最初に今回は人によって気分を害される恐れがあります。

それでもOKと思われる方のみお読み下さい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大聖杯。この地・・・冬木で、数十年周期で行われる願望機を賭けた戦争

 

聖杯戦争の要との成る物のが在る洞窟に、三つの影が向かう。

 

どの影からも闘志が見られ、これから闘いに行くのだという事が解る。

影達は一言も喋らずに洞窟の奥へと進み―――――

 

「少し待て、今紅茶を入れる」

 

という。見方に依れば四十代後半にも見える老人の姿と言葉に唖然とし、一人叫んだ。

 

「だ、だだだだ大師父―!!」

 

 

 

世界の枝、それは無限の正義と悪

 

 

Side士郎

 

俺は奴と闘う為に大聖杯に来たんだが、凛が大師父と呼ぶ爺さんに何故か紅茶をご馳走に成っている。・・・・・・・うん、良い葉を使ってるな

 

「って、なんでさ」

 

「何がよ」

 

「ハムハム」

 

「これこれ、そう慌てんでもクッキーはまだまだ有るぞ。ワシとしては此方のチーズケーキの方がお勧めじゃ」

 

「むぅ、確かに・・・控えめな甘さが紅茶に合いますね」

 

「じゃろう」

俺の言葉に、凛が不機嫌全開な声で答え。セイバーがクッキーを貪り、ゼルレッチさんがセイバーを注意し、チーズケーキを薦め、セイバーがコクコクとチーズケーキを食べ評価し、二人して頷いてる。

 

なんだこのカオス

 

俺がそう思い。自分の置かれたこの状況に困惑していると、凛が質問しだした。

 

「大師父、私達は貴方の弟子であるシロウ・E・S・アインツベルンと闘う為に来たのですが・・・何故か貴方と紅茶を飲んでいます。何故ですか」

 

ゼルレッチさんは、笑顔で言った

 

「時間稼ぎじゃよ。馬鹿弟子に頼まれた用件は済ませたのでな、紅茶を飲んで一休みしていた所に予想よりも早く、御主等が来たのでな。あの馬鹿はまだ帰ってきとらんし、待たせるのも可哀想に思えたからじゃよ」

 

「奴は今どこに?」

 

俺の問いにゼルレッチさんは、何でも無い様に言った

 

「何、ちょっと其処までマキリを滅ぼし行っただけじゃよ」

 

「「「なっ!!」」」

 

「ただいまー・・・・・・意外に早かったなお前ら」

 

アンリの登場に驚くも遠坂は、アンリに近寄り叫んだ

 

「桜は如何したの」

 

アンリはニヤリと笑っただけで、答える事はせずに俺に言う

 

「行くぞ、外野がうるさい」

 

「言われなくても、行ってやる」

 

桜の事は気になったが、こいつの笑顔を見たときに大丈夫だと確信した。理由なんか無い、ただそう思った。

 

「使うんだろ? 早くしろ」

 

奴は俺にそう言って腕を組む。

 

「なら、そうさせて貰う。」

 

俺は奴にそう言い、詠唱を始める。

 

I am the bone of my sword

 

 

 

 

 

 

 

遠坂凛とセイバーは、二人の士郎から離れた所で見守る。

 

「アイツ、何もしないわね・・・・・如何思う? セイバー」

 

「たぶん、固有結界を発動させないと勝負に成らないからだと思いますが・・・」

 

二人は状況を見ながら予想する。自分達の士郎が勝つ為に、凛はラインを通じて士郎に状況を伝え、セイバーは何時でも二人の間に立てる様に身構える。

セイバーとしては二人の勝負に、水を挿す様な事はしたくは無いのだが士郎には死んで欲しくない、凛と同様に

 

「ソレも在るが余裕が有るからじゃろう、家の馬鹿からすれば過去の・・・それもかなり昔の自分と対峙している様なものだからな」

 

凛はゼルレッチの方を向こうとして、直に視線を元に戻した。

 

世界が裏返る

 

踏みしめていた岩の大地は荒野に

 

暗い闇が大部分を支配していた空間を光が

 

黒い苔交じりの岩の天井を、青が支配した

 

荒野に立つ無限の剣軍

 

その中心に立つのは二人

 

一人は、自分のパートナー

 

愛すべき友人

 

未熟な弟子

 

最早、遠坂凛には欠かせない存在と成った最愛の恋人

 

一人は、最愛の恋人の別の可能性

 

話を聞く限りでは自分の兄弟弟子とも言える男

 

何度も世界を渡っているであろう、第二魔法の体現者

 

別世界での勝者

 

 

 

後者は間違いなく、強いだろう。そう思いながらも遠坂凛は信じる

 

ソレが如何したと、何故なら聖杯戦争に勝ち残ったのだから

 

自分達は最強だと信じて

 

しかし、その思いに皹が入る。士郎は夫婦剣を手にアンリに切り掛るが、一太刀も掠りもせず、逆に無手のアンリに殴り飛ばされた

 

「なっ・・・・!!」

 

「凛、落ち着いてください」

 

宝石を手に駆け出そうとする凛を、セイバーが静かな、そして威厳に満ちた声で抑える。

 

「っ・・・・・・ごめんなさいセイバー、少し動揺したわ」

 

「凛、貴女の動揺も分かりますが今は信じましょう。アーチャーに打ち勝った士郎を、それにアンリが投影をするまでの辛抱です。」

 

 

 

 

 

「おぇ」っと士郎は胃の中に在ったものを吐き出し、生理的に滲む涙を拭きもせずに睨み、言う

 

「テメェ、何で剣を出さない」

 

アンリは無言で士郎見るだけで、早く来いと指を動かす。

 

「ああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

脚に力を入れ、剣から経験と記憶を引き出し、士郎は駆ける。

 

甞めるのも大概にしろと言わんばかりの猛攻

 

剣が風を切る、切る、切る

 

傍から見れば、ソレは苛烈で力強い演舞

 

しかし、この場に居る者達から見れば唯の一度も当たらない斬撃を続ける、無様なブリキの玩具を見ている様な気分にさせられる。

 

当たらない攻撃

 

当てられる攻撃

 

魔術を使う自分

 

魔術を使わない敵

 

状況の全てが、士郎の心と精神を圧迫する

 

二度目の拳が体に入り、膝を衝く

 

「如何思う、士郎。」

 

「な・・・にが・・・だ」

 

アンリの言葉に、士郎は息も絶え絶えに返す

 

「・・・・・・何も分からないのか」

 

一瞬でアンリは士郎の目の前に移動し、胸倉を掴み吊り上げる

 

「力の差を言っているんじゃない、経験、技術、知識、の事でもない」

 

「何を・・・言って」

 

「お前の事を言っているんだ」

 

そう言うとアンリは士郎を投げ飛ばす

 

「貴様の理想は軽い」

 

アンリの言葉に士郎は、怒りを動力に立ち上がろうとする

 

「貴様の思いは軽い」

 

再び剣を握る

 

「貴様の剣は軽い」

 

脚に力を篭めた瞬間、再び殴り飛ばされる

 

「何故か分かるか? 分からないだろうな。自分を偽り」

 

やめろ

 

「想いを偽り」

 

言うな

 

「答えに気付いているのに、気付かない振りをしている貴様には」

 

「何を言っている!!」

 

士郎は呼吸を整え立ち上がる。何かに焦るように

 

 

 

 

 

二人の戦いを見ながら遠坂凛は焦っていた。

 

何故、アンリは投影を使わないと

 

セイバーも焦っていた。衛宮士郎同士の戦いとは互いの想いを剣に乗せ、打つけ合う物だと勘違いしていたからだ・・・・・・・弓兵との戦いと同じ様に

 

「不思議かな?」

 

ゼルレッチの言葉に、凛が反応する

 

「何が・・・ですか」

 

「奴が投影をしない事がじゃよ」

 

凛は苦虫を噛み潰した様な顔をし、聴いた

 

「えぇ、不思議です。アレでは、士郎を侮辱している様に見えます」

 

ゼルレッチは笑いながら答える

 

「ハッハッハッそうか、侮辱している様か・・・・・お主はチョーット、視野が狭い様だな遠坂。 でっ、其方のお嬢さんは如何思うかね?」

 

凛は怒りを無理やり飲み込み、静観する。セイバーも同じ意見だと予測して

 

「凛、すみませんが・・・私にはそう見えない」

 

あっさりと裏切られた。

予測していた言葉とは反対の意見を聴き、凛は「ちょっ、なんでよ!!」と聞き返す。

セイバーがその訳を言おうと、口を開いた時に被せる様にゼルレッチが言葉を吐いたので、セイバーは直に口を閉じた。

 

「一つ言うが、アレは所詮士郎だぞ? 剣、魔術の才能は三流程度、良くて二流。まあ、一部例外は在るが・・・そんな凡才じゃ。

魔術師との戦闘、死徒との戦闘、人外、混血との戦闘の全てに置いて策を巡らし、罠を張り巡らして戦わないと、何時でも負ける可能性がある凡人じゃぞ」

 

凛はゼルレッチの言葉に「なら、何故」と質問しようと、口を開こうとしたがゼルレッチは御構い無しに言葉を続ける。

 

「だから、どんな小物と戦う時でも奴は本気で戦う。アイツは自分を過大評価しない、アイツは敵を過少評価しない、そうワシ達が仕込んだ。

アイツも手痛い竹箆返しを受けておる。弓兵と成った衛宮士郎とは違うのじゃよ。奴の言葉を借りるが、弓兵はバカらしぞ? ワシもそう思うしの」

 

 

 

 

 

シロウ・E・S・アインツベルン(アンリ)は、焦り何かに怯える様に立ち上がった衛宮士郎に対して思う

 

やはり、自分を含めたエミヤシロウという存在は頑固でバカばかりだ・・・・と

 

それとは別に思う

 

自分は幸運だった・・・と

 

そして、現実を見せる事を決める

 

思い描くは使い慣れた剣

 

極端に短い柄

 

重心の偏った刀身

 

しかし、祝福を受けた剣

 

名を黒鍵

 

シロウは短く吐く

 

投影・開始(トレース・オン)

 

衛宮士郎はその言葉を聞き、身構える。奴の剣は自分に向かうと信じて

 

そして、その思いは裏切られる。剣は彼女達の後ろに現れた

 

 

「ちょっ!!」

 

「なっ!!」

 

セイバーの後ろに衝き立った剣は、直に折れた。それでも、遅い

 

既にシロウ・E・S・アインツベルン(アンリ)は二人の間に移動しており、その両手は鋭く二人の首筋に打ち込まれた。

 

パンと音がする

 

二人の少女が前のめりに倒れる、首筋から血を流して

 

「あっ、ああっ、あああああ!! アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!」

 

何故?! 何故?! 何故?!

 

「如何した、衛宮士郎? 泣いてる暇は無いぞ? 多くの命を救うんだろ? なら良い経験だ。この二人はお前にとって、何れ切り捨てなければ為らないかも知れない一だろう。多くの命を救うならこれ位零してしまっても仕方ない」

 

「何故だ!! 彼女達は関係ないだろ!! 何故殺した!!」

 

士郎の言葉にアンリは溜め息を付き、呆れた様に言う

 

「だから、予行練習だよ。お前にとって最愛の二人かも知れないが、この命は二つだ。お前は沢山の命を救いたいんだろ? なら二つ零しても大丈夫だ、お前は此れから百、二百、三百、と救って往けば良い」

 

「違う!! 違う違う違う!! 違う!! ソンなのは俺の理想じゃない!! 俺は救いたいんだ、十なら十を・・・百なら百を!!」

 

涙を流し、叫び訴える

 

脚は動かない

 

動かしたいのに動かない

 

ソレは恐怖のためか? 攻撃を受け続けた為のダメージの為か?

 

アンリは聞き分けのない子に諭すかの様に、優しく言う

 

「だからソレは無理だと言っているだろう。人間は万能じゃないんだ、そこに居る魔法使いでも無理なのに、俺達の様に継接ぎや欠陥だらけの存在に出来るわけ無いだろう。

いい加減、現実を見ろ。お前の進む道には犠牲が必ず出るんだ、お前は一々立ち止まって後悔して泣くのか? その間にも沢山の命が失われていくぞ?」

 

そうだ、立ち止まっている暇なんか無い

 

「違う」

 

何が違う? 確かに遠坂を愛しているし、セイバーも家族の様に愛している。でも幾ら愛していても二つの命じゃないか。

もし、二人を犠牲にして沢山の命を救えるのならソウするのが当然だろ?

 

「違う」

 

何が違う? これから救う十、二十、三十、百の命を救うためならしかたないだろ? 養父との約束を忘れたのか?

 

「違う・・・・・・俺は・・・・・」

 

違うじゃないだろう? 十の内二を捨てて、八を救えるならそっちの方が良いじゃないか。養父も・・・切嗣もそうしてきたじゃないか。

 

俺をあの大火事の中から・・・俺を救ってくれたじゃないか。他の人達を犠牲にして

だから、救わなきゃ。少し犠牲にしてしまうかも知れないけど、沢山の人を救わなきゃ。

じゃないと、あの火事の中で生き残った意味が・・・救われた意味がないじゃないか。

二人位、如何って事ないだろ? 今更だ。だってもう、沢山救わなかったじゃないか、生きる為に

 

もう、沢山見捨てたじゃないか

 

「違う、ソウじゃない!!」

 

認めろ。全ては救えない

 

「それでも!!」

 

認めろ。全てに犠牲は付物だ

 

「それでも!!」

 

思い出せ。切嗣に言った言葉を。正義の味方に成るんだろ?

 

「それでも!!」

 

前を見ろ。奴は殺人を犯した

 

殺人は罪だ。悪だ。

 

悪は、排除しないと

 

「そうだ、許せない。奴は遠坂とセイバーを殺した・・・・・・でも」

 

自問自答する士郎に、アンリは再び問う

 

「衛宮士郎、再び貴様に問う。」

 

世界に皹が入る

 

「貴様が目指すのは衛宮切嗣(正義の味方)か」

 

「俺は・・・・・・大切な人達を・・・遠坂とセイバーを・・・護りたかった」

 

アンリは何も言わず。士郎を見る

 

「だから、お前を殺す!!」

 

「それは、正義の味方としてか?」

 

瞳に怒りの炎を燃やし、体中から怒気と殺意を撒き散らして、衛宮士郎は剣を手に取り立ち上がる

 

「もう、そんなのは知らない。養父には悪いけど、俺は切嗣みたいな正義の味方には成れない。」

 

アンリは何も言わない。

 

「お前は二人を殺した。・・・・・・だから俺がお前を殺す!! 正義なんか関係ない、復讐の為に俺がお前を殺す!!」

 

世界が崩壊する

 

空は岩の天井に

 

荒野は岩で出来た地面に

 

空間を再び闇が支配する

 

大聖杯から漏れる淡い光が二人を照らす

 

しかし、殺気で満ちた空間は笑い声で崩された

 

「クッ・・・・・クククク、も、もう駄目じゃ」

 

「ハァ・・・・・お前は未熟すぎる・・・起きて良いぞ、凛、セイバー」

 

士郎は何が何だか分からずに、剣を構えたまま硬直する。

 

目の前の状況が理解できない

 

セイバーが笑顔で自分を見てる

 

遠坂が目をキョロキョロさせながら、時々自分を見てる

 

「・・・・・な・・・なんで?」

 

士郎の言葉にアンリは呆れながら、言った

 

「まぁ、簡単に言うと一芝居うった」

 

「え・・・でも血が」

 

まだ状況を理解できていない士郎に、遠坂凛とセイバーは歩み寄り手を握った。

 

「シロウ・・・私は生きています」

 

士郎の目から涙が零れる

 

「士郎」

 

「遠・・・坂・・・」

 

「ありがとう」

 

限界が来た

 

衛宮士郎は

 

もう

 

自分を偽れない

 

羞も恥もない

 

士郎は泣いた

 

そして抱きしめた

 

力の加減など出来はしない。もう二度と話すものかと、有らん限りの愛しさを込めて

 

セイバーは笑顔で士郎を受け入れ

 

遠坂凛は涙を滲ませながら、顔を赤らめ抱き返した。

 

 

 

 

少し離れた場所に、二人の男を残して

 

「士郎・・・この後如何するつもりじゃ?」

 

「本当なら桜の事とか投影を使わなかった事とか、他にも話したいことが在ったんですが・・・・アレを見せ付けられると・・・・ねぇ?」

 

「ハァ・・・まぁ三人には、このまま退場して貰おうかの・・・結界を張っておけば時間も大丈夫じゃろ。之は之で後が面白いと思うしなぁ」

 

ゼルレッチはそう言って、三人を跳ばした。

 

士郎はソレを確認してから言った

 

「それで、何か言いたい事は在るかな? 桜」

 

ビクリと体を震わせ、少女は・・・間桐桜は闇掛かりから姿を表した。