我思う、故に我在り。 第1話 ある魔術師の日常

 

イギリス、幻都ロンドンの端にある森の中、まるで隠れるようにして建つ屋敷にその者は、住んでいた。

 

「これは・・・さすがに、そろそろ整理しないといけないな・・・・」

 

自分の周りに高層ビルのように立ち並ぶ本に目を向けながら、我ながらよくここまでと半ば呆れるかのように言葉を漏らす屋敷の主。

銀色の髪を後ろで束ね、目が悪いのか銀縁メガネを掛け、白いシャツに黒いズボン、どこでも歩けるようだろうか皮のブーツ履いている、歳は10代半ば位だろう・・・名をギュラード・ミュラージュと言う。

彼は、こう見えて裏の顔を持っていた・・・『魔術師』・・・といっても、半人前なのだが・・・

そのため、どうにかして周りの魔術師に追いつこうと日夜勉強に励んでいるのだった。

む〜〜〜っと、魔導書やら辞書やらが詰まれた本の山を睨んでいると、その影から声がかかった。

 

「「「「失礼します。マイ、マスター。」」」」

影の向こうには、メイド姿の4人。

いくら、小さい屋敷と言えど、日本人が見れば豪邸だ。

もちろん様々な事を補うためにメイドは、必要なわけだ・・・大体一人で、洗濯、掃除などしている暇がない。

 

「む?どうかしたのか?スペードに、ハートに、ダイヤに、クローバー・・・みんな揃って。」

姿は皆、黒髪でメイド姿だが、髪型、性格がぜんぜん違う。

まず、長い髪を束ねず後ろに降ろし眼鏡かけている彼女が、メイド長も勤めるスペード。

性格は、沈着冷静で何でもこなす。

 

「はい。朝食のご用意が整いました。こちらにお持ちしますか?」

 

「あぁ、そうしてくれると助かる。」

 

次に、髪を後ろで団子にしている彼女が、ハート。

性格は、几帳面で清掃、整頓を担当。

 

「先月から、かなり気になっていたのですが・・・そろそろこの部屋を、片づけさせていただてよろしいでしょうか?」

 

「・・・私も気になり出した所だったんだ、頼む。」

 

次が、髪を短めにしているダイヤ。

性格は、温厚で庭の世話を担当。

 

「・・・・その・・・庭で・・・また、二人が乱闘中でして・・・その」

 

「・・・・・またか・・・・ま、何時もの事だし、その内納まるだろう。」

 

あの『二人』は・・・・仲良くするということがないのか?

最後に、長い髪を左右で止めてる彼女が、クローバー。

性格は、明るくムードメーカー?的存在。

料理、機械並びに屋敷周辺の結界管理を担当。

 

「報告でぇーす。0735時に、025並び045結界に反応。何か微弱な魔力を持った物が侵入したみたいでぇす。」

 

「侵入者?」

 

時計を見て、思考を回す・・・今の時間、ここまでの距離、相手の魔力の量・・・・少し考えてから指示を出す。

 

「・・・・侵入から、時間経ってるから浮遊霊の可能性もある・・・一応、その結界周辺の索敵をして置いてほしい。パートナーに、スペードかハートをつけること。」

 

感度が高すぎるのか、最近、霊の類にも敏感に反応しているようだ・・・感度を落とすべきか・・・・と、ため息をつく。

以上が、我が屋敷のメイド達である・・・もちろん、魔術師の屋敷のメイドだけ在って普通のメイドではないのだが・・・

みんな、各自仕事に戻ろうとする・・・・そんな中。

 

「あ、あのぉ・・・マスター・・・・」

 

「はぁ・・・言いたい事があるのなら、はっきり言いなさい。ダイヤ。」

 

スペードが、呆れた感じでダイヤを指導している・・・・もしかして、乱闘中、なにか壊したのか・・・あの二人。

 

「は、はい!スペード!・・・・マスター・・・さっきの話、続きが・・・・・」

 

「ふむ・・・やっぱり、あの二人、なんか壊したのか?」

 

頭痛を感じる・・・この間は、自動車大破させ・・・・その前は、薬草園を炎上させた。

頭を抱えて、唸っている私を見て、慌てた様子でダイヤが言う。

 

「いいえ!違うんです!ええっと、乱闘は終わって、そのあの・・・侵入者と戦闘中なんです!!」

 

ワァーーーという感じで言い切ったダイヤ・・・しかし・・・  

 

「なっなんですって!?なぜその様な大切なことを遠回りに説明するのですか、あなたは!!」

 

冷静なはずのスペードが、肩をワナワナ震わせながら怒鳴る。

言い切ったことへの満足げな表情から一転、どんどん縮こまっていく、ダイヤ。

まぁ、怒鳴りたくもなる気持ちは分かるが、今はそれどころじゃない。

私は、目を閉じ一気に思考を巡らせる。

 

「侵入からここまで来るのに時間がかかっていたのは、戦闘の所為か・・・・しかし、この屋敷に侵入する気なら、結界に引っ掛からないように侵入してくるはず・・・もし、魔術の知識のない客人か、間違って入った人だったら・・・・」

 

ぶった切られる客人、消し飛ぶ人・・・いやな想像が頭を過ぎる。

 

「あはは・・・もう、手遅れだったりしてぇ〜・・・」

 

「有り得る・・・・あの二人なら・・・」

 

苦笑いを浮かべて言うクローバーと、真剣な面持ちでバラバラだったら、片付けるのが大変そうだ。

と恐ろしいことを言ってるハート。

サァーと頭から血の気が失せる・・・・・・物凄く嫌な予感がする。

頭を振って想像を追い出しメイドたちに一息で指示を出す。

 

「スペード、説教は後回しだ。ハートとダイヤを連れて、侵入者の保護。クローバーは、感知した結界周辺を索敵。今、何処で、戦闘が起きてるかを私とスペード達に定期的に報告。後あの二人と戦闘になっても手を抜くな、こっちが拙くなる。侵入者が、敵だと判断できる場合にのみ、二人の援護を。」

 

「「「「イエス、マイ、マスター。」」」」

 

私に、反論すること無く言われた仕事をこなし始めるメイドたち。

彼女達の仕事は、いつも完璧だ・・・微塵の不安もない・・・しかし・・・あの二人は別だ・・・・  

 

「・・・普通の侵入者であって欲しいものだ・・・」

 

どちらにせよ、捕らえて調べないと・・・死体に口無しだけは避けたい・・・私は、ネクロマンサーではないし・・・・なぜ、侵入者を不安にならねばならんのだ・・・と思考をめぐらしながら、自分自身も現場に向かう準備をし始めた。