Fate / open the demonbane

 

第7話 「巨人…」

 

 

 

俺達は少女の声がした場所へと一斉に振り向いた。

そこには、昨日の少女が巨人と共に立っていた。

 

「こんばんわ。 私はイリヤ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

イリヤが優雅に礼をしながらそういってくる。

 

(やっぱり、アインツベルン家の人間か)

 

「何のようよ!」

 

凛が前に出てイリヤに聞く。

 

「聖杯戦争でマスターとサーヴァントが揃っているならやることは決まっているでしょう。 やちゃえ、バーサーカー」

 

イリヤがそう宣言すると黒い巨人、バーサーカーがもつ斧剣を振り上げる。

 

「GYAAAAA」

 

それと同時に、セイバーが飛び出しその斧剣に対し突き進む。

そして手に持つ何かとその斧剣を打ち合わせる。

力任せのバーサーカーの攻撃とセイバーの大量の魔力をこめた攻撃がぶつかり合う。

 

(あれがセイバーの現在の鞘か)

 

そう考えているうちに数合バーサーカーとセイバーは打ち合う。

その時、丁度セイバーを援護するように矢がバーサーカーに迫る。

しかし、その矢はバーサーカーの肉体にはじかれて一本も刺さりはしなかった。

 

「なによあれ?」

 

凛の問いに先ほど矢を放ったアーチャーは答える。

 

「おそらくは、あのバーサーカーの肉体には一定以上の攻撃でなければ効かないのだろう」

 

「へぇ〜、おもしれえ」

 

ランサーがそういいセイバーと一緒にバーサーカーへと攻撃をする。

 

セイバーの一撃、一撃には膨大な魔力がこもっていて、その攻撃は大砲ようだ。

しかし、バーサーカーの力任せに放たれる一撃、一撃に打ち合わせその軌道を逸らすのが精一杯でその肉体には一撃も届かない。

 

対する、ランサーの攻撃は恐ろしく早く、その2人の剣戟の合間を狙い確実にバーサーカーの肉体にその槍を届かせるが傷一つつけられていない。

 

遠距離からアーチャーの矢と中距離からライダーの釘のついたダガーのようなものでその場に釘付けにしているが、逆にそれが無ければバーサーカーは確実に一歩、一歩俺たちに近づいてきているだろう。

 

その状況に4人のサーヴァントたちは舌打ちをする。

それは当然だ、同じサーヴァント4人とたった1人のサーヴァントが互角の戦いを繰り広げているのだ驚かないほうがどうにかしている。

そして、宝具を使おうとするとこの均衡が崩れてしまうためにうかつに使えないようだった。

 

(まあ、師匠たちあの3人ならこんな事もできるだろな)

 

俺はあらためてあの常識はずれな人たちの事を思い出していた。

 

「な、なによあれ?」

 

凛が先ほどと同じ言葉を、しかしその中には確実に目の前のバーサーカーに対する怯えがあった。

桜も言葉には出さないが凛と同じ様子だった。

 

(しかたないか。 多分、実戦は初めてなんだろうし。俺もはじ……)

 

あの時の地獄が呼び起こされる。

考えるの、よそう……。

 

「士郎、どうしますか? このままでは危ういですが」

 

そう、2人よりも余裕のある声でバゼットが聞いてくる。

 

(仕方ない、あれを使うか)

 

「少し、待ってくれ。 俺がやる」

 

バゼットでも大丈夫だろうが、イリヤを止めるのは俺の役目みたいなもんだしな。

 

「わかりました」

 

「ちょっと待ってください、先輩。 無茶です」

 

「そうよ、士郎」

 

うなずくバゼットに対して凛と桜が止めに入ってくる。

 

「だまって彼に任せておけばいい」

 

「「な!」」

 

「アンタ、どういうつもり」

 

「さあ? あなた達より彼に詳しいというだけです」

 

「ふざけないでください」

 

バゼットと凛、桜が言い合いをしているうちに準備をする。

 

俺は黒い宝玉を取り出し、右手に握り締める。

そしてあるスペルを唱える。

 

強制接続(アクセス)

 

投影開始(トレース・オン)

 

そして、俺は両手に3本ずつ青白く光る短剣が現れる。

 

その短剣を俺はバーサーカーに向かって真名を開放する。

 

風に乗りて歩むもの(イタクァ)

 

 

 

 

 

(まずい、このままでは)

 

そう、私が考えていたときにその声は聞こえてきた。

 

風に乗りて歩むもの(イタクァ)

 

それと同時に、6本の青白く光る短剣が飛んで行く。

 

私の目がそれを捕らえて驚いた、私の固有結界の中にも存在せず、また精巧なつくりをしていて、鑑賞用に作られたと言っても違和感を覚えないほどの美しい短剣だったこと。

それを放ったのがあの衛宮 士郎だということ。

しかし、一番の驚愕は解析仕切れなかったことだ。

いや、それは正しくない。

かなりの神秘だったが解析自体はできないほどではなかった。

だが、私という存在自体がそれを理解できていないのだ。

ゆえに、固有結界に登録できない。

これを驚愕といわずになんと言う。

英霊である私が解析できて理解できないものすなわち『この世界』モノでは無いということだ。

それをあの、衛宮 士郎が使ったのだ、私はあらためて思う。

 

(いったいなんなのだこの世界は! この衛宮 士郎は! これほどの神秘をたやすくも行使するとは。 それにノーデンス等という組織は私の記録上には残っていないし、凛たちは姉妹として暮らしてはいなかった。 いったい何処でイレギュラー発生したのだ)

 

6本の短剣はバーサーカーに向かってまっすぐに飛ぶがその前には、セイバーとランサーがいる。

 

(マズイ! 当たる)

 

2人はバーサーカーへの攻撃に集中していて、今から呼び掛けたところでかわせないだろう、そう思った。

が、短剣の軌道が慣性の法則を無視した動きで変わる。

 

短剣は2人に当たることなく、バーサーカーの両目、両耳、口、のどに突き刺さる。

 

そして、小僧がさらにスペルをつむいだ。

 

開放されし幻想(オープン・ザ・ファンタズム)

 

それと同時に短剣は爆発しそれに超近距離でまきこまれたバーサーカーの頭はすっかりと無くなってしまった。

その光景にここにいる全ての人物が小僧を注目する。

しかし、小僧の目線はそれを気にするのではなく、バーサーカーに注がれていた。

 

 

 

「離れろ!セイバー、ランサー!」

 

その言葉にセイバーたちは今いた場所から飛びのく、それと同時に斧剣が轟音と共にその場所に振り下ろされる。

 

「な!」

 

それはいったい誰の声だったのだろう。

先ほどの攻撃で頭を吹き飛ばされたバーサーカーがその『視線』をこちらに向けていた。

 

「へぇ〜〜〜、お兄ちゃんスゴイね!バーサーカーを三回も殺すなんて」

 

「な!まさか!」

 

驚愕の声を上げる凛。

 

「そうか、やはりバーサーカーの宝具は肉体ってわけか」

 

俺の答えに満足げなイリヤ。

 

「ええ、そうよお兄ちゃん。 これがバーサーカー:ヘラクレスの宝具『十二の試練(ゴットハンド)』バーサーカーには生前の功績により十二の命が有るの。 まあ、お兄ちゃんのおかげであと残りが九になったけどね」

 

「へ、ヘラクレスですって! ギリシャ神話でも随一の英雄じゃない」

 

「そうよ、並みのサーヴァントたちよりもはるかに強いわ」

 

凛の声を聞いてクスクスと笑うイリヤ。

 

「いい事を教えてあげるわ、このバーサーカー宝具『十二の試練(ゴットハンド)』は、一定以上の攻撃じゃないとバーサーカーには通じないし、一度くらった攻撃は問答無用で無効化しちゃうの」

 

 

その、答えに他の皆は驚愕した。

そうだろう今見た限りバーサーカーを確実に殺すためには自分たちの宝具の真名を唱えるしかない。

しかし、それを使うのも対戦中は困難なのに、あと9回も殺さなくてはいけないし、1度使用してしまえばもう相手には通じないのだ。

 

「まあ、今日のところはこれで引き上げてあげる。 またねお兄ちゃん、お兄ちゃんには興味があるから私のモノにしてあげる」

 

そう言うとイリヤはバーサーカーの肩に乗り、この場から去って行く。

 

(ふぅ〜、つかれた〜)

 

セイバーを何の準備もなしに召喚して、すぐにあの短剣を正規の手順をふまず作り出し、真名を開放したのだ、疲れないほうがどうにかしている。

 

「ちょっと!士郎アンタには色々と喋って貰うからね!」

 

俺の首根っこを掴みながら凛が迫ってくる。

め、目が回る〜。

そこに、

 

「な!離れてください。 マスター、大丈夫ですか?」

 

セイバーが凛を引き離し、やさしく声をかけてくる。

 

(ああ)

 

そう、声を出そうとしたが、目の前の景色がブラックアウトした。

最後に見たのは、倒れる俺を受け止めた、セイバーの胸だった。

 

 

 

 

 

【次回は、衛宮家での説明会。 そこで起きる出来事とは……期待?】

 

 

 

風に乗りて歩むもの(イタクァ)

ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大補足:8人

 

士郎が自分なりに旧支配者であるイタクァの力を使えるようにと工夫、短剣として作り上げられた。

最大、8本同時に投影することができる。

短剣には追尾能力が備わっており、相手の弱点、および狙ったところへと確実に当たるようにできている。

この短剣の前には『矢除けの加護』を持つ、ランサーでも確実に一本は当たってしまう。

この短剣に対を成す大剣がある。

ただし、両方ともに同じ使用条件がある。

それは後々説明します。