Fate / open the demonbane
第1話 「出会い…」
親父の葬式から10日ほど立ったある日のこと、いつも通りに朝食の準備をしていると家の呼び鈴が鳴り響いた。
「だれだ、こんな時間に?」
(う〜ん、ライガ爺さんだったら昨日来たし、藤ねえだったら、メシをたかりに来ても呼び鈴なんて鳴らすはずが無いしな〜)
相手の心当たりがないのに悩んでいるところにもう一度呼び鈴が鳴る。
「あ、は〜い、今行きます」
廊下をドカドカと走りながら玄関に着くと同時に、いきなり戸が開いた。
「遅い〜!」
戸が開くと同時に少女の大声が鳴り響いた。
年の頃は、10代前半だろう。自分とさして変わらぬ少女の筈なのに年齢に見合わぬ印象があった。
翡翠色をした神秘的な瞳、腰まで届くサラサラとした銀髪からは、女の色香のようなものさえ感じた。
「このうつけ者がッ! 遅い、遅すぎる!」
1分も待たせていない筈なのに、ひどい言われようだった。
「おい、ちょっとは落ち着けってアル」
アルと呼ばれた少女の隣には、10代後半ぐらいの日本人らしい男がいた。
男の纏う雰囲気は何処となく親父を思わせたが、それよりもはるかに平凡でいて特別であると言う矛盾した考えを起こさせた。
「何を言う、九郎。 妾にこれほ」
「あの〜、すいませんがどちら様でしょうか?」
このままでは埒が明かないと思い、そう尋ねると男のほうが答える。
「ああ、切嗣のおっさんの知り合いだ。 線香を上げようと思ってな、こっちまで足を運んだんだよ」
「そうなんですか、それじゃあ上がってください」
そう言うと2人は靴を脱ぎ俺の後をついて来た。
親父に線香を上げ終わって、今2人といっしょに居間にいる。
2人とも朝食がまだだった様で、朝食に誘うとすぐに返事が返ってきた。
「たのむ」「はやくせい」
いそいで3人分の朝食を作ると、よほど腹が空いていたのか、2人とも見事な食べっぷりだった。
こちらとしても、作ったかいがあるというものだ。
「い〜や〜、美味かった、ごちそうさん」
「ふむ、そうじゃな、美味かったぞ」
2人からの感想は俺からはとても嬉しかった。
「そういや、まだ自己紹介がまだだったな。 俺は大十字 九郎、九郎って呼んでくれ。 探偵兼学生をやってる、よろしくな」
「ふむ、妾のことはアルと呼ぶがいい」
俺はそれにならい、自己紹介する。
「あ、俺は衛宮 士郎です。よろしく、九朗さん、アル」
アルが九朗さんにむかって迫る。
「衛宮? 切嗣に息子が居たとは聞いておらんぞ九朗」
俺はすぐに、アルの疑問に答える。
「あ、俺は親父の養子で血は繋がってないんですよ」
そう言うと、アルが少しすまなさそうな顔をして言う。
「そうか、すまん」
俺は、その返答に含まれた気持ちを理解する。
「いいんですよ、それより九郎さん達は親父とはどんな知り合いだったんですか」
少し話題をそらすように、聞いた。
「妾は、直接の面識はない」
アルはそう答える。
「ああ、大体2年位前なのかな、俺が困っていた時に一度助けて貰った事があるんだ」
九郎さんは困ったような表情で少しあいまいに答える。
「そうなんですか……」
俺は少しの間考えて真剣な表情をした。
「……あの、九郎さんは、魔術師なんですか?」
その問いに九朗さんはなんて事のないように
「ああ、そうだぞ。 ま、正しくはメイガスじゃなくてマギウスだけどな」
これには、かなり驚いた。
普通、魔術の連なる神秘の類は秘匿される筈のモノなのに、こうもあっさりと返事が返ってくるなんて思ってなかった。
「切嗣のおっさんからこっちの事を教わったのか?」
少しほうけている間に、九郎さんは質問をなげかけてきた。
「ええ、余り才能が無かったんで、教わったことは少ないんですけどね。 九郎さんが魔術師ならアルも魔術師なのか?」
九郎さんの隣に座って、食後のデザートにとっておいた大福を美味しそうに食べていたアルが答える。
「モグモグ、ん ああ、妾は違うぞ」
この返答は、少し以外だった。
(アルの方がなんだか人とかけ離れているような気配を感じたのに)
「んで、そんな事聞いてどうする積もりなんだ」
九郎さんの瞳に力が帯びるのを感じた。
「お、俺を弟子にして下さい!」
2人が揃って口を開け
「「本気か?」」
俺は正面を向き、真っ直ぐに2人の顔を見る。
「俺は、今探しものの真っ最中なんです。 それを見つけて親父の夢を叶えるのにはもっともっと強くならなくちゃいけないんです!」
「それは、大事なモノなのか?」
九郎さんが虚偽を許さぬ瞳を向けて来る。
「まだ分かりません。 でも、きっと俺がこれから先に進むのに必要なモノなんです」
俺は九郎さんの了承が得るまで何時間でも粘るつもりだったがあっさりと了承の返事をする。
「わかった、いいぜ」
またも素早い決定だったので思わず返答が遅れる。
「へぇ、……え、いいんですか」
九郎さんが胸を張って、子供っぽい笑みを浮かべながら答えた。
「ああ、いいぜ。 ただし3年位は俺達と一緒にアメリカに来て貰うぜ。本格的に教えるとなると時間がかかるしな。ま、いいだろうアル」
「ふむ、まあ汝は言い出したら聞かぬからな。」
2人は楽しそうに笑う。
「よし、士郎これからは俺の事を師匠と呼ぶように」
「なら、士郎。 妾の事は…」
【喜びの余り聞き逃してしまった。 これのせいで、後々厄介ごとに巻き込まれることもしばしばだが、それは別のお話】
(よし、やった)
俺は心の中で思わずガッツポーズをとる。
「よ、よろしくお願いします」
が、すぐに重要な事を思い出す。
(あ、藤ねえの説得をどうしよう。)
それは、かなり切実な問題だった。
1ヶ月の説得の末、俺はアメリカ留学という形で俺は師匠の弟子入りを果たす。
藤ねえを説得するのには…まあ、余り思い出したくない。
【のちに士郎くんは、(まあ、この時が俺の人生のいろんな意味で転換期だったんだな〜)と語る】
【世界最強クラスの魔術師と魔道書の弟子となった士郎くんの運命はいかに、あのアルの地獄の特訓に耐えられるのか? がんばれ、士郎くん】
そして、物語は5年後の冬木市から始まる。