Fate / open the demonbane
外伝2「士郎、不在……」
「あれ〜〜〜? 如何したの、遠坂さん達?」
大河は何時もの様に夕食を食べに士郎の家までやって来たのだが、玄関を開けて中に入ってみるとそこには凛達が並んでガッカリとした表情をしていた。
「いえ、ところで藤村先生? 衛宮君から何か連絡は有りませんでしたか?」
凛が何時ものように猫を被りながら話す。
「え? 士郎から? 無いけど……。 まさか、まだ帰ってきてないの?」
大河が信じられないといった表情をする。
「ええ、そうです。 あちらからは何の連絡もないし、携帯も繋がらないみたいで全然連絡が取れないんです」
「バイトも今日は入ってない筈だし……。 それに、士郎なら遅くなるなら連絡を入れる筈なのに……」
そこに居る全員が士郎の性格は解っている為、余計に心配になっている。
「まさか、事故か何かに巻き込まれたんじゃ!」
桜が心配そうに声を上げる。
「ん〜〜〜…………、ちょっと私心当たりを探して来るね」
腕を組んで深く考え込むと大河は一変、言うや否や飛び出していった。
「は〜〜、相変わらずね……。 桜、私達も探しに行くわよ」
出かける準備をしに部屋へ戻ろうとした時、閉まっていたはずの戸が勢いよく開かれた。
ギターを盛大に鳴らしながら1人の男が入って来る。
「YAHAHAHA! さあ、皆のお待ちかね! 世紀の超絶大天才の登場であ〜る! さあ、褒め称えるのである凡人共」
「黙るロボ!」
勢いよく喋るウェストを、何時もの様にエルザは黙らせる。
「ゲッ! ひ、酷いのである」
「まだ足りないロボ」
さらに容赦ない打撃をエルザは加えていく。
バシ! ドカ! バキ! ゴキ! ベキ! ゴリ! ボキ! ズシャ……
ウェストはエルザの打撃により、見るも無残な姿へと変わっていく。
「ふ〜、完了ロボ」
血染めのウェストを無視しながら、さわやかな笑顔を浮かべるエルザ。
「あ、あんた達……、何者?」
目の前の恐慌にしり込みした凛だが、恐る恐る目の前の2人組に声をかける。
「? そう言うお前達こそ誰ロボ? 士郎はいるかロボ?」
「! 士郎の関係者。 私達は士郎の知り合いよ。 アイツはまだ帰って来てないけど?」
「そうロボ。 博士が来るから逃げたロボね」
ウンウンと納得した表情で頷くエルザ。
「何を言うのであるか! そもそも士郎が新しく開発した概念武装の意見を聞きたいというからワザワザやって来たのである! 呼びつけた本人が居ないと言うのは何事であるか! ああ、何たる悲劇! 何たる仕打ち! 我輩の心には淡い粉雪が舞っているのである。 積もり積もって氷山になって、それでかき氷が食べられるのである」
血染めの肉塊に成り果てていた筈のウェストは何事も無かったかのように立ち上り、エルザの言葉に相変わらずの反論をする。
そんなウェストを見た2人の姉妹の反応は……。
((真性のキ○○イ!))
エルザの拳がウェストの腹に突き刺さり、辺りに沈黙が訪れる。
「嘘吐けロボ。 士郎が面白そうな物を作ったから自分から押しかけに来たロボ」
「エ、エルザ……、もうチョット突っ込みはソフトするのである……」
自分が作ったエルザに頭を下げているウェスト。
開発者とロボットの間違った上下関係が窺える。
「善処するロボ」
爽やかな笑顔で答えるが、それは叶わないだろう。
なぜなら世界がそう望むから!
「ふ〜、ヒドイ目に遭ったのである」
先程のダメージをリカバーさせたウェストは、士郎の家の居間に座っていた。
「あの〜、御二人は先輩と如何いったご関係で……」
恐る恐るだが、桜は口を開いた。
「ふっ、士郎と我輩の関係であるか! 其れは一言では言い表せ」
「黙れロボ!」
喋ろうとするウェストをエルザはトンファーで殴り、沈黙させる。
「全く、博士は何時も何時も目障りロボ」
「ちょっと、大丈夫なの?」
先程から殴られっぱなしのウェストを見て、流石に心配そうに凛が声をかける。
「平気ロボ。 博士はこの程度、日常茶飯事ロボ」
「に、日常茶飯事……」
どんな日常かと思ってしまった凛だが、全く想像がつかなかった。
「何をするのであるか! エルザ!」
「「もう、復活した!!」」
余りのウェストの回復力に驚きの声を上げる凛と桜。
「さて、我輩と士郎の関係であったな。 ふむ、色々とあるが……職場の同僚と言うのが一番分かりやすい筈であるな」
「じゃあ、アンタもノーデンスの関係者?」
先程からの奇行を見ていると、とてもそうは思えない凛。
「そうなのである。 ノーデンスにその人ありと謳われた百億年に1人の超〜大ッ天才! Dr・ウェストとは我輩の事である! ちなみに幹部をやってます」
ペコリと頭を下げるウェスト。
それに釣られて、凛達も頭を下げてしまう。
「(ねえ、桜。 あれ、ヤバイわよ)」
「(姉さん、そんなこと言っちゃダメですよ。 可哀そうな人なんですから)」
頭を下げながらヒソヒソと会話する凛と桜。
「こっちは我輩の大発明、人造人間エルザである」
ピシリとエルザに指を指したウェストだったが……。
「何するロボ」
再び、トンファーの洗礼を受ける事になった。
「じ、人造人間?」
信じられないような目線と凛と桜はエルザに向ける。
(ロ、ロボって語尾をしてたから本物かしら)
(ひ、非常識です)
冷や汗を思わず垂らしてしまう2人。
「そうロボ。 エルザはこの変態だけど天才の博士から作られたロボ。 エルザを創ったのは博士の唯一の美点ロボ!」
「(……に、似てる)」
「(そ、そうですね。 何処がとは言いませんが……)」
ウェストとエルザの共通項を見出してしまった2人であった。
「ところで博士、さっきからトランクの中から何か音がしてるロボ」
「何? 何であるか?」
エルザの言葉に従ってウェストは自分のトランクを空ける。
すると何かのアラーム音が聞こえた。
「何ですか、それ?」
桜はアラームを発する機械を興味深そうに見る。
「これは我輩の発明品『ウェスト式時空観測機』である。 これは近くにある時空の歪みを感知する事が出来るのである」
ウェストはなにやら機械のボタンを物凄い速さで押していく。
「おや?」
暫くして、何を思ったのかウェストは手を止める。
「「「???」」」
「………ま、不味いのである!!」
「博士、どうしたロボ?」
「士郎の魔力の残滓を時空の歪みの中から確認したのである!」
一瞬、ウェストが何を言っているのか理解できなかった3人。
「「「……………えぇ〜〜〜(ロボ)!!」」」
「そ、それって」
「何で気付くロボ〜〜〜! 不味いロボ! こうなったら士郎が如何なったか速く調べるロボ! もし、見つからずにこの事があいつ等に知れたりしたら……一大事ロボ!」
「わ、分かっているのである!」
珍しく慌てているウェストとエルザのコンビ。
荷物を纏めると一目散に歪みの発生現場へと向かった。
「「……………はっ!!」」
あまりの事態に棒立ちになっていた凛と桜だが、正気に戻る。
「お、追いかけるわよ桜!」
「はい、姉さん」
「はい、分かりました。 引き続き捜索をお願いします」
瑠璃は受話器を元に戻すと、人知れず溜息を吐いてしまう。
「ふぅ〜……」
瑠璃はウェストから士郎の失踪の連絡を聞き、頭を抱えてしまう。
「如何なさいましたか、瑠璃お嬢様?」
そんな瑠璃の様子を見て執事のウィンフィールドは心配そうに主人に話しかける。
「先程、日本に行っているドクターから士郎君が行方不明になったと連絡がありました」
「な! 衛宮様がですか!!」
流石のウィンフィールドの予想できなかった報告に、驚きの声を上げてしまう。
「今の所は組織と『アイナ』の関与は見られないそうです。 しかし、困りました」
「確かにおっしゃる通りです。 衛宮様が行方不明と言う事が外部に、いえ、内部にこそ洩れでもしたら……」
「ええ、どちらに洩れたとしても大騒動になるのは間違いありません。 ウィンフィールド、貴方は内部にこの情報が洩れないように工作するのと、九郎さんに至急こちらに来るように手配しなさい。 私は外部組織への対応をします」
「畏まりました。 瑠璃お嬢様」
ウィンフィールドは瑠璃に一礼すると素早く部屋を出て、瑠璃の指示を実行する。
「全く、また厄介ごとに……」
瑠璃はこの事を知ったら大騒ぎするであろう人物達を思い浮かべると頭を痛くする。
士郎にのみ懐いている双子の兄妹。
士郎の嫁になると宣言して憚らぬ女性。
士郎の親友で、ライバル。
それに士郎の兄弟子。
それに何だかんだと言って、良い兄貴分をやっている彼も騒ぐに違いないと瑠璃は確信していた。
(考えてみたら残りの幹部、全員ですね……)
それに加えて、瑠璃の両親や孤児院の子供達、数えれば限が無いだろう。
そして、それが士郎の人徳であろう。
これが九郎なら飯時になったらその内に帰って来るだろうと判断され、ほって置く確率が高いに違いない。
外部は純粋に心配されるのが半分、これ幸いと自分達で見つけ出し、陣営に取り込もうとするのが半分だろう。
(全く、面倒な仕事を増やしてくれたものですわ……。 帰ってきたら色々と仕事を押し付けてやりましょう)
瑠璃がそう決心した瞬間、異世界に居る士郎は身震いに襲われたかは誰も知らない。
士郎が戻って来た時、彼が如何なったのかは、また別のお話……。
【帰ってきたら不幸になる事が確定した士郎でした! 今回は少しだけノーデンスの幹部の紹介をしました! どんな人物なのかはまだ秘密です。 それにつきましては本編か、はたまた外伝で登場するのをお持ち下さい。 皆様、企画の方もよろしくお願いします!】
【おまけ】
「成程、面白い事を聞きました。 早速、マスターに報告ですね。 それとあの双子にも教えておきましょう、面白くなりそうですし」
そう言って、瑠璃は話を聞いていた魔道書の精霊の存在に気が付いていなかった。