその体は炎に包まれる。

 

「「な!」」

 

イリヤとセイバーが驚きの声を上げた。

 

「俺の勝ちだなイリヤ!」

 

イリヤたちには平気な顔をして見せているが、体のあちこちに軋みがきている。

バーサーカーの攻撃を回避するために限界ぎりぎりまで体を強化したことと、前回に引き続き強制投影したツケが一辺にきて、そして手にはうっすらと火傷が出来ていた。

ともかく、あの様子ではバーサーカーの復活までには後10分以上はかかるだろう。

その間にイリヤと話をしてしまわないといけない。

そう思って俺は一歩足を踏み出す。

その足音に反応したのか、ビクリと怯えるイリヤ。

 

「シロウ……私を殺すの?」

 

この期に及んで場違いな言葉を吐くイリヤにため息をつく。

 

「は〜、イリヤ。 俺はイリヤに話をするって言っただろう。 親父の遺言だ」

 

親父の名が出てきて、イリヤの表情は複雑になる。

 

「キリツグの?」

 

「ああそうだ、そのまま伝えるぞ『イリヤ……僕の事を恨んでいるだろうね、……もし地獄があるなら、いや君が来れるとも限らないか。 幼かった君を裏切ってしまったのは事実だ。 そのことについてはどんなに僕を恨んでもいい、呪ってもいい。 だけどねイリヤ、僕は君の幸せを心から祈っている。 都合がいいと、ののしるかも知れないが僕は君たちを母子を愛している。 イリヤ、幸せになってくれ。 ふがいない衛宮 切嗣より』だ。 それとこの写真を渡してくれって頼まれている」

 

俺はイリヤに古ぼけて1枚の写真を渡す。

そこには親父と1人の女性、そしてその女性が大事そうに抱える赤ん坊が居た。

 

「なによ、キリツグ。 何でこんなのもってたの」

 

イリヤの目から涙が溢れ出す。

 

「イリヤ。 親父はイリヤたちの所に帰らなかったんじゃない、帰れなかったんだ」

 

「何で…」

 

「イリヤ、親父は前回の聖杯戦争のとき呪いを受けた。 その呪いのせいで、親父は日に日に弱っていきそして亡くなった。 その呪いは、ホムンスクルであり、聖杯であるイリヤを汚す危険性があった。 だから親父はイリヤのところには帰れなかったんだ」

 

「ウソ…キリツグは私を捨てたんじゃないの」

 

あふれた涙が止まらないイリヤ。

 

「いや、違う。 親父は最後までイリヤの心配をしていた」

 

「う…う…うわあああん〜」

 

俺にしがみつき泣きじゃくるイリヤ。

その声は森中に響き渡った。

 

 

 

「落ち着いたか? イリヤ」

 

「う、うん」

 

泣いたのを見られたのがよっぽど恥ずかしかったらしくイリヤは顔を真っ赤にして俯いていた。

 

「じゃあ、イリヤこれからどうする?」

 

「んと〜ね、シロウの家に行っても良い?」

 

「な! 何を言っているのです」

 

セイバーの剣幕を俺はせえぎる。

 

「いいぞイリヤ。 あそこはお前の家でもあるんだ、誰も文句は無いさ。 いいなセイバー」

 

俺は最後のセリフはセイバーを見ながら言った。

 

「は〜、わかりましたシロウ。 …アナタは頑固者だ」

 

しぶしぶ認めるセイバー。

 

「わ〜い」

 

その答えにはしゃぐセイバー。

 

「やっぱりシロウはお兄ちゃんじゃなくて、私の旦那様にしてあげる」

 

顔を真っ赤にしてイリヤに詰め寄る、セイバー。

 

「な、な! 認めません! イリヤ、それは絶対に認められません!」

 

それを余裕の態度であしらうイリヤ。

 

「あら、サーヴァントであるアナタに認められる必要は無いわ」

 

ほっておくと大問題になりそうなので急いで割ってはいろうとする。

 

「いいから、ちょ」

 

そう、言おうとしたら後ろから衝撃が走る。

普段なら背後からの気配に気付かないはずは無いのだが、バーサーカー戦の疲れと気の緩みによって俺は後頭部攻撃を喰らい意識を失った。

 

 

 

 

 

【次回、士郎君を襲った謎の影の正体は、無事生き残れるか士郎くん】

 

 

 

生きている炎(クトゥグア)』 

ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大補足:3人

 

この大剣は前回、士郎が使用したイタクァの対を成すものでその破壊力は計り知れない。

切った相手を灼熱の炎に包み、焼き尽くす能力が備わっている。

破壊力だけなら、セイバーの聖剣をも上回るがなにぶんその大きさゆえに気軽に振り回すことが出来ず、効果範囲も近接のみ。

そして、まだ完全制御できていなく、使用すると士郎自身にも少なからずダメージを与える諸刃の剣だ。