Fate / open the demonbane

 

プロローグ

 

 

 

月の綺麗な夜だった。

俺は何をするまでもなく、親父である衛宮 切嗣と月見をしていた。

冬だというに気温はそう低くなく、縁側は僅かに肌寒いだけで月を肴にするには良い夜だった。

この頃の親父は余り外に出ず、家の中でのんびりとしている事が多くなっていた。

今思えば親父は自分の死期を薄々感じていたのかもしれない。

 

「子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた」

 

親父が突然そうつぶやいた。

 

「なんだよそれ。 憧れてたって、諦めたのかよ」

 

俺が少しむっとなって言い返すと、親父はすまなさそうに笑って月を見上げた。

 

「うん、残念ながらね。 ヒーローは期間限定で、オトナになると名乗るのが難しくなるんだ。 そんなコト、もっと早くに気付けば良かった」

 

そう言われて納得しながら、頷いた。

 

「そっか。それじゃしょうがないな」

 

「そうだね。 本当に、しょうがない」

 

相槌を打つ親父。

それに、当然胸を張って俺は言葉を続けた。

 

「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。 爺さんはもうオトナだから無理だけど、俺なら大丈夫だろ。 まかせろって、爺さんの夢は―」

"――――俺が、ちゃんと形にしてやっから"

 

そう言い切る前に、親父は笑いながら俺の頭に手を置き

 

「だめだよ、士郎。 それより僕は君に『幸せ』でいて欲しいんだよ」

 

優しく撫でながら、親父はそう言った。

 

「何言ってんだよ、爺さん。 俺は幸せだぞ?」

 

当たり前の事だった。

 

「ちがうよ、士郎。 僕は君だけの『幸せ』を見つけて、それを過ごしてほしいんだ」

 

親父の真剣な表情が、俺の瞳に焼き付いていた。

 

「…分かったよ。 爺さんがそう言うなら、まだ分からないかも知れないけれども、『分かった』」

 

その答えに、親父は微笑んだ。

 

「うん、今はそれが一番いい答えだ」

 

その笑顔に俺はこう答えた。

 

「それで『分かった』ら、ついでに爺さんの夢も形にする。 これなら爺さんも文句が無いだろ?」

 

親父は俺の答えに驚いた表情をして、最後に今まで見た中で1番の笑顔で

 

「…本当に、良い『答え』だよ…士郎」

 

笑いながら、そう言った。

 

俺もそれにつられて笑った。

 

「だろう、爺さん」

 

二人で夜空の月を見上げながら、最後に親父が

 

「ありがとう、士郎。 ―――ああ、安心した」

 

そう言い、親父はそのまま眠るように眼を閉じた。

 

――本当に月の綺麗な夜だった。

 

 

 

 

 

その3日後に、親父は静かに息を引き取った。