それは、近くて遠い別の世界の選択

 

「セイバー、その責務を果たしてくれ!!」

 

ソレは分岐した可能性

 

「セイバー、アレを破壊しなさい!!」

 

そして、ソレはアル物を破壊するのに同じ物を使った為に起った『奇跡』

 

「力を貸してくれ、投影開始(トレース・オン)!!」

 

そしてソレは、莫大な魔力を貯蔵していた物の近くでアル物を使用した為に起った『必然』

 

そしてその『必然』の後始末をするのは、ソレを使える者とその関係者の『責任』

 

だから、彼が何時もの様に突然現れた師に拉致されるのも当たり前の結果なのである。

 

 

 

世界の枝、それは無限の正義と悪

 

 

衛宮士郎は途方に暮れていた。何故、途方に暮れていたのかというと単純に今の状態に頭の整理が出来ていないからである。

 

「大聖杯が健在・・・しかも、穢れたままだと!!」

 

士郎は叫びながらも自分の体を強化して、大聖杯の中心に跳び乗り声を上げた。

 

「同調開始(トレース・オン)!!」

 

すると大聖杯が一瞬唸りを上げ、士郎の体がビクリと震え、何も無かったかのような静寂が洞窟内を再び支配した。

 

「グッ・・・・・はあ・・・・・一体この世界の俺は何をしてるんだ?」

 

誰も居ない洞窟に士郎の声が響き、感じ慣れた魔力に辟易しながら士郎は立ち上がり振り向いた。

 

「ふむ、ちゃんと不純物は取り除いたようだな。士郎」

 

衛宮士郎の師、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグは満足そうに言うとその手に持った宝石剣を一振りし言った。

 

「さて、後は夜じゃな。これから如何するかは、解かっておるな?」

 

士郎は顔を顰めて言おうとした言葉を飲み込み、師の問いに答える。

 

「誰にも気づかれずに夜まで待つ事」

 

士郎の答えにゼルレッチは溜息をついて言う

 

「つまらんなぁ、模範解答そのまま過ぎてつまらん・・・・そうさのー此方の『お前』に会ってこい。序に気に入らんのも潰してこい『ワシの弟子らしく、エミヤらしく』のぉ」

 

ゼルレッチはどこから出したのかは分からないが、トランクケースを出して士郎に投げ渡した

 

「しか・・・・・分かりました。如何なっても知らないからな、ハッチャケ爺さん!!」

 

士郎はそう言うと、トランクケースを持って洞窟の入り口に向かって歩き出した。

 

ゼルレッチは自分の視界から士郎が居なくなったのを確認すると、水晶を取り出し言った。

 

「見て来い、感じて来い、知って来い。己の別の可能性を、一を見つけ出し選んだ者として、未だ未熟な先輩として・・・・・・・ククク、たまらんなぁ。何時でも何処でもお前たまらん。士郎、クソッタレな縛りを切ってこい。」

 

ゼルレッチは子供の様な笑顔でそう言った。

 

 

 

 

Side 士郎(unlimited

 

「士郎〜ミルク〜」

 

何時も通りの愛しい人の言葉を聴き、何時も通りにコップに注いだミルクを渡す。

何時も通りにセイバーに朝食を運んでもらい、何時も通りに桜が御椀に注いだ味噌汁を御盆に乗せてテーブルに運ぶ。

 

そんな何時も通りの朝。全部あの冬からの日常。

 

戦争が有ったのだ。

 

七人の魔術師の

 

七人の魔術師が呼んだモノ達の

 

聖杯という名の願望機を巡る戦争

 

聖杯戦争と呼ばれる裏の人間達が集う戦争が・・・・俺はソレに巻き込まれ、セイバーと出会い、自分の未来の可能性と戦い、遠坂凛という友・・・・恋人を得たのだ。

そして、今日もそんな何時もの一日が始まると俺は思っていた。

『俺』が訪れるまでは

 

 

Side out 

 

士郎・・・別世界の衛宮士郎は、この世界の衛宮邸の前で考えていた。最初は自分の家の無防備さに呆れ、家の中から聞こえた女性の声に驚愕し、今更な問題を思い出した。

それは

 

「何と言おうか」

 

挨拶である。考えれば考えるほど思いつかず士郎は腕を組み悩んでいた。

 

「取り敢えず髪の色は変えておくか」

 

何故ならば虎対策。生き別れた兄弟という事にしておけば何かと動きやすい。

士郎は、トランクケースの中からゼルレッチが入れた物だと予想するブラックオニキスを取り出して頭に当て、色を髪に移した。勿論、周囲に人が居ないのは確認済みである。

そして

 

「ちょと退いて〜!!」

 

「なぁ!!」

 

ドン!!

 

目の前の衛宮邸の門に、スクーターが衝突した。知ってるけど知らない人を乗せて・・・・・

 

「なっなんだー!!」

 

士郎は思った。自分は何所に行っても厄介事に会うんだな〜・・・・と

衛宮邸の門が開き、慌てて出てきた別の自分と知ってるけど知らない友人達に士郎は藤村大河を抱き上げて言った。

 

「取りあえず、中に入れてくれ」

 

 

Side衛宮邸

 

「何かね、君の初対面の相手に対する挨拶は呪いを当てる事なのかね? 家の家訓は如何した? ソレとも君はソレを護れないほど頭の中がお花畑なのか? 大体、君は何時も何時もポンポン宝石を使っては金がないだの赤字だのと――――――クドクドクドクドクドクドクド・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

士郎(unlimited)は、居間のテーブルでお茶を啜りながら思っていた。早く終わらないかな〜・・と

 

原因は間違いなく奴だが、発端は遠坂凛である。気絶した姉的存在・藤村大河を藤村組の若い衆を呼び出し、運んでもらった後、何故か呆けた顔をして訪問者を視ていた遠坂と在り得ない物を見た様な表情で完全武装をしているセイバーに「如何したんだ」と声を掛けようとした瞬間に、遠坂がガンドを放ったのだ。

そして避けられた後、お説教が始まったのだ。もう一時間は経つ。

その喧騒を聞きつけて居候のサドマゾ極悪シスターや、不器用短絡鉄拳魔術師も遣って来て、呆けた顔して見つめた後、二人で「後は紋様だけ」と言っていたりする。

しかし、何かが引っかかる。以前、奴に持ったモノは敵愾心の様なモノだったのだが、今の奴に感じるのは嫉妬の様なモノなのだ・・・おっと、説教が終わったらしい。

 

「何よ・・・大体アンタが悪いんじゃない!! 現界してるなら連絡くらい寄越しなさいよ!! 馬鹿アーチャー!!」

 

遠坂、逆ギレはダメだと思うぞ? 奴は遠坂の言葉を聞くと肩眉を上げて言った

 

「ハァ・・・・一つ言って置くが俺は遠坂のサーバントに為った覚えは無い。俺は平行世界のソイツだ。」

 

奴は俺を指で指して、何故自分が此処に居るのかを説明し始めた。難しくて良く分からなかったが要約するとこうだ。

 

「何処かの世界の考え無しが宝石剣で暴れた為に空間が歪み、その上直しに来なかった為に師が動き、供として拉致られた」

 

である。遠坂は心当たりが在るようだ、だって目が泳いでる。

 

「・・・・・・・遠坂」

 

「・・・・・・・リン」

 

俺とセイバーの吐きに、遠坂は「キッ!!」と目を吊り上げ口を開こうとして

 

「凛、済まないが先に『此方』で起こった戦争について聞きたいのだが」

 

と奴の言葉に邪魔された。遠坂は数秒考えた後、「アンタの方の戦争の事も話して貰うわよ」と言い座った。そして、セイバーが今更な事を口にした

 

「しかし、私達は貴方の事を何と呼べば言いのでしょうか?」

 

「そうだな・・・・・二つ名ならば色々と有るが・・・・アンリと呼んでくれ」

 

奴は懐かしむ様に微笑みながら言った。

 

 

 

 

 

 

Side アンリ(士郎)

 

 

俺は凛達の戦争の話を聴き、呆然とした。「よく生き残れたな」と。まあ、向こうは俺以上に驚愕していたから、余り動揺しなかったのだが

 

「ねえ、一つ聴いて良い?」

 

凛が俺に確認する様に聞く

 

「別に質問される様な話では無かったと思うが・・・何かね?」

 

「彼方は衛宮士郎よね?」

 

「ああ、正確に名乗るならばシロウ・エミヤ・シュバインオーグ・アインツベルンだが・・・いや、もしかしたら『蒼崎』も入るかもしれん。コレばかりは元の世界に戻って戸籍を確認しなければ分からないが」

 

俺の言葉に凛がフルフルと震えだした。ヤバイ

 

「ふざけんなー!! シュバインオーグ? 最初っからそんな有利な幸運持ってるくせにその上金持ち?! しかも戦争一年前からセイバー召喚? 私が馬鹿みたいじゃないのよ!!」

 

ガンド。ガンドガンドガンドの嵐。まあ、俺には聞かないから良いんだけど。あっ士郎に当たった。

俺は飛んで来るガンドを避けながら凛に言う。

 

「そこの未熟者に当っているが助けてやらなくていいのか?」

 

「え!? 士郎!!」

 

士郎の元に駆け寄る凛。あれは「うっかり」とかではなく「考え無しの短気」だと思うのだが・・・と思っているとセイバーが話しかけてきた。

 

「すみません」

 

「きゃー士郎死んじゃダメー」

 

「いや、セイバーが謝る事じゃないだろう? 別に気にしてないしな」

 

「だ、大丈夫だ遠坂。それに、お前一人残して死ぬ訳ないじゃないか」

 

「士郎・・・・」

 

セイバーは俺の言葉を聞くと表情を和らげ

 

「なら良いのですが・・・・あの、貴方の話を聴く限り貴方と供に戦った私は」

 

「答えを得たよ。アイツは俺と供に戦ってくれたアルトリアは責務を果たした」

 

「そうですか。ならば私は、貴方に言わなければ有りません」

 

「言うって何を?」

 

セイバーは頭を下げて

 

「ありがとう。私を救ってくれて・・・・・異なる世界の私が言うのも可笑しいかもしれませんが、貴方に感謝を」

 

と言い。頭を上げて笑った。

 

「此方でも甘い雰囲気をかもし出す気ですか、衛宮士郎」

 

「いや、甘い雰囲気も何も「何も?」・・・ナンデモアリマセンノデ、アカイヌノヲシマッテクダサイ!!」

 

「なら良いのです。ソレよりも貴方の話を聴く限り『向こうの私』は貴方の作った町に住んでいるようですが、何故ですか?」

 

「成り行きと責任かな・・・因みに言うが今、妊娠してるぞ。もう名前も考えているらしい」

 

「・・・・・そうですか。幸せなのですね」

 

カレンはさして驚いた様子も無く言う。しかし、次の瞬間目を見開いて驚愕していた。俺の言葉を聞いて

 

「如何なのかな・・・俺一人の主観でソレは判断できないけど、子供の名前を考えてる時は微笑んでレース縫いをしてるって聴いたぞ。しかも、俺に名前を決めさせる気はないらしいし。俺の子でも有るのに」

 

「「「「何―――――!!」」」」

 

 

間接休話

 

「ママー」

 

「如何かしましたか? ファミィ」

 

ファミィと呼ばれた幼子に「ママ」と呼ばれた少女は呼んでいた本を閉じ、聞いた。

 

「あのね、赤ちゃん何時生まれるの?」

 

少女は微笑みながらファミィの頭を撫で言う

 

「そうね、クリスマスよりは早く生まれますよ。他に聞きたいことは?」

 

ファミィは笑顔で言った

 

「あのね、バゼットお姉ちゃんがお皿出そうとして全部割っちゃったの」

 

少女は心の中で溜め息を付き「早く来て〜」と手を引っ張るファミィに歩幅を合わせながら、早足で部屋を出て行った。

 

「お昼は抜きね、バゼット」

 

そんな幸せそうで忙しそうな、噂のシスター

 

 

 

追記 バゼットは夜も抜かれました

 

 

間接休話終了。

 

 

時間は夜。衛宮士郎は土蔵で精神統一をしていた。しかし、その精神統一も蒼き剣士の言葉に終わりを告げる

 

「シロウ、やはり行くのですか」

 

衛宮士郎はゆっくりと両目を開け、蒼き剣士・セイバーの目を見ながら言う

 

「ああ、俺はアイツの正義を認める事は出来ない」

 

衛宮士郎はそれだけ言うと立ち上がり土蔵を出た。

 

セイバーもその後に続き土蔵を出る。門では既に遠坂凛が待っていた。彼、彼女達は互いに一度頷くと門を開け歩き始めた。向かうは大聖杯。其処に待つのは、異世界の衛宮士郎。

彼等はこれから戦いに行くのだ。互いの正義をぶつけに。

 

彼等が戦う事に成ったのは数時間前の話だ

 

 

数時間前

 

 

アンリの爆弾発言の後、凛が「やっぱり陰に隠れてそんな事してたのね!!」と衛宮士郎にガンドを放ったり、衛宮士郎が「ごっ誤解だ!!」と叫んだり、カレン・オルテンシアが「気をつけなさい、其処の獣は後ろからが良いという真性の■■■■ですよ」と煽ったり、バゼット・フラガ・マクレミッツ(ダメット・ダメダ・ダメレミッツでも可)が「私は如何なっているのですか!?」とアンリに迫ったりと、イロイロ遭ったがセイバーの「お腹が空きました」発言でお昼に突入するという裏技により全てのメンツ(アンリを除く)が冷静になったのだ。

 

まぁ、お昼はアンリと衛宮士郎の間で別の争いが有ったのだが・・・・・長くなるので結果だけ言おう。

 

士郎完敗

 

そして少し落ち込み気味の衛宮士郎とお腹いっぱい満足セイバー、ブツブツと一人事を言いながら闘志を燃やす遠坂凛の三人とアンリの四人になった時、アンリが確かめるように聞いたのだ。

 

「衛宮士郎、お前の理想は変わらぬ儘か?」

 

衛宮士郎は何処か不貞腐れながら答える

 

「そうだよ。俺は正義の味方を目指す、借り物の理想だけどこの想いは確かなものだからな」

 

アンリは目を瞑り言った

 

「そうか・・・一つ言うぞ。お前では無論俺もだが、全ては救えない。一が零れるかもしれない、三が零れるかもしれない、九を救えるかもしれない、七を救えるかもしれない。」

 

アンリの言葉を聞き、衛宮士郎は口を開こうとして開けなかった。

 

その開かれた両の目に見据えられ、体が、心が、動く事を聴く事を拒否していたからだ。何かを感じ取ったのだろう。しかし、アンリは別世界の衛宮士郎は続ける。

 

「だけどな、お前に「人」は救えない。勘違いをしているお前には「命」は救えても「人」は救えない。」

 

衛宮士郎はその言葉に反応し立ち上がろうとして

 

「なっテメェ・・・・」

 

「落ち着きなさい士郎!!」

 

と、凛に押さえられ何度か深呼吸をし、座りなおした。その体は、怒りの為か他の感情の為か震えていた。

 

「続けてください」

 

セイバーが士郎の代わりに言う。

 

「問おう、衛宮士郎。貴様が目指すのは「正義の味方(衛宮切嗣)」なのか」

 

「当たり前だ!! 俺は爺さんと切嗣と約束したんだ!!」

 

感情の昂ぶった衛宮士郎は気づけなかった。いや気づいていない振りをしたのかもしれない。アンリは立ち上がり言った。

 

「そうか、そこまで言うのならば今夜大聖杯に来い。柳洞寺の地下に有るから迷うことも無いだろう」

 

そして、言うのを忘れていたかの様に振り向き、弓兵を彷彿させる笑みを作り言った。

 

「衛宮士郎。貴様が貴様の言う「正義の味方」を目指しているのならば既に成っているぞ」

 

「突然何を・・・」

 

困惑する三人・・・・いや、二人は「何を言ってるんだ」という表情をし。一人、アンリの言葉の意味に気づいたセイバーはソレを言わせまいと動こうとしたが遅かった。

 

「お前は自分と凛を救うため、イリヤを切り捨てただろう。」

 

「「っっ!!」」

 

何も言い返せず、固まる二人を見てそのまま帰ろうとするアンリに、動こうとしたセイバーが聞いた。

 

「アンリ!! ならば貴方の正義とは何なのですか!!」

 

「俺は俺の大切な人達だけ救う、そして余裕があれば他の人も救う。俺は見ず知らずの他人よりも家族を友を愛する者を優先して救う。それが俺の正義だ」

 

そう言い、アンリは別世界の衛宮士郎は荷物を持って玄関へと向かった。玄関にはカレンが居た。そしてアンリが靴を履きドアに手を掛けた所で口を開いた。

 

「貴方は何時気づいたのですか? 衛宮士郎」

 

カララ

 

アンリは一歩足を進め振り向かずに言った。

 

「俺が気づいたんじゃない、紫陽花が気づかせてくれたんだよ。」

 

そう言い、アンリは衛宮邸を後にした。

 

 

 

時間は戻り夜へ

 

 

「お前は・・・選りに選って此処で戦うのか? バカ弟子」

 

ゼルレッチは内心面白いと思いながらも言った。

 

「此処ぐらいしかないでしょう、互いに本気でヤるには。それと例の件お願いします。」

 

「フン、全くお前も無茶言う様になったのー。師であるワシにまで」

 

「そりゃあ『師が師なら弟子も弟子』でしょう。アンタの無茶に比べたら、俺の何て可愛いもんだろ? 爺さん」

 

「たっく、確かに『ワシの弟子らしくエミヤらしく』と言ったが普通自分の師まで使わんぞ。それに『此方』のお前に言った事と違うんじゃないのか?」

 

「余裕が有るから良いんですよ。だから入れてたんでしょ? トランクケースに」

 

「ハッ、如何だかのー」

 

二人の声が静かな洞窟に響いた。

 

 

 

 

あとがき

 

こんな感じでどうっすか!? せいた様!!

どうもBINです。すみませんバトルは次回です。

それと、プロット作ったらいつの間にか、かなり長くなったので結構ビビリました。まぁ切り捨てましたが。

次回も長くなりそうです。すみません。