Fate / open the demonbane

 

第4話 「前夜…」

 

 

 

 

いつもの様にバイトが終わり帰る道、ふと空を眺めるとビルの屋上に今日休んでいたはずの凛が町を見下ろしている姿が見えた。

 

(なんで、あんな所に…)

 

少し考え込んでいると、凛は姿を消していた。

 

(まさかソロソロ、聖杯戦争が始まるのか…)

 

そう思えば今日の休みの理由も見当がつく。

 

今回、ノーデンスの方から一つ指令が着ていた。

『冬木市で行われる聖杯戦争中に、黒く染まってしまった大聖杯の完全破壊』

俺は、ノーデンスの一員として、そして俺、個人としてもこの聖杯戦争で大聖杯を破壊しなくてはならないが、他の人員は忙しいらしく今回の任務は基本的に俺1人に任されている。

 

(まったく、師匠があのはっちゃけ爺さんから気楽に依頼を受けるせいだ!)

 

しかし、他の人たちが来たらきたでもの凄く面倒な事になるのは目に見えている。

 

(辺り一面が焼け野原になったり、地震が連続で起こったり、ビルなんかが崩壊したり……、やっぱり1人の方が良いかもしれないな、ウン)

 

あの人たちが来て起こすであろう『最低限』の被害を考えると、素直にそう思った。

 

 

 

家の帰り道に1人見なれぬ白い髪の少女が立っている。

 

(なんだ? この気配)

 

その少女から、否、その背後から感じる気配に違和感を覚える。

 

「お兄ちゃん、早く呼ばないと死んじゃうよ」

 

!!

一瞬の驚きのうちに少女はこの場からさって行った。

 

(聖杯戦争の関係者か? だったらなぜ俺に?)

 

おそらくあの少女はマスターなのだろう。

そして少女の後ろから感じられたなんとも言い難い気配はおそらく霊体化したサーヴァントなのだろう。

しかも、俺が魔術に関連していることを知っている。

 

(もしかして……)

 

だとしたら、あの少女は俺が……

 

 

 

考え込んでいるとあっという間に家に帰り着た。

 

(あれこれ考えていても仕方がないか)

 

そう思い、玄関のドアを開ける。

 

「ただいま」

 

「おかえり、士郎」

 

今日も夕飯をたかりに着ていたのか藤ねえの返事が返ってきた。

 

「シ ロ ウ 〜、お姉ちゃんお腹すいたからご飯早くね〜」

 

「はあ〜〜〜、わかったよ。 ちょっと待ってろすぐに作るから」

 

「うん、ホントに早くよ〜」

 

まずは手洗いをして、それから自室に行き、着替えを終える。

そして、台所で今日の夕食の準備を始める。

すると、すっかり居間でくつろいでいた藤ねえから声をかけられた。

 

「ああ、そうそう士郎。 遠坂さんたちが、しばらく家の用事でこれなくなるかもしれません。 って伝えてくれって」

 

「ああ、わかった」

 

(やっぱり、聖杯戦争が始まったのか)

 

さっきの予想が確信に変わる。

 

(凛や桜は、俺が魔術師だって知らずに一般人だと思っているからな。 この家の結界だってかなり巧妙に隠蔽されていて俺でもうたがって解析しなきゃ気づかない位だもな)

 

一般人を巻き込まないようにしようと言う、2人の心遣い嬉しく思う反面、2人に自分が魔術師だという事を黙っている事に少し罪悪感をおぼえる。

 

 

 

「藤ねえ、飯がもうすぐできるからテーブルの上を片付けといてくれ」

 

「うん、わかった」

 

俺はテーブルの上に今日の夕食を並べていく。

 

「おお〜、今日はハンバーグか。 美味しそう」

 

目の前のエモノをじっと観察してる藤ねえ。

 

「ちゃんと、付け合せの野菜も食えよ」

 

そう言うと、藤ねえは頬を膨らませる。

 

「むう〜、そんな事分かってるもん!」

 

「そうか?」

 

そんな、雑談を交わしながら俺と藤ねえの夕食は進んでいった。

 

 

 

「ふう〜〜 士郎、ごちそうさま」

 

「おそまつさまでした」

 

夕食の後のお茶を飲み終わる。

そして、藤ねえはタタミの上に寝転がる。

 

「ん〜〜、幸せ〜〜」

 

ゴロゴロと転がる一匹のトラ。

 

「おい、藤ねえ」

 

「な〜に〜、士郎」

 

「あんた明日、職員会議があるんだろう? その資料作りおわったのか?」

 

あわてて立ち上がる藤ねえ。

 

「ああ〜、忘れてた! うう〜」

 

(おいおい、相変わらずだな)

 

あわてて居間を出て行く藤ねえ。

 

「士郎、それじゃあまた明日ね。 それと早く寝なさいよ」

 

「はいはい、藤ねえこそちゃんと書類仕上げろよ」

 

「うう〜、ホント士郎のいじめっ子」

 

そう言って、藤ねえは家に戻って行った。

 

「さてと、片付けるか」

 

腕をまくり、食器を台所へと運ぶ。

 

 

 

夕食の片づけをしていると、電話の鳴る音が聞こえた。

 

「だれだ? こんな時間に」

 

少し考えながら、受話器を取る。

 

「はい、衛宮ですが」

 

『おお、士郎か!』

 

かなり、慌てた声が返ってきた。

 

「え!九郎兄? どうしたんですか、いつもなら携帯の方にかけてくるのに」

 

『いやな、携帯の方だとちょっと問題があってな』

 

「まあ、深くは追求しませんけど、何の用なんですか?」

 

『う〜ん、少し言い難いんだが。うわ〜、ちょっとやめろ!ア』

 

ツー、ツー、ツー

 

「何だったんだ。 いったい?」

 

(うん〜、九郎兄が、また何か厄介ごとに巻き込まれて、アル姉が現在お仕置き中ってとこかな?)

 

いつものあの2人の光景を思い浮かべるとそれが一番可能性として高いと思った。

 

(まあ、今日は訓練を早めに切り上げて早く寝ることにするか)

 

そう思いながら台所に戻り夕食の片づけを再開した。

 

 

 

 

 

【この日、九郎に電話を掛けなおしておくべきだったと士郎くんが思い知るのはもう少し先のお話になる】