士郎が炎の波に剣を振るった頃より少し前

 

Side  五人の戦士

 

「斬空閃!!」

 

刹那が空「氣」の刃を放ち、群がる黒犬を数匹斬り裂き

 

「タカミチ左右同時に来るぞ!!」

 

ドドン!!

 

高畑・T・タカミチが津波の様に押し寄せる黒犬の大群に大きな穴を開け

 

「ほっ、はっ、とっ、」

 

楓が二人の攻撃によりバラバラになった黒犬達を、一匹一匹確実に葬り

 

ダン、ダン、ダン、ダン、

 

真名が刹那と楓に近づく黒犬達を牽制、または撃ち殺す。

 

 

その姿を後ろから見ながら近衛近右衛門は思った。何かオカシイと・・・・・

 

「(高畑先生の技、豪速居合い拳は確かにあの黒き獣達の群れに大穴空け、刹那君の斬空閃は複数の黒犬を斬り裂いている。楓君も龍宮君も確実に黒犬達の数を減らしている筈なのじゃが・・・・)真逆!! 迂闊じゃった。繋がりを絶った為に殺されても残った魔力で元に戻っておるのか、アレは奴の体の一部形を持った呪いという名の使い魔、唯殺すだけでは無意味。滅するには殺すと同時に浄化しなければならぬと言う事か。」

 

近衛翁はそう言うと歩き出し真名の横を通り過ぎる時に

 

「龍宮君、援護の方を頼むぞい。奴らを確実に減らしているのは君の破邪弾と刹那君の斬魔剣だけじゃ」

 

真名は近衛翁の言葉を聞きズボンのポケットから小さな箱を取り出した。

 

 

 

 

「「士郎」分かってる。奴らの数が殆ど減っていないんだろ?」

 

「ふむ、二人とも気づいたか」

 

「学園長!?」

 

高畑先生はワシを見て声を上げた。そんなに吃驚されても困るんじゃが

 

「正面!!」

 

ドン!!

 

小さい衛宮君の指示に高畑先生は攻撃を繰り出す。流石に親友と呼び合うだけに見事な連携じゃが、いったい二人は何所で知り合ったんじゃろうか? 二人とも話してくれんし…まぁ話してくれるまで待つ事にするか…予想はつくし。

 

「二人とも、長瀬君と刹那君を呼んでくれんか」

 

「二人をですか?」

 

「そうじゃ」

 

「士郎、良いかい?」

 

高畑先生がそう言うと小さい衛宮君は何も言わずに飛んで行った。

それから、一分もしない内に長瀬君、刹那君、と一緒に小さい衛宮君も戻ってきた。

 

「刹那君は雷鳴剣を使えるかの?」

 

「雷鳴剣ですか? 使えますが一対多での戦闘では余り効果はありません」

 

「いやいや、敵に使わなくて良いんじゃよ」

 

近衛翁は自分を指差し

 

「ワシに使うんじゃから」

 

「「「えぇぇーーー!!!」」」

 

「この忙しい時に痴呆かね?」

 

容赦の無い事を言うのが一体

 

「失敬な、曾孫の顔を見るまでボケる訳無いじゃろうが!!」

 

さすがに怒ったのか叫びながら近衛翁が言った

 

「そうだよ士郎。」

 

「そうですよ、学園長がボケる訳無いじゃなですか」

 

「そうでござるよ、チビ士郎殿」

 

「お主ら目が泳いでおるぞ」

 

近衛翁は「もう、いいわい」とちょっといじけながら楓に符の束を渡し、「頼むぞ」と言い懐から楓に渡した符と同じ物を一枚取り出し

 

「其れでは高畑先生、チビ士郎君、敵を出来るだけ道の中央に集めてくれ。刹那君はワシの指示が有るまで待機じゃ」

 

近衛翁の指示を聞き、高畑・T・タカミチとチビ士郎は黒犬達を攻撃しながら誘導し始めた。

道の両端ギリギリの所を攻撃し、黒犬達が道の中央を通る様にしながら誘導し中央から突出した黒犬の集団を真名が士郎から貰った「クルークニス」で確固撃破していった。

近衛翁は、何度か刹那を一時的に前衛に戻そうかと思ったが真名の打ち出す「クルークニス」がその真価を発揮した。

元々「クルークニス」は祝福儀礼を施した銀を使っている為、魔に属する者・悪霊などに対して効果的であり、牧草地のルーン(光のルーン)で銃弾自体に光・聖の属性を付与する事で破邪の力を上げ、大鹿のルーンでその力が落ちない様に保護して要る為、ニ・三対以上の黒犬を貫通する事など容易かった。

 

一進一退の攻防が少し続き、近衛翁が眉をピクッと上がり

 

「刹那君」

 

近衛翁の言葉を聞き、刹那が鞘に収めていた刀を抜いた

 

「ホントに良いのですか?」

 

「構わん、全力で打ちなさい」

 

近衛翁は刹那の問いに力強い声で答えた。

 

「いきます、神鳴流奥義 雷鳴剣!!」

 

ドォォン

 

雷が刹那の握る刀に落ち、雷を纏った刃が吸い込まれるようにして近衛翁の握った符に当った。すると、本来ならば符ごと腕も切り裂いたで有ろう一撃は符に受け止められ、刀が纏っていた雷は符に吸収され、刹那の後ろに「目が〜、拙者の目が〜」と楓が落ちてきた。

 

「か、楓!!」

 

驚く刹那に近衛翁が冷静な一言

 

「間近で雷を直視したんじゃろ、大丈夫見たところ怪我も無い様じゃし少しすれば視力も回復する」

 

「もう、よろしいですか? 学園長」

 

何時の間に戻ったのか高畑・T・タカミチが言う

 

「ああ、もう良いぞい。すまんが龍宮君を呼んで来てくれ。それともう攻撃はせんで良いとな」

 

黒犬は目前に迫っていた。

 

「ふぅ・・・この技術がもう少し早く身に付いておれば・・・・いやもう遅いか、どの道動けたのは奴だけだったしのう」

 

黒犬の歩みは止まらない

 

「さて、有象無象共言っても分からんじゃろうが・・・・・覚悟しろとは言わん。その身を持って知れ、我が魔法を」

 

その老体から溢れ出す魔力のなんと雄雄しい事か

 

黒犬は止まらない、唯一つの目的の為に

 

雄雄しき魔力は手に持つ一枚の符に

 

彼はただ一言、唱えた

 

「多雷網浄陣!!」

 

ソレは閃光

 

ソレは檻

 

ソレは線と点が造る破邪の檻

 

囚われたのは黒き獣、呪いという形を持った悪魔の使い

 

ソレを裁くは雷

 

雷は檻の中で分かれ二つの閃光となり、檻の中さらに分かれやがて無数の雷となりて邪払う裁きの雷が黒き魔を白く染め上げる。

 

断末魔の叫びは聞えず

 

白き雷光は祓い続ける

 

黒き獣は再生する事適わず

 

形を持った呪いは浄化され続る

 

「弐式・浄雷蜘蛛」

 

雷は止まらない、その場の不浄を滅するまで

 

空を翔る雷は一斉に大地に向かい散る。

 

その姿が形成する形は蜘蛛の巣、雷はその猛威を殺ぐ事無く大地を走る

 

再生中だった黒犬は再び形を成す事を許されずに散ってゆく

 

 

大地・地上に留まっていた呪いは浄化され残ったのは清浄な空気、されど呪いの目的は唯一つ。主の下に帰ること地上が駄目ならば空から向かえば良いと言わんばかりに空中に留まり、主の元に向かをうとする。

 

近衛翁は呪いの塊が宙に上がるのを見ると懐から何所にでも有る様な金属性のペンを取り出し、呪いの塊の上に思いっきり投げた。

 

「天に昇る雷も綺麗なもんじゃろうて」

 

地を走り続けた雷は引き寄せられるかのように空へと駆けた。

無数の雷は黒き呪いの塊を貫き、切り裂き、浄化し尽した。

 

 

「……凄過ぎる」

 

雷が呪いの塊を浄化した後、刹那が言った。他の二人、楓は口を半開きにして真名は両目を見開いて雷を操った「魔法使い・近衛近右衛門」を見ている。近衛翁はさして疲れた様子も無く腰の後ろに両手を組んで此方に歩いて来る途中だった。

 

「刹那君、長瀬君、龍宮君、」

 

高畑・T・タカミチが苦笑しながら刹那達に声を掛け言う

 

「あの人が学園最高の魔法使いだよ」

 

「余り褒めるな、恥かしいわい」

 

ある意味台無しだった

 

近衛翁は、三人に

 

「シャキッとせんか三人とも、衛宮君達が気になるから元の場所に戻るぞい」

 

近衛翁はそう言うとスタスタと歩いて行った。高畑・T・タカミチも苦笑しながら近衛翁の後に続いた。

 

刹那、楓、真名は慌てて二人の後を付いて行った。途中チビ士郎が飛んできて「早く来た方がいい、面白い物が見れるぞ」と言ったので三人は足を速め、肩に座っているチビ士郎に言った。

 

「チビ士郎、何故私の肩に座ってるんだい?」

 

チビ士郎はヤレヤレといった感じに

 

「タカミチの髪はチクチクして硬く、肩は筋肉と骨でゴツゴツしていて座り心地が悪いのだよ。何故私が君の肩に座って居るのかというと位置的に君が一番近かったからだ」

 

と言った。しかも、「そんなことも解らないのかね?」と訴えるような視線付で

 

「聞くんじゃなかった」

 

真名は顔に手を当て言ったが

 

「そう言うな真名、君の髪は触り心地も良く細く柔らかい。うん、誇って良いことだと思うぞ」

 

とチビ士郎に言われ顔を赤らめ走るスピードを上げた。チビ士郎に向かう視線が二つ険悪な物になった。

そして三人が近衛翁達に追付いて見た物は「やりすぎじゃないかい士郎」と言ってタバコを吹かしている高畑・T・タカミチと膝を付いて「経費が…」と言っている近衛翁と、三分の一程氷に覆われている橋だった。

近衛翁は刹那達が来た事に気が付いて立ち上がると水晶玉を取り出し士郎達移しながら言った

 

「タカミチ君、彼は…衛宮士郎とは何者じゃ?」

 

「僕の大切な戦友ですがそれが何か?」

 

近衛翁は君達も気にならんか? と刹那達に聞いたが

 

「いえ、士郎の身元も知っていますし別に」

 

「拙者も士郎殿は敵ではござらんし」

 

「私も詳しく知ろうとは思はない、士郎は仲間だ」

 

と刹那、楓、真名に言われ溜息を付いて言った

 

「ワシだけが悪者みたいじゃの〜知りたいの〜なぁ、タカミチ君。給料半分カットにするぞい

 

高畑・T・タカミチは助けを求める様にチビ士郎を見るとチビ士郎が口を開いた

 

「私は構わんよタカミチ、今の私は本体と繋がっている。私の言う事は本体の言った事と同じと思ってくれて良い。しかし、良いのかね? 近衛翁? 私の事を聞くのは契約違反に成る為ペナルティーを負ってもらう事になるが・・・・・・ん? ああ解かった魔力の方は此方で暢達するから問題ない。マスターがそう思うのなら向こうもそろそろ使ってくるだろうし、タイミングは此方に合わせてくれ。すまないが急用が入った。話はそれが終わってからにしてくれ」

 

チビ士郎はそう言うとミニ夫婦剣で自分の唇を切り

 

「すまないが真名、こちらを向いてくれ」

 

と言って、振り向いた真名の唇をミニ夫婦剣で素早く傷をつけた。真名は声を出そうとしたが出来なかった浅く傷を付けられた唇に

 

チュッ

 

とチビ士郎の唇が触れていた。周りの者達はチビ士郎の突然の行動に唖然としていた。刹那と楓は顔を赤く染め、高畑・T・タカミチはタバコを落とし、近衛近右衛門は水晶を取り落とした。十秒も経たない内にチビ士郎は唇を離し、真名は崩れる様に倒れそうになり膝を付いた

 

「な・・なんだ・・・これ」

 

と搾り出すかの様にして声を出した真名に、チビ士郎は言った。

 

「何、ラインを繋いで魔力を貰っただけだ。強引なやりかただが」

 

チビ士郎はそう言うと、何処からとも無く漆黒の弓を出したがそこで刹那が声を掛けた

 

「な、なんで大きくなってるんですか?!」

 

楓達も「そうだ」と言わんばかりに首を縦に振っている

 

「あの姿では援護が出来ないだろ? あぁ、それとこの姿の時はアーチャーと呼んでくれ。気に食わないが、気に入っているのでな。しかし、まだ足りないか」

 

アーチャーは刹那に向かって「ごめんな」と言って

 

「ごめんなって何をうふむぅっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・・」

 

口付けをした。此処での違いはアーチャーが等身大である事。真名とは唇を合わせるだけのものだったが

 

ちゅく、ちゅるっ

 

けっこーディープな所だったりする。刹那も最初はジタバタとしていたがすでにその身を完全にアーチャーに預けており

 

「んっ・・・・・・・ふっ・・・・」

 

ちょっと桃色な感じの声が出ているのが問題だったりする。しかし、それも束の間でありアーチャーが唇を離すと刹那はペタンと座り込み自分の唇を指で触りながら頬を赤く染め呆然としている。

 

「ふむ、少々刺激が強すぎたか? まあ、文句はマスターと学園長に言ってくれ。」

 

アーチャーはそう言って再び橋の方を向き呪文を唱える

 

「投影開始(トレース・オン)」

 

現れたのは歪な剣、アーチャー以外の全員が息を呑み凝視する。一人は在りし日に見た物よりも完成されたその姿に、一人はソレの異端に、一人は弓を構え矢と為る剣を番える其の姿に、一人は横から見える鷹のような瞳に、一人は其の姿、世界と同化したかの様な自然な、自然だからこそ異端なその在り方に。

そして、全員が理解してしまう。この(つるぎ)は外れる事は無いのだと。何故なら、今この世界()の支配者は彼なのだから。

 

「行くぞネルガル(愚かな悪魔)、我等が矢は音をも貫くぞ」

 

この世界()の王は忠告し

 

偽・螺旋剣(カラドボルグ)

 

其の名を明かした。矢は流星の如く突き進み、赤き魔術師の眼前まで到達すると溶けるように消えた。矢を放った彼は息を吐き出し弓を消すと振り向き言った。

 

「さて近衛翁、マスターからのペナルティを言うぞ。一つ、学生全員への衛宮士郎に関する記憶操作。二つ、今後一回だけ損得抜きで衛宮士郎に全力で協力する事の二つだ」

 

近衛近右衛門は慌てながら言う

 

「ちょ、ちょと待ってくれ!! ソレは今からか? ワシは明日朝五時から出かけるんじゃが!! 衛宮君も、しっとるぞい!!」

 

「知らん、自分で考えろ。タカミチの話を聞いてからでもアンタなら間に合うだろ? 学園最高の魔法使い殿」

 

アーチャーは冷たく言って式神符に戻った。

 

「・・・・・高畑先生、速く話してくれ。ワシの睡眠時間の為に!!」

 

高畑・T・タカミチは、近衛翁の言葉を聞きタバコを咥え直し「フゥー」と煙を吐いた

 

「先に言って措くけど、質問は受け付けないから其のつもりで聞いてほしい」

 

彼の言葉に全員が頷き、楓は真名を抱えて刹那の隣に座り近衛翁もその場に座り込んだ。

高畑・T・タカミチは全員が話しを聞く準備が整ったの確認すると、新しいタバコに火を付けて語り始めた。

 

彼の者は千の魔法を護る守護者にして剣を束ねる王

 

彼の者は千の悪魔を滅ぼせし紅き王

 

触れる無かれ、手を出す無かれ、剣の王が緋に染まる

 

恐れる無かれ、忌諱する無かれ、王の剣は護る為に振るわれる

 

堕ちる無かれ、外れる無かれ、王は外道に怒れるぞ

 

心せよ、王の怒りに触れる者

 

汝が前に現れる時、空は赤く染まり、大地は朱に染まる

 

心せよ、赤き、紅き、朱き、緋き、其の御身が現れる時

 

汝が体も紅く染まる

 

名を呼ぶ無かれ、讃える無かれ、紅き王は現れる

 

弱き者よ、強き者よ、外道に堕ちる事無き正しき者達よ

 

紅き王は我らの守護者、王の剣は正しき弱者、正しき強者を護る為に振るわれる

 

紅き王よ、千の守護者よ、其の剣に我らの正義を宿したまえ」

 

十三節、唯の十三節。彼の語った短き伝説の詩はそれだけで彼以外の者を驚愕させる。

 

「千の・・・剣を「その名で呼ぶな!!」っっっ!!」

 

刹那が言った。しかし、その言葉もタカミチの怒声に掻き消された。タカミチは一度、深く空気を吸い込み浅く吐いて言った。

 

「すまない。でもその名で、そんな陳腐な名で彼を呼ばないでくれ。」

 

タカミチの言葉に近衛翁が言う

 

「そうか、高畑先生は「紅き翼」の一人じゃったのう」

 

タカミチは「ええ」と頷き、刹那達に言う

 

「その名は彼を知らない奴らが、彼の事を理解しようともしない奴らが勝ってに付けた物なんだ。だから、その名で彼を呼ばないでくれ。得に僕達「紅き翼」のメンバーの前では」

 

「なら、どの様な名で呼べは良いんでゴザルが?」

 

楓の言葉に、タカミチは誇らしげに答えた

 

「『貴き紅』(ノウブル・レッド)僕達はそう呼んでるよ」

 

「解りました。しかし、士郎がそう呼ばれる者ならば歳が合わない」

 

刹那はタカミチに言うが、タカミチは煙を吐き出し

 

「質問には答えない、それじゃ頑張ってください学園長。」

 

と言って、その場を後にした。

 

「ふぃー、それでは解散とするかのぉ。」

 

近衛翁はそう言うと刹那達に、「お主達も帰りなさい」と言い帰っていった。

数分三人は沈黙したまま動かなかったが、楓が真名を抱え直し立ち上がって言った。

 

「それでは帰るでござるよ、真名殿、刹那殿」

 

刹那と真名は楓に

 

「あ、ああ」

 

「取り合えず、お姫様抱っこは勘弁してくれ」

 

と言い、寮へと向かった。途中、楓と真名が「お姫様抱っこは止めろ」「風が気持ち良いでござるな〜」と言い合っていたが、刹那は悩んでいた。

 

私が人間では無い、人と魔の混ざり物だと知ったら・・・どうなるのだろう・・・・・と