赤い魔術師が剣を抜いた瞬間、別の場所でも戦いが始まった。

 

「ふい〜ワシももう歳じゃの〜」

 

「何を言いますか、学園長。此れだけの広範囲の結界を数秒で展開しておいて」

 

近衛翁と高畑・T・タカミチは何事も無かったかの様に振舞っているが、刹那、楓、真名、の三人は緊張の為か若干表情が硬い。

 

「フォッフォッフォッ、三人ともそう硬くなるでない。今から力んでおったら後がもたんぞい? それに、アチラさんももう直ぐ来「オォーーン」来なすったの」

 

ソレは遠くから聞いても鳥肌の立つ声だった。

 

「まさか・・・・」

 

「いやー此れはちょっと・・・」

 

「多すぎやしないかい・・・・」

 

三人は驚愕と少しの不安を混ぜた様な声で言った。

 

「ハッハッハッ、 いや〜参 りましたね学園長」

 

「まぁ何とか為るじゃろう高畑先生」

 

二人は笑いながら言った。

その姿には僅かな怯え・不安も無く堂々とした物で、刹那、楓、真名、の三人はソレが自分の力に対する自身と豊富な戦闘経験から来る物だと思い

 

「そうですねこの程度の数」

 

「拙者ら三人に係れば丁度良い位でござるな」

 

「それに、大先輩が二人も居るんだ負ける事はまずない・・・・・そうでしょう? 大先輩?」

 

と言った。

それは己を鼓舞する為の言葉であり、この場で最も頼りになる二人の戦士に向けた言葉。自分達は足手纏いには成らないという決意であり覚悟

 

「ほーこれは何とも心強いの〜、高畑先生」

 

「そうですね、其処まで言われると大先輩として恥ずかしい真似は出来ないですねっ!!」

 

近衛翁はそう言い、高畑・T・タカミチは言葉が終わると同時に地を蹴り一瞬にして数十メートルを移動した。刹那と楓はタカミチが移動したのを見た瞬間に同時に駆けた。

 

「楓!! しくじるなよ!!」

 

「刹那殿こそ、その言葉そのままお返しするでゴザルよ。 真名殿!! 援護頼むでゴザル!!」

 

「ふっ・・・それこそ心配無用だ!!」

 

飛び出した三人とその場に留まり銃を構える戦士を見ながら近衛翁は

 

「頼もしい、本当に頼もしいの〜」

 

と言い、同時に懐に手を入れ其処に在る物を確認し思った。

 

(高畑先生が付いて居ればあの三人は大丈夫じゃろう。しかし、もしもの場合は・・・・・・使えるか? 今のワシに・・・いや、今のワシじゃからあの頃よりも安定して使えるか・・・皮肉な物じゃな。過ぎ往く時の中、体力は衰え肉体は脆くなったが・・・魔力・知識・技術は増したからのう。時とは無常な物じゃ、じゃがそれこそが有限を生きる者の強さかも知れぬ)

 

ドン!!

 

トラックが衝突したかの様な轟音と共に黒き獣の群れを吹き飛ばし、道路に敷き詰められたレンガを削り、砂塵を作りながら何時の間にか火の付いたタバコを吹かし、右手をズボンのポケットに入れ左手でメガネを上げながら高畑・T・タカミチは言う。

 

「済まないが此処から先は舞台の主役が公演中なんだ、招待状の無い野蛮なお客様はお取引願おう。それでも此処を通り抜けたいのなら仕方ない、それ相応の覚悟はして貰うよ?」

 

その言葉に何時の間に表れたのかチビ士郎が言った。

 

「言う様に成ったじゃないかタカミチ。しかし、裏方はお前一人じゃないんだぞ? 舞台の主役は我が主にして我が本体、こんな身形でもお前の目の代わりは出来る。」

 

斬!!

 

「そうです。私達の事を忘れて貰っては困ります高畑先生」

 

刹那が高畑・T・タカミチの打ち漏らしを切り裂きながら言う

 

ブォン!!  ザシュッザッザッザッ

 

「そうでゴザルよ高畑先生」

 

楓が身の丈に届きそうな巨大な手裏剣を投げながら言う

 

「ゴメンゴメン、それじゃあ僕の打ち漏らした奴らを頼めるかい?」

 

「その様な事」

 

「言われなく途も」

 

その言葉を聞いた瞬間、二人は次々に攻め寄る黒犬に踊り懸かった。

 

「それで、士郎は「タカミチ!! 中央にデカイのを一発打ち噛ませ!!」僕が言うまでも無いか」

 

高畑・T・タカミチは苦笑しながらポケットに忍ばせていた拳を振るった。

 

 

 

ide  士郎

 

「剣ダト? ソノヨウナチンプな剣で、ワレにイドモウとイウノカ?」

 

「チンプ・・・か、この剣が唯の剣にしか視えないのならば、貴様は唯の獣にも劣るな。貴様はその驕りと過信を抱いたまま、後悔の海で溺死しろ」

 

ネルガルの言葉に士郎は無表情で言った。

 

「タダのケモノ? ダレガ? コノワタシが? ヨマイゴトヲ・・・キョウフデきデモチガッタノカニンゲン? フザケルナヨ!! キサマはホネモノコサズヤキツクシテクレルワ!!」

 

ネルガルは自分が侮辱された事に怒り、叫ぶと同時に火球を放った。

普通の人間や魔法使いならば火球のスピードに反応仕切れずにネルガルの言った通りに骨すら残らず燃え尽きていただろう。

しかし、剣を振るう者は普通ではない。

此処では無い違う世界で吸血鬼と呼ばれる数多くの死徒を葬り、その犠牲と為った人々の成れの果て屍食鬼と化した無数の死者を殺し、真に外道と化した魔術師とその使い魔を殺してきた「(ドラクル・)外殺(マーダー)し」にして、彼の養父である衛宮切嗣から受け継ぎし「魔術(メイガス・)師殺(マーダー)し」の名をより強く裏世界に轟かせ、多くの魔術師・人外に恐怖され、一部の魔術師・人外から畏敬の念を送られる最強の魔術使い「錬鍛の魔術師」その身に残る傷痕を己が魔力と師より預かりし魔具を使い隠し、平穏に身を委ねても尚鍛錬を怠らず。「全てを救う正義の味方」という養父の理想を受け継ぎ変質させ、「無限の正義」の中から一つの正義を「自分の大切な者の味方」という答え導き出した「最強の魔法使い」「万華鏡」「魔道元帥」のもっとも新しき弟子。

だが、ネルガルが知る訳も無い目の前の男がそう呼ばれている事に、己が力に慢心した心は己が眷属達との繋がりが絶たれた事に気付けず、人を何も出来ない虫けらの様な者としか捕えない愚かな瞳は、男が持つ褐色の剣に秘められ漏れ出す神秘に、力に気付けない。

 

斬!!

 

上段からの幹竹割り。唯その一撃で士郎は呪を孕んだ炎の弾丸を掻き消し浄化させた。

 

「バカナ!!」

 

ネルガルは己が放った火球が掻き消された事に驚愕すると同時に憤怒した。自分より矮小で脆弱な人間が自分の炎を掻き消した事に。

ネルガルは次々に火球を放つ。一発で駄目ならば二発、二発で駄目ならば三発と、しかし結果は同じ連続で放たれた火球は全て士郎の持つ剣で切り裂かれ消える。

 

(バカナ、バカナバカナバカナそンナバカナ!! ナゼワガホノオがキリサカレル!! ナゼワガノロイがジョウカサレル!! ニンゲンにタカガニンゲンニ・・・・・・・・・タカガニンゲン? ソウカ・・・・・・・・・コロス、コロシテヤルぞ)

 

「ニンゲン、キサマのモツケンがタダノケンデハナイコトハワカッタ。」

 

「ほう、それがどうかしたのか? 命乞いでもする気か?」

 

俺はネルガルに言った。しかし、ネルガルは怒る訳でもなく冷静に此方を見ている。その眼には先程まで在った怒りも焦りも無かった。

 

「ヨクホエルニンゲンダ、シカシキサマキヅイテイルカ? 」

 

「何?」

 

俺はネルガルの言葉の意味が分からずに聞き返す

 

「キサマはツネニウシロニイルにンゲンタチをカバッテイルとイウコトニダ!!」

 

ネルガルはそう言い。地面に向け口を大きく開き炎を吐き出した。

 

「クカカカカカカカカカ!! サァニンゲン、キサマにマモレルカ? コノ炎の波から!!」

 

ネルガルの吐き出した炎は橋の横幅一杯に広がり、波の様に迫ってきた。

 

「何だ、この程度で勝ち誇るのか? 俺がネギ達を庇いながら戦っているのは無意識でやって要るんじゃない。この程度の事、予測していないとでも思ったのか?」

 

俺は迫り来る炎の波に向かって剣の真名を叫びながら地面に振り下ろす。

 

何処か遠くで雷の鳴る音が聞えた。

 

 

 

 あとがき

 

今回はチョット短めご容赦ください